恫喝訴訟繰り返す前田建設
安倍政府になってから経済産業省が旗を振り、東京のゼネコン準大手・前田建設工業が下関市安岡沖に持ち込んでいる国内最大規模の洋上風力発電計画に対して、昨年から住民が結束して反対運動に立ち上がり、一私企業のもうけのために住民生活をないがしろにする風力発電の建設を阻止しようと粘り強くたたかっている。響灘を巡っては安岡沖とは別に、若松沖すなわち下関沖に140基もの巨大風車を建設する計画も持ち上がり、エネルギー・サミットを北九州で開催することも決まるなど、安倍晋三や麻生太郎の選挙区がさながら環境利権の実験台のようにされている。首都圏から大企業が押し寄せ、低周波など人体への影響を懸念する地元住民の意志などお構いなしにゴリ押しする様はまさに聞く耳なしで、国会前と同じように民意が何ら反映されない政治・経済の状況をあらわしている。下関において発展してきた安岡沖洋上風力反対運動の現局面と今後の方向性について、記者座談会をもって論議した。
10月4日のデモ行進に参加を
A 住民説明会によって安岡沖洋上風力問題が住民の前にあらわれてから3年になる。風力発電がもたらす低周波音による健康被害や、漁場の破壊についてかなりの人が知るところとなり、反対世論は全市に広がっている。
最近の動きのなかで特徴的なのは、前田建設工業が風力発電建設の前提条件である環境アセスをごり押しするために、陸でも海でも次次と住民を「訴える!」といって脅して回っていることだ。本来、「お願いします」といって住民の理解を求めなければならないよそ者が、まるで安岡や響灘は自分たちの物だといわんばかりの振舞に及んでいる。主客転倒も甚だしい。首都圏の大企業が勝手に物色して選定し、自分たちが決めた場所なのだからよこせ! といっている。逆ったら懲罰を加えるという手法で、極めてヤクザ的だ。
B 風力反対に立ち上がった安岡の漁師たちは、前田と癒着した下関外海漁業共励会会長の廣田弘光(山口県漁協副組合長、県漁協彦島支店運営委員長)の恫喝に屈服せずにたたかってきた。廣田が脅してきたと思ったら、波状攻撃で前田建設工業からボーリング調査拒否の行動を止めなければ「数千万円の損害賠償を請求する」という通知が届き、「訴えるぞ!」と脅迫にさらされている。「この企業は脅しばかりじゃないか!」と話題にしている。
振り返ると今年5月、廣田弘光が突然、ひびき支店(旧安岡漁協)の主力であるアマ漁について「違法操業」だといって禁止を通告してきた。それはハッタリにすぎないものだったが、とにかく反対する者に対して恫喝ばかりしている。当事者からすると嫌気がさすようなレベルだ。しかし漁師たちが恐れないから推進勢力としても手がないのが実際だ。漁師たちも負けてない。夏場はサザエやアワビ、ウニを獲って、1日の売上が10万円以上にもなるアマ漁の最盛期だ。そんな最中に前田建設工業が毎日調査船を出してくるが、連日漁船を出して抗議している。2カ月間にもわたって、そんなことがくり返されている。その分、漁師は操業できず稼ぎが入らない。死活問題だ。一連の嫌がらせのような調査パフォーマンスについて、安岡の漁師たちは操業妨害を訴えて調査さし止めを求める仮処分を山口地裁下関支部に申し立てた。
すると今度は、前田建設工業の代理人弁護士・べーカー&マッケンジー法律事務所(東京都港区六本木)が9月7日付で、「平成25年(2013年)12月11日付で山口県漁協、下関外海漁業共励会、ひびき支店の3者と前田との間で契約書を交わしているのだから、ひびき支店は調査に協力する義務がある」「ひびき支店の妨害行為のために調査が大幅に遅れており、妨害行為を中止しないなら数千万円以上の損害賠償を請求する」という文章を送りつけてきた。廣田の恫喝が効かないものだから、ついに外国人なのか何なのかベーカーとマッケンジーが安岡の漁師たちを恫喝している。いったい誰だよ!と話題になっている。
C 前田建設工業が主張する契約書の根拠になる平成25年の風力同意決議は、ひびき支店(正組合員40人)が今年7月20日の総会で、出席者36人全員の書面同意で撤回し、風力発電建設反対と環境調査およびボーリング調査反対を決議している。なんだかよくわからない過程を経て「合意」したことになっていたが、漁業権利者としては正式にひっくり返している。
建設予定海域に漁業権を持つひびき支店の漁師たちが結束して反対に立ち上がったこと、しかも工事着工前に漁業権交渉そのものを無効と主張していることが前田にとってはたいへん痛いところで、ならば恫喝告訴で黙らせようと強硬手段に及んでいる。
こういうのはスラップ(恫喝)訴訟といって、最近たけなわになっているやり方だ。上関でも中電が祝島の住民を訴えたりした。安岡の場合、漁師は補償金を手にしていないし、「漁業権交渉が妥結している」とはとてもいえない状況だ。妥結どころか、着工前に「そんなものいらない!」といって3分の2以上の者が断っている。漁協幹部をとり込んでゴリ押しをはかってきたが、下から覆して振り出しに戻っている。
B 最近になって、平成25年のひびき支店の風力建設同意のさらに約1年も前、平成24(2012)年8月30日に、山口県漁協組合長・森友信、下関外海漁業共励会会長・廣田弘光、下関ひびき支店運営委員長(当時)の3人が、一般の組合員に一切知らせないまま、勝手に前田と風車建設の「基本合意書」を交わしていたことが暴露された。総会の決議も経ず組合員に隠れて海を売り飛ばすことを決めていた。これは明らかな越権行為で、解任されておかしくない重大問題だ。「みんなの前に連れてきて説明させろ!」「見返りに何を得たのか!」と漁師の怒りは高まっている。漁業振興と組合員の生活を守ることが漁協幹部の仕事であるはずが、いつも前田建設工業の準社員かアルバイトのようになって海を売り飛ばそうとしている。いったいどれほどの毒饅頭を食わされたのか? と組合員が不思議がるのも当然だ。
D 漁師だけではない。とにかく推進勢力の手口は恫喝ばかりで、それ以外に手がないのかと思わせる。
陸の上では、今年4月に前田建設工業が「威力業務妨害」と「器物損壊」で安岡沖洋上風力発電建設に反対する会のリーダー四人を刑事告訴した。昨年九月の綾羅木・安岡地区など10カ所の環境調査(陸上)が住民の反対で妨害された、というのが理由だ。これを受けて山口県警が家宅捜索してパソコンや携帯電話などを押収した。このとき前田建設工業は「数百万円以上の多大な損害が発生した」といい、ここでも恫喝告訴を匂わせた。
住民の風力反対署名は7万人をこえ、綾羅木・安岡の自治会や医師会、商工会、漁業者、建設業者の団体など約30団体が市長や県知事に風力反対の陳情をおこなうなど、住民の大多数が反対の意志を表明していた。調査地点の自治会で調査拒否を申し入れたところもあった。ところが前田建設工業は住民を説得するのではなく、夜陰に乗じて勝手に人の土地に機材を設置した。だから、みんなで丁寧に返却しに行ったというのが真相だ。住民の生活を脅かしているのは反対する会ではなく前田建設工業なのに、こちらも主客転倒している。丁寧に返却したのを「器物損壊だ!」「威力業務妨害だ!」といって訴えるわけだ。すべてがこの調子だ。調査のやり方もそうだが、住民に見つからないようにコッソリ機材を置き逃げして、そのデータが収集できれば郷土の暮らしを奪っていくという、泥棒ネコみたいなやり方だ。こんなことばかりするから、住民が怒る。
極めて人に冷酷な社風 「地球に優しい」謳い
E 警察も警察で、市民生活を守るどころか、その暮らしを脅かしている前田建設工業側の手下みたいになって動いている。誰を守るための組織なのかだ。いつも強い者、権力を持っている者の味方ばかりして弱い者を叩き、全国的にもハレンチ事件ばかり起こしているから信頼を失うのだ。「市民生活を守るのが役割なら、前田建設工業をとり調べるのが筋だ」という世論が圧倒している。
C 警察までが動いたことで、「これは国策だ!」「国策捜査だ!」という世論がいっきに広まった。昨年阻止された夏と秋の環境調査を巡って天王山を迎えている矢先に、明らかに反対運動をぶっ潰していく力が働いた。告訴自体はその後何の進展もないようで、要するに住民運動を萎縮させることが目的だったようだ。山口県警を動かせる者が背後にいるということだ。知事は安倍首相の指名で就任した総務省キャリア出身者で、安岡沖洋上風力の指揮棒を振るっている経済産業省といえば、現在の首相官邸でもっとも実権を握っているといわれるキャリア官僚たちの出身母体だ。山口県警がムキになって捜査に乗り出すほどだから、よほど上から指示が出ていたと見なければ説明がつかない。ただ「機材を返却した」だけなのに、家宅捜索したり何度も事情聴取に呼びつけたり、普通ではない。
しかし、それによって逆に住民の世論は盛り上がった。家宅捜索を受けたリーダーたちを守れ!の世論は強烈に渦巻いているし、矢面に立たされている仲間を見捨てるものか! と俄然スイッチが入った。安岡地区には風力反対の看板や幟が林立し、横野町の反対の会が毎月おこなっている風力反対アピール行動には下関市内外からの参加者が一気に増えた。前田建設工業は夏の調査が本来の地点で実施できなくなり、安岡本町の同社の宿舎に調査機材を設置して、これを夏の調査に代えるものと見られている。「まるで泥棒ネコではないか」と改めてみんなが話題にしている。
A 住民が納得するような説明ができず、やっているのは脅しばかりだ。片っ端から相手を「訴える」といって脅して回ったあげく、住民感情に火をつけていっそう反対運動が盛り上がっている。感情を逆なでするプロみたいだ。やっていることが安保法案をゴリ押しした安倍晋三とそっくりで、司令塔が誰なのかを考えさせる。「レッテル貼りはやめろ!」というかもしれないが、現状では「恫喝訴訟の前田建設工業」とレッテルが貼られても仕方がない。訴えれば一般人は恐れて逃げていくと見なしているようだ。「地球に優しい」風力を推進する企業というものが、人間にはきわめて冷たい。それが社風なのかもしれない。
企業倫理という面から見ても、下関でこのような企業と同居できるのかどうかだ。我が物顔で反抗する者は片っ端から訴えるようなことがやられたら、それこそ住民は暮らしにくい。風力ができる前からこれだ。仮に低周波音で体調を崩した住民が声を上げても、ベーカーとマッケンジーが出てきて「名誉毀損だ!」と訴えられかねない。
北九州に風力140基構想
D 前田建設工業がこうした横柄な態度がとれるのはバックがあるからだ。というか、目先だけ見ていたら前田建設工業が推進側の前面に立たされているが、背後でそそのかしてきたのは経済産業省だ。洋上風力発電は経済産業省がお墨付きを与え、安倍政府になってからそのお膝元に持ち込まれたもので、買取価格も跳ねあがった。下関が全国の突破口に位置づけられている。下関の対岸の北九州市でも、国が響灘を「洋上風力発電推進のモデル地域」に指定した。それで、5000㌔㍗の風車を合計140基も洋上につくる計画が浮上している。来年五月に北九州市での開催が決まったエネルギー・サミットで、安倍晋三なり麻生太郎が響灘洋上風力を「国際公約」しかねないと懸念されている。政府で権力を握っている者が、その地元に持ち込んだ計画だ。誰が推進の本丸かは歴然としている。
そして国策だからこそ前田建設工業は引くに引けないし、行き詰まった現状を打開するためには警察まで動いて恫喝を加えるし、メディアは1200人デモを黙殺して報道しない。村岡県政は陳情に行った反対の会に署名を受けとらないという態度をとり、中尾市長は何度陳情に行っても会おうともしない。安倍政府になって洋上風力だけ買取価格が跳ねあがったが、おかげで安岡沖洋上風力の買電収入は約1000億円と見積もっている。公共工事では3%マージンが政治家に渡るというのが定説だが、安倍事務所の固定収入にでもなるのだろうか? と企業関係では話題になっている。やることが露骨だ。
B 先日の豪雨災害で大きな被害を出した茨城県常総市では、業者が太陽光パネルを設置するために自然堤防を掘り崩していたため、そこから土手が崩れ鬼怒川が決壊した。問題は監督官庁である国交省が、パネル設置を知りながら「法的に問題ない」といって黙認していたことで、それで住民は生命や財産を奪われる結果になった。再生可能エネルギーといって国策で推進するが、本当に人間に大迷惑をかける。これは単純に電気が足りないから推進しているのではない。原発もそうだが、企業の利潤追求で地域や社会がどうなろうが知ったことかというのが根本にある。下関のやり方を見てもわかる。
D 経産省は太陽光偏重を改め、風力を優遇するよう固定価格買取制度を見直す。しかし、風力も各地で低周波による頭痛、吐き気、めまい、不眠などの健康被害が報告されているのに科学的な解明はされておらず、国の規制基準もない。
そして、住民の被害対策には応じないというのが業者対応だ。下関市民は全国に先駆けて、一私企業のもうけのために巨大風車のモルモットにされかねない。何が「国民の生命や暮らしを守る」かだ。
A 安保法案が最たるものだが、いまや国民の生活とか生命など知ったことかという政治がやられ、経済もそのようになっている。大企業天国にするために政治が奉仕し、行政とか政府というのが私企業や一握りの勢力に私物化されている。大企業がもうけるためには非正規雇用だらけにして、社会の未来を暗くすることも厭わない。みんなのため、社会のためは二の次という思考が社会の上澄みにはびこっている。このような状況に対して、黙っていたらどこまでもやられるし、みんなで声を上げないといけない。
C 下関の風力反対の運動は政党政派、思想信条をこえて一気に広がった。8万人に迫る反対署名は、中尾友昭にしろ安倍晋三にしろ、簡単に無視できるようなしろものではない。強行するなら選挙で有権者は判断材料の一つにする。
風力反対デモも、昨年6月は650人、9月は1000人規模でおこなわれ、1000人でいうことを聞かないなら2000人集めようと、反対する会が呼びかけて10月4日(日)に3たびデモ行進をおこなう。午後1時30分に下関駅前の海峡ゆめ広場に集合するようだ。市民がみずからの意志をはっきりと示すことが重要だ。
圧倒的多数の住民の団結した行動こそ、恫喝告訴をくり返す前田建設工業をお手上げにさせ国や県、市の行政や議会を縛って住民のいうことを聞かせる最大の力になる。