沖縄県うるま市の石川会館(旧石川市民会館)で20日、「住宅地への自衛隊訓練場計画の断念を求める市民集会」(主催/自衛隊訓練場設置計画の断念を求める会)が開催され、会場を埋めた1200人以上の住民が陸上自衛隊訓練場建設計画に断固反対の声を上げた。昨年末、防衛省は同市石川の東(あがり)山ゴルフ場跡地を取得して陸上自衛隊訓練場を整備する計画を明らかにしたが、県市はもとより地元住民にも事前説明や打診をしないまま用地取得費を来年度予算案に計上した。計画地は住宅地や教育施設と近接しており、地元自治会から始まった反対決議や撤回要請の動きは市内全域に波及。知事や市長、県市議会、自民党県連をも動かし、防衛省に「白紙撤回」の要求を突きつけた。市民集会は市民世論を示すために地元主体でおこなわれ、政治的な立場をこえて計画の白紙撤回を目指す一致結束した住民パワーを突きつけるものとなった。
政治的立場こえ住民が結束 地元自治会主体に
地元のダンスチーム『ONE PIECE』の子どもたちによるブレイクダンスの披露から始まった市民集会には、うるま市や近隣の住民たちが続々と押し寄せ、1000席超の大ホールは見る間に満席となり、通路やロビーにも参加者が溢れた。高齢者をはじめ親子連れや家族総出で参加する市民も見られるなど、世代をこえた住民の熱気に包まれた。
駐車場整理や受付、司会、意見発表に至るまで地元の旭区をはじめとする自治会や議員などでつくる「自衛隊訓練場設置計画の断念を求める会」(以下、「求める会」)が結束して運営し、受付に置かれた反対署名には記帳者の列ができた。集会では、発言者から「白紙撤回」「計画断念」の言葉が出るたびに大きな拍手やかけ声に沸き、和やかななかにも計画断念に向けた住民の並々ならぬ思いが充満する集会となった。
はじめに挨拶した「求める会」共同代表の伊波常洋氏(元県議)は、「感動している。この旧石川市民会館ができて40年になるが、1008席あるホールが満席になったのは過去2例しかない。今回の降って湧いたような国の横暴に対して、私はこれまで保守自民党として市議4期、県議を2期務めたが、翁長雄志元知事が辺野古移設問題で保革(保守・革新)を超えて闘ったように、私たちも保革を超えて“負けてはならない”と立っている」とのべた。
さらに「12月20日にいきなり新聞報道で知らされた。地元の旭区には一言もない。人の家の隣に基地を作るのに挨拶くらいするのは当たり前だ。わずか80日間でこのような闘いが展開された。月曜日に自民党沖縄県連幹事長の島袋県議、沖縄3区選出の島尻衆院議員が防衛大臣に計画撤回を求める直談判をして事態は動いたが、完全に断念するまで油断せず、皆さんの力を結集して断念を求めたい。故翁長雄志さんの言葉を思い出そう。“うちなー、うしぇーらってーならんどー(沖縄を侮ってはならない)!”」と呼びかけた。
次に同会事務局長の伊波洋正氏(旭区評議員)が経過報告に立ち、「3月18日に自民党県連が木原防衛大臣と面会し、用地取得を含めた計画の断念を求め、翌日の沖縄タイムス1面トップで『うるま訓練場断念へ』の見出しが躍った。だが最後まで気を抜くことはできない。防衛大臣から『断念』という言葉が出るまで闘いをさらに強化し、拡大する必要がある」とのべると、会場は大きな拍手に沸いた。
そして「当初の防衛省の計画ありきの一方的姿勢からすると、私たちの闘いが防衛省の政策決定に大きな影響を与えていることは事実だ」としたうえで、次のように経過と決意をのべた。
昨年12月20日の報道で東山ゴルフ場跡地に訓練場ができることを初めて知った私たち住民は目を疑った。「こんなところに訓練場がくるのか…」というのが共通した思いだ。年明け1月3日に旭区自治会で緊急の評議委員会を開き、全会一致で反対を決議。同14日の臨時総会には、普段は20~30人ほどのところ、公民館に入りきらないほどの114名もの住民が集まって全会一致で反対決議をあげた。
旭区という小さな自治会からスタートした反対決議は、周辺自治会にも波及し、2月1日には石川地区自治会長連絡協議会(区長会)で、3月1日にはうるま市全体の自治会長連絡協議会の理事会でも、全会一致で反対決議があがった。
だが、国との闘いになると一自治会だけでは限界がある。そのため石川地域を網羅した組織を作ろうということで、2月14日に自治会を中心に市内5団体で準備会をスタートさせ、他団体にも加入を呼びかけて3月10日に17団体で『求める会』を正式に発足した。保革をこえて結成した元石川市議OB会、老人クラブ、PTA、若者たちのダンスグループ、介護施設、教会などの市内の団体のほか、隣接する金武町区長会も当事者として会に参加している。
まだ正式発足から10日だが、この間とりくんだ反対署名は昨日3月19日時点で5580筆に達している。これから時間をかけてしっかり広げていく。
この運動の一番の特徴は、保守・革新を問わず訓練場建設に反対するという共通の思いだ。みんなでまとまれば国を動かすことができることを確信して、今日の集会を新たな起点に今後のとりくみを全県的な形でくり広げ、みなさんの力で訓練場建設を阻止しよう。
市長、知事も撤回要求 「最後まで闘う」
ここで、うるま市の中村正人市長が登壇。昨年12月末に政府案発表の報道後、木原防衛大臣に「住民への丁寧な説明と適切な情報提供」を再三求めてきたことにふれ、旭区自治会での反対決議、意見書提出などの動きを経た2月11日、防衛省が開いた住民説明会には「約300人近くの住民の方々が集まり、同整備計画の白紙撤回と計画断念を求める声が多数あがり、住民の皆様の計画断念への思いが広がってきた」と振り返った。
「ゴルフ場跡地周辺には、住宅地や県立石川青少年の家などが隣接しており、生活環境の悪化が懸念されるなど、旭区はじめ東山区自治会の地域住民、石川地域全体で構成される石川地区自治会長会からも整備計画に反対する声が日に日に増してきている。2月市議会定例会では、石川地域選出の7名の市議を紹介議員とし、旭区自治会から計画断念を求める請願を受け、本会議において全会一致で採決されている。このような状況のなか、住民の合意形成や理解を得ることは大変厳しい状況にあり、これ以上地域住民が不安を持って生活されることを避けるため、市長として政治判断し、3月1日に沖縄防衛局長に対して同整備計画の白紙撤回を要請したところだ」と報告。
「防衛省は“用地取得後の土地利用のあり方について、改めてさらに検討をおこなう”としているが、今後の国の動向を注視し、引き続き国に対して同整備計画の白紙撤回を粘り強く、“同地域に訓練場は作らせない”という強い反対の意志をしっかりと伝えていく。今後は木原防衛大臣に対して、住民の反対の意志をしっかり届け、白紙撤回に向け、皆様とともに力をあわせて最後まで頑張っていく」と決意をのべると、会場から力強い拍手や激励のかけ声が湧き上がった。
玉城デニー知事もメッセージを寄せ、「計画公表から短期間であるにもかかわらず、このような多くの方が連帯する市民集会を開くために尽力されたことに、心からの敬意とともに、計画に反対する思いの強さを感じている。計画地は住宅密集地にあり、社会教育施設や老人福祉施設にも近接している。演習内容や規模、頻度などについて、事前に十分かつ詳細な説明がないまま、計画ありきで物事が進んでいく状況に対し、地域住民の皆様が反対を訴えることは至極当然だ」とのべた。
さらに「自治会長連絡協議会の皆さんの意見に私もまったく同感だ。先月17日の防衛大臣との面談で、私から建設予定地が住宅地や県立石川青少年の家に隣接している状況を伝えるとともに、同計画を一度白紙に戻して見直すよう求めた。今月7日の県議会においても同計画の白紙撤回を求める意見書が全会一致で可決されたことはたいへん重い。政府は地元が示している一連の意志表明を真摯に受け止め、計画を断念すべきと考える。県としてもあらゆる機会を捉えて政府に対し、うるま市における用地取得を含めた自衛隊訓練場整備計画の白紙撤回を求めていく」と誓った。
生活や教育の環境守る 住民団体代表が発言
市内各団体からの意見表明では県議会、市議会をはじめ子育て世代、老人クラブ、若者、高校生など幅広い年齢層の市民が率直な思いをのべた。
うるま市選出の山内末子県議(共同代表)は、「子どもたちが遊び、みんなが生活する上空をヘリが飛び交うような状況は絶対に避けなければならない。石川青少年の家は、子どもたちが人と人の支え合いや生活を学ぶ場であり、訓練場の整備は何が何でも断念を勝ちとらなければならない。立場の違いを乗りこえてしっかりとNOを突きつける。それこそが私たち政治家にも突きつけられている。憲法に保証されている住民自治のなかでも自治会は一番基本的な自治だ。その自治会が掲げた重い決議を突きつけていくのが政治家の仕事だ」と決意をのべた。
石川地区市議団の真壁朝弘市議(旭区評議員長)は、「旭区は子ども会や敬老会、青年会のエイサーなど住民活動が活発な地域だ。昨年12月20日、何の前触れもなく計画が報じられ、すぐに評議委員会を開催し、翌日に防衛局の説明を受けたが、到底納得のいくものではなかった。訓練場予定地のわずか15㍍先には、教育施設である石川青少年の家や住宅地がある。この地域にある宮森小学校では過去にジェット機墜落事故が発生しており、事故遺族も今回の訓練場建設計画に心を痛めている。そのため同計画については白紙撤回を強く要請し、住民の子どもや孫世代まで安心して住める環境を維持することを願う」とのべた。
次に、ゴルフ場跡地に隣接する旭区民を代表して、旭区こども育成会会長の冨着志穂氏が「子どもや孫たち、地域の未来を守るために、子育て世代の私たちが声を大にして訴えたい。住宅街の中に訓練場はいらない」と感極まりながら思いを訴えた【別掲】。
同じく東山区民を代表して石川栄弘氏は、「政府の発表内容を精査してみると、ミサイル部隊の発射機を展開する訓練、自衛隊ヘリでの輸送訓練、夜間訓練、米軍との共同訓練等が目に焼き付く。1959年6月30日に宮森小学校で起きた事故を彷彿とさせるような衝撃だ」と表明。
「この森(訓練場計画地周辺)は、全国の“森林浴の森100選”に選定された貴重な森であり、石川は私たちのふるさとだ。訓練場が作られたら私たちの生活への影響、子どもたちの教育環境への影響も大きい。今回の反対運動にはうるま市全63自治会に加え、近隣の金武町屋嘉の自治会も参画している。これは画期的な動きであり、沖縄県の新しい住民運動の先駆けになるのではないか。市長は市民の声を聞き、熟慮して決断してくれたと思うが、これからは先導して住民を守ってもらいたい。うるま市には12万3300人が暮らしている。市長生命を懸けるくらいの覚悟で市民のために頑張ってもらいたい」と激励すると、拍手と共感の声が上がった。
うるま市老人クラブ連合会石川支部副支部長の河野修氏は、当初「老人クラブは老人福祉の向上を目指すもので政治に関わるべきではない」「すでに石川自治会長会が加入して活動している」等の意見も出たが、「これは子どもの教育施設や住宅地に関係する問題であり政治的なものではない」「石川全体の問題だ」という論議をして「求める会」への加入に至ったことを報告した。
「高齢になると心身が衰えるが、精神的ストレスはそれを悪化させる。今回の唐突な陸自訓練場計画は、辛く苦しい戦中戦後の記憶をまるで土足で踏みにじるような行為であり、高齢者にとってたいへんなストレスだ。即刻断念すべきだ」と力強く訴え、「このゴルフ場跡地が広く地域まちづくり振興に繋がるのなら、そこにはどんな未来が広がるだろうか」と、軍事目的ではない利活用を求めた。
沖縄全県に運動広げる 若者や高校生も決意
若者代表として、ダンスチーム『ONE PIECE』代表の新垣宜道氏は、「私は生まれ育った東山地域が大好きだ。旭公民館では週1回、大人も子どももチームで踊っている。このチームはパリ五輪ブレイキン強化選手もいる。子どもと遊ぶふれあい公園に、そんな不安要素が来ることは絶対反対だ。そうなるとこの町には住めなくなるかもしれない。陸上自衛隊配備断念に向け頑張ろう」と声をあげた。
高校生を代表して、球陽高校1年生の小橋川仁菜乃氏(16歳)は、「民主主義とは、国のあり方を決める権利を国民が持っているはず。憲法に基づき、国民に適切な情報公開と説明をし、対話をへて実行すべきだと思う」と問題意識をのべた【別掲】。
若い世代の大人に負けないストレートな意志表明に感心するように観覧席のあちこちから「頑張れ!」のかけ声がたびたび起こり、期待する激励の拍手が送られた。
うるま市自治会長連絡協議会会長の山城暁氏は、「うるま市は、東側にホワイト・ビーチ(米陸海軍)、キャンプ・コートニー(米海兵隊)、マクトリアス(海兵隊)、北に隣接する金武町にはキャンプ・ハンセン(米海兵隊)がある。そのように基地に囲まれ、負担は大きいと常々感じていたので、計画反対の立場で協議させていただいた。石川青少年の家は、みなさん子どもさんやお孫さんがお世話になっている場所だと思う。小さいころから慣れ親しんだ施設の隣に訓練施設ができることは、青少年健全育成の立場として到底容認できない」と明言し、「陸上自衛隊訓練施設計画の断念は始まりであり、土地取得の白紙撤回まで求めていきたい。沖縄の平和な未来を勝ちとろう」と呼びかけた。
市境を挟んで計画地に近接する金武町屋嘉区長の島本勇人氏(金武町区長会会長)は、「金武町屋嘉は、うるま市とは距離的にも近く縁も深い。そのため『断念を求める会』への入会を決意した。問題の訓練場予定地は、すぐ隣に農場がある。ゴルフ場の時代には、打ったボールが飛んできたこともあるほどの至近距離だ。騒音もたいへんなことになるだろう。屋嘉区で全会一致で反対の声を上げ、他の区長会にも投げかけると一も二もなく賛同してくれた。長い闘いになるかもしれないが、力をあわせて断念を求めていこう」と、連帯の思いをのべた。
行動提起として伊波洋正事務局長が、①会として集会決議を持って防衛大臣に計画断念を直接要請する、②そのさいに提出するため署名をさらに拡大すること(旭区自治会が集計)、③防衛省が「断念」を明確に表明しない限りは会の活動を強化拡大する必要があり、県内各団体にも会の活動への賛同支援を呼びかけて全県的運動にしていく方針を示し、満場一致の拍手で承認された。
最後に「県民の総意を尊重し、住宅地への自衛隊訓練場設置計画を断念することを求める決議」【下別掲】を全体の拍手で採択し、旭区評議員の石原昌彦氏の音頭でおこなわれた「がんばろう三唱」では、集まった1200人の声が地鳴りのように会場外にも響き渡った。計画断念を勝ちとるまで一歩も引かない意志を固め合い、住民自身の手による島ぐるみ運動の火蓋が切られた。
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■県民の総意を尊重し、住宅地への自衛隊訓練場設置計画を断念することを求める決議(全文)
去る2月17日、玉城デニー沖縄県知事は、石川地区自治会長連絡協議会の要請を受けて、石川東山のゴルフ場跡地への自衛隊訓練場設置計画を白紙にもどすよう、来沖した木原防衛大臣に訴えた。つづく2月27日には、自民党沖縄県連が白紙撤回を表明。さらに3月1日、うるま市自治会長連絡協議会は理事会で反対決議を全会一致で採択。同日、これまで贅否を明らかにしていなかった中村正人うるま市長も、遂に白紙撤回を表明した。3月6日、うるま市議会総務委員会は、地元旭区から出されていた断念を求める請願書を全会一致で可決し、これに続いた。さらに3月7日、沖縄県議会は本会議で白紙撤回を求める意見書を全会一致で可決した。
昨年12月、うるま市石川の旭区という一自治会から始まった今般の自衛隊訓練場建設反対の声は、かくしてうるま市全体に、さらに沖縄県全体へと広がり、大きなうねりとなって、県民の総意となったのである。
この世論の高まりをバックに、私たちは3月10日、主にうるま市石川地区に在する17団体の結集のもと、「自衛隊訓練場設置計画の断念を求める会」を結成した。そして、本日の集会を圧倒的な県民の参加のもと、ここに成功的に実現することができた。このことは、政府防衛省が一方的に進めてきた住宅地に隣接した自衛隊訓練場の建設計画に対する県民の怒りが、いかに大きなものであるかを如実に示している。
この期に及んで、政府防衛省が、なおも「白紙撤回はしない」と頑なな姿勢を取り続けるならば、県民の政治不信は取り返しのつかない事態になることは論を俟たない。そもそも、今回の計画は、住民の視点を完全に欠落させたあまりにもずさんな計画といわなければならない。「土地取得後の利用のあり方を、住民生活を重視する観点から見直す」という木原防衛大臣の弁は、裏を返せば、これまでは「住民生活を重視」してこなかったことの表明でしかない。
今や保革を超えて、沖縄の民意が住宅地への自衛隊訓練場建段に反対し、計画の自紙撤回を求めるという形で示されている以上、これを尊重し、それに寄り添うことこそが、国民の命と暮らしを守る政府の取るべき態度ではあるまいか。
よって、私たちは、「住宅地への自衛隊訓練場計画の断念を求める市民集会」の名において、以下のことを決議する。
1.うるま市石川のゴルフ場跡地への自衛隊訓練場設置計画をただちに断念すること
2024年3月20日
住宅地への自衛隊訓練場計画の断念を求める市民集会
防衛大臣 木原稔殿
沖縄防衛局長 伊藤晋哉殿