アメリカで「犯罪の温床となっている不法移民を強制送還する」とトランプが息巻いている。しかし、もともとアメリカ大陸で暮らしていた先住民のインディアンからすると「アングロサクソンのおまえたちこそ、勝手にアメリカ大陸に乗り込んできた不法移民みたいなものではないか!」という理屈が成り立つのだろうし、その後、不法にアフリカ大陸から奴隷として連れてこられた黒人たちからすると、「奴隷や移民のおかげで国が存立してきたくせに何をいってんだ」という思いにかられてもおかしくない。ルーツからすると、そうなるのである。
アメリカ合衆国の建国の歴史を改めて考えた時、それはイスラエルがガザを壊滅的なまでに攻撃し、パレスチナ人を殺戮しまくっている現実と酷似している。イギリスに居場所を失った清教徒たちがアメリカ大陸に渡り、荒野のなかで厳しい冬を迎えて病気で半数が死ぬというような過酷な状況下をインディアンに助けてもらったのに、その後、そうした先住民のインディアンたちを殺戮しまくって、力尽くで奪い取ってこしらえたのがアメリカ合衆国である。毛布に天然痘を仕込んでインディアンにプレゼントし、意図的に疫病を流行らせて殺戮したり、研究によってあぶり出されているいくつかのエピソードだけ見ても残酷極まりない手口である。西部劇にもその傲慢さはにじみ出ている。
インディアンたちからすると後発のアングロサクソンこそが「不法移民」みたいなものなのである。凶暴に他人が暮らしている地に乗り込んで破壊・殺戮の限りを尽くし、入植し、異民族を虫けらのように殺めていく様は、今日のイスラエルのそれと変わらない同質のものでもある。黒人奴隷たちをアフリカから連れてきて、牛馬の如くこき使ってきた歴史もまたアングロサクソンの思い上がりを反映しているが、都合よく引っ張ってきたり追い出したり、侮蔑したり、実に勝手なものである。
メキシコや周辺の貧しい国々からアメリカに仕事を求めてやってくる「不法移民」は、アメリカ国内でも低賃金のアンカー(錨)となって3K(きつい、汚い、危険)労働を下支えしてきた。大農場などで働いているのも多くは「不法移民」であり、貧困大国アメリカのもっとも底辺で暮らす存在ともいえる。おかげでアメリカ社会は回ってきたはずなのに、これを排斥・摘発して国外に強制送還するという挙に及んでいる。移民の低賃金労働力に依存して、搾取する資本の側はこれをうま味にしていいように利用してきたに過ぎないが、ではこの労働力が失われた時にどうなるのか? であろう。ある意味、相互依存の関係ができ上がっているのである。
日本国内を見ても、いまや製造業に限らず、コンビニや居酒屋に至るまで外国人実習生だらけである。ベトナムやインドネシア、ネパール等々の国々からやってきた若者たちが、片言の日本語を駆使しながら異国の地で仕事をこなし、少子高齢化のひどい没落著しい日本社会を支えている。この労働力なくして社会は回らないほど依存を強めているのが現実である。アメリカを習うように多民族国家への歩みを進め、いまや外国人労働者の存在は珍しいものではなくなった。かつては朝鮮人を差別・侮蔑しながら労働力として引きずりこんだのが、現代版の労働力移入は国籍も多彩で「外国人実習生」なるスマートな呼び方こそしているが、やっていることは同じである。
先進各国では共通するように移民にたいする排斥やナショナリズムが煽られ、極右勢力とか右派の拠り所にもなっている。「上見て暮らすな、下見て暮らせ」とは、封建時代からやられてきた統治政策であり、日本社会においては朝鮮人を侮蔑する以前には被差別部落が蔑まれてきたし、現在では生活保護叩きであるとか、クルド人叩きであるとか、各種ヘイトであるとか、最底辺や異端を叩き回して優越感に浸り、不満のはけ口にするというものもあらわれている。
「不法移民は出て行け!」と叫ぶトランプにたいして、インディアンたちはどう思っているのか気になるし、その入植と占領の経緯がイスラエルのガザにおける蛮行と重なって見えて仕方がない。
武蔵坊五郎