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沖縄を平和のハブとする東アジア対話交流(上) 那覇でシンポジウム開催 政党や世代、国境をこえて 

 

 沖縄県那覇市にある琉球新報ホールで6月24日、「沖縄を平和のハブとする東アジアの対話交流」シンポジウムがおこなわれた。主催は、県内外の知識人らでつくる「沖縄を平和のハブとする東アジア対話交流PROJECT」。昨今、台湾有事が叫ばれ、G7サミットでは岸田首相が「今日のウクライナは明日の東アジア」と緊張を煽りつつ防衛費大幅増額に踏み切り、沖縄、与那国、石垣、宮古へのミサイル配備など戦時体制作りを加速させている。そのなかで同シンポジウムは「沖縄を平和のハブに」「武力ではなく対話と交流で」を合言葉に、地理的にも東アジアの中心で歴史を紡いできた沖縄から、戦争を止め、平和を構築するためにどうあるべきか、その気概を持ち寄り、政治的立場や世代、国境をこえ多角的に議論をおこなった。シンポジウムは3部に分かれ、安全保障や文化、経済、外交、次世代などのテーマについてパネリストが発言をおこなった。

 

高良鉄美氏

 最初に主催者として挨拶に立った共同代表の高良鉄美・琉球大学名誉教授(参議院議員)は「沖縄をとり巻く状況には、米中の対立や日中問題がある。また、周囲には本土と中国、太平洋をこえてアメリカ、南には台湾があり、その中心に沖縄がある。沖縄県民は昨年復帰50年を迎え、日中米の関係が変化していく状況のなかで、このままではいけない。どのような役割を沖縄が果たさなければならないのかと考え、前泊先生や羽場先生(同シンポジウムの共同代表2氏)ともいろいろな話をして、今日このような場が開催できた。まさに真ん中にある沖縄が、全方位に向けて幅広く平和を訴えなければならない。平和を発信していくために、これからも県内で何回も開催していきたい」と話した。

 

 来賓として挨拶した玉城デニー・沖縄県知事は次のようにのべた。

 

玉城デニー知事

 「“沖縄を平和のハブとする東アジア対話交流プロジェクト”は、沖縄が琉球王国時代から近隣諸国と友好関係を築いてきた歴史的原点に立ち返り、対話と交流で東アジアを平和的に発展させることを目的として発足されたと聞いている。沖縄県はわが国のなかでも独特の歴史や文化を有しており、そのような“ソフトパワー”は、地理的優位性を活かして観光、物流、環境、保健・医療、教育、文化、平和など多様な分野における国際交流をおこなってきた」

 

 「とくに、昨年度は本土復帰50周年記念事業として、アジア太平洋地域平和連携推進事業を実施し、中国、台湾、韓国、フィリピン、パラオなど近隣諸国との連携強化に向けた新たなとりくみを開始した。また、今年四月には、知事公室に“地域外交室”を設置し、平和を希求する沖縄ならではの平和的地域外交を進めていくこととしている」

 

 「わが国をとり巻く安全保障環境が変化し、南西諸島の防衛力が強化されるなか、多くの沖縄県民は軍事力による抑止のみでは、かえって地域の緊張を高め、不測の事態が発生するのではないかと強い不安を感じている。このようななか平和的な外交、対話による緊張緩和や信頼醸成に向けたプロジェクトが沖縄で開催されるということは、非常に意義深いことだ」

 

 同じく来賓として鳩山由紀夫・元総理大臣が登壇し、次のように語った。

 

鳩山由紀夫元首相

 「G7広島サミットで、岸田首相が“今日のウクライナは明日の東アジア”といったが、本当にそうだろうか。それをいうことで誰が得をするのだろうか。ロシアがウクライナへ侵攻したことは許しがたいことだが、もしもウクライナがNATO加盟をいい出さなければ、ウクライナ東部地域の自治権を与えていれば、ロシアの侵攻はおそらくなかっただろう」

 

 「また、そのことと昨今いわれている中国脅威論や台湾有事が同じ次元だとは思えない。今年、金門島に行った人に沖縄で話を聞いた。金門島は台湾の一部だが中国本土にかなり近いところにある島だ。現地の人たちに“中国脅威という気持ちがあるか”と尋ねると、彼らは“そんな思いはあまりない”と答えたそうだ。台湾の多くの人々も、最善とはいえないかもしれないが、このままでいればまずまともなのではないかと思っている。それなのにアメリカや他の多くの国々が、台湾に“独立しろ”と煽り、独立派の人々が大きな行動を起こしてしまうと、何が起きるか分からない。そのときに日本がどういう行動をとるのかが大事なことだが、一番大事なのはそうならないようにすることではないか」

 

 「台湾有事といって岸田政府は軍事力を高めている。5年間で43兆円もの防衛費はどう考えても多すぎる。一方が軍事力を高めれば、他方も軍事力を高める。それがどんどん高まり、一触即発のようなことが起きないとも限らない。そのような状況をどのように防ぐかを私たち政治家が考えなければならない。その一つの手段として東アジア共同体というものを作り、選ばれた人たちが東アジアの国々からできれば沖縄に集まって議会を作り、経済や金融、コロナ、安全保障、環境、エネルギー、教育を含めあらゆるテーマを対話で解決するというシステムを作る――。このことを総理時代に提言したら、アメリカから“鳩山は何を考えているのか”“アメリカを除いて何をやろうとしているのか”と批判された。アメリカを除外するつもりもないし、アメリカもロシアもどの国も、議論に参加したいなら歓迎だ。そのかわり、決して武力による解決をさせないことだけは誓わせる。今こそ沖縄がかつての琉球のように武力ではなくみんなの心をつなぎ、日本中、アジア、世界で手をつなげる活動にしていきたい」

 

第1部 沖縄平和ハブ構築に向けて

 

 続いて、第一部の討論に移った。トークテーマは「沖縄平和ハブ構築に向けて~安全保障、文化、経済、外交交流の拠点を考える」とし、パネリストには山崎拓・元自民党副総裁・防衛庁長官、劉江永・中国・清華大学国際関係学部教授、我部政明・琉球大学名誉教授(国際政治学)、羽場久美子・青山学院大学名誉教授(国際政治・国連)の4氏が名を連ねた。戦争の危機を回避し、いかにして持続可能な安全保障を築いていくのかについて、沖縄が果たすべき役割を探る議論が展開された。また、インド、台湾からもビデオメッセージで、アジア諸国から見たアジア地域の情勢分析や平和構築に向けた意見が届いた。以下、発言要旨を紹介する。

 

■戦争させないための対話の努力が日本の役割


             元自民党副総裁 山崎拓

 

山崎拓氏

 昨年末に岸田政府が発表した国家防衛戦略で、緊迫するアジア情勢について謳われている。東アジアのなかで、自由民主体制の国と専制主義の国との対立があり、緊迫した軍事情勢があるという内容だ。そのなかで戦略環境の変化をめぐり中国、北朝鮮、ロシアについての記述もある。

 

 中国に関しては、軍事力を質・量ともに急速に強化し、東シナ海等で活動を活発化させるなど、わが国と国際社会の深刻な懸念事項である。これまでにない最大の戦略的な挑戦がおこなわれている、としている。

 

 北朝鮮に関しては、弾道ミサイルの関連技術、運用能力を急速に向上させるなど、いっそう重大な差し迫った脅威である、とした。

 

 ロシアに関しては、ウクライナ侵略は国際秩序の根幹を揺るがすものであり、北方領土を含む極東地域の軍事活動を活発化させている。中国との戦略的な連携と相まって、防衛上の強い懸念である、としている。

 

 要するに、台湾有事の問題がある。ロシアとウクライナと同じような関係性で中国と台湾の間でも問題が発生するのではないかということがとりざたされている。

 

 日本の立場としては、1972年に日中共同声明を発して日中間の国交が正常化され、その後1978年に日中友好条約が結ばれた。そのなかで中国側は台湾に関して「核心的利益」とし、中国と台湾は「一つの中国」であるとしている。このことについて、わが国は「理解し尊重する」ということ、そして日本は「ポツダム宣言第八項(『カイロ宣言』の条項は、履行せらるべく、又日本国の主権は、本州、北海道、九州及び四国並びに吾等の決定する諸小島に局限せらるべし)」を守るということが、共同声明と条約のなかで共有されている。つまり、条約を尊重する立場からいうと台湾は中国の一部であるということに異を唱えるものではない。

 

 しかし、現実の問題として台湾有事=武力による統一がおこなわれることがあれば、米中戦争に発展する可能性がある。その場合、当然日本における米軍基地から発進がおこなわれる。とりわけ沖縄はもっとも台湾海峡に近い地理的条件にあり、米軍基地が集中しているため、沖縄も巻き込まれる。つまりこれは日本も巻き込まれることと同義だ。

 

 これを防ぐために、対話によって「戦争は絶対にさせてはならない」と働きかけることが日本の役割だ。玉城知事も7月に訪中すると聞いているが、日本の外交として、中国側に対しても武力行使しないための説得を精力的におこなっていく必要がある。沖縄県民の命、日本国民の命、世界中の人民の命を守るためには、戦争があってはならない。戦争をどうやって防ぐかが一番肝心だ。

 

 来年は台湾総統の選挙がある。誰を選ぶかは台湾の人々が決めることだが、選挙の結果次第で独立運動が強まるということがあれば、中国の習近平政府が武力解放に向かうことが懸念される。台湾の民主主義は守らなければならないが、やはり台湾に対しても現状維持で平和を守るよう説得していく必要があるのではないかと考えている。そして武力解放となれば、必ず米国が介入する。米国が介入するということは、日本が巻き込まれる。その最前線が沖縄だ。このような危機を日中・日米対話の努力によってなんとしても防いでいきたい。

 

■中国と琉球の500年以上続く友好の歴史に立って

 

             中国・清華大学教授 劉 江 永

 

劉江永氏

 日中関係は「政冷経熱」から「政冷経冷」へと変わりつつあり、互恵関係から、対抗し合う段階に入っている。政冷経熱という言葉は、1996年に私がオーストラリアのホーク首相(当時)と会談したときに、私がこれからの日中関係に関する予感として語ったものだ。当時、日中間の経済関係はうまくいっていた。だが、橋本龍太郎首相が11年ぶりに靖国神社に参拝したため、その後は政治関係は悪化するだろうが、経済関係はさらに進むだろうと私は見ていた。

 

 だが、政治関係が悪化してしまうと必ず経済関係にも影響が及ぶ。そのことについて、2005年に北京で橋本龍太郎氏に私の考えをのべた。彼にとって最後の訪中だったと思うが「今日は背中に汗をかいた」と話していた。

 

 今現在の日本と中国の関係は政冷経冷へとなりつつあり、10年前よりもっと深刻な状態になっている。日本政府は昨年12月に決めた新たな国家安全保障戦略のなかで、中国を互恵関係ではなく、これまでになかった「最大の戦略的挑戦」という表現をしている。実際に海の安全保障において最大の脅威としており、軍備増強や防衛費増額を進めている。おそらく今後は琉球周辺へも1000発ほどのミサイル配備を進めるだろう。そうすると台湾問題とも絡んでたいへん危険な状況になるかもしれない。

 

 ただ、台湾問題は中国の内政問題だ。戦争なく平和的に持続可能な安全保障を進めていくためには、台湾が独立・分裂活動をやめることが効果的かつ低コストで皆を安心させる道だ。来年は台湾島内の選挙の年だ。新しく指導者が誕生するが、その指導者に独立・分裂するような発言をさせないことが持続可能な安全保障につながる。

 沖縄の将来はどうなるか。歴史から見れば、中国と琉球王国は500年以上の友好的な歴史を持っている。また遣唐使の時代は日本とも仲良くしていた。しかし明治維新の後、日本はまず琉球へ手を出し、自国に組み込んだ。その次は台湾、そして朝鮮半島と続き、最後に日本は太平洋戦争へと突っ込んで民族の危機に直面した。今、同じ歴史をくり返すことはないが、似た現象が起きつつある。だからこそ私たちは国境をこえて平和のために声を合わせる必要がある。私も沖縄の声をもっと聞きたいという気持ちになった。

 

 台湾問題は、新しい問題ではない。51年前の日中国交正常化のときに、中国として必ず台湾を解放するというスローガンはなかったが、それでも日本は中国との正常化を実現している。その後、1979年に米中国交正常化が実現するが、その頃も台湾の平和統一という言葉はなかった。

 

 それなのになぜ今になって「必ず台湾を解放する」といって台湾危機を煽っているのか。別のところに目的があるはずだ。沖縄の人々は平和を愛し、米軍基地にずっと反対してきた。しかし基地は依然として存在し、さらに自衛隊の駐屯地が石垣や与那国にできている。沖縄の人の心の中には「どうしたらいいのか」という焦りがあると思う。

 

 琉球は500年の歴史があり、海上の「万国津梁(かけはし)」という意味を持つ美しい国だった。その頃、尖閣諸島は琉球の一部ではないと結論づけられていた。その後琉球は日本に飲み込まれ、明治政府はさらに台湾、その一部であった尖閣諸島にも手を出してしまった。そして日清戦争後の下関条約によって、台湾全体とすべての島々を自分の物にしてしまった。このような歴史と今の認識を比較して、どこに問題があるのか、平和のためにこれから歩んでいく道はどうあるべきなのか、歴史の真実を踏まえたうえで対話をしていかなければならない。

 

 中国、日本、アメリカは歴史の岐路に立っている。今、NATOという軍事手段がインド太平洋に進出する計画が進んでおり、日本はこれを歓迎している。だが、このように中国を抑え込むという発想が、中国にとってどういうことか。1900年のいわゆる8カ国連合軍のことを連想してしまう。

 

 日本がどの道を選択するのかが重要だ。日本国民、沖縄の人々が子々孫々の命を守り、中国との間で500年以上続いた歴史をこれからさらにこえるようなすばらしい関係をともに作っていくことこそ、持続可能な安全保障、持続可能な経済発展に繋がる。

 

■沖縄の豊かさの前提は周囲が平和であること


            琉球大学名誉教授 我部政明

 

我部政明氏

 今回のテーマの「沖縄を平和のハブに」は、「誰が」やるのかは明示されていない。沖縄の人でなく、周りがハブにしてくれると思っているきらいがあるのかもしれない。

 

 国際的な政治を論じる場合、多くは欧米など力のある国を軸にして話が進む。これらは軍事力をはじめパワーを持つ国々だが、それ以外の「植民地」は人がいても「政治的無人地帯」と考えられる。これを同じように沖縄と日本との間における平和の問題にあてはめて考えたときに、沖縄の声はないことになっており、「政治的な無人島」として東京から見られている。

 

 それはなぜか。沖縄の現状が東京界隈ではどのように論じられているかを見れば、誰もがわかることだ。たとえば琉球新報ホールには「琉球」という名が使われている。琉球大学もそうだ。一方で、「沖縄」とつくバス会社や新聞社もある。琉球も沖縄も名前が使われているが、それぞれ異なる文脈で使われている。

 

 中国から飛行機に乗って沖縄に向かうとき、上海空港では行き先が「沖縄」と表示されるが、台北飛行場から乗るときは「琉球」となっている。このように、中国でも琉球と沖縄が混在している。

 

 1500年代、琉球は中国と強い関係があり、中国から政治的影響を受けていた。だが1609年に徳川幕府ができたころ、薩摩藩が琉球へ侵攻し、琉球は日本の支配下に入った。

 

 その後、1879年に琉球が併合されて沖縄県が設置された。明治には日本全国に都道府県ができ、戦争を挟んでもそのまま名前は残った。だが、沖縄の場合は、今から51年前(1972年)の沖縄返還のときに、また沖縄県として改めて設置されている。つまり、沖縄県は二度設置されている。こうしたことから、沖縄の人にとっては「沖縄」というと、日本とは別にある感覚があるのではないか。同じように「沖縄に平和のハブを作る」というのも、“日本の”沖縄ではなく、“日本でない”沖縄に平和のハブをという考えが無意識のなかにあるのではないかと思う。

 

 沖縄戦は、沖縄の人が望んで始めたのではなく、巻き込まれた戦争だった。琉球併合も沖縄が望んで日本になったわけではなく、日本の力によって沖縄が日本になった。アメリカの沖縄基地もそうだ。先ほど、沖縄は「政治的無人島」といったが、依然として沖縄の意志や声は、まるで人がいないかのように扱われている。このまま周りに依存していても沖縄の将来が明るくなるとは思えない。復帰51年を迎え、そろそろ沖縄の人たちが自分たちのことを判断して決めて、そこに責任を負うことが必要なのではないか。

 

 防衛三文書のなかには、「国家防衛戦略」という軍事力に特化した文章がある。このなかで、中国や北朝鮮、ロシアなどが軍事力を増強しているということが大変危険だと懸念している。沖縄の人々が、中国の軍事力増強についても大変懸念しているということを知ってほしい。

 

 アメリカもそうだ。沖縄の人たちがどうすれば基地を減らせるか、長い間考えてきたがあまり実現したことはない。そして、中国が軍事力を増強すれば、アメリカや日本も「それ見たことか」と軍事力を増強する口実になる。みなが軍事力を増強してさらに沖縄に負担を強いているということを中国側にも知ってほしい。中国には中国の理由があるだろうが、沖縄の状態を悪化させている。日本も含め大国は自分たちの論理を主張するが、力の弱い地域からすると違うように見えている。

 

 なぜ、琉球王国が沖縄というそれほど豊かでない島で栄え、大きな首里城を作ったのか。それは富があったからだが、その富は貿易によって集まった。沖縄の周囲が平和に安定化することが、沖縄の豊かさの前提である。その状態をどうやって作るかということを多くの人を巻き込んで考えていかなければならない。

 

■境界線地帯だからこそミサイルでなく対話を


      青山学院大学名誉教授 羽場久美子

 

羽場久美子氏

 「沖縄を平和のハブに」という理由は、沖縄がパワーとパワーの境界線にあるからだ。ハワイや沖縄、台湾、ウクライナ西部・東部もそうだが、これらはどこも美しい観光地であり、国と国のボーダーであり、歴史的に多くの周りの民族が移り住んで他民族共存地域を創り出してきた。そうした地域をミサイルや戦争の最前線基地にしていったのは、近代以降、植民地以降だ。ハワイのパールハーバーをはじめとして、沖縄、台湾、クリミア、西ウクライナすべてが戦争の最前線地域になっている。

 

 まず必要なことは、国と国、パワーとパワーの境界線地域を、住民・市民の手にとり戻すことだ。ただ、それだけでは力にならず、ボーダー地域の特性を活かしてむしろ周りの地域と共存共栄をしていく。それでこそ平和のハブのセンターになるのではないか。

 

 今回、政治、経済、外交、安全保障だけでなく、歌や踊り、食など文化の祭典としても「沖縄を平和のハブに」が実現した。自治体や市民に根ざし、そしてなおかつ沖縄というすばらしい地が世界とアジアと結びついているということを示すことができたと思う。踊りや歌とともに政治・経済が議論され、若者たちが自分たちの未来としてこの地域をどう作っていくかを話し合う。こうした祭典を宮古や与那国島など沖縄の他の地域、あるいは日本各地で住民を中心に自分たちの地域をハブとした催しをぜひ実行してほしい。

 

 もう一つ必要なことは、「ミサイルではなく対話を」ということだ。境界線地域だからこそそこにミサイルが配備される。戦争では最前線になり多くの市民が犠牲になる。そんな歴史のくり返しをもうやめようというのが、「沖縄を平和のハブに」というとりくみの理念でもある。

 

 欧州の全欧安保協力会議(CSCE)のように、話し合いで安全保障や環境問題、食や文化、生活を共同で考える東アジアの国連を新しい首里城にぜひ作ってほしいと思っている。パワーの境界線地域における平和の在り方を考えていってほしい。

 

 私は父が広島で被爆し、母は大空襲で家族を亡くした。そういう意味では被爆二世であり、戦争二世でもある。絶対に二度とこの地域で戦争を起こしてはならないというのは私のミッション、使命でもある。

 

 ロシアによるウクライナ侵攻を契機に、経済論争の時代から一挙に政治と安全保障の時代になり、中国が台湾を攻撃するかもという台湾有事の危機感が国内でもたいへん強まっている。その背景に何があるのか。東アジアで戦争を起こさせないためにどうしたら良いのか。重要なのは近隣国と結ぶ経済や文化、食、とくに若者交流で連携することが大事なのだと思う。平和と繁栄、共存の未来を見据えて楽しく頑張ることが大切だ。

 

 今、「アジアの時代」が到来しつつある。アメリカが恐れているのは、アジア経済がアメリカを席巻することだ。ものづくりだけでなく、ITやAI、教育や芸術などの急激な成長が台湾有事の背景にある。アジアで緊張が高まっているのは、中国をはじめとするアジアの経済成長があるからだ。逆にいえば、欧米の時代が頭打ちになり、ゆっくりと終焉に向かい、アジアの21世紀が到来しつつある。

 

 一つ目の特徴は、人口と豊かさだ。100年後、世界の人口はアジアとアフリカで8割超を占めるとされている。この新しい8割は、20世紀に「世界の半分が飢える」といわれた貧困のアジア・アフリカではなく、ITやAI、世界経済を発展させて日本以上に教育熱心な中国やインド、ASEANが牽引する世界だ。

 

 二つ目の特徴は、これらと連携する経済だ。2022年から今年にかけての国別名目国内総生産は、1位が米国、2位が中国、3位が日本だった。中国はたった13年間で日本の4倍にまで成長している。あと50年後には、世界経済の1位が中国、2位がインド、アメリカは3位に転落する。その下のトップ8は、インドネシア、ナイジェリア、パキスタン、エジプト、ブラジルだ。これをいっているのは、アメリカ金融の総本山、ゴールドマンサックスだ。ちなみに日本はなんと12位まで転落する。このことを経産省の人に話してみると「50年後ではなく10年もしないうちになるだろう」といっていた。

 

 日本の成長の時代、G7の成長の時代は私たちの目の前で転換しようとしている。だからこそ中国の封じ込めが始まっている。では、どうすればいいか。それは今年スイスで開かれたダボス会議(世界経済フォーラム)で答えが出ている。今私たちがやることは分断ではなく、「レジリエンス」つまり回復力、相互信頼、対話と共同、イノベーションであると世界賢人会議がいっている。

 

 急速な人口減少によって、日本はあと40年で労働力が半分になる。労働力半減ということはGDPも半減する。そうしたなかで周りの中国やインド、ASEANと結んで共に発展すること、彼らの移民も受け入れていくことが日本にとって必要なことだ。そしてそれを実行できるのは、中国ともインドとも韓国ともアメリカとも台湾とも仲良くしているここ沖縄だ。

 

 アメリカのバイデン政権は、「民主主義vs専制主義」といって世界を二つに割ろうとしている。そうしたなかで、クアッドとかオーカスとかファイブアイズといった軍事的関係が非常に強まっている。しかし、日本が地政学的にアメリカと結んで中国・ロシアに向けてミサイルを配備することが、本当に日本列島や沖縄、南西諸島の幸せにつながるのか。目と鼻の先にある中国、韓国、ロシア、台湾と一緒に発展していくことこそが私たちの願いだ。

 

 重要なことは、沖縄を経済と平和のハブとし、東アジアで絶対に戦争をしない、始めないことだ。始めた戦争は終わらない。第二次世界大戦末期、第二次近衛内閣は、終戦の半年前に当たる2月に、停戦を求める上奏文を天皇に出した。しかしそれは天皇と軍部によって却下された。その後に何が起きたか。3月に神風特攻隊が編成され、10代、20代の若者たちが250㌔の爆弾を抱え米艦隊に突っ込んで無駄死にを強いられた。そして3月末には沖縄戦が始まり、ひめゆり部隊をはじめ多くの住民が自決・他殺によって命を奪われた。全国の絨毯(じゅうたん)爆撃も3月から始まり、最終的に8月の広島・長崎への原爆投下という世界最大の悲劇が起きた。これらがすべて停戦を却下した後の半年間に集中している。停戦を却下して戦争を続けるということは、非常に激しい住民を犠牲にした戦争が始まるということだ。

 

 東アジアで戦争をさせないためには、沖縄を中心に平和と経済と繁栄のハブを発展させていきたい。「沖縄を平和のハブに」というとりくみは、ヨーロッパにモデルがある。冷戦期の1975年、中立国のフィンランドで会合が開かれ、対立ではなく話しあいで問題を解決しようということで、バチカンやモナコなど小さな国々もすべて入って話し合いが始まった。その意味では、先ほど玉城知事がいっていたように、地域外交室をつくって相互に韓国や中国、台湾など周りの国々と交流を始めているということが極めて大切だと思う。沖縄を中心にしながら周りの人々と結びつくなかで平和を作っていくということが今後持続的に大切だ。

 

 

◇インド・台湾からのビデオメッセージ◇

 

南アジア地域の発展を促進する取り組みについて

 

    インド・クルクシェトラ大学教授 プラディープ・チャウハン

 

 今日は、南アジア地域協力連合(SAARC)、そしてベンガル湾多分野技術経済協力イニシアチブ(BIMSTEC)について話したい。

 

 SAARCは1985年に設立され、加盟国はインド、パキスタン、モルディブ、ネパール、スリランカ、ブータン、バングラデシュ、アフガニスタンの8カ国だ。南アジア諸国に住む人口の40%以上をカバーする世界最大級の組織だ。オブザーバー国は日本、EU、オーストラリア、中国、イラン、モーリシャスで構成されている。さらに、ミャンマーとロシアも将来オブザーバー国になる可能性があると思う。

 

 SAARCのおもな役割は、経済の成長、産業の進歩、文化の発展、平和と協力を促進することだ。SAARCはネパールのカトマンズを拠点に、各国に建設された多くの地域センターを持つ。また、もっとも大きな成果として、南アジア自由貿易圏を設立し、食料安全保障やインフラなどの分野で発展に寄与してきた。

 

 しかし、SAARCの加盟国は国家間の対立や不信感など、さまざまな課題にも直面している。8カ国のなかでインドが最大規模であることから、インドとパキスタンの間で地政学的な不均衡が生じ、多くの紛争が起きてきた。インドとパキスタンの対立、バングラデシュの反対、スリランカの一部の安全保障、平和問題はいずれもSAARCにある程度の影響を与えてきた。過去50年にわたるインドとパキスタンの間の多くの戦争は、両者の不信感に繋がっている。こうした対立や不信感の結果、SAARCは経済発展、貧困率の削減、インフラの改善、良質な教育や医療の提供に力を集中することができず、数多くの計画を実行できていない。インドとパキスタンの政治的対立の結果、インドとSAARCの他の加盟国は、1997年にBIMSTEC(ビムステック)という組織を設立した。この組織のおもな焦点は、経済・技術協力であり、現在順調に進行している。

 

 このような国々が協力していくことは、さまざまな課題とメリットがある。南アジア地域で経済や文学、文化、技術、科学などさまざまな分野で地域の発展を促進するためには、加盟国同士の相互信頼を築き、お互いの問題を解決することが必要だ。

 

沖縄こそ平和のセンターとしてふさわしい場所


     台湾欧州連盟中心執行長 マーク・チェン

 

 今日のテーマは、地域がいかに協力を通じて平和を維持できるかだ。そういう意味ではEUの発展から学ぶ部分がたくさんあると思う。EU(EC)が戦後最初におこなったことは、経済や市場の発展という以上に、第一次世界大戦と第二次世界大戦のような戦争が再びおこらないようにすることだった。文明が発達した国と自称しているのに、あのように大きな世界戦争が起きたことを反省し、二度と戦争が起こらないように平和の促進と発展こそが重要だと考え始めた。もちろん、これは簡単な仕事ではない。なぜなら、平和に向けてとりくむためには多くの人々の努力が必要であり、制度的に遂行することが大切だからだ。

 

 そのため、EUにおいてのとりくみの成果があらわれ始めた頃から、これを他の国、とくにアジアで広めようと考えられた。しかし、アジアには歴史的な対立や市場占有競争により、お互いに警戒しあっている状況がある。そのため、アジアでヨーロッパと同じような統合をおこなうことは極めて難しい。ASEANも、当初のEUをまねして設立されたが、アジアという地域で独自の利益を得られるようにすることが第一の目的だった。そのため、地域の平和に関しての促進と発展はいずれも検証できない部分がある。

 

 沖縄を例にして見てみよう。沖縄といえば、多くの人は米軍基地が存在していることをイメージするだろう。米軍基地が沖縄に存在する限り、安全が保障されると考えられている。これも間違いではないが、他の国にとっては平和の促進と発展どころか、逆に危険になっているのも事実だ。そのため、沖縄のような所で地域協力の場を設立し、平和を促進するハブとして、あるいはそうした体制を整えることが成功のカギになる。沖縄が各国を連結する港となり、要になれば、とりくみはおのずとおし進められるだろう。それに、沖縄が歴史上日本だけでなく韓国や台湾、あるいは中国とも関わりを持ってきたことから、平和を組織するセンターとしてもっともふさわしい場所だと思う。

 

 「小さな国は外交をするのが難しい」という言葉を聞く。それは小さい国は国際情勢を変える“力”を持っていないからだ。しかし、小さな国だからこそ平和を提唱しても反対されることはなく、自分だけの利益を重視するよりもみんながともに利益を享受することに重点を置いている。しかし、米軍基地の存在の背景には、韓国や台湾、中国にも密接な関係がある。

 

 そのため、沖縄がいかに自分の役割を発揮するのかについて、周りの国の情勢と合わせて考える必要があると思う。

 

 EUの本部はブリュッセルに置かれているが、面積は小さくとも各国地域をつなげる拠点になっている。もしも沖縄がアジア各国をつなぐハブとしての役割を担うのであれば、日本、台湾、韓国、中国との関わりはさらに親密になり、よりよい関係性を保てると思う。EUの視点から見ると、人々がお互いに尊重し、理解し合うことこそがカギになると思う。そして「和解」こそが国家間の協力を促進する。簡単なことではないが、何もしなければ何も起きない。

 

沖縄を平和のハブとする東アジア対話交流(下)に続く

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