自民党の総裁選ったらまあひどいもので、政界の“破れ口”こと田中眞紀子曰く「次から次へと勘違いしたヘナチョコが出てきて、この際出ておかなきゃと売名をしている」の評がしっくりくる。過去最多の9人が立候補したのに伴って、推薦人(国会議員)に名前を連ねたのが実に180人。名義貸しのハードルは低かったことが伺える。なかには20人の推薦人のうち13人が裏金議員という高市早苗みたいなのも含まれ、統一教会問題も裏金問題もなんのその、永田町の自民党あげていくつもの御輿を担いでお祭り騒ぎをしているのである。
ただ、世間一般の空気としては実にしらけていて、テレビがいくら自民党総裁選の動向を報じようが、総裁候補たちが大風呂敷を広げて政策を標榜しようが沸く者は乏しく、それよりも大谷翔平の「50-50」の行方が気になっている人の方が多いようでもある。腐れ自民党の首領争いよりも、朝一番のニュースくらい大谷翔平のスカッとするホームランであったり盗塁を見て、気持ちよく一日のスタートを切りたいものだ――という気持ちにもなるのだろう。スポーツもある種の目くらましという側面はあれど、「勘違いしたヘナチョコ」たちの売名騒ぎを見るよりははるかにマシと思うのだから、これは致し方ない。
今回の総裁選には前述したように9人もが立候補しており、それ自体前代未聞の立候補者数である。しかも女史がいうように「勘違いしたヘナチョコ」揃いである。そして、目下、解雇規制緩和であったり、所得倍増であったり、それぞれの候補者が好きなことを吹聴して、売名すなわち政治家たるみずからの名前の売り込みとメディア露出に精を出し、自民党としては10月末に解散総選挙を見据えてプロモーションをしているだけなのである。そのお祭り騒ぎのなかには86人ともいわれる清和会を中心とした裏金議員及び統一教会と関係した壺議員たちもちゃっかりと紛れ込んで、高市早苗を担ぎ上げたり、あっちこっちに分散して売名にいそしんでおり、なんとも厚かましい振る舞いをしている。
総裁選は結局のところ、電波ジャックなり都市部における街頭演説で大騒ぎをくり広げたところで、9人が第1回投票でふるいにかけられて2人に絞られた決選投票となり、最終的には自民党所属の国会議員票によってすべてが決することになる。どれだけニュースを見て一喜一憂しようが国民ははじめから終わりまで蚊帳の外であり、永田町の力学によって決まる仕組みである。9人によって賑やかしをした後の決選投票こそが主戦場なわけで、推薦人として名前を出した180人にとっても2回目の投票で誰につくかが勝ち馬、負け馬の分岐点になるのだろう。「脱派閥の総裁選」などと標榜しても、最後に拠り所となるのは国会議員票すなわち派閥や塊であり、それこそ80人をこえる最大派閥だった安倍派の裏金議員、壺議員たちも国会議員の集団としては侮れないキーマンとして君臨しているのだから笑えない。裏金をしこたま抱えて、なおかつ統一教会のようなカルト教団とつながっていた政治家たちが辞職しているのならまだしも、なにもなかったような顔をして表向きは派閥解散という体裁をとり、その実、次期総裁の選定においてキャスティングボートを握ることだってあり得るのだ。ふざけてはいるが、そうなっている。
「ヘナチョコ」たちの賑やかしを経て、誰が誰を選ぶのか? 任期が終わる岸田文雄が退任挨拶なのか米国詣でを済ませて、次のトップにバトンを渡すそうである。岸田の次について“破れ口”の言を持ってすると「誰がなってもヘナチョコ」ということなのだろう。
吉田充春