イスラエル国会、UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)の活動を禁止する法案を可決(10月31日)
イスラエル国会は10月28日、UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)の活動を禁止する法案を可決した。とても国連加盟国の行為とは思えないが、イスラエルの政治・社会の極右傾向をまたも示すことになった。この措置によって、ガザやヨルダン川西岸などのパレスチナ難民の人道状況がいっそう劣悪になることは明らかだ。
今年1月、昨年10月7日のハマスの奇襲攻撃にUNRWA職員が関わったとイスラエルが主張したことを受けて日本を含む12カ国がUNRWAへの拠出金を停止したことがあった。その後、イスラエル政府はUNRWA職員の関与について具体的な証拠を示すことはなかった。上川外相(当時)は2月2日の会見で、「UNRWA職員への疑惑を極めて憂慮しております。国連の調査が行われている限り一時停止せざるを得ないという判断に至りました」と述べたが、イスラエルの主張を鵜呑みにし、ガザの人道状況よりも米国と歩調を合わせることに重きを置いたことは明らかだった。米国はUNRWAへの資金拠出をいまだに再開していない。
イスラエル議会の決定は、イスラエル国内でのUNRWAの活動を禁止するために、UNRWAは特にガザへの交通や物資運搬を断たれることになる。ガザのパレスチナ難民支援活動に重大な支障をきたすことは明白で、彼らの生活や健康、食糧援助、学校教育に壊滅的な打撃を与えることになる。また、UNRWA職員がイスラエル軍の攻撃を受けないための調整もイスラエル当局者との間で行えない。UNRWAとそのパートナー組織が9月から行っているポリオの予防接種にも影響を与えるだろう。
本来ならば、パレスチナ国家を認めず、パレスチナ難民の帰還を認めない占領国のイスラエルに難民の生活を支える義務があるが、国際的に支援を提供されるUNRWAによってイスラエルは難民に対して負うべき莫大な資金を支払わずに済んできた。23年のUNRWAの予算は23億㌦で、その9割が国連加盟国からの拠出だ。
UNRWAはイスラエル建国と、それに伴う第一次中東戦争の結果生じた75万人の難民を支援する目的で設立された。UNRWAは、ガザ、ヨルダン川西岸、ヨルダン、レバノン、シリアの5つの地域で暮らす600万人のパレスチナ人に食料、医療、学校教育、場合によっては住居を提供する主要な援助組織となっている。UNRWAは、教育、保健、インフラ、食糧支援、小規模金融という5つの分野で国家のような機能を果たしているが、政治活動や治安活動は行っていない。
国連は1948年に、パレスチナ問題の長期的な政治的解決を模索し、「難民の帰還、再定住、経済的・社会的リハビリテーション、補償金の支払いを促進する」ために、「国連パレスチナ調停委員会」を設立したが、イスラエルに国連を信頼する姿勢が希薄なために、その後和平プロセスは米国主導の下に置かれていった。シリア、ヨルダン、レバノンで生活するパレスチナ難民たちには、帰還よりもUNRWAがそれぞれの国家への統合を図る機関と見なす傾向がある。
米国は1970年にUNRWAへの拠出金は軍事訓練を受けている難民に使用されてはならないことを要求し、これに応じてUNRWAもパレスチナ難民の受け入れ国政府が彼らを審査できるように、毎年その職員のリストを公表してきた。3万人の職員の大多数はパレスチナ人たちで、UNRWAは彼らの雇用も創出してきた。
グテーレス国連事務総長は、UNRWAの活動禁止は大惨事になるだろうと述べ、日本、韓国、イギリス、カナダ、オーストラリア、フランス、ドイツの外相は共同声明を発表し、イスラエルによる禁止措置が特にガザ北部で、すでに危機的で急速に悪化している人道状況に壊滅的な結果をもたらすと主張した。
米国国務省のマット・ミラー報道官は、「法案の可決は、米国の法律と米国の政策に影響を与える可能性がある」と警告したが、米国の国内法は米国による人道支援物資の供与を妨害する国への武器の移転を停止することを義務付けている。
イスラエルに対する武器移転の停止はイスラエル国家の根幹にも関わる措置だが、UNRWAの活動停止への対応は米国外交の公正性を試す重大な機会となっている。
敗退するイスラエル軍――武力は万能ではない(11月3日)
先月、10月はイスラエル軍にとって、昨年10月7日のハマスの奇襲攻撃以来、最も犠牲の多い月となった。1カ月間で62人の兵士が戦闘で死亡し、イスラエル国内ではヒズボラのミサイル攻撃などで15人の市民と2人の警官が犠牲になった。イスラエル軍のリハビリテーション部門では1万2000人以上の負傷者を治療しており、その数は毎月およそ1000人ずつ増加している。これらの数は過少に公表されているのではないかという疑念が野党などから呈されている。
ヒズボラの最近の発表では10月1日以降、ヒズボラなどレバノンの抵抗勢力はイスラエル軍の将兵90人を殺害し、750人を負傷させ、イスラエル軍のメルカバ戦車38台を破壊した。
いずれにせよ、南レバノンとガザから戦闘員と民間人を排除するイスラエル軍の作戦は激しい抵抗に遭っており、イスラエル軍は昨年10月以来最も激しい戦闘に遭遇するようになった。
ネタニヤフ首相は、ハマスとヒズボラは政治指導者と軍事指導者がイスラエル軍によって殺害された結果、その戦闘能力を失ったと語っていたが、その主張は見事に覆された。
ガザ北部では、ジャバリア難民キャンプからハマスの戦闘員が一掃されることもなかったし、ジャバリアやベイト・ハヌーンの住民が飢えに瀕して南部に移住することもなかった。国連とそのパートナー組織によれば、イスラエル軍が10月5日以来最新の攻撃を開始して以来、7万1000人以上が北ガザ県からガザ市に避難したものの、約10万人が北ガザに留まっている。
南レバノンではイスラエル軍の状況はさらに悪く、侵攻後3週間を経過したが、国境から2㌔以上離れた地点を確保できず、死傷者が多すぎるので、頻繁な撤退を余儀なくされている。
これはヒズボラをリタニ川以北まで押し上げるという当初のイスラエル軍の目標からはほど遠い。イスラエル・レバノン国境からリタニ川までは29㌔ある。
ヒズボラの兵士たちはイスラエル軍を誘い込み、トンネルを使ってイスラエル軍を背後から攻撃するなどの戦術をとっている。ヒズボラの関係者たちはヒズボラの幹部暗殺はヒズボラの戦闘能力にほとんど影響なかったと述べている。
イスラエルが念頭に置いているヒズボラとの停戦条件は、ヒズボラがリタニ川まで軍を撤退させ、レバノン軍が国境地帯を管理するというものだが、その条件とはほど遠い状態にある。ヒズボラは米国の特使アモス・ホッホシュタインを通じてイスラエルの停戦案を知らされると、躊躇なく却下した。ヒズボラもハマスもイスラエル軍がガザから撤退するまで、国境地帯から兵士を撤退させるつもりはない。
イスラエル軍の防衛当局者の話では、レバノンとガザでの戦争は限界に達しており、これまで以上の成果は望めない見込みとなっている。イスラエル軍がレバノン、あるいはガザに長期にわたって軍隊を駐留させれば、大規模な兵力損失があると、イスラエルの防衛当局者も考えるようになった。
ところで、第二次世界大戦では13万4000人のアルジェリア人たちが自由フランス軍に参加し、1万8000人が戦死した。アルジェリア東部のセティフの町では1945年5月8日、ナチス・ドイツに対する戦勝パレードに5000人のアルジェリアのムスリムたちが参加を促されたが、彼らはパレードで戦勝を祝うのではなく、アルジェリアに対するフランス支配の終焉を叫ぶようになった。鎮圧のためにフランス軍やフランス人入植者が動員されたが、入植者102人が殺害されると、続く2週間でフランス軍、警察、入植者たちは4万5000人のアルジェリア人たちを虐殺した。
昨年10月7日以来のガザ地区の犠牲者が4万3000人ぐらいだからフランスの弾圧がいかに過酷であったかがうかがえる。それでもフランスは独立戦争に敗れてアルジェリアから撤退した。
イスラエルはフランスのアルジェリア、あるいは米国のベトナムやアフガニスタンから教訓を学んでいない。イスラエルは戦争が長引けば状況はいっそう悪くなることは明らかだ。レバノンやシリア、イラクなどイスラエルを囲むようにしてあるアラブ諸国では反イスラエルの武装闘争を担う民兵たちは際限なく現れることだろう。
イスラエル軍は戦争に勝利することなどないことに気づくには残念ながらさらに数カ月かかるかもしれない。
この論考は、米欧では「反ユダヤ主義」として糾弾されるだろう。それほど、イスラエルを米欧は擁護している。イスラエル軍の爆撃の大半はアメリカ製の爆弾・ミサイルだという報道もなされている。パレスチナやその周辺住民への弾圧は、決してイスラエル単独ではなく、米欧の「イスラエルの自衛権の絶対的支持」によってなされているのであるが、米欧が方針を変えることは、当分の間、期待できそうもない。それを考えると、「イスラエル軍の敗退」は遠い将来なのかもしれない。