いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

文字サイズ
文字を通常サイズにする文字を大きいサイズにする

南西諸島北端・種子島をめぐる戦争と平和への活動について 日本の種子を守る会幹事長・山本伸司(種子島在住)

世界戦争の入口に立って

 

 私は、2015年に首都圏の生協連合であるパルシステムを退任し、鹿児島県の種子島に移住しました。妻の地元で村人と移住者の若者たちと様々な活動に取り組んでいます。南西諸島北端の種子島は平和で実に自然豊かな島でした。ところが日米総合軍事基地建設計画でそれが破壊されつつあります。その経験から報告します。

 

種子島の脇の離島「馬毛島総合軍事基地建設」の強行

 

サトウキビ畑での筆者

 種子島は台湾から続く南西諸島の北端にある。そのそば10㌔㍍に無人島の馬毛島が2011年日米安全保障委員会(2プラス2)によって米軍空母艦載機離発着訓練場(FCLP)として政府の計画に明記された。米軍をトップに日本政府各省トップで構成するこの異様な機関は戦後の日本政治をコントロールしてきた。米国政府ではなく米軍下である。EU経済圏はドイツが中心なのに有事でNATOが出てくると米軍が軍事的なトップになるように。

 

 馬毛島は漁師の宝の島で、その豊かな漁場とそれを育む生態系に覆われてきた。この小島に1000年以上もマゲシカが群生している。それを土建業者が砂利採取目的で土地買収を始め、森林を違法伐採して買収面積を広げ、漁師たちの訴訟で開発違法判決も無視し縦横クロスした「滑走路」なる露地を広げてきた。この違法業者は価格も付かないような無人島買収で得た土地を石油備蓄基地、レジャーランド、使用済み核燃料貯蔵地など政治家を動かして地上げ手法で計画案を出してきている。これらは地元反対で潰されてきたが、日米「2プラス2」以降は防衛省が乗り出してきた。しかし違法の数々と借金の根抵当権の闇の深さに10年間も交渉は進まなかった。

 

 それを一気に160億円もの法外な価格で買い上げたのが菅官房長官(当時)の上からの決断によってである。まさにトップダウン。このように日米2プラス2の米軍判断、そして政府機関の頭ごなしの決定という進め方に違和感を覚えているのは私だけではない。そもそもFCLPは厚木基地から追い出され現在は太平洋上の無人島硫黄島にある。アメリカ本土でもノースカロライナ州で建設反対派が勝利し造れなくなっている。これがもし出来たら騒音地獄と戦闘機事故の危険だけでなく対中戦争の最前線へとされてしまう。この危機をいかに脱するか地元住民は不安の中で苦しんでいる。

 

 FCLP基地建設での防衛省の地元説明会では、その不誠実さと説明担当者の当事者能力の欠如には驚いた。馬毛島と種子島本島との距離は10㌔㍍しかないにも関わらず戦闘機は種子島上空を飛ばないとか、騒音被害想定を「時間帯補正等価騒音レべル」で70デシベル以下と根拠なくごまかす。さらに米軍が種子島にやってくるのではという不安には「想定してない」という。あるいは事件事故への不安に対しても「そのような事の無いように努めます」などと、一切の確定的な約束は行わず、言葉だけで「丁寧に」「地元住民の理解を得る」努力をしたとする。まさに住民をバカにした対応に終始した。

 

 一方、市長をはじめ地元議会の再三の反対決議や抗議声明を無視し、前回の市議選に自民党を先頭に基地推進派が市議の擁立に動き、議会14名中7名の半数を容認派が占めた。議長が反対派のため決議は容認派が勝つ構図である。現在、市長自身も反対の言動を止めてしまい国の強引な手法と圧力に引きずり回されている。

 

 この地元民意破壊と強行の構図は、沖縄と同じである。辺野古新基地反対で知事を代表とした民意を国が押し潰し、法すら無視して強行するこの態度は、沖縄への歴史的差別と思っていたが、種子島も同じだし全国各地で日米の軍事施策の前では民意を蹂躙されるという現実なのだと認識させられた。

 

 元岩国市長の井原勝介さんも経験したという、まるで敵国への宣撫工作のように行われる。反対自治体の首長を脅し基地交付金をエサに議会多数派工作を行い、軍事基地建設を強行する。しかも住民と誠実に戦争と基地の問題を議論しない。国民の平和への願いを無視し、アジアの平和をどうしたら守れるかという基本的な議論を一切しない。突如、軍事的観点で「国の先権事項」として強行してくる。これではまともに国民の暮らしや平和の権利すら守ることはできない。まさに民主主義の破壊である。

 

 軍事基地容認は、ただ地元自治体や住民が地域活性化にすがる思いを利用した公共事業の変形でしかないのが実態である。特に土建業者やホテルなどの宿泊関係者が、それも地域衰退で経営が苦境に陥っている関係者が基地誘致の先頭に立っている。悲しい現実である。これが基地建設での政治的分断の実態なのである。

 

本格的な世界大戦前夜の予感

 

 2022年2月にロシアがウクライナに軍事侵攻した。以降、ヨーロッパ・ウクライナを舞台に凄惨な戦争が起こっている。ロシアが悪いとかウクライナがどうだとかいう前にヨーロッパで大国ロシアと事実上NATOが戦火を交えたという恐ろしい現実に驚いている。

 

 国連の常任理事国の核保有国同士は互いに不戦を宣言している。核戦争で世界は終わるからだ。ところが核保有国と非核保有国では通常兵器で戦うことが示された。それも最終核戦争までのギリギリのチキンレースで。これを見た時に次はアジアだと思った。中国をめぐる台湾有事である。

 

 この間、アメリカは過去の台湾問題への見解である「中国の国内問題」という立場を事実上翻し(NATOはウクライナに拡大しないという言質の反故のように)、台湾独立、国連加盟を煽っている。しかし台湾は中国の「核心的利益の核心で譲れないレッドライン」だと中国政府は明言している。ここで軍事衝突が起こった場合、ウクライナのように米軍は手を引き、台湾と日本が主戦場になる可能性が大きい。核保有国と非核保有国同士であれば戦争するのだから。

 

 ウクライナ戦争は、AI企業も含むアメリカ軍事産業に巨額な利益をもたらしロシアを世界的に孤立させ弱体化させようとしている。しかもドイツを中心としたEUはエネルギーと食料危機に見舞われている。ドイツもまた手痛いダメージを被っている。

 

 同じように第二次大戦敗戦国の日本も、もっと大きな破壊を被ることになる。世界2位の経済大国中国と3位の日本が戦うことになればアジアは破滅的な影響を被るだろう。

 

世界の行詰まりと転換期にどのような新たな世界を展望するか

 

 資本主義は経済の仕組みと価値の増大に貨幣を置く。その通貨価値最大化が全ての基本である。通貨は国家が支配する。基軸通貨も各国通貨と交換し支えられている。通貨は全ての自然物資と人による企業など社会的事業や産物を評価し組織する。しかしこの全てが自然を前提として支えられている。人間活動の全てが自然無くしては存在しない。資本主義の根本問題は、搾取とか富の分配問題の根底にある自然収奪と反自然にあると思う。

 

 大げさだが資本主義批判は政治構造批判だけでは転換できない。社会の仕組みと人間の生き方やあり方を根本的に正すことからだと思っている。

 

では自分なりにどのような取り組みができるだろうか

 

 種子島の漁業の激的な衰退が起こっている。つい5年前まではカマス漁は最盛期には村中で集まり、網で獲れたカマスを各戸に配った。それがここ数年で全くと言っていいほど獲れなくなった。温暖化のせいばかりではない。目に見えて藻場が消失した。田畑での除草剤の大量の散布や河川の整備と山林の皆伐などが原因かと思われる。

 

 これに対して、高校生たちとウミガメ保全に関わりウミガメを敵とする漁民たちと話し合い、藻場再生プロジェクトに取り組んでいる。河川と海辺の水質調査を行い、専門家と協力してミネラルセラミックの投入実験をしている。まだ変化が目に見えるようにはなっていない。しかし若者たちが海の環境と河川と森に注目して、この再生に意欲を燃やしており、ともに活動するのが楽しい。

 

里山の再生管理に取り組むこと

 

 島は海と山が近いために水系の上部の里山も共に関わることができる。種子島北部にあるヘゴ自生群落の里山でその保全活動を行っている。山主筧亮平さんと共に「一般社団法人ヤクタネゴヨウ保全の会」の活動である。ここには種子島と屋久島だけに残るヤクタネゴヨウの巨木がある。谷部には植樹された杉林とヘゴの自生群落があり、中上部には照葉樹林帯がある。南国と本土の混在したような景観である。下草の適度な除伐とカズラの除去と間伐による日の差込によりヘゴも杉も元気になって台風の後も倒木や土砂の流出が激減した。特に照葉樹林はふかふかの土壌と各種の野鳥の宝庫となっている。

 

100年以上続く伝統の「三段登窯舟形鉄平釜製法」による黒糖生産

 

100年以上続く伝統製法の黒糖生産

 サトウキビの栽培と製品化では、島の沖ヶ浜田集落に残る伝統製法がある。ここに関わり種子島沖ヶ浜田黒糖生産協同組合の法人化と若者たちとこの継承に取り組んでいる。

 

 見た目はボロ小屋だが、陶磁器など焼物で使う登窯でサトウキビの搾汁液を煮詰めて固める昔ながらの製法である。圧搾機だけを使った搾汁液は飲んでも美味しい。このサトウキビ液を繊細な液温管理で仕上げていくもの。種子島は他よりもサトウキビの糖度が低く黒糖の甘さが抑えられて直接食べる慣習が残った。これが味へのこだわりとなりこの製法を残した。この原料となるサトウキビは畑から肥料を抑え気味にし茎が完熟する冬にそこだけを選別して収穫する。虫喰いや折れキビは味が落ちるために全て手作業である。畑も有機認証した。畑から加工から販売も生協などこだわりで顔の見える理解ある消費者との繋がりで行っている。

 

 いまサトウキビはそのほとんどが製糖工場に集荷される。しかし今は高齢化し機械刈取でハーベスターを頼むと費用がかかり収入はほとんど残らない。これでは後継者は出てこない。精製糖は世界中どこで作っても同じなので価格差が問題になる。しかもアメリカは異性化糖生産で日本が輸入。これに対して黒糖は甘ショ糖単体結晶の精白糖とは異なり身体に優しくミネラル豊富。島の高齢者は100歳を超えて元気な方も多い。多くが黒糖を朝晩小さなカケラで食べている。野良仕事の休息時もこれである。

 

平和産業の再興と新たな地域社会モデル創りに挑戦しよう

 

 自然との向き合い方は食べ物から始まる。農薬化学肥料はお金と効率を重視し、微生物や虫を敵視する反自然の思想が根本にある。結果、人間もまたその食べ物の影響を受ける。テレビコマーシャルでは匂いや汚れや細菌を敵視排除する化学薬品が平気で売られている。今世界中の男性の精子の減少が止まらない。ウィルスの敵視は新型コロナウィルスという「強力な敵」を生み出した。悪循環である。そろそろ人間自体が自然であり、自然の森羅万象に囲まれて生存しているという基本に立ち返り、共に生きるという原点から社会を生まれ変えさせることが求められている。それは、実は田舎に残る古い生き方や暖かな地域社会にあると思う。懐かしい未来である。種子島がそのモデルたらんことを強く思っている。

 

(パルシステム生協連合会顧問)  

関連する記事

この記事へのコメント

  1. 山岸洋一 says:

    山本伸司さんご無沙汰しています山岸洋一です台風が来て大変でしょう大丈夫ですか私もいろいろ持病持ちですが何とか生きています短文ですが御元気でお過ごし下さい…

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。なお、コメントは承認制です。