東日本大震災によって、東北地方はじめ東日本全体が前代未聞の地震・津波災害に直面しているなかで、早急に復興させることを求める世論と行動が強まっている。このなかで、混乱に乗じて「がんばろう日本」「痛みを分かち合う」などといって大増税を導入する動きがあらわれ、日米の投資ファンドや大企業が一方では復興需要に目の色を変えていることが暴露されている。被災現地への有効な復興施策がもたついている傍らで「増税」を叫び始め、深刻な原発汚染を広げている福島第1原発の賠償についても、菅政府が事故当事者である東京電力に責任を求めず、国が肩代わりする方向にすすみ始めていることへ批判が高まっている。
地震発生から1カ月が経過した今月11日、菅政府は復興構想会議(議長・五百旗頭真防衛大学校長)を発足させ、14日には首相官邸で初会合を開いた。この間、山を切り開いて高台にニュー・エコタウンをつくるといった、現地の都合や事情におかまいのない計画が政府周辺から出続けている。地元自治体や住民を飛び越えて、利権満載の「復興」モードへと切り替わっているのが特徴になっている。
復興構想会議が青写真を描いて提言をおこない、政府が実行していくというもので、基本方針のなかには「義援金や公債、震災復興税など全国民的な支援と負担が不可欠」などと五項目を提示。会合のなかでは早速五百旗頭議長が「復興税」の創設をブチ上げる動きを見せた。
復興には16兆~20兆円超を要するといわれ、当初は国債を発行して日銀が引き受ける案などが浮上していたがボツになり、通常の国債とは別勘定の「震災復興国債」を発行して調達すること、この財源として「復興税」を導入すると主張し始めている。
民主党政府は4月中に4兆円規模の今年度1次補正予算案を国会提出する予定であるが、この4兆円については国債を発行せず、年金財源として基礎年金の国庫負担割合のために確保していた2・5兆円の転用を検討。年金国庫負担を、3分の1へと引き下げる動きも見せている。
行政対応として何をしているのか、1次補正予算案の内容を省庁ごとに見てみると、内閣府が被災者への支援金支払いに500億円。総務省が地方交付税を1200億円増額し、被災市町村の仮庁舎建設に40億円。文部科学省は幼稚園から大学までの仮庁舎建設に2000億円。厚生労働省は7万戸の仮設住宅設置などに4830億円。離職者の就職支援など雇用対策に510億円、医療費の窓口負担軽減に1140億円。
農林水産省は漁場・漁船・養殖施設の復旧支援に680億円、農林漁業者向けの金融支援に400億円。経済産業省は中小企業の資金繰り融資に5000億円。国土交通省は住宅金融支援機構への復興住宅融資金利の引き下げ支援に600億円。環境省は災害廃棄物処理に3000億円。防衛省は自衛隊員の手当などに970億円。河川や下水道など被災した公共物の復旧に1兆1300億円というもの。
どのように復興資金が使われていくのか明確でないものの、例えば中小企業に対しては、対策費5000億円を1次補正予算に盛り込んだが、信用保証協会や日本政策金融公庫などの基金や出資金を積み増す原資にするというもので、中小企業そのものの復興資金ではなく、融資をする側への資金供給になっている。
また、基幹産業である農林水産業の復興が待ったなしになっているなかで、農林水産省が15日に発動したのが、被災した農林漁業者に特別融資する暫定措置法だった。貸付期限は来年4月末までで、貸付条件は農業者の場合なら年収の3割以上の減収か収穫量の1割以上の損失。漁業者については1割以上の収穫減少か施設が半壊以上の被害を被った場合と限定している。あくまで融資であり、生産者に新たなローンを背負わせること、それでも立ち上がって借入をするかどうかは「自己責任」というもの。金融機関への利子補給などには資金供給するが、農漁業など生産活動・生産者そのものが復興に立ち上がっていくための具体的な青写真が乏しいのも特徴になっている。
銀行や大企業から救済 復興もたつく傍らで
また被災者に対しては、今のところ政府税制調査会がまとめた税制上の対応としては、津波で甚大な被害を受けた土地や家屋については11年度分の固定資産税、都市計画税を免除することや、住宅ローン減税を実施すること、津波に流されていった自動車重量税などについては免除し、自動車取得税も当面非課税とすることなどが決まっている。ただ、「免除」「非課税」といっても、既に家も車も何もない状態になっており、特別な税制上の措置というよりは「税金が取れない」といっているに過ぎない。
被災企業については過去2年までさかのぼって納税済みの法人税を還付すること、社会保険料を1年免除するなどの方針を決めている。「雇用維持を後押しする」というもので被災企業は社会保険料を免除されると、従業員1人当たり100万円前後の負担軽減になるといっている。ただ、こちらも企業そのものが倒産どころか壊滅しているなかで、実際上「社会保険料」をおさめることなどできない状態に陥っている。救済策というよりは「社会保険料が取れない」と現状を追認しているに過ぎない。
一方で、政府は自動車部品などの混乱への対応は早く、メーカー・企業向け危機対応融資に対しては低利で3兆円を投じることを決定した。製造業では資本金3億円以上の大企業・中堅企業が対象で、日本政策投資銀行がメーカーなどに対して融資するというもの。雇用対策費についても、そうした大企業に対して解雇を防止する雇用調整助成金に7000億円と巨額の資金が注がれる予定になっている。
また政府は、損保に対して4月中にも2000億円を支給することも決定した。地震保険の支払い原資にするための措置としている。地震保険については、支払い総額が1150億円までなら民間が100%支払うが、1150億円を超えて2兆円弱まで支払額が拡大した場合は官民が折半して負担すること、2兆~5兆5000億円までならば政府が95%負担するというルールがあることも明らかになっている。既に1000億円を超えており、政府による保険会社救済が動くことは確実と見られている。金融機関の肩代わりには迅速な対応を見せており、5月以降には銀行などに公的資金を予防注入する法案も準備している。
このなかで、10兆円規模になると見られている2次補正予算の財源に「震災国債」が位置付けられ、同時に臨時増税をおこなって補填する方向にすすんでいる。財務省が主導して算盤をはじき、政府内では「震災国債」の償還財源として、3~5年の時限措置として所得税額に一律10%程度を上積みする定率増税を導入することや、消費税率の引き上げ案が浮上している。消費税なら1%の引き上げで約2・5兆円の国民収奪になり、以前から「15%が望ましい」などと主張していた経団連など財界を喜ばせている。
日米ファンドの創設も 米国が提案
混乱の最中に、経団連はもっけの幸いで東北地方を「復興特区にしろ」と主張し、経済同友会は「道州制の先行モデルにせよ」と主張している。さらに日米で復興ファンドを創設する案も飛び出すなど、人人が苦難に直面しているなかで、復興利権に胸を熱くしている連中がいる。
水面下で準備を進めているのが日米復興ファンドの創設で、米国側が4月上旬に提案し、クリントン米国務長官の来日に伴って合意することになっている。日米の大企業・ファンドが出資した金を復興資金にあてるというものだが、その資金で復興需要にたかって金もうけを企んでいること、イラク戦争で米建設大手・ハリバートンが最高業績を上げたように、抜け目無く被災地を利権の宝庫と見なしていることが明らかになっている。
復興支援プロジェクト「復興と未来のための日米パートナーシップ」を20日に発足させる予定で、その代表には戦争利権で有名なボーイングのマクナニー最高経営責任者(CEO)が就き、シンクタンクの米戦略国際問題研究所(CSIS)がまとめ役になること、約20人の構成員のなかには、グリーン元米国家安全保障会議・上級アジア部長や、ブレジンスキー元大統領補佐官、アーミテージ元国務副長官も加わり、キャンベル国務次官補がオブザーバーとして参加する体制が明らかになっている。この日本側の窓口が経団連で、秋までに計画を作成して政策提言するといっている。
来日したクリントン米国務長官に対して、菅首相は17日、「自分たちの国と同じように日本を思ってくださった。永久に忘れない」とのべるなどしたが、アメリカ側はそうそうたる政府関係者を並べて、復興利権のタカリ商売に身を乗りだしている。
そして米政府の一翼として動いているIMFは12日、復興に際して「明確な財政再建策を出せ」と要請する動きを見せた。一昨年来から「消費税を上げろ」と日本政府に要請するなど、内政干渉のような言動をしてきたことで知られている。大衆増税によって復興資金を捻出させ、それを外資がたかっていく構図が浮き彫りになり始めた。
いまだに原発推進を主張 経団連などの財界
日本の財界では、「国債、増税の合わせ技で復興に道筋をつけよ」と主張しているのが米倉・日本経団連会長。震災直後の3月16日には、福島第1原発の事故について「1000年に1度の津波に耐えているのは素晴らしいこと。原子力行政はもっと胸を張るべきだ」などとのべたり、全国九つある計画についても見直す必要はないとし、「原因を解明して安全性を計画に反映すれば、もっと安全な原発になる。廃止する必要はない」と発言。
また、4月11日の会見では福島第1原発の賠償責任について、「原子力損害賠償法には大規模な天災や内乱による事故は国が補償するとある。国が全面的に支援しなくてはいけないのは当然だ」「法律に基づき国は東電を民間事業者として全面支援すべきだ」と、国、すなわち国民から巻き上げた税金によって肩代わりさせることを平然と主張している。
原発事故によって大量の避難民を生み出し、農産物や魚介類のおびただしい被害が出ている。この賠償について、東電は月内にも福島第一原発の事故で避難させられた人人への「仮払い補償金」(1世帯当たり100万円、対象5万世帯)を支払うと発表。それ以外は、もたついたまま明確な方向性は出ていない。政府の「経済被害対応本部」は15日に初会合を開き、放射性物質などで出荷停止などをよぎなくされた農林漁業関係者や中小企業に対して「必要な措置を講じる」と決めたが、具体的にはなにもない状態となっている。
原子力損害賠償法では、事業者である東電が賠償責任を負うとしている。しかし「金がない」「東電が国有化したら株式市場にどんな影響を与えるか分かっているのか」などと財界が主張しており、政府が特別立法で「原発賠償・保険機構」を立ち上げて国が東電に資本注入する案も浮上している。
閣僚のなかでは、自民党出身で原発を日本国内に導入してきた中曽根康弘元首相の子分にあたる与謝野馨経済財政担当相が3月22日、福島第1原発事故について「将来も原子力は日本の社会や経済を支える重要なエネルギー源であることは間違いない」「日本は環太平洋火山帯の上に乗っている国だから(地震が多いという)運命は避けられない」などと話し、4月15日の会見では「推進してきたことは決して間違いではない」とし、謝罪の必要性は「ない」とのべるなど、開き直っている部分がいる。
さらに震災後、大臣の数が増え続け、「○○本部」が山ほどできた。官邸を構成しているメンバーそのものが「原発村」住民で占められていることも問題になっている。首相本人が任命した内閣府参与にも原発仲間が多く、望月晴文・前経済産業省事務次官や、広瀬研吉・元経済産業省原子力安全保安院長、小佐古敏荘・東大(工学系研究科原子力専攻)など勢揃いしている。そして内閣府特別顧問の笹森清は元東京電力労組委員長で、軒並み原発関係者となっている。
米国債売り財源確保を 大収奪に強まる批判
被災地を度外視した復興需要へのタカリ、雲の上でその枠組みと青写真作りばかりが先行し被災地がもっとも求めている早急にして有効な政策が動かない。ゼネコンが利権に色めき立って、外部が利権をさらっていくようなことではなく、現地で失業対策事業のようにして雇用を確保し、さしあたり住むところがないのだから、瓦礫の片付けやプレハブづくりなどした方がよいし、働ける人材が復興に従事して、生活基盤から立て直していくことが求められている。
ところが現地の要求を聞かずに、外側から高台エコタウンなどといい、仮設住宅の建設ももたついている。
また、復興をやらなければならないときに、御用学者ごときが増税を主張し始める異様さである。世界最大の債権国であり、米国債を大量に保有したり金は持っているにもかかわらず、それらを売り払って財源を捻出するのではなく、この期に乗じて大衆収奪を強めるという、盗人猛猛しい対応への批判が高まっている。
近年、大企業やメガバンクなど巨大金融資本は内部留保を230兆円も溜め込み、銀行などはまったく法人税を納めずにボロもうけを謳歌してきた。持っている者が金を出すのは当たり前であり、内部留保をはき出させること、国民が働くことで生み出してきたそれらの富を日本社会の立て直しのために使わせることが求められている。