いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

文字サイズ
文字を通常サイズにする文字を大きいサイズにする

イスラエル軍のレバノン侵攻は新たな反イスラエル戦士を育てる 現代イスラム研究センター理事長・宮田律

 イスラエル軍はレバノンにこれまで5回侵攻してきて一度も成果を収めることはなかった。ヒズボラはレバノン住民の中にまぎれ込み、ベトナム戦争の際にベトコンが使用したヒット・アンド・ラン(一撃離脱)戦法でイスラエル軍を苦しめてきた。ナスララ師という最高指導者を失ったとはいえ、いつでもゲリラ戦を戦える準備を行ってきた。イスラエル軍は1982年から2006年の間に繰り返してきた失敗をまた再現する可能性が高い。

 

 イスラエル軍のレバノン侵攻は、永続的な平和を創ることがないばかりか、レバノン人のイスラエルへの憎悪を増幅させ、またレバノン人の団結をもたらし、新たな世代の反イスラエル戦士を育てることになるだろう。イスラエルのネタニヤフ首相は権力の維持のために、戦争のさらなる長期化を求めているようだ。

 

 指導者の暗殺がイスラエルの安全保障に役立ったということはないが、イスラエルは暗殺作戦を繰り返している。イスラエルは1992年にナスララ師の前任の指導者アッバース・ムサウィをその妻と6歳の息子とともにミサイルで殺害したが、その後継となったナスララ師はムサウィよりも急進的な指導者だった。ヒズボラは、戦闘中に上級の司令官が死亡したり、ある軍事細胞が機能しなくなったりした場合に備えて、指導部や組織の分散化を進めていた。ヒズボラの地域指導部はレバノン全土に広がっている。

 

 1日、イランはイスラエルを180発のミサイルで攻撃した。イランとすれば、7月31日に首都テヘランでハマスのハニーヤ最高指導者が殺害され、またイランが支援するレバノン・ヒズボラのナスララ最高指導者も9月27日にイスラエルの空爆の犠牲になった。

 

 反イスラエルの「抵抗の枢軸」同盟の盟主としてイスラエルに何らかの軍事行動を起こす必要があると考えたのだろう。ただ、イランがイスラエルとの全面戦争を望んでいるとは思えない。この2国は地理的に離れていて互いに地上軍を派遣することはできないし、イランは1980年代隣国イラクとの8年間の戦争を戦って70万人以上とも見られる人々が犠牲になった。イラン国民に戦争を望む声は希薄だ。

 

 米国はイラク戦争で事実上敗北するように撤退したが、そのイラクよりもイランの国土は広く、人口も多い。イスラエルが軍事力でイランを屈服できるとは到底思えない。

 

 今年初め、サウジアラビアのムハンマド皇太子は、米国のブリンケン国務長官に国民の70%は自分より若いと語ったという。つまりサウジアラビアなどアラブ諸国の若い世代はパレスチナ問題の不条理を昨年10月7日以来のイスラエルのガザ攻撃によって知ることになったと皇太子は言いたかった。戦争の悲劇をガザ戦争で知ることになったのは、米国の大学生など若い世代も同様だ。

 

 レバノンは宗派のモザイク社会で、イスラエルは、シーア派、スンニ派、クリスチャンを等しく攻撃し、イスラエルとは共存できないという思いを中東地域の諸宗派の人々にあらためて植えつけることになった。

 

 イランがヒズボラへの支援を放棄することはなく、イランが支援する武装集団はシリアやイラクでも活動するが、長期にわたる消耗戦になれば、イスラエルは大いにてこずることになるに違いない。

 

 イスラエル軍はレバノン国内に混乱を起こすことによって、反ヒズボラ感情をレバノン国民の間にもたらすことを考えているが、しかし、それ以上にレバノン国民にとって許容できないのはイスラエル軍によるレバノンへの無差別空爆だ。

 

 1982年にイスラエル軍がレバノンに侵攻した時に、レバノンに駐留するPLO(パレスチナ解放機構)をイスラエル軍がレバノンから追放してくれることを期待する人々もいた。しかし、そのような歓迎も長続きすることはなく、イスラエル軍がレバノンの民間人と国連施設を攻撃するようになると、人々の支持はPLOやヒズボラに向かっていった。

 

 イスラエル軍は昨年10月7日にハマスの奇襲攻撃があって以来、空爆でレバノン市民1540人を殺害したとレバノン保健省は発表しているが、無差別に多数の犠牲をもたらすイスラエル軍の空爆が根強い反イスラエル感情をレバノンで生んでいることは間違いない。  (10月2日)

 

イスラエルの攻撃によって破壊されたレバノンの首都ベイルートの住宅街(2日)

関連する記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。なお、コメントは承認制です。