南米のベネズエラの大統領選挙で、現職のマドゥーロ大統領が勝利し三選を果たした。この結果をめぐって、アメリカが「不正選挙」だと断定し、西側メディアは「独裁体制」の弾圧に屈せずたたかう「民主的」な野党勢力を支援するキャンペーンを張っている。この問題をめぐって、アメリカの独立系メディア『デモクラシー・ナウ』が現地の情報と専門家の見解を伝えている。
ベネズエラの選挙管理委員会は7月28日の投票で、マドゥーロが約51%、野党統一候補のゴンサレスが44%を獲得したと発表した。だが、野党はこれを認めず「圧倒的な大差でゴンサレスが勝利した」と対抗し、抗議デモを組織し一部では暴動化している。西側メディアは「世界の厳しい監視を受けた選挙で、マドゥーロ大統領は自分が勝利したと主張して野党関係者への脅しを強めており、デモの弾圧で多数の死者が出ている」と報じている。
マドゥーロ大統領は「外国勢力と野党ファシストによるクーデターの企て」を非難する一方で、最高裁判所に選挙監査を要請している。この事態にアメリカのブリンケン国務長官が「米国、そしてもっとも重要なベネズエラ国民にとって、この大統領選挙でゴンサレス氏が最多票を獲得したことは明らかだ」と認定する声明を発表した。ベネズエラ外務省はこれを受けて「ブリンケンがベネズエラの選挙管理当局の役割を担っているかのように偽って、米国政府がベネズエラに対するクーデター未遂を主導し、ベネズエラ国民とその機関に対する暴力的な計画を推進していることを示す重大かつばかげた発言を拒否する」と抗議する事態となっている。
『デモクラシー・ナウ』(7月30日)では、ベネズエラの記者であるアンドレイナ・チャベスとベネズエラ出身の歴史学者アレハンドロ・ベラスコ(ニューヨーク大学准教授)の両氏が発言した。
チャベス記者は、「ベネズエラは今、クーデター未遂に直面している」「ベネズエラの選挙を承認しない右翼的な野党と外国勢力の主張は、新しいことではない。これまでも何度か見てきたことだ。2018年の大統領選でマドゥーロが再選されたときも、まったく同じことが起こった」とのべた。
また、野党を率いるマリア・マチャドが「マドゥーロが67%対30%の大差で敗れた。私はこれを証明できる。全国の投票所の80%以上から直接入手した投票用紙を持っている」などと主張するが、これも過去の選挙と同じで「実際にはその証拠をいっさい示していない」と指摘。「これは何年も続いている進行中のクーデターなのだ。2002年以来、ベネズエラはずっとクーデター未遂を経験してきた」と続けた。
今回の選挙でも、野党勢力はアメリカのマイアミに集票拠点を設置し、世論調査では「野党が有利」で「野党の勝利は事実上確実であり、マドゥーロ大統領の再選は“不正”によってのみ可能だ」と喧伝し、メディアがそのプロパガンダを無批判にくり返してきた。ベネズエラの世論調査はこれまでの実績から「信頼性が低い」と見なされている。
選挙プロセスは自由で公正 他候補も監視団も
チャベス記者はまた、選挙管理委員会の集計プロセスが遅れ、選挙結果の報告が遅れたのは、野党勢力から「政府の選挙システムに対する大規模なハッキング攻撃があった」ことを明らかにした。さらに、マドゥーロに対立して大統領選に立った複数の候補者の多くが「選挙結果を信頼している」と言明していることをあげた。
今回の選挙では95カ国以上、900人以上の国際監視団がベネズエラで活動した。そのうち、全国弁護士組合などの監視団などが「透明で公正なプロセスを見た。投票プロセスは平和的だった。事件は見られなかった。選挙結果が何らかの形で改ざんされたり操作されたりしたことを示すものは何もなかった」と報告しているという。
ちなみに、アメリカのニュースサイト『ミント・プレスニュース』は数十人のアメリカ人選挙監視員から聞いた次のような話の内容が、アメリカ政府や西側メディアの主張と矛盾していると報じている。
「マドゥーロに反対票を投じている人(サンフランシスコで心理学を学んだ専門家)と話をした。彼女は変化を期待していた。しかし、非常に重要だったのは選挙プロセスは自由で公正であると考えていることだった。全体的に、さまざまな投票所に行ったときの印象は、人々は私たち国際監視員をとても歓迎してくれ、自分の国のために投票できることをとても誇りに思っているということだった」
多くのアメリカの監視者は共通して、本人の認証や電子投票と紙の投票を一致させるなどの選挙システムをアメリカのシステムと比較して好意的に評価しているという。たとえば、政治学者のジョディ・ディーン教授は「このシステムがいかに先進的であるか、とくにアメリカの後進性と比較して私は驚き、完全に感銘を受けた。ベネズエラの選挙はアメリカのように週の半ばではなく日曜日におこなわれるため、より多くの人が参加できる」と語っている。
『デモクラシー・ナウ』のもう一人の発言者であるベラスコ・ニューヨーク大学准教授もチャベス記者に同調し、この選挙がアメリカが主導する国際的な制裁が一因となったベネズエラの経済危機のもとで社会の混乱が引き起こされるなかでおこなわれたことについて語った。
ベラスコ氏は「ベネズエラでも他の国でも、かなり多くの学術文献が、“制裁は意図した政治的結果よりもマイナスの結果をもたらす”ことを証明している。ほとんどの場合、重大な影響は政権を握っている政府ではなく、国民全体に及ぶ。トランプが大統領に就任したとき、“ベネズエラに対する最大限の圧力キャンペーン”と呼んで制裁を実施したことを忘れてはならない。それは、1960年代のキューバ禁輸措置以来、今日に至るまでもっとも厳しい制裁措置といわれている。それがベネズエラ経済に多大な影響を与えた」とのべた。国連によると、2015年以降、700万人以上がベネズエラを離れた。
ベラスコ氏は続けて「ベネズエラ政府の政策課題がドル化へと移行し、チャベス大統領時代に推進してきた社会保障制度の一部が縮小されたことも事実だ。これが国民の不満を招いている。“家族は国を去った。戻ってきてほしい。ドルがなければ生きていけない”という人々の声が、街頭での不満を増幅させ、世論調査にも反映されている」と語った。
『ワシントン・ポスト』は最近、ベネズエラでは「制裁によって“アメリカの大恐慌による経済収縮のおよそ3倍の規模”の経済収縮が引き起こされた」と報じた。トランプ政府(当時)が3~4年をかけた制裁は、ベネズエラの輸出収入の98%を占める石油販売を国際市場で阻止するためであった。実際にベネズエラ経済は壊滅的な打撃を受けた。
ベネズエラの国民の大多数は、こうした最悪の危機がどこから来るのかを理解しあっており、今回の選挙結果にもそれがあらわれた。アメリカの植民地的抑圧・破壊からの脱却をめざす困難なたたかいのなかで、現在消費する食料の96%を自国で生産できるようになり、「ベネズエラは回復しつつある」のスローガンが掲げられるまでになっている。