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戦後の米国支配にかわる新経済圏 10年目迎えた「一帯一路」 国連加盟国の8割が参加 途上国のニーズに合致し拡大

第3回「一帯一路」国際協力サミットフォーラム(10月17日、北京)

 中国の首都北京で10月17、18日、第3回「一帯一路」国際協力サミットフォーラム(一帯一路フォーラム)が開催された。今回のフォーラムは2013年に中国の習近平が一帯一路構想を提案してから10年目の節目を迎えて開催されたこともあり、国際的に高い注目を集めた。フォーラムには140余りの国と30余りの国際機関の代表が参加し、4000人の招待者が出席した。とくにグローバルサウスと呼ばれる新興・途上国から130カ国以上の代表が出席した。一帯一路参加国は当初50カ国余りだったが、今年6月末までに152カ国に急拡大している。国連加盟国193カ国の実に八割近くが一帯一路構想に参加していることになる。10年目を迎えて欧米諸国のメディアでは「債務の罠」や「イタリアの離脱」などをあげて「一帯一路構想は破綻」などの報道もなされているが、世界中の国々がこの構想に参加したことはうち消すことができない現実だ。圧倒的多数の国々を引きつけたのはなぜなのか、今後はどういう方向に進むのかを見てみたい。

 

米国の横暴で機能せぬ世界銀行

 

 中国政府が10月10日に発表した「一帯一路」にかかわる白書では、中国は2023年6月末までに150余りの国、30の国際機関と200件余りの「一帯一路」共同建設の協力文書に署名している。2013~22年の中国と「一帯一路」参加国とのあいだの輸出入総額は累計19兆1000億㌦に達し、年平均6・4%のペースで増加している。また、双方向の投資額は累計3800億㌦をこえ、中国の対外直接投資は2400億㌦をこえている。2022年の中国と参加国との輸出入総額は約2兆9000億㌦にのぼり、同じ期間の中国の対外貿易総額の45・4%を占めており、2013年に比べると6・2ポイント上昇している【グラフ①参照】。

 

 また、白書で中国が大きな成果と位置づけているのが、ラオスへつながる高速鉄道だ。昆明からビエンチャンまで約1000㌔を9時間半で結ぶ。総工費1兆円の7割を中国が拠出し、残りの大半が中国からの融資だ。さらに中国は3つのルートで東南アジアと結ぶ鉄道構想があり、その一つとしてカンボジアを通って海に出るルートの建設計画が持ち上がっている。中国の大手建設会社が約600㌶の広大な敷地に物流拠点や製油所をつくる計画だ。カンボジアで昨年開通した初の高速道路は、以前5~6時間かかっていた首都・プノンペンと港湾都市・シアヌークビルのあいだを3時間余りに縮めた。

 

 ウズベキスタンの首都タシケント郊外では、2025年のアジア・ユース競技大会会場として15の屋外運動場を建設するプロジェクトを中国企業が2億8900万㌦(約434億円)で請け負っている。開発面積は東京ディズニーランド2つ分の約100㌶におよび、周辺では商業施設や住宅も開発中だ。

 

 白書では「少数の国家が発展の成果を独り占めする局面は変えるべきだ」とし、アメリカ主導の世界秩序を批判する論調も目立った。

 

「一帯一路」構想 沿線国でインフラ整備

 

 「一帯一路」構想は、2013年に習近平が提唱した、アジア~ヨーロッパ~アフリカ大陸にまたがる巨大経済圏構想で、中国を起点としたアジア~中東~アフリカ東岸~ヨーロッパのルートを「一帯」と呼ぶ陸路と、「一路」と呼ぶ海路によって結ぶ構想だ【地図参照】。

 

 「一帯」は、中国西部から中央アジアを経由してヨーロッパへと続く「シルクロード経済ベルト」を指し、「一路」は中国沿岸部から東南アジア、スリランカ、アラビア半島沿岸部、アフリカ東岸へと続く「21世紀海上シルクロード」を指す。これらの陸路(一帯)と海路(一路)で結ばれた沿線の各都市で交通網の整備(高速道路・鉄道・港湾による効率的な物流システムの構築)、パイプラインの敷設、生産工場の開設などをおこなってそれらの地域の経済発展に寄与するというのが「一帯一路」構想の経済的戦略だ。

 

 たとえば中国と欧州を結ぶ貨物列車の運行総数は、2011年には17本しか走っていなかったが、2017年には3673本、2021年には1万5183本と急増している【グラフ②参照】。

 

 「一帯一路」構想を資金面で支える機関として、「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」と「シルクロード基金」が創設された。AIIBは中国が主導するアジア太平洋地域のインフラ整備を支援する国際金融機関として習近平が2013年10月のAPEC首脳会議で提唱し、2015年に正式に設立した。シルクロード基金は2014年12月に、アジアのインフラを整備する目的で中国が独自に創設したファンド。AIIBとは異なり、中国独自の判断で投資先を決める機関となっており、出資規模は400億㌦にのぼっている。

 

 習近平が「一帯一路」構想を提唱した背景には、2008年のリーマン・ショックがある。

 

 リーマン・ショックでアメリカ、日本、ヨーロッパを含めた多くの国々の経済はマイナス成長に陥り、世界同時不況が起こった。そのとき中国だけが膨大な資金をつぎこみ、高速鉄道、高速道路、公共施設、通信設備、住宅など国内のさまざまなインフラ整備を実施する。景気刺激策実施のためにつぎ込んだ資金は4兆元(約57兆円)という驚異的な金額だった。

 

 当時のリーマン・ショックによる世界経済の低迷はこの驚異的な中国経済の成長が食い止めたといわれるほど、当時の中国の経済的躍進はすさまじいものだった。だが、すさまじい投資は当然ながら中国国内に過剰生産を生み出し、国内には鉄やセメントなどの資材が余り始める。その時期が「一帯一路」構想発表の2013年と重なり、「一帯一路」構想は、国内の過剰生産を海外に投資することで打開をはかる思惑があったと見られている。

 

 「一帯一路」の対象国は当初の「シルクロード経済ベルト」「21世紀海上シルクロード」からさらに枝分かれして複数の回廊から構成される、より複雑な構造に発展しており、関与する国は、アジア、ヨーロッパ、アフリカ、ラテンアメリカ、南太平洋地域にも広がっており、グローバルサウスの国々との結びつきを強めている。

 

 2017年にはG7(主要7カ国)で初となるイタリアが覚書に調印したことで、欧州各国に大きな衝撃を与えた。ちなみにイタリアは今年「一帯一路」からの離脱の意向を示したとしているが、メローニ首相はインドで開かれたG20首脳会議の記者会見で「一帯一路からの離脱は最終的に決まったわけではない」と説明している。正式な離脱表明の期限は12月になっている。かりに離脱を表明しなければ、イタリアが2019年に中国とかわした一帯一路に関する覚書は2024年に自動的に更新される。

 

 一帯一路からの離脱に関しては、イタリアは来年G7の議長国につくということもあり、アメリカや欧州連合(EU)からの脱退の圧力があったのではないかとの見方もある。ただし、イタリア政府は、一帯一路からの離脱後も中国との友好的な貿易・外交関係は保つとしている。

 

戦後米国の政策 途上国の開発の軽視

 

 世界中の国々が一帯一路構想に参加している要因はどこにあるのか。

 

 アメリカは第二次大戦後、保護主義に対抗して「自由貿易」を掲げ、GATTに次いでWTOを創設し、世界貿易を支配してきた。アメリカの世界経済構想は、域内の貿易・投資の自由化を法的に定め、貿易・投資を阻害する規制・慣行を撤廃し市場メカニズムが貫徹されれば、おのずと経済成長が実現されるという経済自由主義に立脚している。

 

 これに対して中国の一帯一路構想は、ユーラシア全土にわたる広域開発計画で、一帯・一路の双方で交通・通信・エネルギー等インフラの接続などの開発構想を提示している。さらに国境貿易・税関制度の標準化と自由貿易化、資金融通・自国通貨兌換範囲拡大により共通基盤を構築したうえで、石油・ガス・金属等の探鉱開発などの構想を提示している。

 

 中国の一帯一路構想は、海上貿易を基盤とする米欧日の世界経済システムにかわる、中国を起点とした新たな巨大経済圏のイメージを具体的に提示し、新たな世界経済発展の可能性を沿線諸国が想起できるものとして示している。とくに、世界経済の「辺境」である中央アジアなどは、先進国市場から切り離されたなかで、いかに経済発展をはかるかに苦しんできていたが、一帯一路構想は自国の経済発展に関する現実的なビジョンを提供した。中国の構想は、途上国にも理解できる具体的プロジェクトから構成されている。途上国は成長の起動力として大規模プロジェクトの必要性を痛感しており、中国の構想は彼らの政策と利益に即したものだった。

 

 米財務省次官や大統領特別補佐官を歴任したウェシングトン氏は「従来の米国の国際経済政策はルールづくりに特化し、開発を軽視してきた。一方中国は援助国の経済発展に直結した二国間借款を重視してきた」「米国はアジア諸国におけるインフラ整備の政治的重要性を理解していなかった」とのべ、「中国は途上国のニーズを理解しており、一帯一路構想が米国のアプローチより魅力があることは否めない」としている。

 

 さらに、第二次世界大戦後アメリカは世界銀行や国際通貨基金(IMF)を通じて開発資金を提供してきたが、今日その資金力の低下が際だってきていることと、そのもとで途上国の開発ニーズを軽視した大国の横暴がめだってきていることへの反発がある。

 

 第二次世界大戦後、アメリカは、世界銀行とIMF、アジアでは日米が共同で主導するADBを通じて開発資金を供給してきた。日本は1960年代以降、戦後賠償に起源を持つ円借款を拡大し、1990年代には一国で世銀に比肩する資金を供給してきた。だが、アジアでは過去20年間の経済成長により、生活の高度化や都市化が加速し、運輸・エネルギー・通信など多様なインフラ需要が高まったため、開発資金は絶対的に不足している。

 

 ADB加盟の途上国32カ国では2010~20年にインフラ整備に8・22兆㌦必要であるが、ADBの投融資額は2014年時点で271・7億㌦にすぎない。このためAIIBがアジア圏が必要とする資金を提供する国際開発金融機関として期待されてきた。AIIBに対し、欧米諸国が政治的な思惑から反対することは正当性に欠ける行為と目され、イギリス、ドイツ、フランスなどはアメリカの反対を押し切りAIIB創立のメンバーとなった。

 

 アメリカは、国際開発金融機関の運営においても、途上国への投融資に厳しい条件をつけ、開発プロジェクトへの投融資に拒否権を乱発してきた。2006年以降アメリカは世界銀行に申請される年間約200件の1割に反対し、プロジェクトを葬ってきた。

 

 このアメリカの独善的な対応に途上国は反発し、意思決定に関しては、先進国と途上国の投票数の均等化、米国の拒否権の廃止等が提案された。だがアメリカの反対で改革は進まず、途上国は世銀やIMF、ADBの決定が遅く、しかも官僚的であるとしてインフラ整備の資金調達先から外してきた。

 

 他方でAIIBは、世銀やADBとは異なり、インフラ投資業務への特化を目的とするものであり、融資決定は特定国に拒否権を認めず多数決とし、理事会を非常設化し、総裁に業務遂行に大きな権限を与えることで手続きの簡略化・経営迅速化をはかっている。この点でアメリカの国際開発金融機関運営とは異なる道を模索していることで評価されている。

 

 中国は、戦後のアメリカのやり方を反面教師として、途上国の開発・成長ニーズに沿った構想を提示し、中進国も含めた途上国のインフラ整備に特化した国際開発金融機関を立ち上げることで、アメリカとの差別化と途上国の支持獲得に成功した。

 

 中国は新たにAIIBを立ち上げた理由として、ADBの融資条件が厳しいこと、審査に時間がかかるなどの問題点をあげている。これまで中国はIMFにおける出資比率の見直しを求めてきた。

 

 IMFは、出資比率に応じて議決権が割り当てられる。圧倒的な出資比率のアメリカ(16・7%)に対して、中国は第6位の6・39%、(日本は第2位の6・56%)。IMFは重要事項の決定においては議決権の85%以上の賛成が必要で、15%以上の議決権を持つアメリカは事実上の拒否権を持っている。米議会は中国の発言権拡大を警戒し、出資比率の変更承認を拒否し続けている。

 

 また、アジアにおけるインフラ投資については、すでにアジア開発銀行(ADB)が存在している。ADBの最大の出資国は日本で、出資比率は15・7%、次いでアメリカは15・6%で2位だ。またADBの歴代総裁は1966年の創設以来、9代続いて日本人が務めており、アジア開発援助は完全に日米が主導権を握っている。ADBにおける中国の出資比率は6・5%で第3位だが、日米が30%以上を占めており、存在感は極めて小さい。中国はADBにおいても出資比率の拡大を求めてきたが、日米の壁に阻まれて実現していない。

 

 そこで中国が主導する国際金融機関としてAIIBを創設した。日本としては、アジア圏の経済成長にかかわるうえでは、ADBや世銀の枠組みでは開発資金の不足は目に見えており、一帯一路構想やAIIBに参加すべきかどうかの模索がおこなわれてきた。

 

 2016年に当時の安倍首相は一帯一路構想に対抗して「自由で開かれたインド太平洋」戦略を発表。他方では2018年に一帯一路へ明確な参加は表明しなかったが、第三国でのビジネス協力を推進することを目的に、金融やインフラ、エネルギーなどの分野で日中の政府機関や企業が52本の協力覚書を結んだ。だが、その後はもっぱら安全保障の観点から捉え、距離を置いている。

 

 だが、トヨタや日立といった大企業はAIIBへの参加を政府に求めるなど、AIIBがおこなう開発プロジェクトにかかわれないことで失うものの大きさを危惧している。

 

 一帯一路構想の立ち上げから10年が経過し、中国が影響力を増していくなかで、危機感を持ったアメリカは中国敵視政策を強め、2018年には議会上院で一帯一路に対抗する海外インフラ支援法を成立させ、同じ月にペンス副大統領(当時)が「債務の罠外交をラテンアメリカの諸政府にまで持ちかけている」と中国を強く非難した。その後欧米メディアは一帯一路構想を「債務の罠」と批判し、「構想は破綻した」との論調を強めている。

 

 中国は白書のなかで「各国の発展レベルや経済構造などを十分に尊重する」と対等な協力関係の構築に努めることを強調している。そして中国としては一帯一路の過去10年を「建設の序章にすぎない」とし、「今後さらにイノベーションと活力をともなわせ、開放と受容を実践し、中国と世界のために新たなチャンスを提供していく」としている。専門家は「一帯一路が後戻りすることはない」「中国は一帯一路を通じて先進国優位の経済構図をつくり変えるという挑戦を続ける形になりそうだ」と見ている。

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