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メガソーラーと大規模風力の実効性ある規制条例のために 日本弁護士連合会がオンラインシンポジウム開催 研究者や自治体職員が実態報告と問題提起

秋田市の秋田湾沿いに林立する巨大風車

 日本弁護士連合会は16日、「メガソーラー及び大規模風力による開発規制条例の実効性確保――地域の自然環境及び生活環境を守るための処方箋」と題するオンラインシンポジウムを開催した。現在、全国各地でメガソーラーや大規模風力発電が建設されることにともなって、自然の生態系や景観の破壊、山林崩落等の災害、低周波音による健康被害などが起こり、これに対して開発規制条例を制定する自治体が増えている。今回のシンポジウムでは、地域住民を無視した事業者の乱開発の実情が出し合われるとともに、これに対して実効性のある条例をいかにつくるかをめぐって議論を深めた。また、ポルトガル・ルソフォナ大学教授のマリアナ・アルヴェス・ペレイラ氏が「超低周波音による健康被害」と題する講演をおこなった。

 

 はじめに日弁連の大脇副会長が挨拶に立ち、日弁連が昨年11月、メガソーラーや大規模風力による災害や生活環境破壊を防止するために法改正・条例による対応を求める意見書を提出したこと、同12月、「メガソーラー及びメガ風力が自然環境及び地域に及ぼす影響と対策」と題するシンポジウムを開催したことを報告した。

 

 そして「本シンポジウムは、地域住民のみなさんや自治体との十分な合意形成のもとで、再生可能エネルギーの推進との両立をはかれるようにするために、実効性ある条例制定について、研究者や地方自治体の担当者の方々とともに考えていくものだ」とのべた。

 

 続いて4氏が講演と報告をおこなった。

 

地域経済には寄与せず 一橋大・山下英俊氏

 

山下英俊氏

 まず一橋大学経済学研究科准教授の山下英俊氏が登壇した。山下氏は、「脱炭素・温暖化対策を環境政策の面だけから見るのではなく、地域社会を持続可能なものにしていくという地域経済政策から考えたい」「国が主導するエネルギー政策は、グリーントランスフォーメーションといいながら原発回帰に進むなど、企業の方を向いたものになってしまうからだ」とのべた。

 

 そして、全国1741市区町村を対象にして再エネについてアンケートをとったところ、「地域の活性化につながる」「地域資源の有効活用につながる」と答えた自治体が、2014年には4割以上あったが、2017年には大きく減り、2020年には3割を切ったことを紹介。また、再エネをめぐって住民とのトラブルが発生している自治体が635団体、36・5%にのぼっており、「再エネが迷惑施設化している」とのべた。

 

 山下氏は、「これを解決するには自治体レベルの土地利用規制の強化が不可欠だ。地権者が同意すれば開発が進んでしまい、住民や自治体が知らないうちに事業者が再エネをつくってしまったことがトラブルの元になっている。地権者だけでなく地域住民、川下の住民をまきこんだ土地利用の意志決定のしくみをつくる必要がある」とのべた。

 

 また、「FIT制度による自治体別年間売電収入試算額(2020年3月)を見ると、多いところでは茨城県神栖市855億円、福島県いわき市770億円などがある。ところがその発電所の本社は多くが地域外(東京など)にあることから利益の多くは地域外に流出し、実際に地元におちる売電収入はその数パーセントだ。植民地的な再エネ立地といっておかしくない」とのべた。

 

 その他、大分県由布市塚原地区では管理できなくなった入会牧野に6500㌔㍗のメガソーラーが、栃木県鹿沼市では前日光県立自然公園内にある戦後の開拓農地跡地に4万6000㌔㍗のメガソーラーがつくられるなど、これまでの地域政策の失敗が凝縮された場所がメガソーラー・バブルの標的にされていると指摘した。

 

条例逃れ防ぐ法整備を 日弁連・小島智史氏

 

 

小島智史氏

 次に、弁護士で日弁連公害対策・環境保全委員会の小島智史氏が報告した。

 

 小島氏はまず、「再エネ発電施設を設置するために二酸化炭素の吸収源である森林や自然を破壊することは、地球温暖化対策として本末転倒といわざるをえない。災害の危険性を考慮せずに森林を切り開き、地域住民の安全を危機にさらすような開発は地域社会にも寄与しない」とのべた。

 

 そして、利益を優先することによる開発許可申請書の虚偽記載や贈賄、アセス逃れといった、違法・脱法行為をともなう乱開発が全国で多発していること、その要因は再エネの導入がFIT制度によって高い買取価格を保証する過度の利益誘導のもとに進められてきたこと、加えて開発を規制する法制度が十分に整備されていなかったことにあると指摘した。

 

 小島氏は「メガソーラーや大規模風力がつくられる森林や原野において、大規模開発を規制する包括的な自然保護の法律が日本には存在していない。そこで自治体が地域の実情に応じた開発規制条例をつくることを提言している」とのべ、日弁連の提案について説明した。

 

 また、全国の再エネ規制条例の状況について報告した。現在までに、再エネの開発規制などを定めた240をこえる条例が制定されている。規制対象として、事業を細切れにして条例適用を逃れようとする事業者の抜け道を塞ぐ規定を入れているものがある。また、多くの条例で禁止区域・抑制区域を指定するゾーニングがおこなわれている。周辺住民の同意や説明会の開催、周辺住民との協定の締結を許可要件とするものがあり、事業廃止時の原状回復のための費用の積立を求める規定を入れているものがある。条例違反行為があったときに国への報告を義務づける規定を入れている(事業認定取り消しを想定)ものがある、などの特徴を報告した。

 

地表を埋め尽くすJRE山都高森太陽光発電所のメガソーラー(熊本県上益城郡山都町)

開発による災害は必然 岐阜大・篠田成郎氏

 

 続いて岐阜大学工学部教授の篠田成郎氏が、太陽光や風力の開発行為が森林にどのような影響を及ぼすかについて報告した。篠田氏は、要旨次のようにのべた。

 

 降り注いだ雨は、直接流出するものもあるが、ほとんどは地中に浸透する。地中に長い期間水を蓄えるので、それは渇水抑制に寄与する。

 

 一方、太陽光パネルが設置されると、地中に浸透する水がなくなり、降った雨のすべてが短時間に直接流出する。渇水抑制に寄与する部分は完全に消失し、保水力は低下する。さらに地表に近いところにある細かい土粒子(表層の黒い腐植土)が流れやすくなる。これを濁質流出というが、太陽光パネルを設置した場合、濁質流出に寄与する部分のみになる。

 

 また、尾根線の直下にゼロ次谷という場所がある。そこは表層崩壊を起こしやすい場所で、とくに要注意だ。2018年7月の豪雨で岐阜県の森林が崩れたのもここだ。

 

 実際、大規模風力がつくられている場所はすべて尾根線だ。風が一番強い場所を選んでいるので当たり前なのだが、そこがもっとも崩れやすい場所になる。

 

 風車の何十㍍というブレードを運ぶために広い作業道をつくるが、水が集まりやすい状態で切り土にして斜面崩壊の原因になっている。集まってきた水を集め、土粒子を沈降させ下流に流さないということが森林作業道では常識だが、それはおこなわれていない。しかも、作業道はとんでもなく広い。

 

 一方、間伐がされている森林の土を見ると、湿っていて黒っぽい。土壌中の微生物が圧倒的に多く、彼らが有機物を分解してくれる。つまり、土壌中に微生物がいることで生き物もおり、生き物がいることで団粒(生き物の粘液でくっついている)ができ、団粒ができることで細かい土粒子が流れにくくなり、水分も保持される。こうした過程で森林の公益的機能が形成される。

 

 ところが太陽光や風力によってこの森林の機能が崩されると、さまざまな影響があらわれ、われわれが気がついたときにはもう遅い。「斜面崩壊・洪水」「渇水・水道事業の断水」「農林水産業への影響」として、後々ボディーブローのように効いてくる。

 

 こうのべた篠田氏は、次に「岐阜県水源地域保全条例」について報告した【図参照】。この条例は、水を後世に残すことを目的につくられたが、特徴は水源の上流にある集水域に注目したことだ。そして上流2㌔までの、集水域を含む森林を開発規制の対象にした。リスクをいかに事前に排除するかに注意を払ったという。

 

 課題は地域の少子高齢化・過疎化であり、地域を活性化させる方策の一つとして、木質バイオマスを発電でなく熱エネルギーとして、地域の中で使うことを始めているという。

 

 最後に篠田氏は、再生可能エネルギーの地産地消を実現した富山県黒部市宇奈月温泉のとりくみを紹介した。ここでは地熱と小水力の電気を利用し、間伐材を使った木質バイオボイラーで暖房をおこない、生産された農産物を地域外に出荷して一次産業を活性化している。

 

住民同意を必須条件に 伊那市・城倉良氏

 

城倉良氏

 4人目は地方自治の現場から、長野県伊那市の市民生活部長・城倉良氏が「伊那市太陽光発電設備の設置等に関する条例」について報告した。

 

 伊那市でも、2012年のFIT制度の開始以降、太陽光発電の設置が急速な勢いで進んだ。

 

 同時に企業の利益を優先する事業者に対し、災害の誘発や自然環境、景観の破壊を危惧する地元住民が反対運動を起こし、事業者とのトラブルも絶えなかった。しかし、経産省のガイドラインにもとづく市独自のガイドラインには強制力がなく、住民の反対があっても事業者が建設を強行すれば、市はそれを止めることができなかった。

 

 こうしたなか、住民から太陽光発電に反対する署名や請願、陳情が多く提出されるようになった。市議会でも市独自の条例を制定する声が高まり、昨年3月議会で全会一致で条例案を可決した。

 

 条例の特徴だが、まず条例の主旨で、自然環境や景観、市民の生命と財産の保護を優先する考えを明らかにしている。また、禁止区域と抑制区域を設定し、それは市域のほぼ全域を占める。さらに、設備の設置には市長の許可とともに、地元住民(地権者だけでなく、事業区域に隣接する土地の所有者や自治会も)の同意の取得を必須とした。

 

 城倉氏は、「われわれが実際に現場で困っているのは、まさにここだ。事業者のなかにはみずからの利益を優先し、地元の声を簡単に無視する者がいる。説明会を開いた事実だけを示せば、相手に納得してもらったかどうかは二の次という者がいる。住民同意を必須とすることで、結果的に住民の生命と財産を守ることにつながると考えた。FIT制度によって利益を保証される事業者にはその義務がある。この厳しい条例で営業権や財産権の行使を阻害されたとして事業者から訴訟を提起される恐れはあるが、本市にとっては住民の生命と財産を守ることが第一であり、そのために裁判で争うことも辞さないという決意を表明したつもりだ」とのべた。

 

 市民からは、条例の制定を評価する声はあるが、批判する声は届いていないという。また、事業者からは条例施行後1年5カ月の間に、条例に沿った事前協議が9件、そのうち申請許可に至ったのはゼロだそうだ。他の市町村からの問い合わせも多く、同様に住民同意を必須とした条例も生まれている。

 

 城倉氏は、「本市は南アルプスと中央アルプスに囲まれたところにあり、長年にわたり形成されてきた自然環境を次世代に引き継ぐためにこれからも問題に向き合っていく」と結んだ。

 

 その後、マリアナ・アルヴェス・ペレイラ博士が講演をおこなった【別掲】

 

悪質さ増す業者の手口 中山間地を食い物に

 

 以上の講演や報告を受け、後半のパネルディスカッションで論議を深めた。

 

 ここでも岐阜県恵那市の建設部長・長谷川公盛氏から、再エネに直面する現場の実情と恵那市で定めた条例が報告された。庄内川と矢作川の上流部分に位置する恵那市では、2017~18年にかけて、地元住民も市も知らない間に大型メガソーラー計画が3件、あいついで判明した。このままでは市民の安全や生活は守れないと、恵那市は2018年に太陽光発電条例の制定に至った。

 

 長谷川氏は、「ところが条例制定後、条例の抜け穴を突こうとする事業者の工作が、巧妙かつ悪質化した。説明会参加者ゼロ人なのに、説明会をやったとして申請書を提出する事業者が出た。事業者が弁護士を連れてきて市長に許可を迫ることもあった。そこで一昨年に条例を改正した。主な改正点は、地域住民を脅すなど事業者の強引なやり方に対して、隣接自治会も説明会の対象とするよう地域住民の定義を改正したことなどだ」とのべた。

 

 日弁連公害対策・環境保全委員会の室谷悠子氏は、「“再エネ事業と地域との共生”が謳われる一方で、事業者が自治体や自治会に寄付という形でお金をばらまくとか、公共的施設の建設に協力するという事例を聞く。これは利益誘導であり、住民を黙らせる手段として使われており、きわめて問題だと考えている」とのべた。

 

 長谷川氏も、「再エネに限らず、地域住民が望まない開発において発生している大きな問題だ。事業者のなかには、条例手続きに必要な書類をいかにそろえるか、地域住民をいかに黙らせるかと考え、そのために利益誘導をおこなう者がいる」とのべた。

 

 また、篠田成郎氏は、「本来なら建設用材に使われなくてはいけないA材を、端材と同じように大規模バイオマスの燃料にしてしまい、発電量の安定的確保をはかるという名目のためだけに、あるべき姿とは違う運用がされている。森林が本来持つ炭素固定機能を生かすことができないばかりか、山間地域は安いエネルギーの供給源にしかならず、地方は収奪されるためだけの草刈り場になってしまう。これはメガソーラーや風力発電でも同じだ」と指摘した。

 

 最後に日弁連公害対策・環境保全委員会の長倉智弘委員長が、「日本の公害対策は、地域の環境を守ろうとする各地方自治体の公害規制条例に始まり、それが国の公害規制立法に発展していった歴史がある。このことを踏まえ、地方自治体の開発規制条例に光を当てた。メガソーラーや大規模風力発電を考える一助としてほしい」とのべた。

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