経済産業省のお墨付きを得た東京の前田建設工業が、首相お膝元の下関で全国最大級の洋上風力発電を建設しようとしていることに反対して4度目となる大規模なデモ行進が14日、下関市川中公民館を出発点におこなわれた。
主催は安岡沖洋上風力発電建設に反対する会。幼い子どもを連れた若い世代から70代、80代の年配者まで幅広い層の人人約1000人が参加して、「風力反対!」「前田建設は下関から撤退せよ!」のシュプレヒコールを晴天の青空に轟かせた。
六月八日を期限に、前田建設工業の環境アセス準備書に対する意見を村岡知事が経済産業省に提出しようとするなか、一昨年から盛り上がってきた風力反対の住民運動はますます勢いを増して広がり、住民の総意を突きつけた。
6月の知事意見縛る力 強行なら代議士の得票大幅減も
安岡沖洋上風力発電に反対する会は2013年10月に地元住民によって結成して以降、翌年に2度、2015年10月に1度大規模なデモ行進をおこない、下関市民の世論を喚起してきた。反対する会が呼びかけてきた風力反対署名も10万筆をこえ、その後も各地からびっしりと名前の書かれた署名用紙が届いている。
集合場所となった川中公民館には、午後2時を過ぎると、安岡地区や綾羅木地区、勝山や唐戸、長府など市内各地から続続と住民が集まってきた。この2年半、暑い夏の日も寒い冬の日も休むことなく国道沿いに立ち、風力反対を呼びかける街頭活動をおこなってきた横野の会はマイクロバスを使ってピストン輸送し、農業者をはじめたくさんの住民がおそろいのハチマキを締めて詰めかけた。午後3時近くになると公民館の駐車場周辺は黒山の人だかりとなり、風力反対の幟や横断幕が所狭しと林立した。病院関係者をはじめ参加者それぞれが創意工夫をこらして持ち寄ったプラカードや幟があちこちで掲げられるなか、デモ行進前の集会が始まった。
はじめに反対する会の福田幸博会長が挨拶に立ち「今なぜこの時期にデモ行進をやるのか。6月8日までに県知事が経済産業省に対して意見を提出する。そして経済産業省は7月28日までに前田建設工業に対して意見をのべる。ここでわれわれが反対の声を上げる活動を続けることで、地元は納得していないといわせないといけない。住民が納得していないことをやる権利は、たとえ国であってもないし、まして民間企業の利益のためにわれわれが実験台になるのはまっぴらだ。子のため子孫のために風力は絶対に阻止しなければならない」とのべた。
次に横野町自治会長で安岡自治連合会副会長の坂口伸一氏が発言に立った。安岡自治連合会はこの日に向けて風力反対の幟100本を新しくつくり、理事会でデモ行進参加を決定。ポスターを各自治会の掲示板に貼り出したり回覧し、全住民にデモ行進への参加を呼びかけてきた。
坂口氏は、「私たちは風力反対で3年以上たたかってきた。それは何のためか。ここに来ておられない方のため、そしてまだ生まれていない子どもや孫のためだ。東京からやってきて勝手に人の家の庭先に金もうけの塔を建てるようなことは許さないということでたたかっている。この3年間、前田建設工業のいろんなことが目についたし、市長選では市長のいろんなことが目についた。今は県知事が経産省にどういう答申を出すかが目にちらついている。7月の終わりになると経産省がどんな答申を出すかが問題になる。しかしまわりの環境がどう変わろうと、私たちがやれることは一つだけ、こうしてみんなで同じ方向を向いて、子孫のために反対運動をずっと続けていくことだ。それは私たちにしかできない。前田建設工業が風力発電建設をやめるというまで、みんなで肩をくんでずっと反対運動を続けていこう。今日はただ歩くのではなくて、絶対に阻止するぞという気迫を持って声を出して歩いてください。その熱気を持って帰ってまわりの人にもう一声かけて、この運動を安岡・綾羅木だけではなく下関全体に波及するように、みんなで力をあわせて運動をつくっていきましょう」と力強くのべた。続けて参加者に唱和を促し、「われわれはたたかうぞ!」「われわれは前田建設工業をぶっ飛ばすぞ!」と声を上げた。
この日のデモ行進には安岡地区の漁業者や家族も多く参加した。代表して下関ひびき支店(旧安岡漁協)の問山清春運営委員長が発言に立ち、「われわれ下関ひびき支店は風力発電建設に一切同意していない。そのことをしっかりアピールしていきたいと思うので、みなさんの応援よろしくお願いします」とのべた。短い言葉ながら漁業者としての譲れぬ決意のこもった発言に会場から大きな拍手と「頑張れよ!」の声援が飛んだ。
風車建設予定海域に漁業権を持つひびき支店の漁師たちは、一昨年7月の総会で平成25年の風力建設同意決議を撤回し、風力反対と調査反対を参加者全員の書面同意で決定しており、その後前田建設工業の海の調査には船を出して抗議し、風力の工事差し止め訴訟も起こして係争中である。県漁協の森友組合長や廣田副組合長(彦島支店運営委員長)らが、ひびき支店の漁師が何十年と暗黙の了解の下でおこなってきたアマ漁やナマコ漁を禁止する脅しをかけてきたことに対しても、県の指導を求めるため水産振興局に出向くなど、一歩も引かずたたかっている。
沿道から飛入り参加も 市民の中に広く浸透
デモ行進に移ると、大太鼓がドンドンドンドンと響くなか、先頭の宣伝カーのマイクが「風力反対!」「安岡沖洋上風力発電建設を阻止しよう!」「前田建設は下関から撤退せよ!」「下関の豊かな海を守ろう!」「子どもたちが安心して暮らせるふるさとを引き継ごう!」と呼びかけると、デモ行進の老若男女がそれにあわせて大きな声で唱和しながら一体になって歩いた。
先頭では若者たちが横断幕を掲げ、その後に続く人たちがたくさんの大漁旗や百数十本の風力反対の幟を風になびかせながら、デモ行進の長い隊列はゆめシティ前からベスト電器前を過ぎて折り返し、国道の両側で呼応しながら進んでいった。
この日は沿道や車のなかから手を振ったり、一緒に拳をあげる人がたくさんいた。部活帰りの中学生の集団がデモにあわせて声を上げたり、拳をあげたりする姿も注目された。約1時間のデモ行進のなかで、沿道から飛び入り参加する親子連れや市民の姿がこれまでになく多くあり風力反対の行動が市民のなかに広く浸透していることを示した。
デモ行進終了後、反対する会より「今日は予想以上の人が集まった。この住民の思いを県知事に届けたい。18日の県の技術審査会にも代表が参加する」と挨拶があり、散会した。
デモ行進にはじめて参加した安岡出身の大学生は、「こんなに年齢幅の広い人たちがたくさん集まっているのに驚いた。安保反対や共謀罪反対などのデモをこれまで見てきたが、政党関係の旗やプラカードが多かった。でも今日のデモにはそういうものは一切なく、子どもたちや若い方、お年寄りまでいろんな人が参加していてすごくよかった。家で両親と風力発電の話になり市民の声で計画がひっくり返るのだろうかと話している。だから今日は自分一人で来た。今日は来てよかった」とのべた。
安岡地区から参加した女性は、「今日は呼びかけた人がみんな来てくれた。都合があって行けないといっていた人も来てくれたし、会場に行くだけで歩けないといっていた人も最後まで歩いた。これまで以上の団結力が示せたと思う。そして沿道の反響が大きかった。中学生も一緒についてきていた。風力反対が根強く浸透している。相手は大きいけどそれに負けず、もっと署名を広げたい」と語った。
手作りの幟に「残念下関市長 約束を守れ 東京へそんたくするな!」「コラッ、マスメディア恐れず報道せんか!」と書いて参加した男性は、「最近の安倍さんは“読売新聞を読め”といったり、民主主義や国会はあってなきがごとしのような振る舞いが目につく。お膝元の下関から声を上げ、前田建設が撤退するまで頑張りたい」とのべた。
安岡地区の男性は、「今後は漁業権の問題が争点になってくる。ひびき支店の漁師さんが頑張っているが、漁師さんだけでは勝てないし、われわれ陸の者が協力してしっかり運動を盛り上げないといけない。前田建設は漁師さんの反対で海の調査ができていないし、経産省のクロスチェックもできていない。だから今後、必ずまた調査をやってくるだろう。団結して跳ね返していきたい」と語った。
参加した人人はお互いの労をねぎらいつつ、この日のデモ行進の成功を確信にして運動の輪をさらに広げ、県知事や経産省に対してもっと大きなプレッシャーをかけようと話しあいながら帰路についた。