■イスラエルの「衝撃と畏怖(shock and owe)」作戦ではガザは制圧できない。東京空襲の7倍以上の爆弾を投下されたガザ(10月30日)
10月30日、衆議院予算委員会で岸田首相は、27日のガザでの人道的停戦を求める国連総会決議案を棄権したのは、ハマスのテロ攻撃への強い非難がなく、バランスに欠いていると述べた。
しかし、これは人道的停戦を求める決議で、イスラエルがガザへの水や食料、電力の供給を止め、イスラエルによる大規模なガザへの攻撃が行われ、ハマスのテロとは何の関係もない市民が大勢犠牲になる中で、「ハマスのテロ攻撃」云々にこだわっている場合ではない。
30日、イスラエルのネタニヤフ首相はハマスとの停戦はないと言明した。27日に国連総会では人道的停戦を求める決議が採択されたにもかかわらずネタニヤフ首相はハマスとの戦争を継続する意図を明らかにした。
またネタニヤフ首相は「いかなる戦争にも意図せぬ民間人の犠牲はあり得る」と述べたが、イスラエルの場合はガザ地区へのライフラインの供給も止めており、民間人の犠牲を当初から意図しているように見える。
イスラエル軍は陸、海、空からガザを攻撃して、猛烈な空爆や砲撃の様子は、イラク戦争で米軍が使った「衝撃と畏怖(shock and owe)」作戦を行っているように見える。
イスラエル国防軍の男女混成部隊「カラカル大隊」はハマスとの戦闘で100人のハマス隊員を射殺したことを誇った。あたかも日本軍将校が日中戦争で100人斬りを誇り、中国人たちの恨みを買ったときのようでもある。カラカル大隊の発表はハマスやガザの人々のイスラエルへのいっそうの反発を招いたことだろう。
1945年2月のドイツ・ドレスデン空爆後、イギリスのチャーチル首相は、「ドイツ諸都市への空爆はドイツ人の間の恐怖を増幅させるものだ」と語った。第二次世界大戦中、米英の連合軍はヨーロッパ戦線で270万㌧の爆弾を投下したが、そのうち136万㌧はドイツ本土に向けられたものだった。太平洋地域では連合軍は65万6400㌧で、そのうち日本本土には16万800㌧が落とされたが、日本への無差別攻撃も日本人に恐怖を植えつけることを意図したものであったろう。
イスラエルはハマスの奇襲攻撃があった10月7日から25日までの2週間半の間に東京23区の六割程度の広さのガザ地区に1万2000㌧の爆弾やミサイルを投下した。その間、5800人ぐらいのガザ住民が殺害され、ガザは「ヒロシマになった」とも形容されている。1945年3月10日、東京大空襲に使われた焼夷弾の総重量は1700㌧だったからイスラエルの攻撃がいかに徹底したものかがわかる。(総務省の数字による)
第二次世界大戦後の朝鮮戦争では、投下された爆弾は69万8000㌧と著しく増加し、日本と朝鮮半島の焦土化作戦を担ったカーティス・ルメイは北朝鮮、韓国のすべての都市を焼き払ったと述べた。後にケネディ政権、ジョンソン政権で国務長官となったディーン・ラスクは北朝鮮で動くものはすべて爆撃したと回想している。
ニクソン大統領は1970年にカンボジアで動くものすべてを爆撃せよと命じたが、1960年代半ばから1973年まで米軍はベトナム、ラオス、カンボジアに800万㌧の爆弾を投下した。実に太平洋戦争中に日本本土に投下された爆弾の総量の40倍にあたる。
朝鮮戦争での米軍の戦死者は3万3739人で、アメリカではほぼ忘れられた戦争になっている。しかし、朝鮮半島の人々、特に北朝鮮はこの戦争を忘れてはいない。特に冷戦時代やその後のアメリカの核による威嚇は朝鮮戦争の記憶を更新させてきた。キム・ジョンウン朝鮮労働党委員長は「異常」な人間のように見えるが、北朝鮮もまた「恐怖」から「核抑止の世界」に入ろうとしている。
「恐怖」では人の心を制することはできない。イラクでの「衝撃と畏怖」は失敗し、いわゆる「イスラム過激派」によるテロは民間人の犠牲を多数伴うアメリカの恐怖戦略に対する報復として行われている。また、同様に10月7日のハマスによる「テロ」は、イスラエルの恐怖戦略に対する報復だろう。アメリカやイスラエルに欠けているのは(アメリカやイスラエルばかりではないが)、爆弾を落とされ、殺された側の被害者の意識への配慮だろう。
■難民キャンプを空爆するイスラエルと、イスラエルへの軍事支援で孤立するアメリカ(11月1日)
10月31日、イスラエル軍はジャバリア(ジャバリーヤ)難民キャンプに激しい空爆を加え、およそ20棟のビルが倒壊し、400人以上が死傷したと伝えられている。イスラエル軍報道官は10月7日のハマスによる「テロ」の主犯格であるイブラヒム・ビアリ(イブラーヒーム・ビヤーリー)を殺害したと語ったが、ハマスは、彼は健在であると主張している。
ガザには第一次中東戦争(1948年)で、現在のイスラエル領南部から避難してきた人々の親族がおよそ70%住んでいるが、ジャバリア難民キャンプは文字通り難民たちが狭い空間の中でインフラも未整備な中、不自由な生活を余儀なくされながら暮らしている。
難民キャンプを攻撃するのは国際法によって禁じられ、戦争犯罪に明らかに該当するもので、イスラエルの責任は厳しく問われなければならない。
「国際刑事裁判所に関するローマ規程」には次のように定められている。
第8条 戦争犯罪
(e) 確立された国際法の枠組みにおいて国際的性質を有しない武力紛争の際に適用される法規及び慣例に対するその他の著しい違反、すなわち、次のいずれかの行為
(i) 文民たる住民それ自体又は敵対行為に直接参加していない個々の文民を故意に攻撃すること。
(ⅱ) ジュネーヴ諸条約に定める特殊標章を国際法に従って使用している建物、物品、医療組織、医療用輸送手段及び要員を故意に攻撃すること。
(ⅲ) 国際連合憲章の下での人道的援助又は平和維持活動に係る要員、施設、物品、組織又は車両であって、武力紛争に関する国際法の下で文民又は民用物に与えられる保護を受ける権利を有するものを故意に攻撃すること。
(ⅳ) 宗教、教育、芸術、科学又は慈善のために供される建物、歴史的建造物、病院及び傷病者の収容所であって、軍事目標以外のものを故意に攻撃すること。
(v) 手段のいかんを問わず、防衛されておらず、かつ、軍事目標でない都市、町村、住居又は建物を攻撃し、又は砲撃し若しくは爆撃すること。
国連総会は10月27日、イスラエルとハマスの武力衝突をめぐって人道回廊の設置や「人道的休戦」を求める決議を採択したが、反対したのはイスラエルとアメリカなど14カ国だけで、アメリカの国際社会における影響力の低下を表すことになった。
イスラエルの国連大使はこの決議を「ナチスのテロリスト」を支持するものだと一蹴した。しかし、27日の決議までにイスラエル軍は8000人のパレスチナ人を殺害し、そのうちの30%は女性、40%は子どもたちで、大規模なテロを行っているのはイスラエルのように見える。「セーブ・ザ・チルドレン」によれば、イスラエルは10月7日までの3週間で、2019年以来世界の紛争で殺害された子どもたちの数以上の子どもたちをガザで殺した。
イスラエルはハマスが1400人を殺害したと発表しているが、933人しか確認されていない。イスラエルのハアレツ紙はそのうちの361人が兵士、警官、治安部隊の要員だったとしている。
国連総会決議は、イスラエルとそれを支持するアメリカが国際社会でいかに孤立しているかを表すことになった。アメリカとイスラエル以外で反対したのは、東欧4カ国(オーストリア、クロアチア、チェコ、ハンガリー)、ラテンアメリカ2カ国(グアテマラ、パラグアイ)、そして太平洋の小さな島嶼国6カ国だった。
アメリカの世論は、「データ・フォー・プログレス」によれば、66%が停戦とガザの暴力縮小を望んでいると回答したが、アメリカ議会ではコリ・ブッシュ議員が提出した「停戦と暴力縮小」を求める決議案に署名したのはわずかに18人で、マイク・ジョンソン新下院議長は、ガザに激しい攻撃を加えるイスラエルに140億㌦の支出を行う法案を提出すると公約している。10月24日、米議会はガザでのイスラエルの作戦に対する無条件の軍事支援を約束する法案を412票対10票で可決した。
バイデン政権の外交政策はトランプ時代のものをそのまま引き継いでいる印象で、軍事支出の漸増や、イランとキューバに対する制裁を継続し、ロシアと中国との冷戦をエスカレートさせている。トランプ政権時代に行われたアメリカ大使館のエルサレム移転や、イスラエルにゴラン高原の主権を認めたことなど修正する様子がなく、独自の迫力が感じられない。
国際社会では人道的停戦を求めた国連総会決議のように、アメリカの思惑とは離れ、G20、G77や、またASEANやアフリカ連合(AU)、ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体(CELAC)のような地域機構が合理的な議論や主張で力をもち始めている。ラテンアメリカではボリビアがイスラエルと断交し、チリとコロンビアも駐イスラエルの大使を召還した。ガザ問題について日本はアメリカの政策とは賢明に距離感をもったほうがよいことは言うまでもない。