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能登震災対応に補正予算も組まぬ政府 予備費小出しで大枠予算示さず 「コスト念頭」「集約化」方針が初動や復旧の足かせに

(9月13日付掲載)

震災で全壊した自宅の解体作業を見守る高齢夫婦(8月26日、珠洲市)

 元日の地震で甚大な被害を被った石川県能登被災地の復旧が遅れている要因として、国の財政支出のあり方が問題視されている。岸田政府は震災発生直後、自治体規模が小さい能登半島の市町に標準財政規模の数倍もの財源が必要となることを知りながら、能登震災に特化した補正予算を組まず、「将来の需要減少や維持管理コストも念頭に置き、過去の災害の事例も教訓に集約的な街づくりを」(財務省)と提言し、現在に至るまで予備費を小出しにする財政対応を続けている。それが自治体の救助やインフラ復旧の足かせとなり、被災自治体や被災者に故郷への帰還や復旧を諦めさせ、自分の身を切らせる冷酷な現実をもたらしている。

 

過去の震災では1兆円超の補正予算

 

 能登半島地震が発生した元日以降、岸田政府は初動の対応として、予備費から総額2767億円の活用、「被災者の生活と生業支援のためのパッケージ」による枠組みの提示、復旧・復興支援会議における支援策および財政措置の追加という措置をとった。

 

 一方、過去の震災における政府の財政対応を見ると、熊本地震(2016年4月)では約1カ月で7780億円の補正予算、東日本大震災(2011年3月)では約1カ月で4兆円超の補正予算を組んだ。新潟県中越地震(2004年10月)では約2カ月で災害対策約1兆3000億円を含む補正予算、能登震災と同じく1月に発生した阪神・淡路大震災(1995年)では次年度の本予算と補正予算の審議を同時並行でおこない、約1カ月で1兆223億円の補正予算を編成している。

 

 能登震災での初動では、わずか3000億円未満の予備費で対応し、1カ月以上も災害対応に特化した国会審議もせず、現在に至るまで補正予算も組んでいない。これについて岸田首相は3月5日の参院予算委員会で、「予備費が4600億円余りあったので、それで対応する。国会提出前の次年度予算を修正して予備費を1兆円に上乗せする。それが最も迅速な対応だ」と答弁。その方針は現在も変わっていない。

 

 予備費とは、災害などの不測の事態に備えて使途を決めずに予算計上され、議決なしの閣議決定だけで支出できる費用。政府にとっては「便利な財布」だ。例年5000億円規模であった予備費は、コロナ禍対策を契機にして数兆円規模に膨れ上がっており、能登半島地震対応においてはその残額が充てられた。

 

 熊本地震のさいも予備費から「熊本地震復旧等予備費」(7000億円)が計上されたが、同じ予備費であっても、熊本地震では災害対応を目的とした計上であるのに対し、能登半島地震では使途が限定されない既存予算の流用で、災害対応に限定して確保されているものではない。それは能登半島地震に関する国の予算フレームが示されていないことを意味しており、いくらそれが1兆円に増額されても被災自治体にとって何の安心材料にもならない。

 そのうえ、財務省は4月の財政制度等審議会の分科会で「今後の復旧・復興にあたっては、維持管理コストを念頭に置き、住民の方々の意向を踏まえつつ、集約的なまちづくりやインフラ整備の在り方も含めて、十分な検討が必要」と提言。復旧ありきよりも「コスト」を考慮して、「居住地を集約せよ」とのメッセージを送った。

 

 この措置が都道府県や基礎自治体の災害対応にどのように影響したか。

 

石川県は3月議会で初めての補正予算

 

 まず石川県では、災害発生から1カ月半も経過した3月議会(2月半ば)で初めて補正予算を組んだ。熊本地震のさいに熊本県が発災13日後に366億円の補正予算を知事が専決処分したことと比べてもあまりに遅い。国の財政措置を待ったためで、財源は県債発行や財政調整基金をとり崩してまかなわれた。

 

 被害規模や地理的制約から、復旧費用の総額は熊本地震を大きく上回ることが予想されるにもかかわらず、国から大枠の予算が示されない。石川県の災害復旧費関係費のなかでも突出して多い「公共土木災害復旧費」は6月補正までに計4130億円が計上されたが、5月末時点で被害査定が完了したのは、復旧対象(約8000カ所)に対して16%止まり。同時点で確認されている公共土木の被害総額は約8000億円であり、明らかに予算が足りていない。国が大枠の補正予算を組まず、個別の支援事項を各省庁がまとめた「パッケージ」に即して予備費を小出しにするため、県はその財政措置を後追いして予算を編成するという暗中模索状況に置かれている。

 

 県の財政措置の遅れは、被災現場で救助・復旧を担う基礎自治体の財源確保の見通しと安心感にそのまま直結する。

 

 甚大な被害を受けた奥能登の輪島市では、財源確保の見通しが立たないため、小規模の補正予算(月1回)を組む一方で、今年度当初予算では災害対応費用を計上することができなかった。

 

 珠洲市に至っては、余りにも被害が甚大であったためか、補正予算も半年後の6月までに2回しか組んでいない(HPでの公表資料による)。それでも6月末までの震災対応関係の一般会計における予算総額は、輪島市が650億円、珠洲市が395億円となっており、通常の予算規模の5~6倍にのぼる。

 

 基礎自治体にとって最大の負担は、膨大な災害廃棄物処理にかかる費用であり、財源が確保されなければ解体作業もガレキ撤去もおこなえない。国からの予算執行の確約がないため、両市は財政調整基金のとり崩しでの対応をよぎなくされた。また輪島市では上下水道、病院等の特別会計の繰越金を計上し、珠洲市では国による災害査定を待たなければ復旧費用を見積もることができないため、当初予算で災害復旧費をほとんど計上できなかった。さらに既存の地域振興基金を廃止・統合して震災復興基金の40億円を捻出したと市議会で報告している。

 

 財務省はこれまで、自治体における財政調整基金が「過大である」「適正化せよ」として批判してきたが、これがなければ各自治体は災害時の応急的予算の財源すらない状況にあることが浮き彫りになっている。

 

「私有財産」理由に支援を渋る

 

 また、これまでの災害復旧事業の対象は公共土木、農林水産業基盤、公共施設などに限定され、たとえ公益性があるものでも民間事業者や個人の資産にかかわるものは対象外とされてきた。だが事業者や住宅が再建できなければ被災地のコミュニティが消滅することはいうまでもない。

 

 そのため東日本大震災や熊本地震などで事業所に対する国の「グループ補助金」が活用されるようになり、能登震災では破損した建物や設備の原状回復費用の4分の3(石川県では限度額15億円)を国と県が補助する「なりわい再建支援事業」がうち出された。

 

 だが、この補助金も煩雑な手続きのうえ、同じ場所での再建に限られることや事業継続期間などの支給要件が厳しく、石川県は当初予算でこの補助事業に300億円を計上したものの、5月末までに交付を決定したのはわずか17件。ほとんどが加賀地域の中小企業で、能登半島ではない。

 

 さらに国の特別交付税を財源とする復興基金においても、「国は原則として、私有財産の形成に資するものには公的支援をおこなわない」「直接的に被災者の生活再建支援のために公費投入はおこなわない」という説明がされている。そのため、熊本地震の復興基金でも住宅再建に対する直接支援がなされず、利子補給にとどまった。能登被災地でも復興基金は「一定以上」の被害を受けた被災者が住宅を補修したり、再建する場合に利子の一部を補給するというものであり、住宅ローンすら組めない高齢者世帯が多い能登地域においては全く生活再建の支援にはなっていない。

 

 被災地では、住まいやあらゆる家財を失った被災者たちが、車中泊やテント生活、あるいは狭い仮設住宅で暮らしながらコミュニティ再建のために汗を流し、協力しているなかで、公金で生活が保障され、裏金や利益誘導で私腹を肥やしてきた政府は「私有財産」云々を理由に住居再建支援すら出し渋るという歪な構造となっている。補正予算すら組まず、「まず己の身を切れ。そのうえで助けを求めてこい」といわんばかりの政府の財政対応は、国家や社会に寄生しているのは誰なのかを改めて浮き彫りにしており、たたかわなければ災害復興からも切り捨てられる地方の現実を突きつけている。

 

崩壊したまま手つかずの家屋(珠洲市、8月24日)

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