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長生炭鉱遺骨調査のためクラウドファンディングを開始 国が動かぬなか市民の手で前へ 目標は800万円

長生炭鉱水没事故犠牲者追悼碑(山口県宇部市)

 「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」(共同代表/井上洋子、佐々木明美)は15日、82年前に水没した長生炭鉱(山口県宇部市床波)の坑口を開け、助けを求めながら坑道に取り残された労働者183人(うち136人が強制連行された朝鮮半島出身者)の遺骨を収集して遺族のもとへ返す事業の資金を募るためクラウドファンディングを開始した。現在までに日韓の市民523人がサポーター(呼びかけ人)となり、工事に着手する10月半ばまでに800万円を目標に広く協力を呼びかけている。

 

 1991年に発足し、長生炭鉱犠牲者の名前を記載した追悼碑を建立した「刻む会」は、建立後に遺族から「当初からの望みは、無念の死を遂げた犠牲者の遺骨を掘り起こして祖国へ返すことだった」との切なる訴えを受け、新たに「遺骨等の収集と返還」を目標に掲げて活動してきた。

 

 国は2004年、韓国の廬武鉉(ノムヒョン)大統領と日本の小泉純一郎首相(ともに当時)が、徴用工の遺骨返還を約束しながらも、海底炭鉱である長生炭鉱の犠牲者の遺骨については、深度や位置がわからないため発掘は困難という立場をとり続けている。

 

 昨年12月8日に初めて韓国の遺族が参加した大規模な政府交渉が東京でおこなわれ、それを前後してメディアや国会質疑でも長生炭鉱問題がとりあげられるようになった。厚労省は遺骨調査について技術的議論などの交渉は続けると返答しているが、直近では林芳正官房長官(宇部市を含む山口3区選出)が1月31日の記者会見で「(長生炭鉱水没事故は)痛ましい事故であると認識している」としつつも「埋没位置や深度が明らかでないため、現時点では発掘のための調査は困難」とのべており、日韓(日朝)にまたがる国際的問題であるにもかかわらず国の動きは依然として鈍い。

 

 一方、事故から82年が経過し、犠牲者の遺族の高齢化は進み、「遺族たちが生きているうちに遺骨発掘調査を」との声が高まるなかで、刻む会は「国が動かないのであれば市民の力で坑口を開けよう。そして遺骨発掘を政府に迫ろう!」と呼びかけ、今年中に宇部市床波海岸にある長生炭鉱の坑口を開けるためのプロジェクトを開始した。

 

 長生炭鉱跡地では、1997年にも現存する2本のピーヤ(排気・排水筒)からの潜水調査がおこなわれているが、長年放置されてきた坑道は老朽化し、水は濁り、鉄骨などが行く手を阻み、炭鉱内部の状況を詳細に確認することは困難であったという。しかし、今日では潜水や調査の技術が進歩し、水中ドローンも普及し、高い技能を持ったダイバーの協力も得られたため、再度、海からの潜水調査をおこなうとともに、陸上からも坑口を開けて坑道内の遺骨収集の可能性を探ることになった。

 

追悼の気持ちを具体的行動へ

 

 刻む会の呼びかけ文では、「国も行政も“大切な問題だ”といいながら誰も責任を取ろうとしない困難な状況にある」「まず民間の力で坑口を開けて、水中ドローン・潜水調査など遺骨調査に政府が協力せざるを得ない状況を作り出したい。今年坑口が開けば、183名が眠る海底炭鉱に82年ぶりに地上の光が差し込む。遺骨調査も可能になる」とのべ、「歴史的な取り組みを支えるためクラウドファンディングを日本と韓国でおこないます。そのクラウドファンディングのサポーターには長生炭鉱犠牲者の韓国人ご遺族も60名が名前を連ねています。ぜひ私たちと一緒に、そしてご遺族と一緒にクラウドファンディングに参加し伴走してください」と訴えている。

 

 潜水調査や坑口掘削の工事には多額の工事・事業費が必要となり、会では総額800万円を目標とする。坑口を開ける費用として650万円(掘削200万円、安全フェンス設置300万円、遺族来日100万円、弁護士費用等の諸費用50万円)を第1次目標とし、第2次目標として遺骨調査費用(水中ドローンなど)150万円を見積もっている。

 

 これまで追悼碑建立や毎年の慰霊祭などへも国や行政からの公的補助は一銭もなく、すべて市民の手弁当や厚志だけでおこなわれてきた。戦争中に発生した不幸な事故で犠牲になった人々の遺骨が80年余も海中に放置されたまま、それを丁重に収集し、遺族のもとへ届けるという当たり前のことがおこなわれてこなかったことは国として恥ずべき事態であり、新たな日韓関係の構築のためにも国境をこえた市民の協力が求められている。

 

 刻む会では、坑口の工事着手予定日を10月26日としており、その直前までクラウドファンディングでの拠金を募る。

 

 クラウドファンディングは以下のサイトから。
 https://for-good.net/project/1000940

 

 また、直接のカンパは以下の振込先まで。


【銀行】ゆうちょ銀行
【口座番号】01590―7―32405
【名義】長生炭鉱の「水非常」を歴史に刻む会

 

山口県宇部市床波の海岸から見える長生炭鉱のピーヤ(排気・排水筒)

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