日米首脳会談がどうなることかと気を揉んでいた日本政府曰く「ひとまず大成功」だったと安堵しきった心境が報道各紙で伝えられた。どう出てくるか予想のつかない米大統領トランプに対して「法の支配」を掲げたりけっして上から目線でいくことなく、徹底的にヨイショして持ち上げる作戦が良かったのだとか、ぐだぐだと理屈をこねる石破構文風ではなく結論から先に述べるのが良いと麻生太郎に教わったとか、事前に各省庁の幹部たちが政府官邸で何度も打ち合わせをして作戦を練っていたとか、舞台裏では植民地従属国の統治機構をあげててんやわんやして、宗主国の王様との面談デビューに挑んでいたことが明るみに出ている。情けないというか、戦後80年も経ながら独立国ではないことの悲哀を感じさせるというか、まるで鎖につながれながらご主人様のご機嫌を伺う犬ではないかと思うものだった。トランプに可愛がられていた前任がセントバーナードだったなら、それがブルドッグに変わった程度ではないかと――。
今回の日米首脳会談で、日本側からご機嫌取りのために土産で持ち込んだ目玉が対米投資1兆㌦(150兆円)であった。アメリカ経済の底上げのために日本側が150兆円規模の投資をおこない、大量の液化天然ガス(LNG)を購入する等々の約束を交わしている。金融とITに傾斜して製造業が空洞化し、ラストベルトをはじめとした取り残された地帯でブルーカラーが落ちぶれ、貧困化が著しいアメリカで、近年はその受け皿を世話するように自動車大手のトヨタなどが現地生産工場を作ったり、食品製造の日清食品が工場を建設して従業員を雇ったり、様々な日本企業が貢献度をアピールするように対米投資を繰り返してきた。米国の産業基盤、経済基盤が揺らいでいるもとで、その雇用情勢を支え、社会不安を払拭するように役を買って出ているような光景である。米国民を養っていけない、否、養う気すらない極端な金融・IT傾斜の構造のなかで、割の合わないクッション材みたいな役回りに見えて仕方がない。トヨタなんて第1次トランプ政権に締め上げられて、大慌てで対米投資に乗り出したのが実態だろう。人件費の高いアメリカに現地生産工場を作るなど、格安労働力を備えるメキシコへの工場進出に比べてどんなメリットがあるのか? である。
石破政府はトランプ詣でで対米投資150兆円と大風呂敷を広げて得意満面である。しかし、そうなると日本国民の一人としては、そんなカネが投資できるなら、なぜ日本国内の産業基盤、経済基盤の底上げのためにもっと日本国内に投資しないのか? と思ってしまう。同時期に被災地の能登は、今期最強寒波に見舞われて大変なのに放置され続け、震災から1年以上経っているのにまともな政府からの支援が受けられない。それなのに、なにが対米投資150兆円か? である。あるいは急激な円安と物価高で日本国民はひーひー言っているのに、日本政府は消費税減税すらおこなわない。これだって仮に0%にしても年間24兆円の国内投資、内需拡大政策、というか搾取の停止に過ぎない。150兆円には遠く及ばないが、それすら実施しないのに、なにが対米投資150兆円か? である。与野党が国会でぐだぐだやっている給食費無償化、高校無償化に加え、奨学金チャラをやってもお釣りがくるぐらいであるが、なにが対米投資150兆円か?である。自国の国民生活を豊かにできない者が、アメリカに貢ぐことだけは最優先で取り組んでいくことへの違和感ったらないのである。
アメリカにそんなに突っ込んでやるカネがあるなら、日本国内に投資しやがれ! と思うのは私一人ではないはずだ。
吉田充春