イスラエルとパレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスの戦闘をめぐり、国連安全保障理事会は18日、ガザ地区の数百万人に救命支援を安全に届けるための「一時的な人道停戦」を求める決議案を否決した。議長国ブラジルが提案し、理事国15カ国のうち12カ国が賛成したが、拒否権を持つ常任理事国の米国が反対したため否決となった。

 

　安保理決議は、理事国の9カ国以上が賛成し、常任理事国（米国、英国、フランス、ロシア、中国）の反対が一切ない場合にのみ承認される。

 

　国連安保理での停戦決議案の採択は16日にもおこなわれたが、このときロシア主導で提案された停戦決議案について、米国は「ハマス非難が入っておらず、ロシアがテロ集団を庇っている」と反発。ロシア側は「これは非難決議ではなく、人道決議だ」と反論したが、賛成は中国、アラブ首長国連邦（UAE）など5カ国にとどまり、米国、英国、日本、フランスの4カ国が反対。ブラジルなど6カ国が棄権した。

 

　これを受けて今回ブラジルが提案した決議案は、10月7日以降のイスラエルに対するハマスの攻撃を「凶悪なテロ攻撃」と糾弾したうえで、「すべての人質の即時かつ無条件の解放を求め、国際法を遵守した安全、幸福、人道的待遇を要求する」「すべての当事者に対し、国際人権法、国際人道法を含む国際法上の義務を完全に遵守するよう求める」「電気、水、食料、医薬品を含む民間人への必要不可欠な物資やサービスの継続的、適切かつ妨げのない提供を求め、国際人道法の下で、民間人が生存に不可欠なものを奪われないようにする必要性を強調する」と明記した。

 

　また、イスラエルの名指しを避けながらも、ガザ北部の住民110万人に対する退避勧告の「撤回」を要求。「国連の人道支援機関、赤十字国際委員会、その他の公平な人道支援組織に対し、迅速、安全かつ妨げのない人道的アクセスを可能にするため、戦闘の人道的一時停止を求め、人道回廊の設置や民間人への人道支援提供のための取り組みを奨励する」「国際人道法に則り、医療業務に従事するすべての医療要員および人道支援要員、その移動手段および機材、ならびに病院やその他の医療施設の尊重と保護」を求めた。

 

　停戦決議に難色を示す米国が要求する「ハマスへの非難」を盛り込んででも、人道停戦を急ぎたい各国の判断をにじませた。

 

　だが採決では、賛成が12カ国にのぼる一方、米国が反対し、ロシアと英国の2カ国が棄権。常任理事国の米国が反対（拒否権を発動）したため決議は再度否決された【表参照】。

 

　米国のトーマス・グリーンフィールド国連大使は、今度は「決議案にイスラエルの自衛権が含まれていない」と主張。「自衛権の行使」と称して、ガザ民間人への無差別攻撃を続けるイスラエルの行為を擁護し、「停戦決議は重要だが、私たちの行動は現実にもとづかなければならない」などと反対理由をのべた。

 

　提案国ブラジルのフランサ・ダネーゼ国連大使は、「人道的大惨事に直面して安保理が麻痺することは国際社会の利益にならない」とのべ、「非常に残念なことに、理事会はまたしても危機に関する決議を採択できず、再び沈黙と無策が蔓延した」と憤りをあらわにした。

 

　WHO（世界保健機関）は17日、パレスチナ自治区ガザ地区では、すでに115の医療機関が攻撃を受け、大半の病院が機能せず、水や電気、医薬品も不足していると報告。国連パレスチナ難民救済事業機関（UNRWA）が運営する22カ所の医療機関のうち、部分的に機能しているのは8カ所のみ。そのため慢性疾患のある35万人が治療を受けられていないという。イスラエルの空爆開始以来、ガザ地区では2800人が死亡し、1万1000人が負傷したとしている。

 

　グテーレス国連事務総長は18日、「この地域は崖っぷちに立たされている」とのべ、圧倒的多数が女性と子どもであるガザ住民の「最も基本的な要求」に応えるために、一刻も早い人道援助と停戦の必要性を強調した。

 

（※追記：グテーレス事務総長は20日、ガザ南部とエジプトを結ぶラファ検問所前で、「この壁の向こうには水もない」とイスラエルに人道物資を物資搬入させるよう要求。国連援助物資を載せた20台のトラックがガザに入ったが、人口分を充たすための援助物資はトラック100台分が必要といわれている。）