近隣自治体の反対表明相次ぐ
米軍岩国基地(山口県)への厚木基地(神奈川県)機能移転増設に反対して、地元岩国の自治会をはじめ、広島・山口両県の市町自治体の反対表明があいついでいる。小泉政府は九月上旬にも外務・防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(2プラス2)を開き、個別基地名を明記した中間報告をまとめる調整を開始している。そして岩国基地に空母艦載機の拠点を増設し核攻撃基地として大増強すること、あわせて広島県の大黒神島を夜間発着訓練(NLP)基地にする動きもあり、隣接する上関町には中国電力が原発計画を推進している。60〇年まえに原爆で火の海にした広島とその周辺を、ふたたび原水爆戦争の攻撃拠点にし、したがって原水爆の戦場とするというのである。これは広島県民と山口県、日本全体の人民にとってこの上ない屈辱である。
被爆地として許せぬ 広島から憤りの声
米軍岩国基地増強に反対する動きは米軍基地対岸にある広島県西部の大竹、廿日市、江田島、大野、宮島の五市町から活発になった。5市町は「岩国基地の近隣自治体の住民を代表し、厚木機能の岩国移転に断固として反対」との要請書を6月末に国に提出した。このうち4市町は03年の沖美町へのNLP誘致も白紙撤回に追いこむ共同行動をとっており、広島県民の強い意志を示すものとなった。
今月4日には、藤田雄山広島県知事が逢沢外務副大臣と大野防衛庁長官を訪問し反対を表明。「山口県だけの問題ではない。他の中国地方四県も共同歩調をとろう、と知事会で話した」とのべた。六日に広島市議会も反対を決議。「平和を願う広島市民にとって重大な問題。本市は人類史上はじめての被爆の悲劇を乗りこえ、恒久平和の実現をまちづくりの根幹としており、新たな不安を強いる基地機能の移転は容認できない」と強調した。
この日、外務省と防衛庁に広島市として反対を表明した広島市国際平和推進部岩崎静二部長も「被爆者をはじめ、平和を願う広島市民として、容認できない」と伝えた。共通しているのは人類史上初の被爆地・広島を核攻撃の拠点にする民族的屈辱を絶対に容認できないという憤りである。
その動きは米軍機が低空飛行訓練をくり返す中国地方山間部にも波及。三次市の吉岡市長も5日、「非核、軍縮の基本姿勢があり、在日米軍も縮小すべきだ」と反対を表明。三次市に隣接する島根県の邑南町議会も六月末、反対決議を可決している。
山口県内では6月20日に由宇町議会が全会一致で反対決議を可決したのを皮切りに和木町、岩国市、周防大島町、柳井市の議会が反対決議を可決した。
岩国市全域・22地区の自治会連合会でつくる市自治会連合会(濱田俊彦会長)も4日に臨時総会を開催。「岩国基地の機能の拡大強化につながる空母艦載機部隊・NLPの移転を受け入れることはできない」との決議を全会一致で可決。はじめて岩国市の全地域があげて基地増強とたたかう姿勢を明確にした。それは敗戦直前の岩国大空襲、広島原爆被害、戦後の基地支配、そして現在つづく米軍増強や市民への監視体制など積年の憤りの噴出であった。
こうした世論の高揚のなかで、口では「基地機能強化に反対」といいながら、行動で岩国基地の沖合拡張や増強工事を推進してきた井原岩国市長も5日、米軍岩国基地のマイケル・ダイアー司令官を訪ね、はじめて米側へ反対の意志表示をした。
このなかで二井関成山口県知事は「地元の意向を尊重する」と、批判されずに基地増強に手をかす姑息な小役人姿勢を貫いている。山口県議会も「国の正確な情報がない」などといい、5日の総務企画委員会(竹本貞夫委員長)にゆだねられていた反対意見書案を見送り、県民の憤りを逆なでする対応をとりつづけている。「明治は遠くなりにけり」で、アメリカに頭が上がらぬ売国政治の姿をさらしている。
様変わりする岩国 核攻撃想定し米軍は逃げる準備
米軍岩国基地周辺は、9・11テロ事件以後それまでとは様変わりとなってきた。核・生物化学兵器攻撃を想定した演習をやり、住民に銃口をむけた監視体制を強め、原水爆戦争の準備を浮き彫りにしてきた。
テロ事件直後に米軍岩国基地でまず開始した演習は、基地内の人員用にガスマスクをつくり、米兵と米兵家族のみが国外脱出する訓練であった。すでに岩国基地が攻撃対象となり、広島湾一帯が原水爆戦争の戦場となることを想定しているのである。核攻撃されることの想定にせよ、岩国基地においている核兵器が自爆する想定にせよ、それを現実問題としているのである。そのような重大事態を市民にはなにも説明せず、市民をなにも知らないままにとり残して、米兵と米軍家族だけが逃げ出す準備だけしているのである。
そして今月末に一週間、岩国基地や米軍川上弾薬庫(東広島市)、同秋月弾薬庫(江田島市)などで日米共同警護訓練をおこなう。米陸軍20人と海田市の陸上自衛隊約70人が参加し、有事のとき米軍基地を自衛隊が守る訓練である。これも米兵と米兵家族が国外に避難させるため、自衛隊が基地周辺を警護するというものである。
他方、岩国市民には「テロ防止」をかかげた武装米兵による24時間の監視体制を敷き、米軍基地の正門や各ゲートにも車の進入をはばむ防壁と監視塔を増設した。軍用犬を連れた武装米兵も配置し、住民監視を強めている。江田島沖で漁民が銃を突きつけられたように、周辺海域もまた漁業権など無視の軍事優先となり、広島湾一帯を軍事優先海域にしている。
そして最近は、県の主導で「国民保護計画」にもとづく避難訓練が具体化され、核、生物化学兵器攻撃を想定して、「風上にむかって逃げる」とか「タオルで口をおおって逃げる」などのばかげた対策をすすめている。
そして岩国基地沖合拡張工事を08年度完成予定ですすめている。2440㍍の大滑走路を増設し、空母が接岸できる大型岸壁(水深13㍍、長さ360㍍)をつくり、核兵器搭載能力を持った原子力空母や空母艦載機部隊の大拠点にするという計画である。
米軍は5月に、空母を佐世保基地(長崎県)沖合に配備し、その艦載機部隊約70機も岩国基地にむかわせる構想を示した。厚木基地機能移転とあわせ空母2隻分の艦載機部隊を岩国に配置する大増強を想定している。さらに普天間基地所属だった空中給油機部隊15機を岩国基地に配備する。
岩国基地は釜山まで320㌔㍍、平壌まで750㌔㍍という位置にあり、朝鮮戦争とベトナム戦争時には板付基地(福岡県)とともに主力出撃基地となった。板付基地が返還された現在、その戦略的な位置は米軍内でさらに重視されている。岩国基地は、ベトナム戦争時(1975年)は米兵5970人、軍属・家族1030人だった。それが2001年には米兵3000人、軍属・家族2300人となり、軍属・家族はベトナム戦争時よりもふえた。家族の数が大幅にふえたことは、岩国基地を恒久的なアジア侵略拠点と位置づけている意図を示している。
こうした米軍岩国基地と、呉の海上自衛隊、海田市の陸上自衛隊、大黒神島のNLP誘致の動きが連動しているのは明白で、広島湾一帯を原水爆戦争の出撃拠点とする意図は明らかである。
核戦争を企み挑発 中国や朝鮮を標的
日米政府はこうした計画を2月に決めた「共通戦略目標」にもとづいて具体化してきた。「中国の軍備増強」「北朝鮮の核」などの「脅威」を列記し、アジアでの戦争を想定。世界最大の核保有国はアメリカであるのに、みずからの核は放棄せず「核保有宣言をした北朝鮮にすきを与えない」「中国は軍事予算をふやし、台湾海峡の緊張を高めている」とあおり、意図的に緊張を高めてきた。
そして米陸軍第1軍団司令部などの司令部機能を日本に移して米軍が日本の自衛隊を指揮する体制を準備し、岩国基地増強をすすめ、執拗に「北朝鮮」や中国の挑発をつづけてきた。ブッシュ政府は、小型核爆弾(広島型原爆は約15㌔㌧)と、地下数十㍍の施設に避難した人も殺す新型核兵器「強力地中貫通型核」開発をすすめ、模擬爆弾投下実験も準備している。
小泉政府が、竹島、尖閣諸島、靖国神社、教科書問題などを利用し、朝鮮や中国に挑発をするのはこうしたアメリカの戦略にもとづいている。
上関原発建設まで策動 大惨事引寄せる標的
このなかで山口県では137万㌔㍗2基という最大級の軍事施設となる上関原発建設計画が進行している。一方で岩国基地の攻撃能力を格段に強めながら、その隣接地域で、ミサイル攻撃の格好の標的となり、原爆投下と同じ大惨事をひき起こす原発を推進するというのは度はずれた屈辱行為である。
2001年のアメリカのテロ事件でもスリーマイル島原発が標的にされたが、1981年にイスラエルがイラクを侵攻したときも、91年の湾岸戦争で米軍がイラクを攻撃したときも真先に原発を攻撃した。
しかも小泉政府が国際的にも反発が高まっているアメリカに盲従し、イラク戦争に自衛隊を派遣し、アメリカの指揮棒に乗って朝鮮、中国などアジア諸国に戦争挑発をくり返している。
すすんでいる事態は、日本の安全を守るためではなく、アメリカの利己的な国益を守るために、自衛隊を使い、日本本土をアジアへの原水爆戦争の攻撃基地とし、したがって原水爆戦争の戦場として、第2次大戦以上の廃虚にしてしまうというものである。
60年まえ、一発の原爆で広島は火の海となり、二十数万が焼き殺され、都市は灰燼に帰し、その後も消し去ることのできない傷痕を残した。これをアメリカがもう一度くり返させようとし、それに小泉首相や二井知事ごとき売国奴がおべんちゃらをするという屈辱を黙って見過ごすことはできない。
いっさいの原水爆の製造も貯蔵も使用も禁止する課題は、岩国基地の増強を許さず基地を撤去させること、上関原発を撤回することという具体的な課題と結びつけて、広島、山口県の両県民の重要課題となっている。