(2025年3月3日付掲載)

満席となった香川県丸亀市での「ごはん会議」(2月28日)
れいわ新選組が主催し、東京大学大学院特任教授の鈴木宣弘氏を講師に招いておこなう「ごはん会議」がスタートした。2月28日におこなわれた香川県丸亀市でのごはん会議を皮切りに、3月1日には愛媛県松山市でも開催され、これから全国各地で開催が予定されている(全国21カ所)。市民が食や農業の問題に凝縮された日本の政治・社会の課題について考え、全国各地で繋がりながられいわ新選組の政策に地方の実情をより強く反映させていくための場として、熱気のこもった学びの場となっている。
第1回目の開催となった香川県丸亀市の会場には、当初の予定を大きく上回る参加があり会場は満員となった。司会を務めたれいわ新選組副幹事長の阪口直人衆議院議員は挨拶で、「ごはん会議」の目的について、日本の安全保障、食と農、命について考える機会を作っていくこと、そして賢い消費者になるためにみんなで考える機会を作っていくことだとのべた。
八幡愛衆議院議員は「私は農林水産委員会に所属しており、先日の臨時国会で農水大臣に質問をした。“国民が国産の食料を食べたいのに高くて買えないのはおかしい”と訴えると、大臣は“国民は輸入したものも食べたい”などと答えていて、農水省の感覚はずれている。私自身はみなさんの代弁者として国会で訴えていく。ごはん会議には生産者の方も来ているので、現場の声を学び、れいわらしい質問を国会でやっていきたい」と挨拶した。
れいわ新選組の食料安全保障本部長で副代表の多ケ谷亮衆議院議員は「これから農業政策は大きな柱になる。今回の令和のコメ騒動は、もともと日本政府の政策におけるコメの生産量が圧倒的に少ないからおきている。余裕を持って生産してそれを国が全量買取して備蓄米にし、高騰したときには少しずつ放出して価格を安定させるためにコントロールしていくのが国の務めだ。しかし今の政府は楽をしている。カロリーベースでの食料自給率は38%と低く、有事になれば食料だけでなく種や肥料まで入ってこなくなり、10%にも満たない自給率になって世界でも真っ先に日本の国民が飢えることになる。このような政策を一刻も早く転換し、みなさんの食や暮らしを支えるための農業政策を実現したい」と訴えた。

鈴木宣弘氏
続いて、鈴木宣弘氏が約1時間にわたり講演をおこなった。鈴木氏は、今や日本の食料自給率は種や肥料の自給率の低さも考慮すると最悪10%ほどという状況のなかで、さらに生産現場の衰退を加速させる日本の農政の問題について様々なデータや資料を示しながら講演。日本の農業・農村が破壊され、国民に対する食料安全保障を損なう事態となっていることへの警鐘を鳴らすとともに、生産から消費までを「運命共同体」として身近な農産物を支える取組を全国各地で広めていくことの重要性を訴えた。なお、鈴木氏が講演で使用した資料(168ページ)は、参加者にQRコードで配布され、誰もが自由に使用できるようになっている。
鈴木氏の講演の後、参加者同士で複数のグループに分かれて鈴木氏の話の内容の感想や疑問などを出し合い、さらに理解を深めたい内容や国に対して要望したいことなどについて話し合った。参加者のなかには農業従事者も多く、一般参加者が生産現場の実情について質問したり、そこに鈴木氏も混ざって一緒に議論を深めた。参加者が政治課題について考え、どのように政策に生かしていくかを議論し、今後のれいわ新選組の活動にも生かしていくために意見や要望をワークシートに記入して提出した。
米不足の原因や食料めぐり旺盛な論議

講演後に鈴木氏も参加者に混じって意見交流(丸亀市)
その後、鈴木氏と参加者との質疑応答に移った。参加者からは、農業従事者や若い子どもを育てる母親など、さまざまな視点から食や農の問題について質問や意見があいついだ。以下、丸亀市と松山市の会場での質疑の内容を紹介する。
質問 JAがずいぶん安くコメを買いたたいているのではないか。また、JAは商品に対する基準が高いので、少しでもキュウリが曲がっていたら規格外になってしまう。JAの問題についてはどう考えているか?
鈴木 コメの問題ではJAが悪いといわれることが多いが、JAが買いたたいているというのは事実と異なる。JAは共同販売なので農家に概算金を払う。概算金は60㌔1万8000円ほどである程度安く設定されているが、その後に追加払いや精算払いによって5000円ほど上乗せされ、最終的には2万3000円になる。だが、今は直接取引などで「即金で2万円で買うから売ってくれ」といわれて売る農家さんもいる。このように販売の仕組みが違うため、最終的に手に入るお金はJAの方が高い場合が多い。概算金のレベルだけで比較して「JAの方が安い」というのでは誤解が生じる。
規格の問題については、もっと基準が緩くなればもっと農薬も減らせるし、規格外で売れなくなる作物を減らすことができる。しかし、これはJAの問題というよりも、流通業界が規格を定めて要求するため生産者に近いJAもその規格に合わせざるをえないというのが実情であり問題点だ。もっといえば、消費者が「きれい」な野菜を求めるため流通業界もそうした野菜を求める。だからもっと地域の直売所をしっかり活用すればいいと思う。多少格好が悪くても美味しければいいという価値観の下で作物が売れる仕組みを強化していく必要がある。
和歌山県では、30店舗の直売所を多店舗経営する「よってって」で農家がたくさん売れる仕組みを作っている。その結果、この直売所に所属している農家のなかには、梅だけで年間1億2000万円売り上げる人もいる。さらに1000万円以上の売上がある農家は約300戸もある。このように直売所を上手く活用すれば、規格の問題もほとんどクリアできる。こうした流通の形を広げることは、生産者にとっても消費者にとっても良いことだ。
質問 子どもや若者のなかで、農業の価値感がとても低くなっていると感じる。農業に関心を持ち、目を向けてもらうにはどうすればいいだろうか?
鈴木 今、若い人のなかで「狭い農地でもいいから有機農業や自然栽培をやってみたい」と関心を持つ人は増えてきていると思う。ただ、全体で見ると農業に対する意識が十分に育っておらず、教育に関する問題が大きい。もともと日本の教育では農業や食料の大切さを教えてきたが、そうした内容を教科書からどんどん消した。まず過去の食料難の経験を歴史の教科書から削った。ヨーロッパでは戦争などで苦しくなったときに、国民がどんな食事でそれに耐えていたのかということを教え、食料の重要性を理解できるよう教育している。だが日本はそうした内容を教えなくなっている。
一方でそうした状況を打開するためのとりくみも進んでいる。福島県の喜多方市では、「喜多方市小学校農業科」という科目を市独自に作って必修授業とし、独自に副読本を作って徹底的に座学をやって幼いうちからみんなが農業のことを理解できるようにとりくんでいる。その副読本の内容がとても良い。ネットからダウンロード可能だ。
質問 子どもが2歳で4月からこども園に入る。給食を有機給食にしていきたいと思っているが、そのためにはどのようなとりくみが必要か?
鈴木 保護者のみなさんが、輸入小麦など食品の不安について声をあげ、みんなが広く繋がって「地元の安心・安全な食品を使ってほしい」と要望していくことは重要だ。一番良いのは議員や市長がリーダーシップを発揮して動かしていくことなので、そのキーパーソンに対してみんなの声を届ける必要がある。それと同時に、できれば、園に対しても「みんなで一緒に作りませんか?」と呼びかけて、園の中で少しでも作物を育て、保護者も関わりながら、みんなで料理して食べるというとりくみも進めていければ周囲の理解も深まりやすいのではないだろうか。
質問 これだけ生産が厳しくなり食料自給率が落ち込む一方で、コンビニやドラッグストアでは、日本中どこの店でも棚一杯に食品が並んでいる。日本のフードロスの問題についての考えを教えてほしい。
鈴木 日本のフードロスの割合は国際的に見ても大きく、食料消費全体の約3割にのぼる。コンビニなどでは、一定期限を過ぎた食品はすべて廃棄しなければならないと本部からいわれる一方で、売れる見込みの量よりも4割多めに発注しなければならない仕組みになっている。日本のそうした食品流通のルールが、フードロスの問題を拡大させる大きな要因になっている。
質問 グリホサート系除草剤は、効果が大きく作業の手間も減るので使っている農家も多い。知り合いの農家に使わない方がいいというと、「そんなことをいったら企業から訴えられるぞ」といわれた。みんなの意識を変えていくにはどうしたらいいだろうか?
鈴木 今、グリホサート系除草剤の販売は世界中で禁止または制限されているが、日本では店頭で当たり前に販売されている。日本に一生懸命「ラウンドアップ」を売るアメリカでは、農家は使用できるが、店頭での販売は何年も前からやっていない。そして、今回トランプ政権に変わってからは完全に禁止されることになる。米農務省顧問でもあるケネディ長官が「すべての悪い農薬や添加物は禁止する」といい、まず最初にラウンドアップの全面禁止に言及した。だが日本でグリホサートやラウンドアップの問題を指摘しようものなら総攻撃にあう。反対意見を潰すための体制が組織されている。そんななかで反対し問題を指摘することは大変だが、しっかり声を上げていかないといけない。
低コスト化や集約化の限界 小規模農業で地域を守る

愛媛県松山市での「ごはん会議」(3月1日)
質問 農業に携わっている。私が住んでいる地域では平均年齢が70歳をこえており、地域の農業をどうするかという議論が交わされている。あと5年農業が続けられるかどうかという瀬戸際にある。リーダーは「法人化する」といっているが、周りの農家たちは「担い手がいないから難しい」といっている。国連も農業は法人化するよりも家族農業の方がいいといっているし、私もそう思う。過去にユニクロが農業法人化で参入したが、「もうからない」ということで2年で撤退した。やはり法人化は現実にそぐわないのではないか?
鈴木 法人化を完全に否定するわけではないし、規模拡大して地域の農地を預かり、しっかり頑張っている農家もいる。ただ、企業が「おれたちがやってやる」と農業に参入してきたが、そのうちの8割以上が失敗して撤退している。法人化はそんな簡単にうまくいくものではない。家族経営で小規模であっても、農業が続けられて地域のコミュニティを守っていきながら全体の生産を維持していくことが大事だ。
質問 テレビ番組で、ある農業法人の代表が、乾いた田に水を張らずに種を蒔いて稲を育てる「乾田直播」という農法なら、手間をかけずに広い面積で単価を抑えて生産できるといっており興味を持った。安く作ったコメを海外に輸出するという。だが一方で、水田をやめることによって洪水防止機能が失われたり、水を張らなければ大量に雑草が生えるので、その分、除草剤を多く使わなければならなくなるのでは?
鈴木 乾田直播にはメリットもあるが、デメリットもある。テレビ番組ではメリットばかり強調して、すべてが解決するような話の持って行き方だが、現実はそんな夢のような話はない。また、「輸出を伸ばせばいい」というが、すでに国内での供給が大変なことになっているなかで、まずは供給の問題から優先してとりくむ必要がある。もちろんそのうえで輸出もできればいいが、輸出を増やすことは簡単ではない。どんなに日本が生産コストを下げても、オーストラリアなどの広大な農地を有する生産国とは土俵が違う。
しかもアメリカなどは徹底的に補助金漬けで安く生産して輸出する。たとえば1俵当り4000円でコメを販売しているとして、生産コストは1万2000円かかるとする。するとアメリカ政府が差額の8000円分を補助金で全額負担している。スケールメリットでコストが低いうえに、徹底的に補助金をつぎ込んで安くして「戦略物資」として海外に売るのだ。
これに対し日本はコストが高いうえに補助金なしであり、競争しても負けるだけだ。価格競争では勝負にならない。テレビでは「安く増産して輸出すればいい」というような一方的な議論になりがちだが、それだけで問題が解決するなら苦労はしない。
テレビにはいろいろな意図がある。この間のコメ騒動問題についても、事前の打ち合わせで「問題の本質は流通ではない。そもそもコメが足りていないからであり、そこを解決しないといけない」といっているのに、仕上がった台本を見ると「悪い中国人が買い占めている」みたいなストーリーができあがっている。そのようなシナリオのなかでも、本質はどこにあるのかということを少しでも伝えなければと思い、できるだけテレビにも出演して努力している。農政が貧弱になっている問題の根本は、国の緊縮財政にある。増産して価格が下がるのであれば、農家が生産を続けられるように政府が財政出動して補填したり、出口(備蓄や人道援助物資の需要)をつくらなければならない。世界のほとんどの国がそれをやっている。
「すべての問題に共通」 参加者に聞く
ごはん会議の参加者は、農業の現場で起きている問題や課題を学ぶとともに、食という全国民共通のテーマを、さまざまな問題と結びつけて問題意識を深めていた。各地で参加者に感想を聞いた。
40代の土木業作業員の男性は、「鈴木先生の話を聞いて、これまでいかに政府が日本の食と農業を切り売りし、生産者を苦しめてきたかがよくわかった。農業も土木・建築業界も問題の根幹はまったく同じだと思ったし、だからこそ話の内容がよく理解できた。国は国民の生活をよくするつもりなどいっさいなく、より大きな富を生み出すものたちを優遇する。あらゆる業種で中間業者の中抜きがおこなわれ、現場で働く末端の者たちほど下に見られ、生活していけるだけの賃金が保証されていない。だから働き手がいなくなって現場は人手不足になり、安い外国人労働者を入れるしかなく、高齢化も進んで小規模事業者は苦しくなってどんどんやめていく」とのべた。
また、「40代の私でも現場では若手扱いだ。全業種すべて同じ構図になっており、末端を絞り続けた国政の結果だ。いろいろな職場で何か問題があれば“ブラック”だといわれて現場が叩かれてきたが、現場だけが悪いのではなく、政治や社会そのものがブラックになっている。みんな余裕がなくなって、国民同士で“誰が悪い”と責め合うように仕向けられてきたと思う。食料危機が間近に迫る事態になり、いよいよ国民の怒りの矛先が政治に向かう時期に来ていると感じる。最近、オールドメディアがだめだなどと話題になったが、だからといってネットメディアが正しいともいえない。とはいえ、そういう国民のなかでの矛盾点がだんだんと問題の“中枢”に近づいていると感じる」と語った。
土木作業員の仕事だけでは生活は厳しく、ウーバーイーツの配達員をしていることを明かし、「いろいろな飲食店主たちとも知り合い話をするなかで、自分の生活と政治は繋がっていると気付かされ、政治に関心を持つようになった。“今だけ、カネだけ、自分だけ”の最たるものが今の日本の政治だ。子ども食堂も、たしかに地域コミュニティの拠点としては重要だとは思うが、食べるのに困っている子どもたちを救うための施設が民間の善意で運営されるなんて本当はあってはならないことだ。そこを国が責任を持たずして“子ども家庭庁”なんていっているのがばかばかしい。このまま政治に食われっぱなしではだめだ。今日の話を通じて、問題は政治であり世の中の仕組みにあるということを痛感した」と話していた。
愛媛県内で有機農業をしている男性は「この間、令和のコメ騒動の問題をめぐってテレビで何度も鈴木先生が出演していた。日本に農業の問題を語れる専門家は他にいないのか? と思うほどだ。今日講演を聞いてみて、テレビで聞いていたよりももっと踏み込んではっきりと日本の農業政策の問題を指摘され、本当にいいたかったことがよく理解できた。政府は勇ましく戦闘機などの兵器に巨額の税金を投入しているが、国内の生産も食料自給も貧弱になって、戦闘する前にみんなが飢餓で生きていけなくなるとの主張は説得力があるし、誰もが納得できると思う」と語った。
また、農家をとりまく現状について「燃料の高騰は深刻だ。トラックに使うガソリン、農機具に使う軽油、コメの乾燥機に使う灯油…すべて値上がりしている。それに農機具代も高くなり、1年のうちでごく限られた期間しか使わないトラクターも維持費や修理費がかかる。松山市内では山間地域だけでなく、水路も整備され開けていて作業効率の良い農地でさえ休耕田が目立ち始めた。鈴木先生も指摘していたが、主食のコメを生産している農家の所得を国が守るのは当たり前のことだと思う。日々生活していけるだけの収入が保証されているのなら農業をやりたいという若い人は多いはずだ。ぜひれいわ新選組に今日のような議論の内容を深めてもらって政策として実現させてほしい」と話していた。
卸の倉庫もコメ空っぽ 生産現場の現実

「コメの在庫は残りわずか…」。心配そうに語る米穀店店主(香川県)
香川県内で米穀店を営む男性は、現在のコメ不足の深刻さについて「1994年のコメ不足のときは半分は“作られた危機”で、外国産米が流通しているときでも、まだ卸業者の倉庫にコメはあった。だが、今はその倉庫も空っぽだ。私の店では、今年に入ってから卸業者から一度もコメを入荷できていない。毎日のように新規の顧客がコメを買いに来るが、すべて断っている。今までこんなことは一度もなかったので衝撃を受けている。年金暮らしの常連客の間では“コメが高いからご飯の量を減らしている”という会話が交わされている。水道・光熱費も軒並み値上がりしているなかで、みな生活防衛に必死だ。このままでは国民は飢えていく一方だ」と語る。
また、「コメ不足の根本的な原因は、生産量が足りていないからだ。それなのに政府は買い占めや投機など流通のことばかりを問題にして、農政の失敗を隠そうとしている。全国のコメ屋が繋がっているSNSアカウントでは、“メディアがいうほどの大規模な買い占めは聞いたことがない”とみんないっている。インバウンドの消費量なんて国内消費に比べると数%程度だ。高温障害も昨年突然始まったものではない。政府はもっともらしい理由をいろいろいっているが、もし仮に民間の買い占めやインバウンド需要によって供給が揺らいでいるというのならば、それは単に生産量が足りておらず、日本の生産・供給態勢がそれほど貧弱になってしまっているということだ」と指摘する。
男性が営む米穀店では、地域の保育所の給食にコメを納めている。現時点では高い仕入れ代を払って4月分まではなんとか確保しているが、それ以降はまったく入荷の見込みがないという。男性は「4月以降、保育所の子どもたちが食べるコメをどうやって確保するかが一番の悩みだ。仕入れ価格が上がっているため、納めるコメの値段も上げざるをえない。4月以降に“もうコメがありません”という最悪の事態は避けたいが、現時点ではなんの手立てもない。コメが納められないくらいなら、輸入米でもなんでもかき集めたいという思いもある。しかし、こうしてみんなが困っているときに、政府は4月1日から施行される食料供給困難事態法によってさらに農家への締め付けを強めたり、海外からの輸入米の拡大に動くのではないかという懸念もある」と話していた。
丸亀市でのごはん会議の翌日、自身が営む米穀店の倉庫で男性は「もう限られた在庫しかない。香川県産のコシヒカリはもうあと30㌔しかない。できるだけ昔からの常連客には売りたいとは思うが、一方で少しずつ売れていくたびに、在庫を眺めながら“あと何日もつだろうか…”ということばかり考えている」と語った。
その後、店に普段は見ない男性客が小学生の娘を連れ、「七分づきのコメはありますか?」と訪ねてきた。だが七分づきのコメは保育所に収めるためになんとか確保した貴重なものだ。店主は事情を説明したうえで、3㌔だけなら販売可能だと伝えたが、客は「保育所の子どもたちのコメはもらえない」といい、娘を連れて店を出た。表情を曇らせる店主は「あんな子どもを見ると、本当ならおいしいコメをたくさん食べてほしいと思うし、できることならほしい分だけ売ってやりたい。でも売れるコメがない。こうやって何度新規の客を断ったことか。最近は自分でも何をやっているのだろうかと思ってしまう。それでもメディアは“買い占め”“投機”“転売”ばかりいうので、客からは“本当はあるのに売らないのではないか?”と思われているのではないかとも考えてしまう」と複雑な心境を語っていた。
香川県内で農機資材業を営む男性は、「最近、メディアはコメの価格高騰ばかりいっているが、実際は農家が売った後で高くなっている。農家からの買取価格は1俵(60㌔)当り約2万円だが、最終的には約5万円で流通している。農家にとってはこれまでが安すぎただけで、今が当たり前の価格だ。これまでどれほどの農家が赤字を理由にやめていったことか。香川県は、全国でもっとも面積が狭く、山が多いこともあって、農家1戸当たりの作付け面積も小さい。面積を広げて生産コストを下げることが難しく、全国で一番生産コストが高くつく地域だ。国は大規模化や設備投資をすれば支援するという方針で、農地を集約し、少人数で大型機械を使った“効率的”な農業を推奨している。だが、私たちからすると現実味がない。法人化して規模を広げ、10町くらいの田を手がけている農家でも経営が苦しくなっている。4~5反の小規模な田を持つ兼業農家は他の収入があるので赤字でもなんとか続けられるが、大規模に田を広げた専業農家ほど苦しい。この地域でも他人から借りていた田を再び持ち主に返す農家が増えている。しかし返された方も農業ができないので、田は耕作放棄地になり、少し見ない間に宅地になったりソーラーパネルが置かれたりして二度と稲作ができない土地になっている」と語った。
また、男性は「うちは農家に肥料を卸しているが、農家への販売価格はここ数年で約3割値上がりした。ただでさえ苦しい農家がもっと苦しんでいるのを見るのは気の毒だ。農家が減れば、私たちのような業者も経営が厳しくなる。第一次産業というのはあらゆる産業の土台だ。その土台が脆くなれば、全関連産業が苦しむ。政府はコメ余りを理由に減反、減反で稲作を減らし、ここ何十年も安い米価で農家が続けられない状態にしてきた。だが、その一方で海外からのSBS米だけはきっちり上限分輸入し続けている。これから先もコメ不足は絶対に起きるし、もっと深刻化するだろう。事態が悪化してからコメを作ろうと思っても手遅れだ。すでに高齢農家ばかりになり、みんな半分は諦めて“自分の代だけが続けられればそれでいい”というのが本音なのかもしれない。自分の子どもに継いでくれともいえない。地道な農家が安定して食料生産を続けられなくなっていることが一番の問題だ。メディアは“コメが高い”“誰かが買い占めている”と騒ぐだけでなく、生産現場の実情を消費者に伝えてほしい」と訴えた。
れいわ新選組の「ごはん会議」は、5月まで全国各地で続く。