■ガザ住民に水を与えないイスラエルの戦争犯罪(10月15日)
ハマスのイスラエルへの奇襲攻撃を受けてイスラエルはガザに対する水や食料の供給を断った。水がなければ人間は生きていくことはできず、水を飲まないで生活した場合、4日から5日が限界だそうだ。イスラエルはハマスの攻撃があった7日から電気、水、食料の供給を停止したからもう限界を超えるような状態になった。イスラエルはガザ住民に対する水や食料の供給を再開しなければならない。
7日から始まったイスラエルのガザ攻撃によって犠牲になった人の数は2300人を超え、国際社会の激しい非難を受けた2014年のガザ攻撃よりも犠牲者の数は多くなった。イスラエルの攻撃は明らかに集団的懲罰という国際法違反の行為である。
現在のイスラエルのガザ攻撃に関する戦争犯罪を国際刑事裁判所のローマ規程(1998年成立)から該当するものを下に紹介する。
1.殺人
2.身体又は健康に対して故意に重い苦痛を与え、又は重大な傷害を加えること。
3.軍事上の必要性によって正当化されない不法かつ恣(し)意的に行う財産の広範な破壊又は徴発
4.不法な追放、移送又は拘禁
5.文民たる住民それ自体又は敵対行為に直接参加していない個々の文民を故意に攻撃すること。
6.民用物、すなわち、軍事目標以外の物を故意に攻撃すること。
7.手段のいかんを問わず、防衛されておらず、かつ、軍事目標でない都市、町村、住居又は建物を攻撃し、又は砲撃し若しくは爆撃すること。
8.占領国が、その占領地域に自国の文民たる住民の一部を直接若しくは間接に移送すること又はその占領地域の住民の全部若しくは一部を当該占領地域の内において若しくはその外に追放し若しくは移送すること。
上のような行為はいずれもイスラエルのガザ攻撃やヨルダン川西岸における入植地の拡大などの行為に明確に当てはまる。
パレスチナ人たちは環境問題をめぐってもアパルトヘイト状態に陥っている。イスラエルが占領したり、封鎖したりするパレスチナの土地は環境問題が深刻になっている。ガザの住民たちは、ガザの地下にある帯水層を利用しているが、その帯水層は海水や化学物質によって汚染されるようになっている。イスラエルがガザとヨルダン川西岸地区を分離しているために、ガザの住民たちはガザの帯水層しか利用できない。またイスラエルはガザの水道管、井戸、その他の水に関わるインフラを爆撃、破壊し、またパレスチナ人たちはイスラエルのガザ封鎖によって、水道インフラを修理する部品も調達できず、また海水淡水化プラントも建設できないでいる。飲料水が汚染されているために、ガザではサルモネラ感染症や腸チフスなどの疾患に罹っている。
欧米諸国は戦争犯罪を繰り返すイスラエルに支援を与えているが、パレスチナ系の米国人思想家のエドワード・サイード(1935~2003年)は、シオニズムはヨーロッパ植民地主義の原則がパレスチナに移入されたもので、欧米諸国はパレスチナ人たちが置かれた苦境に配慮することがないと語った。サイードは、西洋のオリエント認識は人種主義に基づくもので、西欧的な考えに同化しない人種に冷淡なのだと主張した。シオニズムは、元々パレスチナに住んでいた人々の存在を否定し、排斥する傾向にある。サイードは、世界各地の人権侵害を批判する欧米諸国がイスラエルのパレスチナ人抑圧を問題にすることがない「偽善」を指摘した。
イスラエルに人道的配慮を行わせるには国際世論はやはり重要なファクターとなる。 ハマスの奇襲攻撃の後、ハーバード大学の「ハーバード・パレスチナと連帯するグループ」は、すべての暴力の責任はイスラエル政府に責任があるという声明を出した。今年4月、ハーバード大学の学生新聞「ハーバード・クリムゾン」は、その編集委員会の名でイスラエルに対するBDS(ボイコット、投資撤収、制裁)を呼びかけたこともあった。パレスチナ人の人権の尊重、パレスチナ人の解放が強調されている。これが公正の実現に向けた一つのステップであり、キャンパス内外の組織化と連帯の始まりであると述べられている。
アメリカの大学生たちが世界の矛盾の是正に大きな影響力をもつことは、1980年代にカリフォルニア大学バークレー校の学生たちがアパルトヘイトの南アフリカ政府とビジネスを行う会社への投資を大学が撤収するように要求したことが、アパルトヘイト廃止に向けて重大な貢献となったことにも見られたが、アメリカの学生をはじめ国際社会の公正を求める動きがイスラエルの戦争犯罪を止める手立てとなればと思う。
■ハマスの攻撃と「テロ」という言葉(10月16日)
小野寺五典元防衛相は15日、パレスチナの武装組織ハマスによるイスラエルへの攻撃を日本政府が「テロ」と形容して非難した時期が遅かったと述べた。小野寺氏は「数日たっていたのは国際社会の見方からすると遅い発言かなと思う」と述べた。この場合の「国際社会」は「欧米社会」と置き換えたほうが適切だ。ハマスの攻撃を「テロ」と見なすのはイスラエルと、イスラエルに絶対的な支持を与えるアメリカや、その一部のヨーロッパ同盟国だけだ。アラブ・イスラム諸国ではハマスの攻撃はテロと見なされず、日ごろのイスラエルによるパレスチナ人に対する暴力の行使のほうが重大なテロと考えられているだろう。
日本政府首脳はイスラム世界の武装集団の暴力については「テロ」という言葉をしきりに使うが、同盟国である米国やイスラエルの武力の行使(=暴力)については「テロ」という言葉を使うことがない。
ハマスの暴力をもたらしたのは、イスラエルが国際法を守らず占領を継続し、占領地で入植地を拡大することや、裁判もなく、パレスチナ市民を殺害したりすることが背景にある。イスラエルがパレスチナ人との共存を考え、そのための措置を真摯にとっていれば、大勢のパレスチナ人の命は失われることがなかっただろう。『ABC』の記事(10月15日付)によれば、2008年以降、イスラエル軍によって殺害されたパレスチナ人は6400人に及び、それに対してイスラエル人の犠牲者は300人だ。暴力はまったく肯定されるものではないが、ハマスの攻撃に米国など欧米諸国に同調するように、「テロ」という言葉を容易に用い、欧米やイスラエルの軍事行動を「テロ」と形容しない日本政府の姿勢はイスラム世界、ムスリムの人々から好感をまったくもたれないだろう。
本来、イスラムという宗教ではテロはまったく容認されない。『コーラン(クルアーン)』第6章151節には「アッラーが神聖化された生命を、権利のため以外には殺害してはならない」。第2章256節では「宗教には強制があってはならぬ」と説かれる。
第2章190節には「戦いを挑む者があれば、アッラーの道のために戦え。だが侵略的であってはならない。本当にアッラーは、侵略者を愛さない。」とある。
また第2代カリフ(預言者ムハンマドの後継者)アブー・バクル(573~634年)に関するハディース(伝承)には彼が「女性、子供、老人、病人を殺してならぬ」と語ったというものがある。
テロリズムに相当するアラビア語の言葉は「ヒラーバhirabah(人間社会に対する不法な戦争)」と言い、スペインのイスラム法学者であるイブン・アブドゥル・バッル(1070年没)は、「ヒラーバとは人間の自由な移動を妨げ、旅人に危害をもたらし、腐敗を普及させ、また人を殺害したりすることである」と規定した。イスラムでは神の啓示を信じ、同じ聖典をもつキリスト教徒やユダヤ教徒の生命・財産の安全を保障しなければならないと説く。
イスラエルは、イスラエル軍・警察などを攻撃するパレスチナ人を一様に「テロリスト」としているが、10月7日にハマスの攻撃があって以来、イスラエル軍の空爆で殺害されたガザのパレスチナの子どもたちの犠牲は724人に及ぶ。
子供たちがイスラエルの安全にとって脅威ではないことは明らかで、かりに子供たちを守るためにパレスチナ人が暴力を行使したとしてもそれは自衛であってテロではない。占領地で武力に訴えるイスラエル軍・警察のふるまいはウクライナに侵攻したロシア軍と本質的に変わりなく、占領軍に対する抵抗は自衛権の行使と言える。本来は守られるべきパレスチナの子供たちが殺害されることにも、日本の政治家たちは関心をもち、非難しなければ、公平ではないことは言うまでもない。
■病院空爆というイスラエル軍の戦争犯罪はまったく容認できない(10月18日)
平和こそが 戦争犯罪人を膝まずかせ
自白するように 余儀なくさせる
そして犠牲者たちとともに 叫ぶのだ
戦争をやめろ
――ルイ・アラゴン(フランスの作家・詩人1897~1982年)「平和の歌」より
17日、ガザの武装勢力ハマスとイスラエル軍の戦闘で、ロイター通信はイスラエル軍が空爆によって病院を破壊し、500人ぐらいが犠牲になったと伝えた。
1回の軍事行動でこれほど多くの人々が亡くなったことはかつてなかった。イスラエル軍は親イランの民兵組織「イスラム聖戦」が攻撃したとして関与を否定したが、パレスチナの武装組織である「イスラム聖戦」がガザの病院を攻撃する動機はまったくないし、一度の攻撃でこれほどの破壊力や犠牲をもたらすほどの火力や破壊力はとうてい持ち合わせていない。
ガザではすでに3000人が死亡して、世界中から反発や非難を受けた2014年のガザ攻撃以上の犠牲がすでに出ている。イスラエル軍はガザ住民のガザ北部から南部への退避を求めたが、その南部でもエジプトに至るラファ検問所付近でイスラエル軍の爆撃で49人が死亡した。
イスラエル軍の空爆は、武装組織ハマスや「イスラム聖戦」の殲滅を図ったものだったが、この空爆が正しくないのは武装組織とは関わりのない子供を含む多くの市民の犠牲を伴うからだ。米軍がアルカイダやISの指導者の殺害をイラクやアフガニスタンなどで主権を無視しておこなったのと同様に、ガザ市民たちやガザの武装組織の指導者たちは裁判にもかけられずに、イスラエル国外で殺害されている。
1949年8月12日のジュネーヴ諸条約の国際的な武力紛争の犠牲者の保護に関する追加議定書(議定書Ⅰ)(1977年採択)には、文民の保護について総則の第1条4項で「国際連合憲章並びに国際連合憲章による諸国間の友好関係及び協力についての国際法の諸原則に関する宣言にうたう人民の自決の権利の行使として人民が植民地支配及び外国による占領並びに人種差別体制に対して戦う武力紛争を含む」とある。
「人民の自決の権利」「植民地支配」「外国による占領」「人種差別体制」、すべて現在のイスラエルとパレスチナの関係に当てはまる。イスラエルはパレスチナ人の自決の権利を奪い、植民地支配を行い、占領を継続し、イスラエル国内や占領地で人種差別体制を敷いている。このようにパレスチナ人がロケットなどで占領と戦うことは国際法からも認められ、逆にイスラエルのガザ攻撃は国際法の観点からまったく正しくない。イスラエルが占領政策やガザへの封鎖をあらためない限り、パレスチナ人はイスラエル領内にロケットを撃ち続けることになるだろう。
ハージョ・マイヤー博士(1924~2014年)はオランダの物理学者で、アウシュビッツでの収容経験があり、晩年は反シオニズム(イスラエル国家の基盤となるナショナリズム思想)の運動に従事し、イスラエルが「ホロコースト」をパレスチナ人に対する犯罪を正当化するために利用していると非難するようになった。2010年にイギリス労働党のジェレミー・コービン氏に招請された講演会では、空爆などイスラエルのガザの人々に対する扱いをホロコーストにおけるユダヤ人の大量殺害にたとえた。