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急激な衰退進む農漁村の典型  下関市豊北町 拍車かけた「行政効率化」の犯罪

 小泉構造改革から10年以上が経過し、この間、日本列島の津津浦浦で農漁村の急激な衰退が進行してきた。安倍晋三首相のお膝元である下関も御多分に漏れず、林芳正、江島潔を含めた3人の国会議員がいながら、全国先端の貧困都市として少子高齢化、人口減少がよその都市と比較にならないほど抜きんでて進行し、なかでも合併した旧郡部の豊北町では深刻な事態に至っていることが俎上にのぼりはじめている。農漁業切り捨ての国政が実行されて産業が寂れ、現役世代が次次と都市部に流出していくだけでなく、それに伴って銀行やスーパー、農協、漁協、スタンドに加えて「行財政効率化」で役場までがなくなり、小学校、中学校、保育園、公共交通にいたるまで住民の生活を支えていた機能がみな集約されていく趨勢に歯止めがかからない。豊北町でなにが起きてきたのか、全国の農漁村が抱える問題とも決して無関係でない実態について見てみた。
 
 首相と大臣お膝元の実態

 平成17年に旧豊浦郡四町と合併した下関市では、中核市になったものの、毎年2000人の人口減少に歯止めがかからない。人口は27万7902人(昨年12月現在)で高齢化率は30・5%。これは全国有数の高齢化率を誇っている山口県の28・2%よりも高い。そんな下関市のなかでも、地域そのものの衰退が突出しているのが豊北町で、高齢化率は44・9%にも達する。1万322人の住民のうち4636人が65歳以上の高齢者だ。同じ旧郡部である、豊田町の39・1%、豊浦町の35・7%、菊川町の30・8%と比較しても、はるかに深刻であることがわかる。
 昔から農林漁業や酪農を中心に、それに連なる加工業、付属する土建業やサービス業が発達してきたが、基幹産業の後退が地域経済の循環に大きな変化を与え、それに輪をかけて行政効率化が推し進められ、将来的な見通しが立たないところまできて、そのあまりに急激な人口減少ぶりが無視できないものとなり、異変が問題になりはじめた。

 千人以上の人口減進行 国勢調査のたびに 

 豊北町の住民たちに聞くと、昔から町内の旧村単位でその地特有の農業や漁業を中心にして浦集落や村落がまとまりをもち、林業や土木建築業などにも多くの人が携わってきた。「漁村部からの新鮮な魚、農村部のとりたての野菜など、農水産物が“豊北の銀座”と呼ばれた滝部の上市・下市の繁華街に集中し、遠方からも商人が集まる賑わいだった」と懐かしい思い出が語られる。農林漁業や商工業を支える形で役場や農協・漁協なども住民と密接な関係を築いていた。地域の核となる自治会を中心に住民自治を形成し、協同精神によって発展してきた歴史をそれぞれもっている。その集合体となったのが基礎自治体の枠組みとなった豊北町だ。
 しかし、高度経済成長期に田舎の若者が労働力としてかり出され、多くが都市部に流出していった。自給自足を中心とした昔ながらの家族経営の農業では収入にならず、副収入としてあった林業や畜産も後退していった。昭和30年には2万8000人をこえていた人口は現在1万322人(昨年11月末)まで減り、高齢化率も前述の通りで、およそ半分が高齢者という地域に変貌した。地域別に見てみると、農業地域として知られる田耕地区は高齢化率52%と「限界集落」になっている。国勢調査のたびに豊北町だけで1000人以上もの人口減少が常態化し、「人に会うのが難しくなった」「若者や子どもの声が聞こえなくなった」「人間よりもイノシシやシカのほうが多くなっている」とさまざまな実感が語られている。

 買い物や通院も困難に スーパーも撤退 

 人口減少とともに豊北町の住民の生活環境はこの十数年で激変してきた。高齢者が多くいる町で切実さが増している問題の一つは、買い物や病院への通院だ。山間部に点在する集落も民家が密集した漁村部も、独居老人や高齢夫婦世帯が大半を占めている。車の運転もできない高齢者が年年増えていくなか、買い物難民状態は、市内の高台に住む高齢者どころではない。歩いて買い物に行くなど「死の行軍」を意味するほど、近場に食料を確保できる店が乏しい地域が少なくない。
 阿川では、粟野に続いて、地域に唯一あったスーパーが4年前に撤退した。スーパーを頼りにしてきた車を持たない高齢者が、高台にある国道沿いの離れたローソンを頼って、手押し車を引いたり、買い物袋を下げて延延歩いて買い物に行っている姿が頻繁に目撃されるようになった。商店もなく農協のスーパーもなくなった田耕地区では、買い物できる場が一カ所もない。自転車にのって滝部地区まで買い物に出て行く人もいる。隣町の豊浦町に大店舗の集積地帯があるものの、運転ができなくなればそれまでで、老人たちは買い物難民となってしまう。
 「下関ではイズミやイオンなどの大型店やドラッグストアやコンビニができていくのに、食事の買い物もできない地域がある。この格差はいったいなんなのだろうか」と住民の一人は問題意識を語っていた。「もうからない地域」から真っ先に出ていったのが銀行やスーパーだったことは、住民たちの脳裏に鮮明に焼き付いている。
 各地域で長年営業してきた商店は相当数がなくなっているが、わずかに残っている商店が、高齢者たちの命綱になっている。あるガソリンスタンドでは、ガソリンの他にも宅配便の引き受けもおこない、地域内であれば荷物を受けとりにいったり、ついでの頼まれごとにも応じている。「私たちの仕事は物品を販売する以上に心の販売だ。この前“隣の一人暮らしの○○さんの家の電気が二日間ついていない。この前こけたといっていたから心配。家族に連絡がつかないだろうか”という電話がかかってきた。慌てて家族に連絡をとり緊急入院されていたことがわかったが、そういう役にもたてていると思う」という。
 漁村部にある別の商店には、食料品の他に靴下や電池などの生活必需品が並べられている。最近、認知症の住民も増えてきて、昔からの強みであった住民のつながりにも無理が生じてきた。しかしそのなかで、「おばちゃんが来てくれんから店が傾くよ」「おいしいものを仕入れたから食べて。あとで届けるからね」と店主が明るく声をかけることで高齢者の心の支えになっている。「どんな小さな買い物でも、心寂しい思いをしている高齢者が店内の椅子にかけて何十分と話していくのにもつきあって、自分の店の経営よりも地域住民のためにやっているようなものだ」と住民のなかでも話されている。そんな商店も店の後継者がいないことが現実的な問題となっており、店を畳んだときに地域の老人たちはどうやって食料を確保するのか、が大きな問題になろうとしている。

 通勤や通学環境も悪化 JRもバスも便数減 

 また、買い物に行こうにも交通手段がない。免許を手放す高齢者は年年増え、公共交通が重要な存在になっている。ところが「赤字」といってJRも早くからすべての駅を無人化し、ただでさえ少ない山陰本線の運行ダイヤ改正に1昨年手をつけた。年年便数が減るおかげで、豊北高校の生徒たちが遅くまで部活をすることが困難になったり、通勤・通学環境も変化している。
 地元のバス会社が担っている路線バスも1~2時間に1本。バスを補うように走っている市営福祉バスも同様で、とくに山間部になれば「病院に朝早く行って昼頃に終わっても、帰る便がないから1日がかりになる…」「買い物に出るたびに、買い物とは別に交通費で1000円かかる。年金暮らしの年寄りには痛い…」と実情が語られる。
 地域によっては粟野のようにコミュニティタクシーを走らせたり、二見地区のように住民が輪番で運転手になって無料の福祉バスを走らせるなどの積極的な動きもあるが、行政がかかわるバスについては「利用率」が問題にされ、困っている地域ほどどうにもならないまま放置されている。圧倒的に人口が少なく利用者も限られてくるからだ。福祉バスは下関市と合併してからは料金が200円から500円など値上がりしている。
 また、住民にとって自動車は移動手段として必需品だが、燃料を補給するガソリンスタンドも地域から次次と姿を消している。2010年の消防法改定で地下タンク更新規制が厳しくなったことによって、小規模店舗でも1000万~2000万円の大金を工面できないところは廃業するしかなかった。
 田耕では唯一のスタンドが早くに姿を消し、特牛でも小さなスタンドが廃業した。

 医療体制の充実も切実 検査や入院も困難に 

 医療体制の充実化も町民にとって大きな問題だ。年をとって病気も増えるなか、それぞれが自分のかかる病院を探して、長門や小串・川棚、下関市にある済生会などの総合病院まで出向いている。「町時代は、公設、個人病院に関係なく、全体のバランスに町が責任をもっていた。次第に採算の合わない診療所が閉鎖されていき、総合的な役割を持っていた滝部病院が介護老人保健施設にかわっていった。異常が見つかっても結局大きな病院でないと検査も入院もできないからみんなそっちに行く」と話されている。
 大きな病院など町内にはなく、救急車の受け入れ先もない。急患になると海沿いの国道を救急車が延延走っていくことになる。往復だけで一時間以上かかることもあり、そうなると救急体制にも支障が出かねない。人口は減っていくのに、急患になりやすい高齢者は増えていることから出動回数は増えており、人員不足がだれの目にも明らかなものとなっている。行政効率化とセットで消防団が持ち上げられる流れもあるものの、裏を返せば「農漁村部は自分でなんとかしてくれ」の響きを伴っている。

 金融機関縮小も相次ぐ 郵便局集約も動く 

 金融機関の縮小もあいついだ。粟野地区では、山銀が撤退したほか農協も撤退して久しい。今度は各浜の漁協でも、この間の大赤字の解消策として、信用部門の縮小(人員削減、ATM化)がされようとしている。地域によっては漁協が高齢者の自宅に灯油を運んだりと、生活の困難な部分を支えていた。しかしそれも続けていけるかどうかわからない状態。
 町内に10局ある郵便局では、そのうち5局にある集配局の集約が今年10月をめどに動いている。詳細は確定していないものの集配局を1局もしくは2局にする方向で話が進んでいる。郵便局のコスト削減の一環であるが、無集配局が増加することで、近い将来無集配局の再編(廃局)も進むのではないかと関係する人人は危惧している。また、そのことによって、田舎の年寄りが年金を引き出すことすら困難になると心配されている。
 さらに、数少ない職場の一つである郵便局が人員削減に動けば、なおさら現役世代が減少するという。スーパーにせよ、農協、漁協、銀行などの機関にせよ、そこで働いて現金収入を得ていた住民は少なくなかった。

 「低コスト」威張る転倒 子供激減し学校統合 

 地域にあったあらゆるものが姿を消し、働く場がないことで現役世代の流出に歯止めがかからない。それは豊北町の子どもの数にもあらわれている。豊北町の小・中学校の児童・生徒数の推移(グラフ参照)を見てみると、昭和58年には2208人いたのが、昭和63年には2000人を割り、平成5年には1530人、平成15年には897人、昨年度は478人と急降下している。平成17年の市町村合併をへて、翌年の平成18年度には町内にあった4つの中学校(豊北第1、第2、第3、角島)を1カ所集約した「豊北中学校」が滝部に開校。
 3年後には、角島保育園の存続を求める父母や地域の願いが込められた署名を踏みにじって、町内の5つの公立保育園・幼稚園を滝部1カ所に集約した。また最近では小学校も「8校を4校に」「滝部と神玉の2校に」など数字的論議ばかりが行政ではやられ、2010年度末をもって二見小学校が休校となり、現在もっとも児童の少ない田耕小学校は27年度をめどに滝部小学校へ統合する方向。今後、さらに小学校の統廃合が進められようとしている。
 一方で、豊北中学校には広大な町内から子どもたちを通わせるのに、学校統合だけ済ませて通学手段については放置している状況もある。開校以後、遠くから自転車通学していた生徒が車にひかれて死亡するという、痛ましい事故もあった。角島・神田地区では、せめてスクールバスを出してほしいという要望があるものの、「予算がない」で凍結状態となっている。「教育環境のため」といって小規模校を否定することだけ熱心なのが地元市議会議員で、それなら教育環境のためにスクールバスを配置する心配をなぜしないのか?と住民たちは首を傾げている。
 集約化こそすべてで、中学校も小学校も保育園も、みな滝部に集めて喜んでいる姿を見て、「何がそんなにうれしいのかわからない」と多くの住民が違和感を抱いている。滝部にみんなが住めばよい、というわけにはいかず、それぞれの地域に根ざした独自の生活環境や文化、風土がある。それらを否定していく者が「安倍派」というだけで議員に取り立てられ、民主主義が否定されているという点でも、豊北町は大きく変わった。
 農業がやっていけなくなり、漁業でも山口県では自民党林派がこしらえた信漁連の負債をみな漁業者に尻拭いさせ、2005年前後の漁協合併の過程で豊北町では七割の組合員が脱退する出来事があった。産業が疲弊しただけでなく、二重にも三重にも衰退の要因が加わった結末にほかならない。
 そうした衰退状況に追い打ちをかけるようにして、自治体機能や教育環境、生活環境の全面にわたる集約化が進められ、低コストな行政運営のモデルとして取り上げられてきた。人人が住めないようにして「低コスト」を自慢する本末転倒な姿と、その犯罪性を豊北町の急速な衰退ぶりが物語っている。
 下関市では衰退の歴史的変遷や要因について考えることを「浦島太郎だ!」と小馬鹿にして、まともに考えようとしない男が安倍・林代理で市長ポストに就き、「経営者の視点」(市長が経営していた唐戸魚市子会社のハートフーズの視点)といって大なたを振るっている。経営にとって無駄だから農漁村地域から行政サービスも取り上げ、寂れるに任せる。下関という地方都市にもかかわらず、田舎者が田舎を馬鹿にして都市偏重をやる姿を暴露している。
 これだけ農漁業が衰退した地域から出た国会議員が、恥ずかしげもなく農林水産大臣をやり、首相のお膝元たるや全国先端の貧困都市となっている実態について、考えなければならないところへきている。産業振興が急務になっている。

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