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「地権者同意のない売買契約は無効」 佐賀駐屯地建設中止求める裁判 第1回口頭弁論で意見陳述 防衛省の暴力的手法を告発

口頭弁論に臨むにあたり支援者に挨拶する古賀初次氏(15日、佐賀市)

 陸上自衛隊オスプレイ配備計画にともなう佐賀空港への駐屯地建設工事差し止め訴訟の第1回口頭弁論が15日、佐賀地方裁判所でおこなわれた。この裁判は、駐屯地の整備工事がおこなわれている空港西側の土地の地権者である漁師たちが原告となり、登記上の名義人にすぎない有明海漁協が国に「売却」したこれらの土地は、全地権者の同意を得たものではないため所有権は移っておらず、駐屯地建設工事は地権者の所有権を侵害しているとして、国の工事中止を求めるものだ。

 

沿岸全域を危険にさらすオスプレイ配備

 

 意見陳述にあたり、地権者である4人の原告を支援する「オスプレイ裁判支援市民の会」の会員ら約120人が駆けつけ、弁護士会館から佐賀地方裁判所までの道のりを行進した。

 

 意見陳述をおこなった原告である古賀初次氏は「佐賀空港は戦争を経験した先人たちが軍事空港にさせないために公害防止協定などを結んでつくったものだ。そしてノリ漁師が努力をし豊かな有明海を守ってきた。今、私たちの土地が勝手に売り飛ばされ、軍事的拠点として作り替えられようとしている。このような愚行を見過ごすことはできない」と訴えた【別掲】。

 

 そして弁護団長である東島浩幸氏の意見陳述を椛島敏雅弁護士が代読した。東島弁護士は「佐賀駐屯地の建設がいかなる意味を持ち、佐賀平野やその周辺の人々や日本の広範な人々にどのような影響を有するのかを明らかにし、その関連での本訴訟の意議について論じる」としたうえで、佐賀空港の自衛隊基地化によって佐賀がどうかわるのかという点について、オスプレイの機体自体の危険性から来る問題、低周波騒音、そして日本一豊かなノリ養殖漁場である有明海の漁業環境の悪化、米軍常駐の危険性、有事のさいに攻撃目標とされる危険性等について指摘した。

 

 オスプレイは「未亡人製造機」ともいわれ、昨年11月には屋久島沖で墜落し乗員8人が死亡する事故を起こしている。しかし原因が不明のまま運用が再開されており、昼夜を問わない佐賀空港周辺での訓練において、有明海で作業する漁業者のみならず、陸地に居住する市民の犠牲も想定される。

 

 そして駐屯地建設による、平常時・事故時の水汚染について、「ノリ養殖は少しの水質の変化にも敏感であり、かつ真水にも弱い」と指摘した。オスプレイ17機とヘリ50機の洗浄、そして700~800人もの自衛隊員の移駐によって化学薬品を含む大量の排水が有明海に持ち込まれることになる。その成分がどのようなものなのかを国は明らかにしておらず、また設置するとしている排水設備に関して適切な説明も実験もおこなっていない。また事故時の水質汚染については、屋久島の墜落事故を見ても明らかなものとなっている。

 

 また「米軍は嫌だが、自衛隊なら仕方がない」という市民もいるなかで、「その思いは必ず裏切られることになる」とのべた。現在さまざまな日米共同訓練が実施され、九州各地の自衛隊駐屯地に米軍が来ている現状からも、佐賀空港に米軍が来ることは目に見えており、すでに今年2月に意味不明の米軍ヘリが佐賀空港周辺の十数㍍上空を超低空飛行するなど我が物顔に振る舞っている。そして米軍常駐も将来的には否定されていない。

 

 そして佐賀空港が軍事空港となった場合、佐賀やその周辺地域は常に軍事的緊張と向き合わされる地域となる。戦争になった場合には、オスプレイを配備して南西諸島防衛の要となる佐賀空港が攻撃される危険があるのは明らかで、「軍隊が人々を守るのではなく、軍隊がいるから危ないのだ」と訴えた。

 

 東島弁護士は「以上のようなことから、佐賀空港自衛隊駐屯地建設は、ひとり地権者や漁業者だけの問題ではなく、佐賀平野やその周辺に生きるすべての市民、ひいては日本に居住する人々に密接に関係する問題だ。問題の矢面に立った地権者らのうちの4名が本件訴訟を提起し、地権者特有の所有権をひとつの柱として、本件訴訟を闘っているが、佐賀空港自衛隊駐屯地建設が持つ意味や佐賀をどう変えるかという観点からいえば、本件は、広範な人々の人格権を侵害するものだ」とのべた。

 

土地は各組合員に配分 漁協に所有権はなし

 

オスプレイ配備予定地となり重機が搬入された佐賀空港西側の農地(昨年7月、佐賀市川副町)

 次に、池上遊弁護士が佐賀駐屯地建設工事が進められる土地は、原告ら地権者に所有権があり、登記名義だけを拠り所にして有明海漁協から土地を買い受けたとする国は所有権を取得していないという面からの次のように意見陳述をおこなった。

 

 1954(昭和29)年の国土造成計画に基づき、1955(昭和30)年から1972(昭和47)年にかけて、食糧増産を目的として、国が佐賀県に代行させる形で「国造(こくぞう)干拓」事業を実施したのが本件土地を含む国造搦(こくぞうがらみ)240㌶である。それまで、この海域から採れる海産物を収入の柱としていた旧南川副漁協の漁業者との間で1963(昭和38)年、佐賀県は「入植増反希望者に対して国造干拓(国造搦)の農地60㌶を配分する」申し合わせ(「昭和38年申し合わせ」)を交わし、個々の漁業者(入植増反希望者)に対する土地の配分が合意されていた。その後、1988(昭和63)年、佐賀県を売払人、旧南川副漁協を買受人として本件土地の売買契約が締結され、所有権移転登記がなされている。

 

 池上弁護士は「昭和38年申し合わせから昭和63年売買までの間に両者の間で交わされた覚書及び協定書によれば、先ほどのべた『昭和38年申し合わせ』があったことはもちろん、昭和63年売買が昭和38年申し合わせの履行に伴う所有権の移転登記を完了することを目的として締結されたものであることが明らか」であり、そのことから昭和38年申し合わせの履行としておこなわれた昭和63年売買によって原告ら漁業者に本件土地が配分され、原告らがその所有権(共有持分権)を取得したという経緯を示した。

 

 また佐賀駐屯地建設地の地権者で構成される国造搦60㌶管理運営協議会の規約においても、この土地は「旧南川副漁業協同組合組合員に配分された国造搦60㌶」と表記されており、同協議会が各地権者との間で取り交わした協定においても、「土地は一括登記をし、会員に持分を配分する」と明記されている。このような規約、協定から、昭和63年売買における買主が南川副漁協とされ、その後、同漁協が登記名義人となったのは、「一括登記」を目的としたものであったことは明らかとなっている。

 

 また、協議会の個々の組合員に対しては、具体的な持分面積が記され、「上記記名者に当国造搦60㌶管理運営協議会の規約(協定書)により国造搦60㌶内の持分面積の証として本券を交付する」と印字された「国造搦持分証券」が、協議会及び登記名義人である南川副漁業協同組合(有明海漁業協同組合)の連名で発行されている。

 

 そして南川副漁業協同組合の顧問弁護士が平成19年の漁協合併に際して、同漁協からの相談に対し、「①国造搦60㌶は持分者及びその承継人の共有に属すること」、「②南川副漁協が登記名義人となっているが、これは本件協議会及び共有者団が法人格を有しないことから、漁協に対し、登記名義人面における管理を委託したことによるものであり、漁協は実体上の所有権者ではないこと」を内容とする覚書の作成を助言している。また令和5年売買当時の本件土地の登記名義人であった有明海漁協も、売買に先立ち、「川副地区四支所に所属する漁業者が、自衛隊駐屯地の計画予定地の地権者である」との認識を示していた。

 

 佐賀県においても、本件土地の地権者が、登記名義人である有明海漁協(旧南川副漁協)ではなく、個々の「漁業者」ないし「組合員」であるとの認識を公にしている。

 

 これらのことから「昭和63年売買によって本件土地の所有権を取得した(配分を受けた)のは、『登記名義面における管理を委託』されたに過ぎない南川副漁協ではなく、昭和38年申し合わせにあるとおり『入植増反希望者』に他ならず、持分証券を交付された原告らも、本件土地の所有権(共有持分権)を有していることが優に認められる」とした。

 

 そして、2023(令和5)年5月18日、土地の登記名義人である有明海漁協と国の間で売買契約が締結されているが、「有明海漁協は、本件協議会から『登記名義面における管理を委託』されたに過ぎない。本件土地の所有者(共有持分権者)の同意・追認がない限り、この売買によって国が所有権を取得することはありえない」とした。

 

武力紛争起きれば標的に 南西諸島とも連動

 

 井上正信弁護士は、「2022年の安保三文書によって日本の戦後防衛政策は大きく転換し、台湾有事=日本有事を想定し、日米共同で対中国武力紛争を戦う南西諸島防衛態勢が着々と強化され、自衛隊の大きな変貌が進んでいる。陸上自衛隊佐賀駐屯地の設置は自衛隊による南西諸島防衛態勢の重要なピースである」と指摘した。

 

 そして陸自佐賀駐屯地の軍事的役割について、南西諸島有事のさいには佐賀駐屯地の輸送ヘリ・オスプレイが兵站物資輸送の任に当たることになり、長崎・佐世保市相浦の水陸機動団の隊員を低空から陸上・海上へ降下させて島嶼を占領した敵軍隊を急襲することになるとのべた。すでにその作戦構想を日米が共有しておこなう軍事訓練が実施されている。

 

 安保三文書は民間空港・港湾の軍事利用の必要性をのべており、防衛省は全国で32カ所の民間空港・港湾の軍事利用が検討している。このうち九州が10施設、沖縄が12施設というように、九州・南西諸島が軍事利用の重点となっている。民間空港・港湾の軍事利用の結果、武力紛争法上は軍民分離原則が適用されず、適法な軍事標的になることを意味する。佐賀駐屯地と佐賀空港は、有事には攻撃されることを想定せざるを得ず、現に防衛省・自衛隊はこのことを想定した研究をおこなっている。

 

 陸自佐賀駐屯地を佐賀空港施設内に建設することは、佐賀駐屯地が南西諸島防衛体制の重要なピースの一つであり、中国との武力紛争となった場合には、佐賀空港が攻撃の標的となることも指摘した。

 

 井上弁護士は「戦争は最大の基本的人権侵害である」としたうえで、「この意見陳述を終えるにあたり、ノーベル経済学賞受賞者であり、偉大な戦略家であったトーマス・シェリングの次の言葉を引用する。“優れた抑止力は、優れた標的を作ることができる”。本件訴訟は、この言葉が現実とならないために提起されたものだ」とのべた。

 

口頭弁論後に開かれた報告会(15日、佐賀市)

 裁判後には、佐賀市立図書館で第1回裁判の報告集会が開かれ、意見陳述をのべた井上正信弁護士が「南西諸島有事と陸自佐賀駐屯地、オスプレイ配備は何のため?」と題して講演をおこなった【詳報次号】。

 

 そこで井上弁護士は「対中国戦を睨んで九州・南西諸島の軍備大増強が進められており、佐賀駐屯地建設はその一環だ。国際紛争を武力で解決することは絶対にさけなければならない。中国との戦争となれば、日本国内は食糧危機、そして製造業も破綻する。佐賀駐屯地を建設させない運動は、戦争ではなく平和的手段で国際紛争解決を図ることに寄与する」とのべた。

 

 原告であるノリ養殖漁師の古賀初次氏は、講演を聞いた後、「このオスプレイ配備反対のたたかいは有明海を守るだけでなく、日本の平和全体を守ることに繋がるということがわかった。絶対に負けるわけにはいかない。最後まで精一杯たたかう」と決意をのべた。

 

 今月下旬には佐賀駐屯地建設工事差し止め仮処分の判決が出る予定となっており、31日(日)には佐賀市川副町のスポーツパーク川副・体育センターで佐賀空港オスプレイ反対集会が開催される。

 

 なお、工事差し止めの仮処分をめぐる佐賀地裁の判断は21日に出る予定。

 

横断幕を掲げて佐賀地裁に向かう原告や支援者たち(15日、佐賀市)

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