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イスラエルの占領支配に反撃 パレスチナ・ハマスが砲撃し交戦状態に 長年の人種迫害に怒り爆発 看過できぬ米国の歴史的関与

イスラエルの空爆を受けたガザ地区(9日)

 中東のパレスチナ自治区・ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスが7日、イスラエルに対して数千発のロケット弾を発射するとともに、ハマスを含むパレスチナ側の戦闘員が初めての越境攻撃をおこない、イスラエルの兵士や市民約100人を拘束した。一方、これに対してイスラエルは8日に宣戦布告し、一晩中続いた1000回をこえる空爆でパレスチナ人500人以上を殺害した。双方の死者は3日間で2000人に迫るといわれるが、攻撃の応酬は現在も続いている。アメリカのバイデン大統領はハマスをテロリストと呼び、イスラエルへの武器弾薬の供与を8日から開始した。岸田首相もハマスを強く非難した。一方、周辺国や世界からは、軍事力では圧倒的な差があるこの戦争の即時停戦を求めるとともに、イスラエルの長期にわたる占領を非難しパレスチナ人の権利を擁護する声明があいついでいる。緊迫するパレスチナの事態をどうみるか、歴史的にも振り返って考えてみたい。

 

一方的隔離と殺戮を容認してきた米国

 

 ハマスは7日朝、テルアビブやアシュドゥドなどイスラエル各地を数千発のロケット弾で攻撃し、戦闘員による越境攻撃をおこなった。

 

 ハマスはその理由として、「ここ1週間、数千人のイスラエル人入植者が、イスラム教の聖地ベイトルモガッダス・エルサレムにあるアル・アクサー・モスクを何度も襲撃し、多数のパレスチナの民間人を負傷させていた。これは、イスラエルによるこの聖地に対する支配の前兆だ」とのべている。

 

 アル・アクサー・モスクはエルサレム旧市街の「神殿の丘」にある。そもそもここエルサレムは、イスラエルが国際法に背いて違法に占領している場所だ。イスラエルは1967年の第3次中東戦争で、東エルサレムを含むヨルダン川西岸、ガザ、シナイ半島、ゴラン高原を占領したが、国連安保理はイスラエルの占領地からの撤退を求めてきた。その後、イスラエルは東エルサレムを併合し、1980年には東西を統合したエルサレムをイスラエルの首都とする基本法を成立させたが、国連総会はこの決定を国際法違反で無効としている。

 

 ところがイスラエルはこれを聞き入れず、2000年代に入ってからはエルサレムをぐるりととり囲む形で、そこに住むパレスチナ人を強制的に追い出しては、イスラエル人をどんどん入植させる政策を進めてきた。国連安保理は占領地への入植禁止を決議しているが、それも無視してきた。トランプ米大統領が2017年、このエルサレムをイスラエルの首都に認定し、イスラエルへの援護射撃をおこなったことは記憶に新しい。

 

 一方、ハマスの攻撃に対してイスラエルは7日午後、ガザへの送電を停止し、それから爆撃を開始した。市中心部のビルも、北部の病院も破壊され、スタッフが死亡した。住宅地やモスク、学校、インフラへの爆撃も続行している。ネタニヤフ首相はガザを「悪魔の街」と呼び、「あらゆる場所を廃墟にする」と宣言した。

 

 イスラエルは9日朝までにガザ地区に1149回の空爆をおこなった。ガザにあるパレスチナ保健省は10日未明、ガザ地区では女性や子どもを含む704人のパレスチナ人が殺害され、4000人以上が負傷していると明らかにした。

 

 さらにイスラエルのガラント国防相は9日、ガザ地区を完全に包囲し「電気や食料、燃料を遮断する」「われわれは人以外の動物とたたかっている」と宣言した。これに対しては、「ホロコースト(ナチスによるユダヤ人の大量虐殺)を再現するつもりか。ガザが強制収容所と化すのを容認する民主主義者は、世界に一人もいない」と、コロンビアのペトロ大統領が痛烈な批判を浴びせている。

 

「パレスチナの権利守れ」 各国が二重基準批判

 

パレスチナへの攻撃停止と保護を求める数千人のデモがおこなわれたスペイン・バルセロナ(9日)

 アメリカのバイデン大統領は7日、「テロリストがイスラエルの一般市民を路上や彼らの自宅で殺害した。罪のない人々が殺され、人質にとられた」「イスラエルの安全保障への支援は揺るぎない」と演説。イスラエルに対して武器弾薬の供与を8日から始めるとのべた。

 

 岸田首相もアメリカに右へならえで「(ハマスの攻撃で)罪のない一般市民に多大な犠牲が出ており、わが国は強く非難する」とのべた。米英仏独伊の5カ国首脳は9日、電話協議をおこない、「イスラエルへの結束した揺るぎない支持と、ハマスのテロ行為に対する明白な非難を表明する」とする共同声明を発表した。

 

 これとは対照的に、周辺諸国はじめグローバルサウスの国々は、即時停戦を求めるとともに、イスラエルの長年にわたる国際法違反とパレスチナ人抑圧を強く非難している。

 

 サウジアラビア外務省は「われわれは(イスラエルによる)継続的な占領とパレスチナの人々の正当な権利の剥奪の結果、事態が噴き出す危険性についてくり返し警告してきた」とイスラエルを非難した。

 

 パキスタンのアリフ・アルヴィ大統領は、「イスラエルによるパレスチナ人の権利や富の剥奪と残虐行為を非難することなしには和平は達成できない」とのべ、イスラエルの「継続的な土地併合」を非難した。

 

 トルコのエルドアン大統領は、「パレスチナ人に対する絶え間ない嫌がらせ、彼らの生命と財産と安全の無視、彼らの家と土地の押収を含むイスラエルの政策は、紛争と不安を引き起こすだけであり、最終的にはパレスチナ人とイスラエル人双方の安全を脅かすものだ」とのべ、「両者の紛争を調停する用意がある」とのべた。

 

 マレーシア副首相アフマド・ザヒド・ハミディ氏は、「欧米大国はウクライナ危機で迅速に支援を提供した。しかし、彼らはパレスチナを無視し、イスラエルの暴力に目をつぶった。それが今回、双方で数千人が死傷した原因だ」と、G7のダブルスタンダード(二重基準)を厳しく批判した。

 

 インドネシア外務省は「紛争の根源、すなわちイスラエルによるパレスチナ領土の占領は、国連が合意した条件に従って解決されなければならない」とのべた。

 

 南アフリカの最大政党・アフリカ民族会議(ANC)は声明を発表し、「世界が介入し、1967年の国境(1948年のアラブ・イスラエル戦争後に引かれ、現在もイスラエルの国際的に認められた境界線として機能している)にもとづく二国家解決策の実施を確実にしなければならない。イスラエルが土地を強奪するという執拗な政策で、パレスチナ人を瀬戸際に追い込んだ」「アパルトヘイトの南アフリカの歴史がパレスチナの現実になっていることは、もはや疑いの余地がない。その結果、入植者イスラエルの残虐行為に対抗するパレスチナ人たちの決定は驚くことではない」とのべた。

 

 アメリカ・ニューヨークでは、アレクサンドリア・オカシオ=コルテス、ラシダ・トレイブ、イルハン・オマルら民主党下院議員らが呼びかけて、パレスチナ人の権利を擁護する集会が開催された。8日にはサンフランシスコやシカゴ、ロサンゼルス、アトランタなど全米の各都市で数千人が街頭にくり出し、「抑圧とアパルトヘイトに抗議するのはパレスチナ人の基本的な権利だ」と訴えた。

 

エスカレートする蛮行 包囲されたガザ地区

 

 日本の大手メディアは「ハマスがイスラエル攻撃」「ロケット弾数千発」といった調子で局面を切りとった報道をくり返すものが多く、空爆下で暮らすパレスチナの人々の状況は伝えていない。

 

 中東研究者たちが指摘するのは、イスラエルで昨年12月末、極右を含むネタニヤフ政権が成立して以降、パレスチナとの共存を否定しパレスチナを抹殺しようとする動きが強まってきたことだ。

 

 これまでイスラエル政府は、パレスチナ自治政府の代理で徴収した税金を同自治政府に送金してきたが、宗教シオニスト党のスモトリッチ財務相は1月、この送金を差し止めた。同財務相は3月には「パレスチナ人など存在しない」「歴史も文化もない」と発言して、物議を醸している。

 

 極右政党「ユダヤの力」のベン・グヴィル国内治安相は、デモの制圧や占領地における特殊作戦を担う国境警備隊を指揮下に置き、「イスラエルの治安の安定のためにパレスチナ人を殺害することがイスラエル政府の責務である」と公言している。

 

 こうしたなかでイスラエルはパレスチナ人の家屋の強制立ち退きや破壊、襲撃、放火をおこない、東エルサレムやヨルダン川西岸で入植地を次々と拡大している。暴力的行為が日常化し、今年1月から8月までに少なくとも247人のパレスチナ人がイスラエル軍によって殺害された。

 

 昨年もヨルダン川西岸で、イスラエル軍の急襲作戦などによって、合計150人以上のパレスチナ人が殺害されている。昨年10月には西岸ナブルスで、イスラエル軍に虐殺された5人のパレスチナ人の若者の葬儀に数万人の市民が集まり、抗議した。

 

 一方、日本の種子島ほどの面積に約230万人が暮らすガザ地区は、「天井なき監獄」と呼ばれる。2006年からイスラエル政府の厳しい経済封鎖下にあるからだ。

 

 ガザはかつて世界有数のイチゴの産地で、それが外貨獲得の貴重な手段だったが、いまや空港は破壊され、港湾からの輸出も禁止され、エジプトに通じる陸路も検問所が閉鎖されている。パレスチナ人がガザを出るときにはイスラエル政府が発行する移動許可証が必要だが、許可が下りないことも多く、移動の自由すら奪われている。

 

 経済封鎖の影響で、ガザでは電気が1日2~3時間しか使えず、上下水道の設備も多くが破壊されている。イスラエルは2014年、地上侵攻を含む大規模な軍事攻撃をしかけ、2300人以上のパレスチナ人を殺した。街の復旧や家の再建にはコンクリートが不可欠だが、イスラエルが搬入を規制した。ガザ全体の失業率は44%、若者に限れば60%をこえ、世界最悪である。こうした状況が今まで16年間も続いている。

 

 最近、パレスチナ人の若い世代のなかで、新たな武装勢力が台頭しているという。彼らは和平を実現しないパレスチナ自治政府など、既存の政治勢力を信頼していない。

 

 また、パレスチナ人に対する抑圧を第3次中東戦争で占領された西岸地区とガザ地区だけに限定せず、イスラエル領内のパレスチナ市民に対する差別や、パレスチナ難民の帰還権にまで広げて把握し、イスラエルの対パレスチナ人政策を「アパルトヘイト(人種隔離)犯罪」としてとらえ、変革を求める草の根の運動も広がっている。

 

 ハマスは2006年のガザ地区自治選挙(国会議員選挙に相当)で第一党になり、ガザ地区を実効支配してきたイスラム勢力であり、そうしたパレスチナ人の世論に縛られる関係だ。イスラエルがパレスチナ人の生存権すら認めぬジェノサイドを数十年にわたって続けてきたことが、今回の事態を引き起こすまでに至った原因にほかならない。

 

中東の矛盾はらみ拡大 イスラエルでも反ネタニヤフ高まる

 

 もう一つの要因として、中東全体の矛盾関係が影響していることも見逃せない。現在アメリカは、サウジアラビアとイランとの関係強化に歯止めをかけるため、サウジとイスラエルとの関係正常化を強力に後押ししており、ハマスの攻撃はそこに楔(くさび)を打つ狙いがあったと見られる。

 

 イランとサウジは今年3月に国交正常化で合意したが、それはアメリカがイラク戦争で失敗し、アフガニスタンからは叩き出されるなど、「自分の利益のために地域の緊張を高めることしかしない」という中東諸国の反発の高まりと、アメリカの力の衰退のなかで起こったことだった。

 

 これに対してアメリカは2020年、イスラエルと、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、スーダン、モロッコのアラブ4カ国との国交正常化を後押しした。そして現在イスラエルは、「アラブの盟主」といわれるサウジとの国交正常化を最大の目標に掲げている。

 

 今回のハマスの攻撃は、「中東地域の平和と安定のためには、まずイスラエルの占領を終結させなければならない」というメッセージを発したことになる。サウジは国内にイスラム教の二大聖地を抱え、以前からパレスチナ国家の樹立を求めてきた。中東アラブ地域では、歴史的にパレスチナのたたかいに対する共感が強く、イスラエルがガザ地区で多くのパレスチナ人を殺傷していることに対して、中東地域の総反発は必至だ。

 

 イランのホセイン・アミール・アブドラヒアン外相は、イスラエルの侵略と占領に対抗するパレスチナ人の正当な権利を強調し、イラク外相とともに、パレスチナを支援するためイスラム協力機構(OIC)緊急会合の開催を呼びかけた。

 

 また、ハマスのイスラエルへの攻撃の翌8日、隣国レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラが、レバノン南部のシャバア農場を占拠して建てられたイスラエルの軍事基地3カ所への攻撃をおこない、「パレスチナとの連帯のためにおこなった」と声明を出した。ヒズボラも「イスラエルとの国交正常化をめざしている国に対するメッセージだ」と主張している。

 

 一方、この事態をめぐり、イスラエル国内ではネタニヤフ首相への批判が巻き起こっている。イスラエル第3の大手新聞『ハーレーツ』は9日の社説で、「今週末イスラエルを襲った“災害”の全責任はベンヤミン・ネタニヤフにある」とし、ユダヤ人至上主義者たちを大臣にしてパレスチナ人の存在を否定したこと、ヨルダン川西岸を併合するための公然の措置を講じ、オスロ合意が定めた地域で「民族浄化」を実行したこと、アル・アクサー・モスク近くで入植地の大規模な拡大をやったことを批判した。

 

 イスラエルでは1月から、裁判所の権限を弱めて三権分立を形骸化し、首相権限を強める司法改革に対し、毎週何十万人という人々が抗議デモにくり出した。運動は軍隊や予備役兵にも広がり、それが一因となってハマスの攻撃を事前に察知できず、大きな被害を許したと指摘する意見もある。

 

 他方でアメリカは、イスラエルへの武器弾薬の供与を発表し、原子力空母「ジェラルド・フォード」を東地中海に派遣する指示を出した。世界の力関係の変化は、より大規模な戦争の危険性をはらみつつ進行している。

 

崩された二国家共存 求められる即時停戦

 

 以上のようなパレスチナをめぐる複雑な矛盾関係は、歴史的に形成されてきたものだ。

 

 エルサレムにはイスラム教、ユダヤ教、キリスト教の3つの宗教の聖地がある。この地域で今日に至る矛盾が形成された契機は、第一次大戦の戦勝国となったイギリスの三枚舌外交にあるといっていい。イギリスは一方で、アラブがオスマントルコから自力で解放した地域にイギリスは干渉しないと約束しつつ、その裏でアラブ世界をイギリスとフランスで山分けする秘密協定を結び、他方でユダヤ人がパレスチナにナショナル・ホーム(民族的郷土)を建設することを承認・支援するという、相矛盾した政策をとった。

 

 第2次大戦が終わり、1947年の国連総会は、パレスチナの土地の56・5%をユダヤ国家、43・5%をアラブ国家のものにするというパレスチナ分割決議を採択した。当時のパレスチナのユダヤ人人口はアラブ人の1割に満たず、これは実際とかけ離れていた。アラブは、オスマントルコを倒すために英仏に利用されただけだった。

 

 翌1948年、イスラエルが建国を宣言すると、これに反対したアラブ諸国軍との戦争(第1次中東戦争)が始まり、勝利したイスラエルは西エルサレムを含むパレスチナの75%を分捕った。イスラエルによって500以上の村々が強奪され、住む場所を失った75万人以上のパレスチナ難民がイスラエルとその周辺国にあふれた。この一連のできごとをナクバ(大災厄)といい、毎年5月15日、現在まで続くイスラエルの占領をやめさせ、自分たちの故郷に帰る帰還権を主張する大行進をパレスチナ人がおこなっている。

 

 1956年、エジプトのナセル大統領がスエズ運河を国有化すると、イギリスはフランスとイスラエルに働きかけてエジプトに侵攻した(第2次中東戦争)。その結果、イギリスはスエズ運河を放棄し、アラブ諸国で民族独立の機運が高揚するが、今度はイスラエルが1967年、エジプトに奇襲攻撃をおこなった(第3次中東戦争)。これによってイスラエルは東エルサレムを含むヨルダン川西岸、ガザ、シナイ半島、ゴラン高原を占領した。

 

 1993年にはアメリカが仲介してイスラエルとパレスチナの「二国家共存」をめざす「オスロ合意」が結ばれ、パレスチナ自治政府が成立した。現在、パレスチナ(ヨルダン川西岸地区とガザ地区)を承認する国は、国連加盟国の7割をこえる。しかしイスラエルはオスロ合意を一方的に反古にし、パレスチナ国家を否定する行動をとり続けている。

 

 このようにイスラエルが国連決議違反を何度もくり返し、やりたい放題できるのは、バックにアメリカがいるからだ。アメリカは国連安保理常任理事国として、安保理のあらゆる措置に対してイスラエルを擁護し、これまでに44の対イスラエル安保理決議に対して拒否権を行使してきた。アメリカはイスラエルに毎年約40億㌦の軍事支援をおこない、イスラエルへの最大の武器売却国となって、軍需産業が莫大なもうけをあげている。

 

 今回のパレスチナ・イスラエルの紛争は、一方でパレスチナ人の抵抗運動を「テロリスト」と呼び、他方で国際法違反の国家テロをくり返すイスラエルは容認するというダブルスタンダードを戦後数十年間続けてきた、アメリカをはじめG7の首脳たちに重大な責任がある。国際世論の力で即時停戦を実現し、アメリカ・イスラエルのアパルトヘイト体制を終焉に向かわせることが求められている。

 

隔離され、空爆からの逃げ場もないパレスチナ・ガザ地区の人々(8日)

米ニューヨーク・タイムズスクエアで、イスラエルによるパレスチナの人種隔離政策と米国の軍事支援に抗議するデモがおこなわれた(9日)

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