いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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元共産党員と資本主義

 一連のフジテレビ騒ぎで、組織のドンとして日枝久の存在がクローズアップされているが、同じく日本テレビのドンだった氏家齋一郎や読売新聞の渡辺恒雄、西武グループの堤清二など、政財界を股にかけてドンとして地位を築いてきた者のなかに、なんと元共産党員の多いことか。所属していたのが一時期とはいえ、終戦を経た戦後の混乱期に一定期間身を置き、そこから見切りを付けて転向した後は、対米従属の鎖につながれた日本社会の権力の中枢でのし上がっていった者たちである。時には勝手知ったる左を転がしたり、右を使いこなしたりの両刀使い――。鍛えられた統率力だったのか、それはもう組織のなかで「使える奴」だったのだろう。時の総理大臣に上から物申すなどしていた渡辺恒雄にいたっては、「メディア界のドン」「政界のフィクサー(黒幕)」などといわれ、共産主義とはまるで裏腹な資本主義陣営のボスにまで上り詰めたのだから皮肉なものである。

 

 こうした共産党からの転向組、あるいはその後の学生運動からの転向組が、高度成長からこの方につながる日本社会のなかで、企業や組織で頭角をあらわして出世していったという例は枚挙に暇がない。転向すなわち政治思想も180度ひっくり返して、今度は資本主義の歯車としての人生というわけである。そうして60年安保斗争を経て、高度成長へとなだれ込んで経済的にも右肩上がりだった時期に「資本主義もいいもんだなぁ」という風潮のなかで働きに働いて、出世するものは出世して、ジャパン・アズ・ナンバーワンと言われた時期もあった。しかし、90年代後半にバブルが崩壊すると失われた30年になり、いまや資本主義社会としてはズルズルと没落してゆくばかりである。

 

 団塊の世代も祖父母となり、現役世代の団塊ジュニアの子どもたちやその孫たちの未来はというと、なんとも知れない暗雲が漂っているではないか。映画「三丁目の夕日」が描いた伸び盛りの社会ではなく、壊れていく社会が眼前に横たわっているのである。しかし、対峙すべき社会運動は60年安保斗争時期ほどの勢いはなく、センターとなる組織もなく停滞気味。それぞれの分野で個々の努力はあるものの、まとまった力として台頭する場面は乏しく「日本人はおとなしい」などといわれている。

 

 戦後の一時期は労働運動も活発だったという。戦争という塗炭の苦しみを強いられたところからの反動もあり、それこそ60年安保のような大衆運動も火を噴いた。しかし「資本主義もいいもんだなぁ」の生ぬるい時期を経て次第に尻すぼみとなり、いまでは骨を抜かれたかのような静けさが覆っている。資本の側は弾圧するだけでなく懐柔も加え、右も左も取り込みながら労働運動を抑え込んだのだった。いまや連合にいたっては自民党にべったり寄り添う始末で、労働者の味方もなにもあったものではない。各企業でも労働貴族といわれるような資本に手なずけられた労組幹部が培養され、労働者を抑える側で資本に仕えているような実態は珍しくない。そうやって役割を果たす労組委員長が取締役出世への登竜門という企業だってある。斯くして社会の圧倒的多数を占める労働者がバラバラに分断されたもとで、労働政策は規制緩和で非正規雇用などがはびこり、子どもたちに三食まともに食べさせてあげられないために子ども食堂が全国に1万カ所もできる時代になった。

 

 2020年代まできて、「資本主義もいいもんだなぁ」という感覚を抱いている人間がどれだけいるというのだろうか。海外では、資本主義の総本山であるアメリカでも、かさぶたとなっていた労働組合のダラ幹どもを乗り越えて、各産業でストライキが果敢にとりくまれ、下から労働運動が熱を帯びている。ハリウッドだけではない。アマゾンでも、物流業界でも、教師や医療従事者たちも、待遇改善にとどまらぬ公益を掲げてまともな世の中にせよと訴え、プラカードを掲げる表情はみな明るく爽快である。やられっぱなしで打ちひしがれているのではなく、未来を代表して束になって行動しているからこその明るさなのだろう。腐朽衰退する社会構造のなかで、そこからの転換を促して次の時代をつくっていく原動力は古今東西の歴史を見ても民衆の力以外にはない。何十年とおとなしく辛抱してきた日本人も長年の停滞を打ち破る時期を迎えているように思えてならない。

 

武蔵坊五郎

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