佐賀空港への陸上自衛隊オスプレイ配備計画は、配備予定地の地権者(254人)との売買契約すら省くという超法規的な強硬手段で推し進めてきた防衛省が早くも工事着工をアナウンスする事態となっている。現在オスプレイを暫定配備している木更津駐屯地(千葉県)の配備期限が2025年7月に迫っているため、防衛省は佐賀県や佐賀県有明海漁協、同南川副支所の幹部を着陸料や振興策などで「買収」したが、配備予定地31㌶の地権者全員の同意や権利書の変更など法的にも道義的にも不可欠な手続きを丸々無視するという前代未聞の強権的姿勢を見せている。6日と8日には、佐賀空港に近い佐賀市東与賀地区、川副地区で防衛省が建設工事にかかわる説明会を開いたが、参加した住民からは、工事の前提となる手続きの不備、安全上の懸念をも無視して基地建設を強行する防衛省に対して激しい怒りが噴出するものとなった。
地権者を「関係者」と言い換え
説明会で防衛省(九州防衛局)は、オスプレイの木更津への暫定配備期限が2年後に迫っているため、佐賀空港への配備に向けた工事を準備が整い次第早急に始めていくとし、工事は期限を迎える2025年6月30日にかけて夜間も含め24時間実施すると説明。平日だけでなく休日も工事を敢行し、排水に関しては、ノリ漁期間中(9~3月)は生コンの打設工事はおこなわないことなどを説明した。佐賀市内や空港につながる市南部の主要道路には、子どもたちの通学路も含まれるが、24時間、資材を載せた大型ダンプや関係車両がひっきりなしに往来することになる。
東与賀地区の説明会で最初に質問した男性は、「工事の前提となる問題」として「先月売買契約したという佐賀駐屯地予定地は地権者が254人いる共有の土地だ。そのため一人でも反対すれば売買契約は無効ではないか」と疑問を投げかけた。
地権者でつくる管理運営委員会がおこなった「臨時総会」(5月1日)では、地権者254人のうち49人が売却に反対したとされており、「共有物の売却に関しては地権者全員同意が必要」であると民法251条で規定されていること、新聞報道でも佐賀大学の中山泰道准教授(民法)が「土地を売らないと表明している共有地権者がいる限り、その持ち分は移転しない」とコメントしていることなどから「土地は防衛省のものになっていないのではないか」と指摘した。
また「地権者からも九州防衛局に直接質問や申し入れがおこなわれているが、それに対してまだ明確な答えをしていない。それにもかかわらず土地の売買契約を結んだということは、国のやることとしておかしい。民法に違反することを国がやっている。工事が始まってから地権者が所有権にもとづいて妨害排除請求をおこせば工事を中止せざるを得なくなる。着工前にまずはこの点をはっきりするべきだ」とのべた。
これに対して九州防衛局の有馬和輝土木課長は、「駐屯地予定地の所有者は佐賀県有明海漁協として登記されており、そのことから佐賀県有明海漁協との間で売買契約を結んだ。そのさいの漁協内部の手続きは、漁協の判断によって手順を踏んで手続きをしたと承知しているため、これに対しては問題ないと認識している」とのべた。
この回答に対し男性は、「所有権が漁協にあったというが、その漁協自身が“地権者は254人いる”とくり返しいっている。だからこそ防衛局も254人の地権者に対して何度も説明会を開いているのではないか。仮に漁協が地権者なのであれば、254人の地権者に説明する必要はない。さんざん説明をしてきて今さら漁協が所有者だというのはおかしい」と問い詰めた。そして登記は、民法上において第三者対抗要件であり、所有権を明確に示すものではないことに触れ、「登記が漁協だから所有者が有明海漁協だといういい方は明らかに詭弁だ」と指摘したが、防衛局側は「所有者は有明海漁協であり、漁協内の手続きについては漁協の判断で、防衛省としては問題ないとしている」と同じ説明をくり返した。
「売買契約無効」の声 厳しい追及相次ぐ
空港に最も近い川副地区でおこなわれた説明会でも、地権者から「土地売却に賛成しておらず、売買契約は無効だ」と怒りの声があいついだ。共有地であるにもかかわらず全員同意も取り付けず、「所有権は防衛省にある」とする九州防衛局に対して「法的根拠を示せ!」と厳しい追及がおこなわれた。
地権者の男性は、「住民の安全よりも工事の早期着工を優先している。私は地権者だが、地代も受けとっていない。土地はまだ防衛省のものにはなっていないはずだ。それに24時間体制の工事というのも、あまりにも地域住民を無視したやり方で、住民に対して防衛大臣や政府の意向を押しつけているだけではないか。私たちはオスプレイの必要性すらも十分に説明を受けていない。地域住民の理解を得て工事をしたいならオスプレイの必要性、なぜ工事をこれほど急ぐのかについて説明するべきだ」とのべた。
配備計画に反対してきた地権者の男性は「“土地を売る”とはいっていない。49人も反対者がいたのになんの説明もないまま話を前に進めている。しかも、夜間も休日も工事をするなど、あまりにも佐賀の者をばかにしている。国が法律を無視してどうするのか? 九州防衛局長に法廷で争うと伝えてほしい。私たちは国交省からも騙(だま)され、農水省からも騙され、今度は防衛省からも騙されるのか。私たちの土地を好き勝手にはさせない」と怒りを込めて語った。
これに対しても防衛省は、「登記は佐賀県有明海漁協であり、手続きに問題はない」と居直り、(たとえ地権者への土地代の支払いが済まなくても)不動産登記を5月25日付で防衛省に移転しているため6月中にも工事に着手すると豪語した。
別の地権者の男性も、「この説明では納得いかない。あなたたちは地権者がいることを承知で、本所と契約して正当性を主張している。だが地権者は売ることに同意していない。私も反対した49人のうちの1人だ。防衛省の返答次第ではまだその人数は増えるだろう。オスプレイの配備は今回の取得面積である31㌶だけで終わらないので、防衛省が取得しなければいけない面積はまだ増えるはずだ。米軍のオスプレイも佐賀に持ってきて演習させるための自衛隊基地ではないか」と、不都合を隠しながら進めようとする防衛省の姿勢を指摘した。
地権者の発言を受けて、佐賀市に住む男性は「地権者の方が自分たちは売るとはいっていないと明確にされたのは非常に重大な問題だ。地権者は254人おり、そのうち49人が売らないと意志を表明している。防衛省も2年前に254人の地権者がいることを把握しているからこそ『地権者アンケート』をしているし、さらに今年に入っても土地買収の金額を示して地権者に戸別訪問して説明している。地権者の全員同意なしに工事を始めることは許されないはずだ。その点を正面から答えずに、しかも反対している地権者が目の前にいるのに、まともな説明をせずに工事を始めることは絶対に許されない。法的根拠を示す必要があるし、少なくとも反対する地権者に対してきちんと説明をする場をもうける必要がある。それでも九州防衛局は254人の地権者がいるということも否定するのか?」と問い詰めた。
防衛局は「土地の取得にあたっては佐賀県有明海漁協と調整しており、そのなかで必要な関係者に話をさせていただいた。九州防衛局が地権者説明会や地権者アンケートをおこなうという形で『地権者』といういい方をしてきたではないかという指摘だが、説明会やアンケートは、“関係のみなさん”という認識のなかで意見をたまわるとか情報を提供するというとりくみをしてきたものであり、そこを捉えて従来から九州防衛局が地権者であるという認識を持っていたということはまったく当たらないとはっきり申し上げておく」とのべ、共有地の持分を持つ254人は地権者ではなく「関係者」にすぎないという認識を示した。
これについて質問者の男性は、「3月18日付の『佐賀新聞』にも、防衛省は土地の価格の見積単価を示す理由について『地権者に土地を売却するかどうかの判断材料にしてもらうため』とのべたと記されている。防衛省自身が地権者に売却の判断をしてもらうために書類を送ったり、説明をしてきたと明言している。これまで地権者といってきたのに、自分たちが登記を持ったとたんに地権者ではないというような理屈は通らない。しかもお金も払っておらず、きわめて不誠実だ。土地の売却に関して問題ないというが、問題ないかどうかは防衛省が決めることではない。今までさんざん地権者として扱ってきたし、漁協も254人の地権者がいるということを防衛省に説明してきたはずだ。漁協の説明も無視するのか」と防衛省を追及した。
防衛省の態度に対して、地権者からは「私たちが地権者であることを知りながらなぜ漁協本所と契約したのか? 契約したとか登記が済んだというが、現段階では他人の土地を勝手に工事するようなものではないか」と怒りの声が上がった。
また漁協合併のさい、地権者が所属する南川副支所として共有地の登記をしようとしたにもかかわらず、「組合は一つしかないから佐賀県有明海漁協でしか登記できない」となり、便宜上、佐賀県有明海漁協による登記をおこなったという経緯が地権者たちから指摘され、「それを佐賀県有明海漁協の登記だから地権者も漁協だというのはあまりにも横暴ではないか」という意見もあがった。地権者の管理運営委員会の「総会」で売却決議をさせるために、防衛省や県が「オスプレイを受け入れないと漁業にかかるさまざまな予算がつけられなくなる可能性がある」と漁師を脅しながら、外側から総会に介入して売却賛成を増やすために誘導工作をしていったことにも怒りが語られた。
住民生活無視の24時間工事 事前説明もなく着工
防衛省は住民説明会では、工事の着工日について「準備が整い次第」と答えるだけで具体的日時の明言は頑なに拒んだが、同日のNHKのニュースで「12日に工事着手」と報道されたことにも、住民から「一体地元に何を説明しに来たのか?」「あまりにも不誠実ではないか」と怒りの声が上がった。
東与賀に住む女性は、「私たちはこの地域で日常生活を送っており、漁業や農業など、ここで仕事をしている人もいる。子どもたちもいる。この一帯を工事車両が24時間走り回って工事をして、私たちの生活へ影響を及ぼさないわけがない。24時間というのはやめてほしい。振動もするし騒音もする。そんな突貫工事みたいなのはやめた方がいい」とのべた。
そして東与賀や川副地域が軟弱地盤の干拓地であることを指摘し、「私は工事車両が通るとされている国道444号と県道のあいだに住んでいるが、ダンプが通ると家が揺れる。これまで堤防や空港の工事のときにも、この辺りの家は傾いたり、ひび割れたりなどしてきた。その被害を行政に訴えても“なぜ事前に写真を撮っていなかったのか”といわれ、泣き寝入りをしている。このことを地元にきちんと説明し、写真を撮っておくなどの事前審査をするべきではないか。今私たちは豊かで穏やかで静かな生活を営んでいる。生活の安全を脅かさないでもらいたい」と訴えた。
近隣の諸富地区から来た女性は「佐賀空港のオスプレイ配備は絶対に許されない。四十数年前に佐賀に引っ越してきたが、佐賀の住民であるということにこんなに悲しい思いをしたのは初めてだ。のどかな佐賀平野に戦争をするための基地をつくってほしくない」と訴えた。
そして工事車両が24時間佐賀市内を走行するにもかかわらず、佐賀空港周辺だけしか説明会を開かないことに対して「この問題は、佐賀県内、隣の福岡県柳川市民、大川市民にも説明して、そのなかで着工できるかどうか考えるべきだ。今日は佐賀県、佐賀市の担当者すら来ていない。自治体の責任者もここに呼ぶべきだ。その説明会が済むまで工事着工すべきでない」とのべた。
佐賀市の女性は、木更津でオスプレイの運用を視察したさい、一機の運用といわれていたにもかかわらず3機で飛んでいたこと、場周経路(飛行ルート)は海側といわれていたのに内陸部を飛んでいたことを話し、「佐賀空港に来たオスプレイがそういう飛び方をしないという約束ができるのか疑問だ。説明したことと事実が違っている。説明会をもっとやってほしいという要望が地元自治会長からも挙がっていたが、それへの答えもない。あまりにも住民無視ではないか」と憤りをのべた。
駐屯地予定地に近い沿岸部に住んでいる東与賀の男性は、「1回目の説明会のとき、オスプレイは沖合10~20㌔のところを飛行するが、場合によっては陸上を飛ぶこともあるといわれた。われわれは本当に(空港に)近い場所で生活をしている。生活権が侵されることになるにもかかわらず、ほとんど説明会がない。漁協には売却などの説明が相当おこなわれているようだが、近隣住民にももっと説明があるのが当然ではないか。ハウスも田もある場所で、ときどき墜落するようなヘリが飛ぶこと自体が怖い。もっと近隣住民のところに出向いて説明会をおこなうべきだ」と訴えた。
東与賀小学校PTA関係者は、先月地域内で小学生が車に跳ねられる事故が発生したことを明かし、「今回の工事車両の走行ルートも小学生が通る道だ。ここにはガードレールがない。この場所を昼間も通るとなっているが、朝夕の通学時間は走らないようにできないのか。また西川副小学校の真横を工事車両が通るルートになっているが、授業への影響は考えていないのか」と保護者として子どもの安全上の懸念を訴えたが、防衛局側は「通らないということはできず、近隣の小中学校については交通誘導員の配置をする」と答えるのみだった。
防衛省は12日早朝にも佐賀空港に隣接する共有地の工事に問答無用で着手すると見られ、地元住民との衝突は避けられない事態となっている。
(6月12日付)