いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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石油支配めぐるイラク戦争 カスピ海でも争奪激化 

 アメリカのイラク戦争と占領支配が、武力による石油資源の強奪、植民地市場の略奪であることがだれの目にも明らかとなった。それは、世界恐慌の瀬戸際に立つアメリカが、生き残りをかけて中東やカスピ海、西アフリカ、中南米と世界中で展開している石油や天然ガスの略奪戦を武力をもって凶暴にすすめていることを示している。

  凶暴化するアメリカ
 ブッシュ米政府は昨年3月、フランス、ドイツ、ロシア、中国をはじめ国連加盟国の圧倒的多数の反対を押しきってイラク戦争をイギリスとともに発動、イラク政府を転覆して占領支配している。その目的は、湾岸戦争後の約10年間に、フランス、ドイツ、ロシア、中国などがイラクで獲得した石油権益をご破算にし、米英系石油企業でイラクの石油資源を独占することであった。
 イラクの原油確認埋蔵量はサウジアラビア(約2600億㌦)につぐ世界第2位の1120億㌦とされるが、未確認分をふくめると埋蔵量は3000億㌦をこえるといわれる。これは、世界最大の石油消費国アメリカの石油輸入の100年分に相当する。加えてすでに確認されている油田は70にのぼるが、開発されているのは15ほどで潜在力は大きい。おまけにイラク原油の生産コストは1㌦ほどで、サウジアラビア産の2㌦より安く、米英系メジャー(国際石油資本)にとってよだれの出る資源である。
 だが、湾岸戦争後、アメリカがイラクに経済制裁を加えたため、イラクはフランス、ロシア、中国などと油田の開発契約を結び、新規の開発交渉をすすめ、エクソン・モービルやBPなど米英系メジャーは排除してきた。
 アメリカは今度のイラク戦争では、湾岸戦争のときのように油田や関連施設を破壊することはいっさいせず、油田を無傷で占拠することを最優先した。政府各省庁のなかでも石油省だけは破壊せず、イラクの石油生産の復旧、開発計画をすすめた。それは70億㌦にのぼるもので、アメリカ企業が国防総省から無競争で受注した。ブッシュ政府は「兵士が血を流した国が復興の主導権をとるのは当然」とうそぶき、イラクの石油権益を独占する意図をあからさまにした。ブッシュへの巨額の政治資金はこれらのメジャーなど石油、エネルギー会社から出されている。

 石油奪い「復興」で大儲け
 石油にかぎらず、アメリカが空爆で破壊したものの「復興」事業186億㌦の元請企業も、アメリカ、日本など62カ国に限定し、フランス、ドイツ、ロシアなどを排除した。
 チェイニー副大統領がかつて経営していた大手油田開発会社ハリバートンは、17億㌦余りの事業を受注するとともに、その子会社ケロッグ社やブラウン&ルーツ社がイラクでCIA(米中央情報局)の活動を支えている。また、アメリカ最大の建設・エンジニアリング会社べクテルは、11億3000万㌦もの事業を受注している。現占領当局代表のブレマーは、べクテルの前重役だった。同社は1999年から4年間で、共和党に約77万㌦もの献金をしている大スポンサーでもある。
 このほか、ブッシュ政府の主要閣僚を見ると、ラムズフェルド国防長官がミサイル防衛システム(MD)を推進してロッキード社の利益をはかり、ミネタ運輸長官がロッキード社の副社長であり、ライス大統領補佐官がメジャーのシェブロンの重役であったなど、「軍産複合体」といわれる独占企業体と政府のゆ着構造が明るみとなる。かれらがイラク戦争で何万もの人民を殺し、産業基盤を破壊したうえに、「復興」と称して日本などからかき集めた400億㌦近くの資金で暴利をむさぼっているのである。
 かれらひとにぎりの連中のために、イラクの米英占領当局は昨年10月、イラク国有企業の売却計画を公表した。それにはセメントや化学肥料の工場、燐酸や硫黄の鉱山、医薬品工場、航空会社などがふくまれ、外資出資率100%の企業設立、営業利益の国外送金を許可している。イラク人民が勤勉な労働によって築きあげた富を、こうして米英など外国資本がわけどりするのは、植民地的略奪以外のなにものでもなく、「民主化」「復興」の正体である。

 アフリカも視野にさらなる略奪をたくらむ
  2001年10月の米英軍のアフガニスタン侵略からイラク戦争まできて、アメリカの「反テロ」戦争が世界の石油資源の強奪戦争であることが明白となってきた。アフガンにつぐイラク占領は、中東と中央アジアのカスピ海の石油、天然ガス資源を武力で支配することを狙ったものであったが、アメリカはさらに「反テロ」戦争をアフリカ、アジア、南米などに拡大し、石油資源とパイプラインを支配し、アメリカによる世界の「一極支配」の野望をとげようとしている。
 アメリカは、石油をアメリカの安全保障にかかわる問題とし、あらゆる代価を惜しまず石油供給を確保するとしている。現在、アメリカの輸入原油は総消費量の51%を占め、2020年には64%に達する。エネルギー政策として、アラブ、イスラム諸国への石油依存度を相対的にへらし、カスピ海、アフリカ・ギニア湾などに石油供給源を拡大するとしている。
 だが、アメリカの中心目標は、今世紀に石油消費大国となるロシア、インド、中国、イスラム国、欧州諸国を石油によって支配することである。世界各国の石油需要が増大するなかで、「石油を支配するものが世界を支配する」という戦略をすすめている。
 石油は世界の一次エネルギー消費の40%を占め、今後ともその位置は高まるすう勢にある。現在の日量7700万㌦の需要は、20年後には1億4000万㌦に増大すると予測されている。その需要を満たすためには、石油生産の倍加と新たな油田の探査・開発が不可欠となっている。
 1999年末で確認された世界原油の埋蔵量は約1兆160万㌦。世界第1のサウジアラビア、2位のイラク、それにアラブ首長国連邦、クウェート、イランを加えたペルシャ湾岸の5カ国で世界の埋蔵量の66%を占める。
 ペルシャ湾岸地域は、たんに原油の埋蔵量が多いだけでなく、油田の開発・採掘コストがきわめて安く、世界市場で決定的な位置を占めている。なかでもサウジは日量で最大1000万㌦の生産能力を持ち、国際石油市場で供給と価格を調整して、米英などメジャーの利潤獲得を支えてきた。
 他方で、1960年代から70年代にかけてアラブ産油国では米欧の資源略奪への反発から、石油国有化が進行した。イランの親米王朝の倒壊(1979年)は、アメリカのペルシャ湾岸支配を揺るがした。アメリカはそれを立て直そうとして、一九九一年の湾岸戦争、そして昨年のイラク戦争をひき起こした。だが、アラブ諸国では反米感情が高まり、サウジさえ不安定な流動的状況が生まれている。
 
 カスピ海めぐる争奪 ソ連崩壊で本格化
 アメリカは1991年のソ連崩壊のもとで、旧ソ連圏のカスピ海の石油・天然ガスの強奪に乗り出し、ロシア、欧州、日本、中国、周辺のイスラム諸国との争奪戦をはじめた。
 カスピ海は欧州とアジア大陸を結び、中央アジアとコーカサスとイランのあいだにあり、石油・天然ガスの宝庫である。原油埋蔵量は2000億㌦をこえて、北海の約10倍、ペルシャ湾岸の3分の1に相当する。しかも、原油生産高が北海などで減少傾向にあるが、カスピ海は増加している。1997年に日量110万バレルであったのが、2010年には400万バレル、2020年には600万バレルとなる見とおしも出ている。
 加えて天然ガス資源も豊富。アゼルバイジャン、ウズベキスタン、カザフスタン、トルクメニスタンなどで産出し、確認埋蔵量は14兆立方㍍前後に達する。アメリカ、カナダ、メキシコの合計埋蔵量に匹敵する。
 現在、石油とガスの開発権を求めてカスピ海に群がる外国企業は数百社にのぼっている。代表的なエネルギー独占企業としてアモコ、シェブロン、エクソン・モービル、BP、ロイヤル・ダッチ・シェル、エルフ・アキテーヌ(仏)、アジップ(伊)、ルクオイル(露)、中国石油公司などがある。
 最初のケースは1993年、テンギス油田開発でシェブロンがカザフスタン政府と組んで、200億㌦規模の合弁事業を設立、ノボロシスクへの石油輸送パイプラインの建設に着手した。また、アゼルバイジャン国営石油会社と欧米企業の大型プロジェクトも設立された。1999年には、生産・輸送施設への投資は数十億㌦にのぼり、2010年までに総投資額は500億㌦に達する見こみといわれる。

 パイプラインが最大ネック
 カスピ海の石油・ガス開発の最大のネックは、輸出パイプラインの建設であり、それに政治的利害が絡むことである。アメリカ、ロシア、トルコ、中国、イランなど、みな自国の戦略的利益に即したパイプライン設定をもくろんでいる。北ラインのロシア案、南ラインのイラン案、西ラインのアメリカ案、さらに東への中国案などがある。
 とくにアメリカとロシアのあいだでは、カスピ海と中央アジアを冷戦後の世界秩序再編の要衝をどちらが握るかをめぐり、戦略的利害の対立がある。米国家安全保障会議の高官は、「つまるところ、カスピ海石油の輸送にたいするロシアの独占支配を崩すことだ」と公言してはばからない。
 ロシアは、北ライン経由で石油を黒海と欧州に送ることで、巨額の通過料を稼ぎ、カスピ海のエネルギー資源の分配で一定の支配権を握ろうとしている。
 アメリカは、開発したカスピ海資源をロシアやイランをとおさずに西側市場に送り出そうと、いま海底をとおしてカザフスタンからアゼルバイジャンにぬけ、それからグルジアとトルコを地上でつなぐパイプラインを建設している。
 米ロ双方ともその目的から、中央アジアとコーカサス諸国に大型の軍事・経済援助を提供して、関係強化をしているが、主導権争いは激化するばかりである。それは軍事的対峙状況をつくっている。
 ロシアはかつての盟主の位置を利用して、2万2000人の軍隊を駐留させ、旧ソ連軍基地の継続使用をしている。アメリカは軍事面ではゼロから出発、武器売却、軍幹部交流、軍事協定、合同演習などで関係を強めてきた。
 この米ロの対峙状況に大きな転機をもたらしたのが「反テロ」を口実にした米英のアフガニスタンへの侵攻であった。アメリカはキルギスとウズベキスタンに空軍基地を置き、歴史上はじめて中央アジアに米軍を駐留させた。コーカサスでも、グルジアに特殊部隊を軸に米軍をはじめて進駐させた。これとアフガン占領によって、アメリカはアジアと欧州の結合部に米軍を配備し、ロシアと中国をけん制し、イランににらみをきかせることができるようになった。今度のイラク占領でイランと中東諸国に常時威圧をかけ、いつでも戦争をしかける態勢もつくった。
 これは、中東やカスピ海のエネルギー資源の争奪が軍事力でおこなわれる段階に入ったことを示しており、ロシアとの争奪戦はもとより、中央アジアとコーカサス、そして中東諸国人民とアメリカとの矛盾が激化せざるをえなくなっている。とくに中央アジアとコーカサスでは、米ロ双方から軍事・経済援助を受ける国同士の「代理戦争」の危険が高まっている。

 ギニア湾沿岸まで浸透図る
 加えて、近年アメリカは西アフリカのギニア湾沿岸諸国に石油を求めて浸透している。ギニア湾に面するナイジェリア、アンゴラ、赤道ギニア、ガボン、ベナン、コンゴ、カメルーン、サントメ・プリンシペなどにたいし、エクソン、エッソなどのメジャーが競って投資を拡大、すでに数十年の開発契約を結んでいる。
 アフリカ全体の石油の確認埋蔵量は世界の8%前後と少ないが、今後深海油田の開発で世界第三の産油地域になるといわれている。2015年には、アメリカのアフリカからの石油輸入量が現在の15%から25%となるとの予測も出ている。今後10年間に、新油田開発にともないアメリカの石油収入総額は2000億㌦に達すると見こまれている。
 このほか、アメリカのメジャーは東アジアでは、ティモール、北スマトラの油田、南米ではエクアドル、ベネズエラの石油権益の大半を支配している。

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