山口県で米軍岩国基地の大増強が、重大問題となっている。アメリカと小泉政府が「米軍再編」をすすめ、米軍岩国基地への厚木基地(神奈川県)移転、普天間基地(沖縄県)の空中給油機部隊移転など、アジアを舞台にした原水爆戦争準備を、実行に移しているからである。国、県、市が「夏に中間報告をまとめ各自治体に提示する」(町村外相)、「地元の意向を尊重する」(二井県知事)、「基地増強は反対」(井原岩国市長)と煙幕をはりつつ、行動では大型滑走路を増設し、空母接岸可能な大岸壁をつくり、米軍部隊の住宅建設を準備してきた。そして佐世保基地に配備する米空母の艦載機部隊(70機)まで岩国に受け入れることが検討されている。岩国市内では「防犯」の名で自治会を動員したパトロールがはじまっている。その米軍による戦時動員体制は全国を先どりしている。
佐世保の艦載機受け入れも検討
米軍岩国基地周辺では9・11テロ事件以来米軍による市民への監視体制がエスカレートし、いまだに朝鮮、ベトナム戦争時でもなかった24時間体制の戦時厳戒態勢が敷かれている。
米軍基地の正門や各ゲートには車の進入を阻む防壁と監視塔を増設し軍用犬を連れた武装米兵が監視。
米軍基地周辺の監視は自衛隊や警察が担当し、警察はパトカー、白バイ、2人組自転車、2人組徒歩の四種類の仕方で監視している。県当局は迅速な米軍物資の輸送のため岩国港にフェンスをはって市民を規制。市当局も「毒投入の早期発見」を口実に浄水場に金魚を入れている。そして最近は「防犯」をかかげて自治会を動員した地域パトロールを開始。米軍岩国基地周辺は武装米兵が自衛隊・警察、県、市を従え、自治会を動員し、地域住民を監視抑圧する体制が「テロ対策」の名でおしすすめられている。
岩国基地沖合拡張工事は08年度完成予定をめざし急ピッチで進行している。魚介類の産卵場だった藻場や干潟をつぶし米軍基地を782㌶(現在571㌶)に拡張。そこに長さ2440㍍の滑走路を増設し滑走路2本体制にする計画である。さらに空母や強襲揚陸艦など大型艦艇が接岸できる大型岸壁(水深13㍍、長さ360㍍・2009年に完成)を建設し、航空基地に加え軍港にもする態勢である。
米軍は5月に入り、「西太平洋配備の空母を2隻体制にする(現在は横須賀に1隻)」具体化として、もう1隻を佐世保基地に配備する構想を明らかにした。佐世保基地は水深が浅く、岸壁が狭いため、現状では母港化は困難とされる。そのため必要なときに佐世保沖合に米空母を停泊させ、艦載機約70機と乗員のみが岩国基地にむかうことを想定している。米軍はそのための宿舎を岩国基地につくる構想を示した。
すでに山口県と岩国市は沖合埋め立ての土砂採取の跡地・愛宕山に102㌶、1500世帯分の宅地造成工事をしてきた。売れるめどはないものを強行してきたが、これは厚木移転にともなう米軍家族(1000人以上)住宅をつくり、佐世保からの艦載機部隊を受け入れる宿舎建設を狙ったものであったとすれば理解がいく内容である。
他方、いったん白紙撤回となった大黒神島(岩国沖合13㌔)のNLP基地建設問題も、「大黒神島基地誘致推進既成同盟会」が江田島市につくられ、誘致運動が動きつづけている。岩国への厚木基地の移転、佐世保配備の米空母艦載機まで飛来させる構想は、広島県、山口県内海全体を軍事優先海域にするものである。
そのうえ5月末、日米政府は米軍普天間飛行場の空中給油機部隊15機を岩国基地に配備する最終調整をはじめた。02年に配備した大型ヘリCH53Dの部隊とあわせれば空母関連の戦斗部隊が配備されることになる。岩国基地は、滑走路2本による2倍化、軍港機能の増強にとどまらない。もっとも野蛮な戦斗をおこなう米空母2隻分の艦載機が飛来しては訓練して出撃していく一大軍事拠点とする増強計画となっている。
すでに昨年9月には海兵隊が米本土の部隊と入れかわるさい、海兵隊でなく米海軍を岩国基地に配備していた。同じFA18ホーネット戦斗攻撃機でも米海軍の同型機は空母艦載機である。それは厚木基地移転などを先行実施したものである。とくにFA18ホーネットは核兵器搭載機である。原爆を受けた広島と隣接する岩国を原水爆戦争の出撃拠点にしようというのである。
こうした状況について井原岩国市長は「基地の機能強化に反対」と口でいいながら岩国基地の沖合拡張工事をすすめており、言動と行動が一致しない状態。
二井山口県知事は「地元の意向を尊重する」と「原発方式」の態度。そして裏では、みずからが会長を務める岩国基地沖合移設促進期成同盟会や岩国基地民間空港早期再開期成同盟会を動かして、米軍基地沖合拡張の早期完成を急がせている。基地問題にかんしては岩国商工会議所(笹川徳光会頭)が「経済効果」を理由に厚木基地機能とNLPを岩国に誘致する姿勢を強めている。二井知事の姿勢は原発問題のように「地元の意向を尊重して」と厚木基地の岩国移設を受け入れる時期をうかがうものである。
アジア侵略が狙い 日米戦略の具体化
「在日米軍再編」で米側が要求している最大眼目は、米陸軍第一軍団司令部をキャンプ座間に移転し、第五空軍司令部をグアムの第13空軍司令部と統合する計画である。それは米軍の司令部機能を日本に集約し、米軍だけでなく自衛隊を指揮するためである。
キャンプ座間にはたんなる米陸軍第一軍団司令部(ワシントン)の移転ではなく、陸軍以外の軍隊も指揮できる新司令部UEXを配置する準備をすすめている。陸軍を指揮する従来の軍団司令部と違いUEXは小規模な陸上戦から、海軍、空軍、海兵隊との共同作戦などあらゆる戦斗を指揮する。この司令部が在日米軍司令部を担当し、さらに自衛隊の航空総隊司令部を横田基地に入れるなど、米軍と自衛隊の一体化をすすめている。
沖縄の米軍普天間飛行場移転問題も「痛みを分かちあう」といって本土への米軍基地移転・本土の沖縄化が狙いだった。そのため普天間基地のヘリ60機は嘉手納基地に移転するのをはじめ、空中給油機機能は岩国基地に移転、P3C対潜哨戒機は鹿屋基地(鹿児島県)に移転させる準備を開始した。
日米政府はこのような計画を「共通戦略目標」にもとづいて具体化してきた。そこでは「中国の軍備増強」「北朝鮮の核」などの「脅威」を列記し、アジアでの戦争を想定している。世界最大の核保有国であり軍事国家であるアメリカが、みずからの核は放棄せず「核保有宣言をした北朝鮮にすきを与えない」「中国は軍事予算をふやし、台湾海峡の緊張を高めている」といい、「北朝鮮」と中国に戦争を仕かける体制であった。
いま日本政府が、北朝鮮の拉致問題に加えて、「韓国」とのあいだで竹島問題、中国とのあいだで尖閣諸島、靖国神社、教科書問題などをあおっているのも、意図的な中国や朝鮮への挑発であり、アメリカの戦略によるものである。
岩国基地を増強しアジアにむけた原水爆戦争に動員するたくらみは労働者、農漁民、中小業者など各層人民の生活を破壊し、いっさいの民主主義を破壊する攻撃の行き着く先である。米軍岩国基地撤去の課題が、かつての戦争と戦後60年の体験に根ざし、アメリカのたくらむ原水爆戦争をおしとどめる力として、アジア各国人民との友好連帯を願う全県民の世論を束ねる努力が切望される情勢となっている。