2022年は「シン・戦争の世紀」が始まった年だった。2月のロシアによるウクライナ侵攻を目の当たりにした世界中の市民は一党独裁と強権的政治家による20年超の長期政権の危険性と脅威、恐怖を味わった。
長期単独政権の危険性は、ロシアに限らず中国、北朝鮮にとどまらず、一部の宗教団体に支配された日本の長期政権政党に対する危険性にも警鐘となっている。
迎えた2023年が日本の未曽有の軍拡に歯止めをかけ、コロナ禍で失われた対話力と共生の心を取り戻す「平和と共生の年」に転換する年となることを期待したい。
戦場化される沖縄からの警鐘
2022年は、沖縄が米軍統治から脱した1972年の沖縄返還から「50年」の節目の年であった。しかし、日本のメディアは「復帰50年後の沖縄の今」を伝えたが、「50年前に、なぜ沖縄が復帰しなければならなかったのか」についての本質は伝えられなかった。
沖縄住民が日本復帰に託した「核抜き本土並み」「基地のない平和な沖縄」は、この50年でどうなったか。核査察はなく、核再配備の危険性が高まる中で、米軍基地に加え、復帰前にはなかった自衛隊基地までもが配備強化された50年でもあった。
在沖米軍の軍事演習は激化し、那覇軍港など住宅密集地で銃器を使用した都市型戦闘訓練や提供施設外の名護湾で低空戦闘訓練が実施され、米軍嘉手納基地や普天間基地の爆音被害は過去最悪のレベルまで悪化している。
復帰後も残る広大な米軍基地問題については伝えたが、「なぜ沖縄に米軍基地が集中しなければならないのか」「今後、在沖米軍基地はどうあるべきか」についての本質的な論議は回避された1年であった。
メディアは政府と沖縄県の裁判や政治的対立は伝えたが、対立の背景にある自治の崩壊や民意無視の強権政治の問題については伝えなかった。辺野古をめぐる裁判で国が勝訴を続け、沖縄県が敗訴し続けている事実は伝えたが、行政に阿る司法によるこの国の「三権分立崩壊」の危機と恐怖については軽視された。
辺野古基地問題については伝えたが「なぜ辺野古新基地建設が必要か」「3600億円の工事費が9300億円まで激増した理由」「日本が負担しなければならない理由」「サンゴやジュゴンなど環境破壊の実態」は論議の俎上にすら上がらなかった。
辺野古新基地反対の「座り込み」の言葉の意味を問う「ひろゆき発言」については十分に伝えたが、住民が「なぜ座り込みを続けなければならないのか」という本質的な問題については伝えなかった。
沖縄では米軍基地由来のPFAS(有機フッ素化合物)による深刻な水道水汚染、住民の血液汚染、農地や住宅・学校用地の汚染問題は伝えたが、その原因や解決策、全国の米軍・自衛隊基地のPFAS汚染の実態調査や基地由来汚染の深刻さの論議は回避された。
台湾有事を「軍拡」に利用する政府
台湾有事の危機については大々的に報道され、南西諸島への自衛隊ミサイル部隊配備強化や敵基地攻撃能力の必要性は強調されたが、危機を回避するための外交や解決策についての論議は高まらず、台湾が11月末の選挙で独立派の民進党を大敗させ「親中派」の国民党を選択したことは十分に知らされていない。
しかも自衛隊のミサイル部隊の先島配備や沖縄配備の陸上自衛隊の旅団から師団への増派計画は伝えたが、配備がもたらす軍拡の危険性や住民保護計画の不備については重視されず、国民の六割が軍拡を支持する「軍国・日本」の再構築を許す世論が形成された。
離島住民の避難計画がないことの問題点や沖縄周辺での日米合同演習の中身は伝えたが、軍事演習がもたらす中国の反発による南西諸島周辺でのミサイル発射演習、アジアの安保環境の悪化の危険性、危機については伝えていない。
インターネットによる「辺野古座り込みゼロ」の揶揄発言は大きく報道されたが、揶揄発言の裏に潜む「沖縄ヘイト」の深刻さに加え、多くの国民の潜在意識に蔓延る「部落、在日、被爆者、沖縄」差別の意識の醜さについては放置された。
全国に先駆けた統一地方選の年となった沖縄では、市町村長選挙で「オール沖縄」の連敗、参院選、知事選での「オール沖縄」の勝利など「選挙報道」では沖縄の分断がことさらに強調され、「沖縄の分断」が印象付けられた。
復帰50年の節目を契機に、「沖縄と本土との対立」「沖縄県内の分断」をあおる報道がなされていないか。日米安保容認が国民の多数を占める中で、日米安保に基づく在日米軍基地による基地被害が集中する沖縄の実態に目を向け、基地被害の減少、解消に向けた積極的な報道を期待したい。
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まえどまり・ひろもり 1960年宮古島生まれ。沖縄国際大学大学院教授(沖縄経済論、軍事経済論、日米安保論、地位協定論)。元琉球新報論説委員長。『沖縄と米軍基地』(角川新書)、『本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」』(創元社)、『沖縄が問う日本の安全保障』(岩波書店)など著書・共著書多数。