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下関市直営の東部地域包括支援センターを来年度から民間委託へ 突然の方針発表に広がる困惑 唯一の中核機能なぜなくす?

下関市本庁東部地域包括支援センター(下関市役所内)

 下関市地域包括支援センター運営協議会が6日に開かれ、そこで突然、唯一の市直営である本庁東部地域包括支援センターを来年度(令和6年度)から民間委託する方針が示され、ケアの現場にかかわる人々のなかで驚きと憤りをもって受け止められている。市内に12カ所ある地域包括支援センターのうち11カ所は医療法人や社会福祉法人、社会福祉協議会などが委託を受けて運営しており、その中核となってきたのが市直営のセンターだからだ。関係者がこの日初めて知ったにもかかわらず、7月中に募集要項の配布を開始し、9月に業者選考をおこなう予定が示されたことから、「すでに業者が決まっているのではないか」という見方も広がっている。

 

わずか1ヶ月で業者選定  水面下で決定済みか

 

 本庁東部地域包括支援センターは市役所本庁(西棟)2階にあるセンターだ。2015(平成27)年度のセンター再編整備のさいに、通常のセンター業務に加えて、市として住民ニーズを素早く把握し、高齢者福祉施策をより強化するという目的を持って直営での運営が継続されてきた。唐戸町周辺や上田中町や丸山町、細江町、豊前田町など市中心部から新椋野、卸新町周辺などの圏域(高齢者数は8151人、うち75歳以上人口4660人)を担当している。

 

 他の地域包括支援センターは、民間法人が委託を受けて運営しているため、簡単に白黒つけることができない相談内容や支援のあり方など、迷ったときに相談するのが直営センターだったという。「この包括ではいいといったのに、この包括はだめといった」といったことが起これば市民とのトラブルにつながる。一人一人、健康状態も家庭の事情も異なり、多様な事例が発生するのがケアの現場だ。全市で統一しつつ具体的な課題に対応をしていくうえで、現場の実情が理解できる行政の部門があることの意味は大きく、多くの関係者が「民間委託はあり得ない」と指摘している。

 

 ある関係者は、「これまでは直営に相談すれば安心だったが、民間委託されれば市内すべてのセンターが横並びで運営することになり、相談する場所がなくなってしまう」と話す。指導部門として地域包括ケア推進室が長寿支援課内に設置されているものの、「何年も地域包括支援センターの経験者がおらず現場感覚がないから、現実に合わない指導が返ってくるので相談できない」というのが実態のようだ。

 

 折しも、社会福祉法の改定で「重層的支援体制整備事業」ができ、下関市も2022年度に、その前段階の「重層的支援体制整備事業の移行準備事業」を開始し、いよいよ2025年度の本格実施に向けた体制づくりが大詰めを迎えているところだ。「重層的支援」とは、たとえば高齢者世帯で見ても、「8050問題」のように引きこもりの子どもがいたり、障害を抱えた家族がいたり、ヤングケアラーがいる家庭など、複合的な問題が存在する場合も多い。これまでは専門の支援組織のみがかかわっていたが、横断的にチームを組んで複合的・複雑な問題を抱える市民を支援する体制をつくるというものだ。この体制のなかに地域包括支援センターが組み込まれており、これまで以上に役割は大きくなる。「委託を受けている事業者も一緒に体制づくりをしてきて、いよいよというときに隊長が敵前逃亡するようなものだ」と憤りをもって語られている。

 

「専門職の確保困難」を理由に

 

 6日にあった運営協議会で市が配布した資料には、以下の内容が民間委託の目的と理由としてあげられている。

 

 ①一部圏域において急激な人口減少によって高齢化率が急激に上昇し、その結果、市内12圏域でのサービス事業所数、住民ニーズの違いが顕著になったため、本庁東部圏域における住民ニーズ把握のみでは市全体の施策への十分な反映が困難となっており、それぞれの地域の特性に応じた高齢者に対するきめ細やかな支援体制の実現に向けた体制整備が求められている。

 

 ②法令等にもとづく専門職の確保が、民間との給与格差により困難になっている(会計年度任用職員報酬と民間報酬の乖離)。

 

 ③今後、市はセンターの設置主体として運営等について指導・助言および調整等をはかっていく。

 

 つまり、地域包括支援センターにはこれまでの業務に加えて、中核業務に多くの支援事業が追加されていて、介護保険法の改正でも役割が増え、認知症などで判断能力が不十分な市民などの「成年後見制度」の利用の支援をはかることも求められているから民間委託するというのだ。

 

 この説明を聞いた関係者で納得した人は少ない。「役割が大きくなっているから行政として力を入れるというならわかるが、“役割がますます大きくなっているから民間委託する”という説明の意味がわからない」「民間委託に必ずしも反対ではないが、説明の意味がわからない」などと口々に語られており、その他の手法も含めて議論することなく、唐突に民間委託が出てきたことに違和感が語られている。

 

 市があげた理由のなかで、関係者が「もっとも大きな要因」とみているのが専門職の確保だ。地域包括支援センターには法令で、保健師、社会福祉士、主任介護支援専門員(主任ケアマネ)の3職種の専門職(保健師、社会福祉士は準ずる者でも可能)の配置が定められている。市長寿支援課・地域包括ケア推進室によると、本庁東部圏域の高齢者人口では、3職種の専門職の正規職員が最低一人ずつ、それに準ずる者を含めて計6人が必要だ。この専門職を確保しなければ、国からの補助金を充当することはできないという。しかし、会計年度任用職員を募集しても、民間企業の給与が上昇しているなかで、まったく応募がない状況が続いていて、このままでは維持することが難しいとのことだ。

 

 ただ、それは専門職を会計年度任用職員という1年更新の非正規雇用で賄おうとするからだ。現在もすでに、センターの職員(併設されている居宅介護支援事業所のケアマネも含む)全14人のうち、正規職員は3人のみであり、残り11人は会計年度任用職員だ。「財政健全化プロジェクト」にもとづいた正規職員削減計画(2024年度までに2461人まで削減)のもとで、長寿支援課にも「正規職員の採用を要望しても通らない」という事情はあるにせよ、「包括センターの委託を受けている民間事業者もどこも同じように人材確保には苦労している。民間委託すれば解決するものではないことを市もわかっているはずだ」「専門職を確保できないというのは、市のなかで解決しなければいけない問題だ。なぜそれが民間委託になるのか」と指摘されている。

 

 運営協議会の場で反対の意見をのべる委員もいたというが、この協議会は議決権などを持つ機関ではない。「あくまでご意見を聞く場」(地域包括ケア推進室)だ。すでに決定事項であるかのように報告されたため、「これまでの地域包括支援センターのあり方を大きく変える方針変更なのに、議会で議論もされないまま民間委託がおし進められていいのか」「あり得ないことだ」と危機感が語られている。同協議会は例年午後に開催されてきたものであり、今回午前9時からの開催としたことも、「参加者を少なくしたかったのではないか」と疑問視されている。

 

現場に意見求め熟議が必要

 

 さらに、そこで市が示したスケジュール【表参照】は、6日に運営協議会で周知したのち、7月中に公募要綱を公表、8月に受付を開始し、9月に業者選定をおこなうというものだった。一方で、現在の庁舎内のスペースは貸すことは考えていないとしており、この短期間のあいだに圏域内の別の場所に建物を確保し、定められた専門職を確保しなければ、応募することはできない。人材確保は困難を極める状況が続いているなかであり、「すでに事業者が決まっているとしか思えない」「まさかとは思うが、事業者側から“うちにやらせてくれ”という要望を受けたものだったら、介護や福祉であってはならないことだ」と、現場には疑問視する声が充満している。

 

 昨年、市が年2回実施する委託先へのモニタリングのさいに、「もう1カ所委託できないか」という打診を各センターにしていたという話もあり、その時期から民間委託の方針が出ていたはずである。それが公募開始直前になって公表されたことから、「現在委託を受けている法人が手を広げることは困難なことがわかったうえで、アリバイ的に打診したのではないか」「新規参入を希望する事業者の意向を受けたものではないか」という見方も広がっている。

 

 地域包括ケア推進室は「方針決定という形ではなく、市としての考えを説明したところ。意見を踏まえて今後方針を決定する。スケジュールも方針決定した後でなければ確定しない」と説明している。現場関係者のなかでは、どうしても人材確保ができないのであれば、地域包括支援センター発足当初のように、各法人から人材を派遣する手法をとる方法もあること(当初はそのことで法人をこえた人的交流ができ、現在も生きているという)も語られている。少なくとも方針決定する前に、地域包括支援センターの現場に意見を求め、どのような体制が最善であるか検討することが必要であり、拙速な民間委託は今後の「地域包括ケアシステム」構築にも禍根を残すことになる。

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