いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

文字サイズ
文字を通常サイズにする文字を大きいサイズにする

「大規模風力開発を安易に許可するな」 県内3市1町の8住民団体が山口県に要望書 環境と水源、地域の安全を守るために

(9月6日付掲載)

山口県の担当者に要望書を手渡す住民団体の代表ら(4日、山口県庁)

 山口県庁で4日、県内で計画中の風力発電事業計画をめぐり、8つの団体が自然環境を守るために事業を許可しないよう求める要望書を提出した。現在山口県では3事業者がそれぞれ下関市・長門市、阿武町、岩国市で合計64基の風車を建設する計画を進めている。これに対し各地域で自然環境破壊や災害の誘発、健康被害などが問題視されており、署名活動が広がるなど反対の声が高まっている。また今回は各地の住民団体に加え、日本熊森協会山口支部も要望書提出に参加した。参加した住民たちは県に対し、一企業の利益のために貴重な自然環境や水源を犠牲にし、地元住民を傷つける開発に歯止めをかけるため、人々の暮らしの側に立つことを県に強く求めた。

 

山口県内で新たに64基の風車建設計画

 

 初めに、白滝山・天井ヶ岳の自然環境を守る会の峰岡偉津夫代表(下関市)が、要望書を読み上げて県の職員に手渡した。

 

 県に提出した要望書の内容は次の3項目。

 

 1、県民の命の糧ともいえる保安林を、安易に解除しないでください

 

 2、かかる事業の許認可に際しては、県として安全性を確保する責任を明示してください

 

 3、県民の宝である貴重な水源、豊かな自然環境を守るための条例を制定してください

 

 それぞれの項目のなかでは、水源かん養機能と防災機能を併せ持ち「県民の命の糧」である保安林を、わずか20年ほどの電源開発の名目で解除しないこと、保安林の恩恵を受ける流域住民の合意形成さえ得られていない現状を重く受け止め、事業に関わる許認可を事業者に与えないことを県に求めている。

 

 また、大規模工事による周辺環境汚染から農林水産業と地域住民を責任を持って守るための手立てを確立すること、県が事業者に許認可を出す以上は、県民に対する責任の明示と安全を保証する確約が必要だと訴えている。

 

 そして貴重な自然環境と水源地の保護・保全は、県民に対する県知事最大の義務であるとし、具体的な保護・保全条例の制定を強く求めている。

 

 要望書提出に名を連ねたのは、粟野地区振興協議会、粟野川漁業協同組合、白滝山・天井ヶ岳の自然環境を守る会、新白滝山風力発電事業計画を考える市民の会、阿武の森を守る会、長北の森を守る会、岩国の自然を未来へ手渡す会、日本熊森協会山口県支部の8団体。

 

 要望書を提出した後、参加者が意見をのべた。県からは環境政策課、自然保護課、産業政策課、農林整備課、水産振興課が対応した。

 

 峰岡代表は、現在下関市豊北町で稼働している白滝山ウインドファームの更新事業として、JR東日本エネルギー開発(株)が既設の風車(20基)よりも1基当り1・7倍大型の風車を18基建設する計画の「新白滝山風力発電事業」について、「環境影響評価が事業者から出されているが、その内容は山の保水力を損なうような掘削や木々の伐採に対する影響評価になっておらず、肝心なことが書かれていない。今回のアセスメントの説明のさいにも私は工事による影響について問題にしたが、事業者はアセスメントに書いてあること以外については説明しなかった。環境影響評価のなかに工事に関することが書かれていないということが風力発電の一番の欠陥であり、このまま事業が進めば大変なことになる。これは法の不備でもあると思う」

 

 「風車の高さは柱だけで94㍍、羽の長さは60㍍だ。風車の中心にあるナセルの重さは100㌧で、柱は直径五㍍ほどもあり、5つに分割して頂上まで運ぶという。風車設備だけで約500㌧もの重さがあり、さらに鉄筋コンクリートの基礎の重さも合わせれば約2000㌧にもなる。1基当り2500㌧もの重量があり、これを山の頂上に18基並べるというのだから、環境にとって良いわけがない」と自作の図を用いて説明しながら意見をのべた。

 

 「阿武の森を守る会」の中村光則代表も豊北町から長門市にかけて大規模な開発が進められていることを危惧し、以下のようにのべた。

 

 私は白滝山を実際に歩き、のべ10日間ほどかけて約10ある粟野川水系の川も含め現地がどうなっているか調べてきた。山肌には広大な盛り土があって所々脆くなって土砂崩れが起きていたり、粟野川水系の開作川にある堰堤が土砂で埋まってしまって川の体をなしていなかった。その他の沢も、岩がゴロゴロと崩れ落ちていて沢と呼べる状況ではなくなっている。風車と直接関係があるかわからないし、それだけが原因ではないだろうが、既存の風車20基が14年間稼働したことで周辺環境にかなり悪影響をもたらしていると考えられる。

 

 北浦に流れる粟野川水系のほとんどは白滝山~天井ヶ岳に集結しており、北浦地域における貴重な水源地だ。これが14年間破壊されてきて、まだ辛うじて生きているという状況だ。これ以上自然環境が破壊されれば、事業者に許認可を出す県(県知事)の責任も問われることになるのではないか。

 

 新たに建設されようとしている18基の風車それぞれの賃貸証明書を調べたところ、保安林をかいくぐるようにして設置が計画され、保安林にかかる場所だけは部分解除して建設しようとしている。県の職員の皆さんにもこうした状況を目の当たりにして、何ができるかということを考えてほしい。最終的には知事が決めることかもしれないが、担当する部署としてしっかり知事に進言できるくらいの働きをしてほしい。

 

全国では条例制定の動き

 

 下関市豊北町から参加した男性は「海峡タワーよりも高い建造物が風を受けて回るということは基礎も強固でなければならず、風車の下に巨大な穴を掘ることになる。また、新しいエリアへの風車建設のためには新たに工事用道路を敷設しなければならず、山麓が大きくえぐられることになる。計画によると山を掘削した後の残土を山中で処理すると聞いているが、かなりの量の土砂が谷を埋めることになるだろう。そうなると、最近全国で増えている大雨時の土石流が発生する危険性もある。業者が安全のためにいろいろな対策を講ずるかもしれないが、下流域の各支流も荒れるのではないかと危惧している。あと七年で既設風車の稼働が終了するのでそこで事業はやめてもらい、豊北町の優れた自然環境を活かしていってほしい」

 

 「山口県は人口が130万人を切った。県の上半分は中山間地域だ。この地域の暮らしを今後どのように考えていくかが大きな問題だ。このまま放置していくと、あらゆる意味で山口県の半分が荒れ、人は住まなくなっていく。農漁業を中心に、残せる資源はしっかりと守り、メリハリのある県政運営をしてほしい」とのべた。

 

 日本熊森協会山口支部の松田利恵支部長は、県内各地で進む風力計画をめぐり、以下のように訴えた。

 

 私たちが要望しているのは、「山口県の水源を守ってほしい」ということだ。風力発電というのは火力発電によるバックアップが必要で、さらに停止している時間も長い。羽を回転させるにはディーゼルエンジンによる動力も必要で、「本当にクリーンエネルギーなのか」という疑問を持たざるを得ない。そんな代物によって発電されるわずかな電力と、水源のどちらが大事なのか。
 私たちが誇る日本列島は、世界で唯一文明を同じ場所で滅ぼしたことがないと聞く。それは水源の山を絶対に傷つけず、海の幸、山の幸を育んできたからだ。これほどの財産を持っているわれわれ日本国民がこれを守らずしてどうするのか。山口はどこにでもいい山があっていい水が湧いている。温暖な気候もあって魅力的な移住先として若者に勧めることができる魅力がある。
 現在、全国280の自治体が、これ以上水源を傷つけないためにさまざまな条例を制定している。山口県では下関市、萩市、岩国市に条例がある。こうした動きは、その地域の人々の声が行政に届いたからこそ実現してきたことだと思う。私たちにできる形で動いていくので、山口県の職員の皆さんのお力添えをお願いしたい。

 

災害増発や第一次産業への影響も懸念

 

 新白滝山風力発電事業計画を考える市民の会(長門市)の廣岡綾子代表は、「長門市は一次産業の町だ。白滝山の風力計画では、油谷湾での被害が懸念される。油谷湾では漁業が衰退して漁業者も減っている。かつて盛んだったいりこの釜揚げも、外部から買い付けて加工をおこなっている所もあると聞いている」

 

 「長門市油谷町には大坊川に注ぐダムが二つあるが、漁協の人も“ダムのおかげで海がおかしくなった”といっていた。さらに白滝山の風車の開発によって油谷湾に注ぐ粟野川の水質も変わってしまい、漁業に影響しているはずだ。ただ、漁業が難しくなっているなかでも、大浦漁協のようにウニの養殖をがんばっている漁師さんもいる。また、向津具半島では自然を求めて若い移住者が増えており、人口増の期待がある地域だ。今以上の巨大な開発が進むと、長門市民の努力が無に帰す恐れもあり、この計画は白紙撤回してほしい」

 

 「豊北町の地元の人たちは“今の事業でさえやめてほしい”といっているのに、JR東日本は“いや、環境アセスだけはやらせてくれ”といっている。すでに傷ついている地域の人たちをさらに苦しめることは、企業の倫理としてどうかと思う。地元の人たちを傷つけてまで自分たちが事業を進めようとすることに憤りを感じる。美しい山口県を守っていくためにも、県庁の皆さんにも力を貸してほしい」と訴えた。

 

 防府市から来た男性は、「これまでは再エネの問題について市民県民の声を届けられていなかったと思うが、今こうして再エネがあちこちで本格的に稼働し始めて問題が表面化している。不必要な開発はたくさんあるし、他県の事業者が山口の自然を壊して利益を持っていく。これでいいのかと思う。事業者が国のいうガイドラインに沿ってやっているからいいという話では済まされない。私たちは声を届けていくので、ぜひそれを力にして、同じ県民として県庁の皆さんも山口の自然を守るために動いてほしい」と訴えた。

 

 要望書や参加者の訴えを受け、県側は「今日の要望の主旨等を事業者にも伝える」と答えた。

 

 また、保安林に指定されている地域で開発をおこなうさいの説明もおこない、「森林法に基づき保安林解除の手続きを踏まなければならない。事業者から解除申請がなされた場合、国が示している解除要件を満たしている場合は解除しなければならないと規定されているので、審査して適否を判断することになる。また、保安林でない森林についても、林地開発制度があり、面積が1㌶を超える開発をおこなう場合については林地開発許可が必要となり、国が示した基準に準じて県が要件をもうけている。その要件を満たすかどうかを審査することになる」とのべた。

 

 林地開発については県庁許可、保安林については権限が国や県など地域によって異なるが、白滝山の場合は県庁許可になるという。また、解除要件の一つに、「地元首長の同意書を添付しなければならない」とあるため、下関であれば前田市長の同意書が必要になるという。

 

 今回の要望書については、2週間以内に回答するよう県に求めている。

関連する記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。なお、コメントは承認制です。