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ニューヨークの看護師ストが勝利 7000人が3日間 人手不足で現場は激務 患者の命守れる医療体制求め

 米ニューヨーク市で9日から、ニューヨーク州看護師組合(NYSNA)が2つの拠点病院で3日間にわたるストライキを決行し、病院当局に要求を呑ませる形で勝利を収めた。ストを実施したのは、ニューヨーク市マンハッタンで最大規模の総合病院マウント・サイナイ病院と、同市北部ブロンクス地区の主要医療機関モンテフィオーレ病院で働く看護師7100人。NYSNAに所属する約4万2000人の看護師の17%にあたる。3日間のストを経て、病院側は看護師らが求めたスタッフ増員と適正配置、インフレ率に応じた3年間で約19%の賃上げ、パンデミック下での看護師ケアなどの要求に合意した。労働運動が低迷し、極端な貧富の格差が常態化するなか、「労働者が結束して戦えば勝てることを示した歴史的快挙」として、世界的な動きと響き合いながら共感を広げている。

 

コロナ禍で医療支えた看護師たち

 

「より良い患者ケアのためのストライキ」を実施したNYSNAの看護師たち(10日、ニューヨーク)

 近年、米国内では医療のひっ迫が常態化しており、新型コロナ感染拡大の長期化で患者は急増し、医療現場では激務から離職者が増え、人手不足が深刻化する悪循環に陥ってきた。米労働省労働統計局のデータによると、2021年8月時点で全米の医療・社会福祉関連の労働者は約2000万人だが、2020年2月よりも約74万6000人減少している。このうち看護師は10万人以上減っている。

 

 医療現場ではコロナ以前から、コスト削減のために劣悪な労働環境、育休や病休もろくにとれない過重労働、低賃金が押しつけられ、深刻な看護師不足状態が続いていた。貧困化によって経済格差が拡大するなかで、投資ファンドが病院を買収し、医療は「患者優先」から「営利優先」への傾斜を強め、病院統合(不採算病院の閉鎖)、病床削減、スタッフ削減、医療費値上げが進み、そのしわ寄せは患者に向かうとともに、患者と直接向き合う看護師の負担を増大させた。この営利追求路線が、新型コロナ・パンデミックで大矛盾をきたし、世界最多の感染者を生み、医療現場の崩壊に拍車をかけた。

 

 2021年11月に医療システム関連企業「ホスピタルIQ」がおこなったアンケート調査では、米国で15年以上の勤務経験を持つ看護師の71%が「すぐにでも転職したい」「3カ月以内に転職したい」と回答。救急治療にかかわる看護師の96%が「平時の2倍以上の患者を診ている」、72%が「燃え尽き症候群になった」、40%が「仕事の負担が増えて、不安症やうつ病などの深刻な精神衛生上の問題を経験した」と回答している。

 

 コスト削減に勤しむ病院が医療用マスクを買い控えているため不衛生と知りながらマスクを使い回さなければならない問題などに加え、投薬ミスや遅延などの医療事故、患者と病院側とのトラブルも増加し、その間に立つ看護師たちは「命を助けるために仕事をしている看護師が身を守れない」「空きベッドがないため、助けを求める多くの患者を見捨てなければならなかった」などの葛藤を綴っている。看護師の高齢化や若手の離職によって、昨年末までに全米で100万人の看護師が不足するとの予測も出ていた。

 

 医療崩壊状況が放置され続けるなかで昨年9月、ミネソタ州の看護師ら1万5000人が、同州ミネアポリス市、セントポール市などの16の病院でストライキを決行。適切な人員配置、病休や育休の保障、3年間で30%の賃上げなどを求めて5カ月以上も病院当局と交渉した末、決裂したためだ。民間病院では米国史上最大のストとなり、看護師たちは「利益よりも患者を守れ!」「営利医療に終止符を打つ!」などのプラカードを掲げて地域社会にストへの支援を訴えた。

 

 この動きは全米に波及し、カリフォルニア州ではカイザーパーマネンテの精神医療従事者約2000人が、安全を担保できる人員配置を求めるストライキを連続的に実施。ウィスコンシン大学病院の看護師約2600人も、人員不足や劣悪な労働条件の改善、組合の承認などを求めて3日間ストをたたかった。ペンシルベニア州でも14の介護施設で約700人の看護師とスタッフが、適正な人員配置や賃金引き上げ、労働条件の改善を求めて1週間のストを実施している。

 

患者や地域住民もストを支持

 

街頭でストライキへの支援を呼びかける看護師や医療労働者(9日、ニューヨーク)

 今月、看護師7000人がストライキをたたかったニューヨーク市では、7つの民間病院で1万2000人の看護師たちが、病院側に適正な人員配置や賃上げを求めて交渉を続けたが、大手のマウント・サイナイ病院、モンテフィオーレ病院では交渉が決裂。


 看護師組合(NYSNA)は、「私たちは、新型コロナ、RSウイルス、インフルエンザの三重感染症の最中に、患者を危険にさらす人員不足の危機について警鐘を鳴らしている。病院は看護師を患者のベッドサイドに留めておくために必要な努力を怠り、看護師との協力ではなく、逆に組合の権利を侵害し、スパイを送って分断をしかけ、看護師の発言を封じ込めようとしている」と抗議し、「よりよい患者ケアを確立するために」と訴えて、ストに踏み切った。

 

 マウント・サイナイ病院の救急看護師は、「私たちの病院では800人以上もの看護職の欠員が生じている。これは利益を最大化するために、恒常的に人員削減を続けてきた強欲な病院管理者たちが作り出した問題だ。コロナ禍にあって病院は1億8500万㌦(約237億円)以上の利益を上げ、当院CEO(経営責任者)ら364人は2020年、総額7300万㌦(約93億円)という“慎ましい”ボーナスを手にした。一方、ヘルスケアの英雄たちは、同僚が死んだり、ひどい病気にかかったり、PTSDを発症するのを目の当たりにしてきた。私たちは“コロナ禍の英雄”と書かれた偽物の1㌦銀貨をもらったが、私たちの命が企業にとってどれほどの価値もなく、企業がいかに自分のことしか考えていないかを思い知らせるものとして、私はそれを保管している。私たちは非営利の病院と契約していると思っていたが、実際はフォーチュン500(全米収益トップ企業群)と同じ運営だったのだ」と、市議会公聴会で現状への怒りを訴えた。

 

 また、モンテフィオーレ病院の救急看護師は、「看護師たちは人々の命を救うために命懸けで働いている。だが救急部では、安全基準の看護師1人当り3~6人の患者ではなく、同時に20人の患者ケアを求められる。これは看護師にとっても、患者にとっても、安全でも公正でもない。患者の予後を悪化させ、死のリスクを高めることになる。私たちは、患者の命を救うために安全な人員配置を望んでいる」と訴えている。

 

 看護師たちは、「最低でも6人必要な夜勤のシニアナースが2人しかいない。圧倒的な仕事量のため、慢性的に体調を崩している」「夜間は患者数が3倍、4倍になることもある。看護師は過労で精神的疲労に苦しんでいる。計画を立てている暇はなく、フロアを一日中走り回っている。患者をトイレに連れて行く余裕もなく、工場のようなプレッシャーがかかっている。経営者は、看護にともなう“思いやり”など気にも留めていない。私がこの病院で働き続けているのは、この地域で育ったからだ。地域社会、患者、同僚、今も近所で暮らす家族のために声を上げている」「病院当局は、最低限の人員しか配置しない。それは医療サービスを最低限に減らすことだ。彼らは看護師を消耗品として扱っており、患者よりも利益を優先させている」と現状に意義を唱えている。

 

 国内のインフレ率が7%をこえるなか、医療費は8%以上も上昇し、病院当局が医療・看護スタッフの酷使と患者負担によって利益の最大化を求めることに反発は強く、昨年末におこなわれたNYSNAの組合員投票では、ニューヨーク市内の民間病院で働く1万7000人の看護師のうち、8割をこえる1万4000人がストライキへの賛成票を投じた。

 

 「ストをすれば地域医療が崩壊する」として仲裁に入ったニューヨーク州知事がスト回避のための抽象的な妥協案を提示したが、病院当局が「感謝」を示す一方、NYSNAは声明で「州知事はコロナ禍の最前線に立つ看護師の声に耳を傾け、連邦政府によって保障された労働者の団体交渉権を尊重すべきだ。看護師はストライキを望んでいるわけではない。病院当局こそが、患者に害を及ぼすような安全でない人員配置の絶望的な危機を改善するための私たちの提案を真剣に検討することを拒否し続け、私たちにストライキを迫っているのだ」とはね付けた。

 

 9日から10日間の予定で開始された看護師ストには、病院スタッフ、薬剤師、患者、地域住民なども支援を寄せ、病院前でピケを張り、街頭に立って「利益よりも患者を守れ」「よりよい患者ケアのためのストライキ」などの横断幕を掲げて、医療・看護現場の実情と要求を社会全体に訴えた。

 

 病院側はメディアを使って「地域医療を混乱させ、患者の命を危険にさらすものだ」と攻撃を強めたが、世論の矛先はむしろ看護師を酷使し、医療業務の遂行を不可能にした病院側に向いた。ストを見守る患者たちは、「この2、3年の間に彼ら(看護師)の全経験から導き出された要求には正当性があり、価値がある。彼らは過酷なパンデミックの間、ずっと私たちを支えてくれた」「患者は病室ではなく、廊下のベッドに入院している状態であり、医療体制が体をなしていない」「病院は人員不足の解消に努力すべきだ。父親が手術したばかりだが、夜間はもちろん、日中でさえ健康状態をチェックする看護師がいないのだから」と看護師ストを支持する声を寄せている。

 

 沿道では、クラクションを鳴らしてスト中の看護師たちにエールを送るトラック運転手やタクシー運転手なども見られ、地域全体でストへの支援の輪が広がった。

 

 スト3日後の12日、ついに病院当局が組合の要求に合意し、看護師の増員と適正配置、3年間で約19%の賃上げ、看護師に対する医療給付(病院側が削減方針を出していた)の保護、パンデミック下での看護師の健康と安全確保、コミュニティ給付の改善などの要求実現を約束した。

 

 スト勝利を受けてNYSNA会長は、「ニューヨーク市の看護師と全国の看護師のための歴史的な勝利だ。パンデミックの間、看護師たちは昼夜を問わず人命を救助し続けた。そして今、看護師の英雄に不可能はないことを再び示した。私たちの団結と、すべてをかけたたたかいによって、安全な人員配置比率の施行を勝ちとったのだ。何十年も看護師の要求を拒否してきた病院にとっても歴史的な突破口だ。今日、私たちは胸を張って患者のベッドサイドに戻ることができる。私たちの勝利は、患者のためのより安全なケアと、より持続可能な看護を意味すると知っているからだ」と声明を発した。

 

社会的使命を掲げたストが波及

 

病院前でピケを張る医療従事者たち(12日、ニューヨーク)

 米国社会では2022年は20万人以上がストライキをおこない、2005年以降で最もストライキの多い年となった。一昨年10月には、ジョンディア社(世界最大の農業機械メーカー)、ケロッグ社、ナビスコ社、マクドナルド社といった大企業でストライキが連続して起こり、「Striketober(ストライキの10月)」と呼ばれる現象も起きた。

 

 コーネル大学の労働争議統計によると、2021年には組合員ではない未組織労働者によるストライキが87件発生し、全国のストライキの3分の1を占めた。アマゾン、スターバックス、アップルなど、これまで組合は設立できないといわれていた新興大企業で労組が結成され、ストが実施されるなど、既成労組の外側で労働運動が活性化してきた。

 

 昨年、スターバックス労働者連合に所属する労働者は、35州にわたる300近くの店舗で組合認証選挙を申請し、150以上の店舗で勝利を収めた。5月には、アマゾンの労働者たちが、ニューヨークのスタテン島の配送センター「JFK8」(従業員8300人)で組合認証投票に勝利し、全米に衝撃を与えた。ニューヨークのグランドセントラル駅にあるアップルの店舗従業員たちも、組合結成の手続きを開始した。

 

 彼らは、「(労使交渉が不可能といわれた職場で働く)自分たちが労働協約を勝ちとれば、米国社会全体の労働者の権利を向上させることができる」と社会的意義を訴えている。

 

 この非正規労働者たちによる下からの立ち上がりが、従来のトップダウン式で停滞していた大規模労組を刺激し、国内の産業全体の労働運動を揺り動かしているともいえる。

 

 昨年11月14日から12月23日にかけては、カリフォルニア大学の研究者、スタッフ、職員、労働者、学生たち約4万8000人がストライキを実施。記録的なインフレと州全体の住宅危機(住宅価格の高騰)のなかで、賃上げ、持続可能な交通費補助、雇用保障、子を持つ研究者や外国人研究者への支援強化を要求したもので、カリフォルニア大学バークレー校では5000人が1週間にわたって授業や研究などの業務を停止し、その行動を尊重する運送業労働者や建設作業員とも連帯し、学生らとともに大学総長公邸までデモ行進をおこなった。

 

 カリフォルニア大学は州内に10のキャンパスがあるが、どの地域でも研究者や教育補助員などの勤務スタッフは月収の3割が家賃に消え、院生研究者や学生は総収入の5割以上を住居費に費やさなければならない状況にあり、車内や知人の家に宿泊したり、何時間も離れた場所から通うことをよぎなくされており、「働く町に住めるだけの給料を払え!」という大多数の要求を代表した行動となった。妥協を許さない州全体にわたる大規模行動によって、大幅な賃上げ、育児の財政支援、教育補助員に対する仕事量削減、ポスドクの移民権条項の新設、院生研究員の業務上の傷病に関する補償などについて合意に達している。

 

 コロンビア大学では10週間のストライキをおこない、マサチューセッツ工科大学(MIT)の院生研究者たちは労働組合を立ち上げた。

 

 ストの動きは、コロナ禍を前後して過剰な負担がかかっている港湾労働者や鉄道労働者にも広がっており、ストライキが持つ力が再認識されるとともに「労働者は結束してたたかわなければ生きていけない」ことが広く共有されている。2021年の「ギャロップ」による世論調査(米国内)では、18~34歳までの若者の77%が「労働組合は重要で価値がある」と答えており、若い層ほど労働運動の必要性について肯定的に捉える割合が高いのが特徴だ。

 

 これら世論の動きは、欧州全体に広がる公共部門のストライキや「いい加減にしろ!」キャンペーンとも相互に呼応しており、イギリス、ドイツ、フランス、イタリアなどでも看護師、救急隊員、鉄道労働者、港湾労働者など全産業にわたって反撃機運が高まっている。一部の既得権層の利益を最大化するための政治が跋扈(ばっこ)し、公益性を破壊してきた新自由主義と対決する運動として、社会的使命を掲げたストライキが世界的に活発化している。

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