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風力発電所・超低周波出力とヒトの健康 ポルトガル・ルソフォナ大学教授 マリア・アルヴェス・ペレイラ

ペレイラ氏

 私は低周波音の健康被害について、35年間研究してきた。私は物理生物医工学環境科学の学位を持っている。今日の報告はポルトガルのルソフォナ大学とニュージーランドに本社がある国際音響研究機関との提携だ。

 

 たいていの人が放射線については知っているが、音響について知っている人はほぼいない。放射線にはスペクトラム(連続体)があり、その一部しか目視できない。そしてこの目視できない部分に注目してもらいたいのだ。放射線の不可視部分は、ガンマ線、エックス線、紫外線、レーダー、FM、TVと区分されている。

 

 では、音響のスペクトラムと比べてみよう。音響スペクトラムは、超低周波音、可聴音、超音波の区分しかない。大きく分けられているだけで、放射線のような細かい区分はないのだ。これが、科学者がどの周波数がどのような問題を引き起こしているのか特定するのを難しくしている。

 

 では、音響とはいったい何か? 身体に影響を及ぼす可能性がある圧力波だ。圧力波は面積当たりにかかる力だ。なので空中で音の圧力波が発生している場合、身体を直撃する。圧力を感じることで音が聞こえるのだ。

 

 波の特徴をあらわす二つのパラメータ(変数)を示す。1つは振幅(音圧)で、波の高さをあらわす。2つ目は周波数だ。注目してもらいたいのはピークの間の幅で、高周波では幅はとても小さいが、低周波ではピーク間の幅がとても大きい。

 

 3000~3500ヘルツは赤ちゃんが泣く周波数だ。3000ヘルツではピーク間の距離は0・11㍍だ。一方、20ヘルツ以下は超低周波音で、ここでのピーク間の距離は17・1㍍と非常に大きい。そしてピーク間の距離が小さい高周波は構造物を通り抜けることはないが、低周波は1ヘルツではピーク間の距離は343㍍にもなるので、構造物や地面を通り抜ける。

 

耳に聞こえないが体に異変

 

 歴史的に見ると、騒音の研究は聴覚を守るためだけにおこなわれてきた。1960年代まで、聞こえなくても健康被害を及ぼす可能性があることに気づいていなかったからだ。

 

 1920~30年代当たりから、とくに都市部で騒音が出る産業が発達してきたおかげで、騒音を測定する方法が定義された。それがdBA(デシベルA=A特性)だ。会話に困難が生じる聴覚障害が起こる周波数のみに注意が注がれ、dBAが定義された。社会における騒音被害を定義するためだ。今の日本でも、騒音に関する規制のほとんどがdBAで定義されていると思う。

 

 人間が聞きやすい(聴覚を守りたい)範囲は800ヘルツから7000ヘルツの範囲で、その範囲ならdBAは正確に測定できる。ところが低周波音となるとdBAの測定値は現実を反映しない。超低周波音10ヘルツで測定すると、測定値と実際の値に70デシベルの差が出る。非常に大きな差だ。

 

 このグラフは風力発電所周辺の住宅内で測定した値だが【グラフ参照】、赤い部分がdBAだ。これは世界各国の規制の許容範囲だと思う。一方、網の部分が実際の音響環境を示している(3分の1オクターブバンドで測定)。dBAで測定できない低周波音だ。つまりdBAは測定方法が古いということだ。

 

 私たちはさらに新しい方法(36分の1オクターブバンド)で測定している。すると、風力発電所周辺の住宅内では、20ヘルツ以下のところに何本も線があらわれた。この直線は風力発電から発生している超低周波音だ。そして風力発電の低周波音はパルス状(波打つ形)であり、ピークが非常に高いことがわかっている。自然界の超低周波音、たとえば火山や海の音はパルス状のピークを持っていない。これは機械音から生まれるものだ。


 これまで低周波音については、「聴覚で感知できない」「可聴範囲外である」「考慮するに値しないレベル」「聞こえなければ害はない」といわれてきた。それは科学的な根拠がない主張だ。

 

 低周波音、超低周波音は、放射線のように病気の物理学的因子になりうると考えられている。超低周波音の影響は、1960年代のアメリカのアポロ計画、ソ連の宇宙計画でも研究されていた。1973年にフランス国立研究センターは、超低周波音の会議を開催している。1976年には騒音の中で働く人々の聴覚外問題がとり上げられるようになった。聴覚機能とまったく関係のない部分で、体に異変を感じ始めたのだ。

 

 ドイツの研究者の最新の研究では、超低周波音は耳ではなく脳で処理されることがわかっている。

 

 ソ連では1980年代から、超低周波音についての規制が設けられている。2000年のロシア連邦の法令では、2ヘルツ、4ヘルツ、8ヘルツ、16ヘルツにそれぞれ音圧の規制値が設けられている。現在、超低周波音研究の最先端をいっているのは中国空軍軍医大学だ。超低周波音の脳への影響や心肺機能への影響についての論文が発表されている。

 

欧州の洋上風力で反対運動

 

 風力発電所周辺に住んでいた家族たちの様子を紹介したい。

 

 これは私たちの研究所で撮影したものだが、低周波音にさらされた状態で生まれたマウスの足が催奇形性を持っていた。デンマークでは、ミンク牧場の隣に風力発電ができ、多くの中絶胎児が出た。1999年、私たちのチームは、超低周波音にさらされた作業員の健康影響について発表し、公衆衛生部門でポルトガル国民賞を受賞した。

 

 ドイツでも深刻な問題が発生した。被害者宅から2㌔㍍の所でたくさんの風車が稼働し始め、眠ることができなくなった。しかし、家を職場としても使っていたので、引っ越すことはできない。そこで彼らはキッチンの下に階段をつくり、地下に寝室をつくった。体調はよくなったかと聞くと、「東から風が吹くと下痢になること以外はよくなった」といったので驚いた。

 

 2021年にスコットランドで、低周波音の測定器を設置した家庭に日記をつけてもらった。この女性は7月4日に睡眠障害があり、5~9日に耳の痛みがあった。6日には耳の痛みに加えて吐き気、7日にはめまいもあった。終わりのない地獄のような体験だったということだ。

 

 山形県では巨大な洋上風力発電が計画されていると聞いたが、ヨーロッパ、アメリカ、カナダの洋上風力発電の周辺では、漁業従事者の大量失業が起こっている。

 

 2018年のオランダでは、アムステルダム漁港で漁業従事者によるデモがあった。イギリスではロブスター(エビ)が消えた。アイルランドでは漁業組合が洋上風力発電に抗議している。フランス、スコットランド、デンマーク、ドイツ、アメリカ、そしてカナダと、みんな洋上風力発電の問題を抱えている。

 

 欧州委員会が今年5月に開催した洋上風力発電についての会議では、洋上風力発電は環境問題の新たな失敗例なのではないかと問われている。日本での風力発電の建設を、今一度よく考えてみてほしい。

 

(日弁連主催シンポジウムでの発言要旨)

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