国連安保理は15日、朝鮮のミサイル発射について非難決議を全会一致で採択した。当初の日米決議案にあった国連憲章第7章による経済制裁、とくに軍事攻撃を定めた項目は、中国、ロシアなどの反対で削除された。小泉政府がブッシュ政府にたきつけられて、朝鮮への経済制裁を実施し、全国の自治体に武力攻撃事態に対応する警戒指示を出し、ミサイル基地への先制攻撃まで叫んで全面戦争も辞さないという異常きわまる跳ね上がりは、国際紛争の話し合い解決を求める圧倒的世論に打ちのめされた。とりわけことの始まりから終わりまで、ことごとくアメリカの指図で踊らされた小泉外交の醜態は、かいらい政府にも劣る対米従属の恥ずべき正体をさらし、世界の笑いものとなっている。
米国情報丸のみにし大騒ぎ
多くの人人から「騒ぎすぎ」といわれた今回のミサイル騒動は、5日未明アメリカからの緊急連絡に始まった。小泉政府はすぐさま米駐日大使シーファーを首相官邸に招き、安倍官房長官、麻生外相、額賀防衛庁長官らと協議のうえ、安全保障会議を開いた。麻生外相はライス米国務長官に電話し、「北朝鮮の挑発的行為にはきわめて強いメッセージを出すことが重要だ」との指示を受けた。
安保会議では、朝鮮の貨客船『万景峰』号の入港禁止など九項目の制裁措置を決め、ただちに実行に移した。
また、これと並行して、先崎統合幕僚長ら陸海空3自衛隊のトップが、武力侵攻に備えて対策室を設置。総務省消防庁は国民保護運用室を窓口に情報連絡室を設置した。
さらに、日本海沿岸の自治体を中心に、「国民保護法」発動寸前の警戒態勢に入り、自衛隊と連絡をとりあった。宮城、山形、福島の各県知事や各県議会は政府に危機管理体制の確立を求める決議などを可決した。経済産業省は、全国の原子力施設と火力発電所、都市ガス施設などに対し、施設の警戒を厳重にし、異常があれば速やかに国に報告するよう指示した。福井県や島根県、新潟県などは危機管理の対策室設置をはじめ電力会社とも連携して警戒を強めた。
今にもミサイルが日本に飛んでくるかのような危機感を煽ったうえで、主要閣僚が一斉に「ミサイル発射基地を先に叩くのも自衛の範囲」(額賀防衛庁長官)といった先制攻撃論をぶった。麻生外相も核ミサイルが「日本に向けられる場合、被害を受けるまで何もしないわけにはいかない」とのべた。そして安倍官房長官は、相手の誘導弾基地を叩くことも自衛権の範囲内で可能との見地から「つねに検討研究をすることが必要だ」とのべた。
この敵地攻撃論に対し、「韓国」大統領府は声明を発表、「先制攻撃のような危険で挑発的な妄言で朝鮮半島の危機をこれ以上増幅させ、軍事大国化の名分にしようとする日本の政治指導者らのごう慢と妄言に対しては強力に対応していく」との立場を明らかにした。中国政府も日本の「過剰反応は逆効果」とのコメントを出し、小泉政府をけん制した。
ブッシュ政府は、今回の朝鮮のミサイルが「米国領への脅威にはならないと判断した」としながらも、「米国と同盟国を守るため、あらゆる措置をとる」と言明。米本土の2つの基地に合わせて11基の地上発射型迎撃ミサイルを配備、イージス艦2隻を日本海に派遣するなど臨戦態勢をいっそう強化した。
こうしたアメリカの武力攻撃態勢をバックに、小泉政府は国連安保理に朝鮮制裁決議案をアメリカと共同で提出した。朝鮮のミサイル・核開発への資金、物資、技術の供給を加盟国に義務づけるとか、朝鮮からのミサイルと関連物資・技術の調達阻止を加盟国に義務づけるとか、朝鮮に弾道ミサイルの開発や実験の即時停止や六カ国協議への無条件即時復帰などをうたっていた。だが、核心の問題は、国連憲章第7章にある「平和に対する脅威、平和の破壊及び侵略行為」に対する経済制裁や軍事行動を起こすという一項であった。
歴史的、現実的な関係は、朝鮮とアメリカは朝鮮戦争以来交戦状態にあり、軍事的対決状態にある。朝鮮の核やミサイル開発もアメリカに対抗するものである。日本に米軍基地がなければまったく標的になるものではない。なのに日本がアメリカになりかわって軍事攻撃を容認する決議に血道を上げること自体尋常ではなかった。それは日本が朝鮮への武力攻撃の先陣を切るというきわめてどう猛な侵略主義の表現であり、バカげたものであった。
国連憲章第七章は削除
これにたいして、拒否権を持つ常任理事国の中国、ロシアが「制裁は逆効果だ」として、強行するならば拒否権を発動することをにおわせ、拘束力のない議長声明にするよう主張。10日に中国が議長声明案を提示した。それは、朝鮮のミサイル発射に「重大な懸念」をあらわし、ミサイル開発の停止や六者協議への即時復帰を求めているが、国連憲章第7章にもとづく制裁条項は削除していた。朝鮮へのミサイル・核開発関連物資の供給停止や、朝鮮からのミサイル関連物資の調達停止についても、加盟国に義務づけるのでなく「要請する」となっていた。
しかし、安倍官房長官や麻生外相は「拘束力のある制裁決議は譲れない」と突っ張り、10日にも決議採決の強行をはかった。そこへハドリー米大統領補佐官から「中国の朝鮮説得の結果を待つ」との指示が届いた。ブッシュも「現時点での戦略は、北朝鮮を6カ国協議のテーブルに戻すことだ」とだめ押しした。ライスも、中国の朝鮮への影響力は「非常に大きい」と持ち上げた。安倍官房長官は、はいかしこまりましたと態度を豹変、制裁決議採決の先送りを認め、すべてアメリカ次第の大恥をさらした。
それ以後の5日間は、安保理で中ロに拒否権を行使させず、全会一致の採択ができるよう日米と中ロを中心にかけひきがおこなわれた。中ロが議長声明案を引っ込めて決議案を提出、そこでも国連憲章第7章を含む制裁決議にするかが焦点となった。
こうして15日全会一致で採択された決議案は、「朝鮮による弾道ミサイル発射を非難する」、ミサイル開発の行動の中止を求めるとうたったが、国連憲章第7章そのものを削除した。朝鮮へのミサイルや核開発の関連物資の提供または調達についても、加盟国に協力しないよう求めるだけで、義務とはしないとなっており、ほぼ中ロ案の内容となった。
これについて、安倍官房長官は「わが国が求めていた“制裁を含む拘束力のある決議”との立場を反映した」ものとコメントしたが、実はそれと真反対の「制裁」を骨抜きにしたたんなる「非難」の内容となっている。政府の提灯持ちに終始してきたマスメディアも、「現実はそれほど自慢できる内容ではなかった」ため、全会一致の採択を強調してお茶をにごす有様である。
米国の鉄砲玉の姿露呈
朝鮮のミサイル発射から安保理決議採択に至る全過程を見れば、小泉政府はアメリカの指示に踊らされ、多くの国から反発とひんしゅくを買ったピエロそのものであった。ブッシュ政府は初めから中ロとの力関係から軍事制裁の国連決議ができないと判断、日本に大騒ぎをさせる一方で、自分はヒル国務次官補を中国や「韓国」に送り、とくに中国を使って朝鮮に圧力を加えさせ、中ロとは裏取引をして、あたかも「調停人」のように振る舞ったのである。
こうしてきれいにアメリカに担がれ、あしらわれたことも自覚できないのが小泉政府である。朝鮮が安保理決議に拘束されないと表明すると、追加制裁措置の検討に入り、朝鮮への送金停止、金融資産の凍結など外国為替法にもとづく金融制裁に乗り出そうとしている。また、米軍再編計画の一環としてのミサイル防衛(MD)システムの配備を前倒しし、朝鮮や中国への包囲網を構築し、日本を原子戦争の戦場にする策動を強めている。
小泉政府が今度示した異常な好戦的姿勢は、「韓国」政府の反応に見られるように、かつて「邦人保護」とか「横暴なシナを懲らしめる」とか叫んでアジア諸国を侵略した姿をほうふつさせたものとして、アジア諸国の緊張と警戒心を高めている。もはや靖国神社参拝問題というより、実際に戦争をアメリカの手下となって起こそうとしているからである。
小泉政府のアジアでの役割は、中東でのイスラエルの役割とうり二つとなっている。イスラエルはパレスチナの民族独立運動を潰そうと、先月末からガザ地区に再侵攻し無実の住民を殺りくしている。これに対し、国連安保理はつい先日イスラエル軍の撤退を求める決議案採決をおこなったが、アメリカはまたも拒否権を発動して潰した。いままた、イスラエル軍はレバノンに侵攻、空爆をくり返し殺りくを欲しいままにしているが、アメリカは、「イスラエルに自衛の権利がある」とそそのかしている。安倍や麻生の「敵地攻撃も自衛権」という論と、一脈通じている。イラクやアフガンの泥沼に足をとられてにっちもさっちもいかないアメリカにとって、アメリカになりかわって戦争をやる忠実な手代は、日本やイスラエルの政府ぐらいとなっているのである。