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インボイス制度に税理士はいかに臨むべきか! インボイス制度の中止を求める税理士の会・菊池純

 インボイス制度に一貫して反対の姿勢を示してきた日税連が一転して「賛成」の立場にまわり「円滑な実施」を求め始めたことで、税理士のなかで不満が顕在化しつつある。インボイスの導入には自民党の議連も延期を要望するなど、立場の壁をこえて反対の声が高まるなか、今あらためて税理士の立ち位置が問われている。

 

1.インボイス制度は消費税の大増税

 

 財務省はインボイス導入により、およそ161万の免税事業者が課税事業者になることにより2480億円増収になると述べているが、これを逆算すると一者当りの増税額は15万4000円になる。

 

 インボイス制度は、今までの免税事業者が課税事業者になって消費税を納めても、また免税事業者のままで、取引先の課税事業者が消費税分を負担しても、消費税額が増える、税率をいじらない増税である。すると、双方からとる増税額は、上記、15万4000円に500万の全免税事業者を掛ければ約7700億円にのぼる。免税事業者の数は1000万社ともいわれており、いずれは1兆5000億円規模の大増税となることが予想される。

 

 財務省としては、今までの免税事業者が課税事業者になって消費税を納めても、また免税事業者のままで、取引先の課税事業者が消費税分を負担しても、実はどちらでもよい。いずれにしても日本経済は大きな地殻変動を起こす。

 

 インボイスの実施にあたって「激変緩和措置」が実施されるが、これは世の中が激変してしまうことを財務省が十分に認識しているネーミングといえる。
 少なくとも税理士はこういう非常に厳しい将来が到来することについて、きちんと顧問先に説明する必要がある。

 

2.免税所業者に対して課税事業者になることを勧める税理士も増加

 

 課税事業者化をすすめる税理士の多くが、「仕事を切られたらどうしようもないじゃないか」というが、課税事業者になった後も本当に事業を継続できるのだろうか。今必要なことは、インボイスの中身をしっかり説明して、どれほど危険な制度なのかの理解を広めることである。

 

 インボイス発行事業者への登録は9月30日まである。当局の要請のままに安易に課税事業者化をすすめるのではなく、納税者の権利を擁護するために一人でも多くの納税者にインボイスの中身を広めていくべきだと思う。

 

 免税事業者の元には「インボイスに登録しない場合は取引を停止することがある」といった文章が取引先から届くようになっている。こうした状況の中で税理士は、「公取に相談してみましょう」とアドバイスもできるはずである。

 

 税理士のインボイスに対する危機感が希薄なのは本当に危惧するところだが、最近は免税事業者の税理士が課税事業者になる動きも出ている。先日お話をした方は「これまでも顧問料に消費税を乗せていたのに、インボイス後に免税事業者だったとわかると恥ずかしいから課税事業者になる」という。税理士でさえも、以前の政府がいうように「預り金をポケットに入れていた」という認識である。30年間「仮受消費税」「仮払消費税」と仕訳を切ってきた者として、間違った知識が国民の皆さんと同じくらいすりこまれている。

 

 インボイスの導入後は、多くの免税事業者が廃業を選択し、取引のあった多くの課税事業者が危機的な状況に陥る。そうなれば多くの税理士の廃業リスクも高まる。インボイスは本当に誰にとっても他人事ではない。

 

3.日税連や税理士会のインボイスに対する姿勢が見えづらい

 

 日税連の足達専務(現東京税理士会会長)は、2020年3月24日のMJS経理ドリブンのインタビューで次のようにのべている。

 

 「私たちは、そもそも軽減税率制度そのものが消費増税の『逆進性の緩和策』としては非効率で不十分だと考えています。にもかかわらず、多くのメディアが取り上げているように、税率区分経理による事務負担は大きく増加しました。その上でインボイス方式が導入されると、事業者はすべての取引において、取引先がインボイス発行事業者であるかを確認する作業が必要となり、負担はさらに増えることになります。
 また、免税事業者は適格請求書を発行できないため、取引先から不当な値下げを強いられる可能性もあります。そうなった場合の経営状態悪化を危惧しているのです。
 税理士は、全国に500万以上いるとされる免税事業者のうち相当数の経営に深く関わっており、私たちがインボイス方式導入の見直しを要求しなければならないと考えています。それだけでなく、インボイス方式は税務署の事務にも大きな負担が生じると考えられています。そのため税理士は、わが国唯一の税務の専門家という立場から見直しを強く主張せざるを得ないのです」。

 

 日税連も全国15の単位会もインボイスについては明確に反対もしくは延期という姿勢を貫いてきた。

 

 ターニングポイントとなったのは2021年6月23日の日税連理事会で、その日は日税連の税理士法改正要望案が決まった。改正案では、同法2条に「3」として、納税者の利便性向上のためにデジタル化を推進しなければならないといった旨の新設が盛り込まれた。これは誰が見てもデジタルインボイスに税理士が関わっていくという内容だ。現行法でも電子申告が税理士業務ということは書かれているのに、わざわざ「3」を追加して、電子インボイスに前のめりの姿勢を示したわけである。

 

 そうした布石があり、22年5月にホームページで「インボイス制度の円滑な導入・実施について」を発表する。その後はインボイスに反対する意見は一切なくなり、23年度の与党税制改正大綱には日税連の提案したインボイスに関する経過措置の延長が盛り込まれていないにもかかわらず、これを喜ぶ全面広告を日経新聞に掲載する。そして今年1月に開かれた税理士会の大会では、日税連の神津会長が「インボイスに賛成」と明確に述べるに至っている。

 

神津会長のインボイス「賛成」発言
 (略)インボイス制度についてですね、わが日税連は中小企業者に受け入れやすい制度を構築してくださいというお願い一点に絞ってやってまいりました。インボイスについては賛成するし、この国のデジタルトランスフォーメーション改革については必要なことだという認識のもとに行った提言でございます。最初は大変困難な状況で一時は四面楚歌のような状況もありましたが、大綱に入れて基準年度の売上高1億円基準、それからひとつの支出1万円基準ということで一応原則的な現行のインボイスにしようと決まった。(略)大変でかい成果を勝ち取った。
 (2023年1月11日、東京税理士会新年賀詞交歓会)

 

4.日税連の方向転換をどう考えるか

 

 税理士会のある幹部の方は、「もうここまで来てしまったのだから、中小企業向けの対策が全く進まないよりは一歩でも前進したほうがいいだろう」と話していた。苦肉の選択だが、インボイスの中止や大幅な見直しが難しい状況では「円滑な導入」という方向でひとつでも実を取ろうというのだ。もっともらしい意見ではあるが、それで世間は納得するだろうか。

 

 それまで日税連も税理士会も明確にインボイスに反対し、ホームページなどでも表明してきた。そうした姿勢を支持する納税者もたくさんいたはずである。税務の専門家団体がわれわれ弱い立場の中小企業にかわって反対してくれているのだと。それが今回のような変容で、税理士という職業が尊敬されるだろうか。

 

 もうひとつ付け加えると、「インボイスが入れば現場は大混乱を起こすので、結局は廃止なり見直しなりするようになるよ」という人もいる。だから財務省の顔を立てて1回は導入させてやればいいというのだ。でも、それでは駄目だと思う。社会がおかしくなるのがわかっているなら職能団体としては絶対に止めるべきである。

 

5.法律が通った以上は反対しても無駄だという意見に対して

 

6月14日の「STOP!インボイス」全国一揆を呼びかけるチラシ

 インボイスの導入は決定事項ではある。ただ、決まったことであっても、多くの国民や中小企業、そしてわれわれ税理士自身も不幸になる制度を前に「仕方がない」と諦めるわけにはいかない。それに、インボイスに反対する意見は大きくなりつつあるのが現状だ。

 

 国政でも、良識ある野党に加え、与党サイドからも税制を勉強している議員からはインボイスの中止を求める声が上がっている。今年3月には自民党の議連が要望書を萩生田政調会長に提出し、中小事業者を直撃するインボイスを延期せよと求めた。この議連は衆参で八四人が参加するもので、自民党のなかでも一大勢力だ。こうした動きも出てきているのだから、希望はあると思う。

 

自民党「責任ある積極財政を推進する議員連盟」
物価高騰、賃上げ対策としての経世済民を求める決議
 あまねく国民の負担軽減支援目下の経済状況の中で、民間企業に賃金アップを要請することは限界がある。可処分所得が毀損されている状況下において、国民に確かな賃金アップを実感して頂くためにも(略)消費税減税の効果を真摯に検討し、一定期間、国民の消費税負担を軽減すること。更に、中小・小規模事業者、フリーランスの経済活動を直撃するインボイス制度導入を延期すること。

 

6.中小企業庁のオンライン相談に応募する税理士はご注意を

 

 10月に始まる消費税のインボイス制度について、国税庁は事業者の登録申請状況(3月末時点)を公表した。消費税の納税義務がある約300万の「課税事業者」のうち、9割近い約268万の事業者が申請を済ませたが、小規模経営の「免税事業者」の申請は約52万にとどまる。国税庁は、「税の申告義務がない免税事業者の全体数は把握していない」として登録するかどうか悩んでいる免税事業者が多いとみて、個別の相談会を全国の税務署で開く。

 

 この流れを受けて、日税連の会員専用「お知らせ」に、中小企業庁・インボイス相談窓口に係る相談員募集【※注】が載り、税理士が登録するように促されている。

 

 しかし、委嘱条件を見るとトランス・コスモス株式会社が間に入っており、「(1)専門家の相談謝金は、日額2万5000円(税込)とする。(2)1コマあたり最大60分とし、原則として、1日あたり6コマの相談対応を実施する」としている。

 

 さらに、「損害賠償及び責任の所在」の項目で、「専門家が『専門家向け相談対応マニュアル(仮)』において禁止された行為及び明らかな税法解釈の誤り等の重大な過誤により、相談をした事業者等に対し損害を生じさせた場合は、その範囲内で専門家は賠償の責任を負う。ただし、相談をした事業者等がインボイス発行事業者の登録を行うか否か、インボイス制度への対応をどうするか等は、最終的に事業者自らの判断に基づくものであるため、本事業の専門家は、事業者等のその判断に責任は負わない」となっている。

 

 いくら任意とはいえ、賠償責任のある税務相談というのは初めてではないだろうか。おまけに、日税連を通じて税理士だけが相談員に登録するサイトにおいての説明である。また、ネットで行う相談なので、支援内容をトランス・コスモス株式会社に報告する義務があるのだが、「支援内容の報告等に虚偽があった場合、刑事責任等に問われる可能性があることを理解した上で報告等を行うこと」と、相談員になったら大変で、なんで間に入っている会社にここまでいわせるのだろう、という内容になっている。

 

 加えて、「登録の取消し」として「本事業の目的又は内容から逸脱した行為を行ったと認められる場合」は、本事業の専門家としての登録を取り消すことができるものとする。なお、本事業の専門家としての登録を取り消した場合には、氏名及び取り消し理由を公表する場合がある、とされている。

 

 インボイス制度は登録をするとずっと申告義務、納税義務が課される。激変緩和措置で課税売上に係る消費税の2割の納税で済むといっても3年間だ。将来の事業者のことを考えれば免税事業者のままでいることをすすめるが、そういう相談は、「本事業の目的又は内容から逸脱した行為を行ったと認められる場合」に当てはまってしまうかもしれない。

 

 それを誰が判断するのか、それも会ったこともない免税事業者とのネットでの個別相談で、下手をすると氏名及び取り消し理由を公表される。こんなことになったら本業の税理士業務もできなくなってしまうのではないか。

 

 それなのに日税連は、「積極的な登録のお願い」を掲載している。それも、税務相談で税理士しか行えないのは申告を前提としたものに限られるのを、税理士法を拡大解釈して、「税務相談業務は税理士にしか行えないことから」などと宣伝文句をつけてまでである。

 

 税理士は、納税者の権利、国民の財産権を公権力から擁護する職責があり、業務の相手方が常に公権力であるという税理士業務の特殊性を考えると、税理士は、公権力と対峙する姿勢が常に求められる職業と自覚する必要がある。このことを日税連は忘れてしまったのだろうか。

 

【※注】 中小企業庁・インボイス相談窓口に係る相談員募集について 2023年4月17日お知らせ
 中小企業庁では現在、インボイス制度に関するワンストップ相談窓口の設置に向け準備を進めています。
 これは、インボイス制度の円滑な導入に向け、消費税の免税事業者からのさまざまな相談に対応するために設置されるもので、インボイス発行に伴う税負担についての個別相談等に応じる専門家として税理士を募集しています。
 税務相談業務は税理士にしか行えないことから、税理士会員各位におかれては、積極的なご登録をお願いいたします。ただし、相談に当たっては真摯な対応を心がけ、直前キャンセルや顧客への強引な勧誘等の不適切な行為は厳に慎んでください。

 

7.インボイス制度に税理士はいかに臨むべきか

 

 2023(令和5)年度税制改正法が3月28日、参院本会議で与党などの賛成多数で可決・成立した。

 

 そして、「所得税法等の一部を改正する法律案に対する付帯決議」では、「政府は、次の事項について、十分配慮すべきである」として、「7 適格請求書等保存方式(インボイス制度)の実施に当たっては、同制度に対してなお慎重な意見があることを踏まえ、免税事業者の取引からの排除や廃業という深刻な事態が生じないよう最大限の配慮を行うとともに、免税事業者が課税事業者に転換する場合の事務負担を軽減するよう努めること」とされた。

 

 税理士は難しい立場に追い込まれている。得意先をはじめ納税者からはインボイスの説明を求められその対応によっては損害賠償の対象になる。

 

 今は免税事業者に目がいっているが、取引先に免税事業者が多い事業者も経営の大きな危機である。例えば取引相手が免税事業者のお医者さんが多い医師会なども、10月以降の納税額が多大に増える。そのことに対して、「なんでこんな税制を通したんだ、税理士はどうして止めないんだ」との声が今さらながら高まっている。

 

 中には絵本を作っている「童心社」のように取引先の8割が免税事業者で、インボイス導入で納税額が数千万円上がるのがわかっていても、「一緒に仕事をしている作家さんやデザイナーさんの顔がちらつくわけですよ。すると『消費税をお願いします』『だめなら原稿料から引きます』とは、とても言えない。その人の作品や原稿、デザインが欲しくて仕事をお願いしているので、『登録事業者』でかわりを探せばいいというわけではないわけですよ」「免税事業者の方に『番号登録』をお願いすることは致しません。その場合も従来通りのお取引の条件の継続を基本とさせていただきます」(『全国商工新聞』5月29日)と取引先に伝えている企業もある。

 

 インボイスは納税者同士の断絶を狙った制度だ。今まで取引してきた同士、いがみ合わず団結して仕事を続けていく方法を探る、その手助けも税理士の役目だと思う。

 

 新型コロナ禍や円安、物価の高騰など、生活を脅かす課題が山積する状況で、世界では消費税の減税が進められている。そんな中、インボイスを導入して大増税を行い、何万人も失業者を出すような日本の対応は改めるべきだ。

 

 今問題になっているのは税制に関することだ。税制が社会を壊そうとしているときに声を上げるのは、やはり税理士だと強く思う。

 

 

◇----関 連 告 知----◇

 

■「STOP!インボイス」 6月14日に全国各地で一揆を計画

 

 インボイス制度を考えるフリーランスの会(通称「STOP!インボイス」)が中心になって、6月14日(水)に「STOP!インボイス全国一揆」が計画されている。東京会場では午後6時から、国会正門前でアクションをおこなう。それにあわせて全国各地でも同様の行動が計画されており、国会前と各地の会場をつなぎ、エール交換もおこなわれる予定。

 各地の詳細情報は、STOP!インボイス公式HP で確認できる。

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