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「私たちの声を無断で生成AIに使うな」 生身の人間の演技や声は作品の魂 声優所属の3団体が共同で意見表明

(2024年11月22日付掲載)

「生成AIに関する音声業界3団体の主張」説明会に参加した声優たち(11月13日)

 「私たちがやった覚えのない朗読や歌、そして声そのものが、ネット上に公開され、時に販売されていました。私たちの声は商売道具であり、人生そのものであり、共に成長してきた大切な自分自身の一部です」。声優たちが所属する日本俳優連合(日俳連)、日本芸能マネージメント事業者協会(マネ協)、日本声優事業社協議会(声事協)の3団体が11月13日、文部科学省会見室(東京)で、「生成AIに関する音声業界3団体の主張」説明会をおこない、「私たちの声を無断で生成AIに使うな」と訴えた。

 

 声優たちが問題視しているのは、本人に無断で、生成AIに声優たちの声を学習させ、アニメのキャラクターなどに無関係の曲を歌わせたり、しゃべらせたりする動画をつくってSNSに投稿する行為だ。こうした動画は今年1月だけで500件以上にのぼるという。

 

 声優たちは、AI(人工知能)ではなく生身の実演家(声優や俳優、歌手など)の演技によってこそ、真の「魂」を作品に吹き込むことができると訴えている。ところが現在の日本国内法(著作権法第30条の4)では、AI学習において著作物が権利制限の対象とされており、教育・研究用途だけでなく商業利用でも一定の条件を満たせば自由に活用できるようになっていることから、先のような行為が野放しになっていると危機感を表明した。

 

 説明会で声優たちは、「生成AIに関する音声業界3団体の主張」として、①生成AI音声を、アニメーション及び外国映画等の吹き替えでは使用しないことを求める、②生成AI音声を学習・利用するさいは、本人の許諾を得ることを求める、③生成AI音声には、AIによる生成物であることの明記を求める――の三つのルールを日本においても確立するよう強く要望した。

 

 日俳連の常務理事・島田敏氏は、「海外では俳優や声優の権利を保護するための法整備が進んでいるが、日本ではただ事実を受け入れるだけで、抜本的な話し合いが進んでいない」とのべた。島田氏は、アニメ『ちびまる子ちゃん』でさくら友蔵(おじいちゃん)の声を演じてきた。

 

 また、日俳連の理事・かないみか氏は、「無断ではなくやっていくのであれば、きっとAIはすごくすばらしいものになっていくと思う。本当にいいたいのは、無断で私たちの声を勝手に使わないでくださいということだ」とのべた。かない氏は、『それいけ!アンパンマン』でメロンパンナちゃんの声を演じてきた。

 

 3団体はこれまで文化庁や経済産業省と話し合いを持ってきたが、問題の解決に至っていないため、まず民間の事業者などにこの三つのルールの運用を求めていくとしている。

 

 説明会に先立って、26人の声優たちは「NO MORE無断生成AI」有志の会を結成し、10月15日から動画『NO MORE無断生成AI』をアップした。現在、第4弾まで視聴することができる。

 

良い作品生む土壌守る 有志の会の訴え

 

 有志の会は、技術の進歩がもたらす恩恵を認めつつ、「10年後20年後も、ずっとよい作品を生み出す土壌を枯れさせないために」、つまり文化・芸術振興の観点から、適正なルールづくりをめざしており、有識者を交えた議論を求めている。アップされている動画の中から、声優の訴えをいくつか紹介する。

 

 山寺宏一氏 生成AIを使って声でいろんなことができると楽しいし、それを個人で楽しむ分には全然問題ない。しかし、それを商業利用するというのはもってのほか。収益が上がらないものであっても、公にSNSで拡散してしまうのは問題だと思う。

 

 坂本千夏氏 そう遠くない未来に、理想的なキャラクターをつくって、それにピッタリの声をつくることができるのだろうとは思う。そうなったときに、私たちはもうお払い箱だ。

 

 阪口周平氏 (無断生成AIで収益を得ている人がいる)それを規制する法律がないっていうのがおかしい。ちまたではクールジャパンといって、日本のアニメを日本の宣伝のために使ったりしているが、クールジャパンというなら、クールな文化をつくっている僕らのことをもう少し守ろうっていう気はないですか。偉い人たち。

 

 片岡富枝氏 私たち役者は、五感の細胞がフル回転。流れる赤い血ですべてを表現している。その場の空気感、環境、季節、スタジオの中の雰囲気を感じつつ、相手の俳優さんとの演技のキャッチボールを生身で、そのときの状況で、感情の揺れで表現する。生きている人間の生きている言葉でお芝居させてもらっている。それが生きている言葉でなくなると、みなさんに感動してもらえるか、とっても疑問だ。

 

 福山潤氏 僕らの生身の声は、しゃべり方一つ、投げかけ方一つとっても、人生経験を経て自分の中に取り込んで出しているものだ。身につけようという願望があって、そこに向かっていくものだ。そういった人の思いや労力に対して、ただ乗りの精神で、ここを組み合わせれば便利で、お金が稼げるじゃないかというのは許容できない。しかも社会全体で考えたとき、他人の成果物を労力をあまり使わずに奪いとってしまえるという社会は健全ではないと思う。

 

 佐々木優子氏 AIが悪いわけではない。問題となるのは、それを扱う人間の方だ。私たちの声は、ただの声ではない。この仕事を選んだときから、みんな訓練して、お金をかけて勉強して、経験を積んで、努力を重ねて、人生をかけてつくりあげたものだ。それを無断で勝手におもちゃのように切り貼りして、全世界にアップされて、気持ちのいい人がいるはずがない。あなたの好きな声優がどんな気持ちでいるか、想像してみてほしい。

 

(発言以上)

 

 今世界では、さまざまな芸術作品をAIの学習データとして勝手に利用することに待ったをかけ、利益追求第一の巨大テクノロジー企業に規制をかけようとする世論が大きくなっている。

 

 昨年アメリカでは、ハリウッドに拠点を置く全米脚本家組合が、AIを使って台本を生成することなどに反対して5カ月におよぶストライキをたたかった。これには全米映画俳優組合も加わった。粘り強いたたかいによって、AIに関しては、対話型AI「ChatGPT」などが生成した素材は作品とみなさない――などを企業側が確約した。

 

 また今年10月22日、「生成AIを訓練するために創作物を無許可で使用することは、作品に携わる人々の生活を脅かす不当で重大な脅威であり、許されるべきではない」との公開書簡が、世界の芸術家たち1万9000人の署名を集めて公表された。署名したのは、著名な作家・詩人、俳優・監督ら映画人、作曲家や指揮者、写真家や画家など、さまざまな分野の芸術家などである。

 

 先の声優たちの行動は、それらと連動する日本国内の新しい動きとして注目される。

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