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「密室で佐賀の海売るな!」 佐賀有明海漁協の公害防止協定見直し容認に怒る漁師 全組合員の同意不可欠 

 佐賀空港への陸上自衛隊オスプレイ配備計画をめぐり、佐賀県有明海漁協は1日、空港建設時に県と結んだ「佐賀空港を自衛隊と共用しない」とする公害防止協定の見直しに応じると表明した。多くの漁師が反対の声を上げていたにもかかわらず、ノリ養殖真っ只中の繁忙期に15支所の運営委員長と幹部、県の関係者だけが出席するオスプレイ検討委員会を非公開で開催し、協定見直しを強行した本所に対して地元漁師からは怒りと不信の声が上がっている。

 

種付けが始まった有明海のノリ養殖

 2014年に浮上した佐賀空港の陸上自衛隊オスプレイ配備計画は、地元住民や漁師の強い反対によって計画は一歩も進まずにきた。その鍵となってきた公害防止協定は、1990年の佐賀空港建設時に当時の香月県知事と地元の八漁協が締結した協定書で、覚書付属資料には「県は佐賀空港を自衛隊と共用するような考えを持っていない」という一文が明記されていた。

 

 これは、佐賀空港が赤字に陥った場合に軍事基地として使用されることを危惧した当時の漁協幹部たちが強く要望したものだ。しかし18年にはそれを飛び越えて山口祥義県知事が突如として佐賀空港へのオスプレイの受け入れを表明し、漁協に対してこの公害防止協定の見直しを迫っていた。

 

 有明海漁協はこの要請に対し、15支所の運営委員長など役員のみで組織された「オスプレイ配備等検討委員会」を設置し、防衛省が「排水対策」「土地価格の目安」「計画予定地の土地取得についての考え方」の3条件を示すことを条件に協定見直しに応じるとしてきた。そして八月下旬からは、公害防止協定の当事者である6支所(南川副、広江、大託間、早津江、東与賀、諸富)の組合員に対して防衛省が説明会をおこなってきた。

 

 これまで検討委員会でおこなわれてきた協議はすべて防衛省、県、漁協幹部のみの密室でおこなわれており、組合員たちにはこの説明会のなかで初めて3条件が提示された。

 

 説明会ではこれまで組合員にまったく説明のないまま事態が進行していることに対し、本所や県に対する不信感や反対意見が続出し怒号の飛びかう会場もあった。またノリ養殖に影響の大きい排水案が注目されたが、防衛省が示した排水案は、排水機場に海水を引き込み混合させ塩分を調整して排水するなどというもので、これに対して「机上の空論で話にならない」と漁師たちから一蹴されている。

 

佐賀県有明漁協の西久保組合長が佐賀県知事に提出した文書

 そのため説明会後には各支所の運営委員長が「今後も説明を求めていく」「これで終わりではない」と表明し、防衛省も「引き続き丁寧に説明をおこなっていく」としていたにもかかわらず、漁協本所は「これ以上防衛省からは新たな説明はのぞめない」として追加の説明会を開催しないことを決定。10月24日には山口県知事が6支所の運営委員長に対し「有明海の再生は県だけでは無理で国の力が必要だ」「県を信用してほしい」として、諫早干拓など国策によって激変させられてきた有明海の再生を盾にして国防に協力するよう求めていた。それからわずか1週間での公害防止協定見直し容認の決定だった。

 

 1日に西久保組合長が県知事に手渡した協定見直しを認める回答書は、「防衛省からの要請は国防上からのものであり、県は佐賀空港を自衛隊と共用することができるものとする」「ただし、防衛省が駐屯地の用地を取得できないことなどにより、佐賀空港への自衛隊の配備計画を断念したときは、この文書は効力を失う」としている。

 

漁協説明会では反対意見が圧倒 繁忙期に強引に容認

 

 南川副のノリ養殖漁師は「完全な出来レースだ。1日の午後の検討委員会で協定の見直しが決まってその日の夕方には西久保組合長が県知事に対して容認するという回答書を持って行っている。説明会であれだけ組合員から反対意見が上がっていたのに、漁師が忙しくなった隙をついて強引に見直し容認まで持って行った。絶対に許されないやり方だ。組合員をカヤの外に置いて漁協幹部だけで強行した形だ。これまで漁師はずっとオスプレイ配備に反対を貫いてきた。だから昨年の大雨で早津江川に土砂が堆積し、県に頼んで掻き出してもらったのだが、それを県が“予算は付けられるが次からは早急に対応するというのはできなくなるかもしれない”というような脅しをかけているという話も聞いた。災害が起きて被害が出れば行政が対応するのは当たり前の話だ。それを脅しに使うような県のことなど誰も信用できない」と批判した。そして「回答書には地権者が土地を防衛省に売らなかった場合には効力を失うとしている。予定地のほとんどは南川副の漁師が権利を持っている土地だ。南川副は個人の土地も含め漁協として不動産を登記している。これを売るかどうかは総代会を開かないといけない。公害防止協定見直しのように役員だけで進めることはできないし、計画は簡単には進まないと思う。それを見越しての回答書の文書のような気もしている。そもそも私たちは協定の見直しに関して運営委員長に付託をしているわけでもないため、組合員の意見を無視し、幹部だけで勝手に決めた見直し容認が通るわけがない」と話していた。

 

 防衛省が取得をめざしている佐賀空港隣接地の33㌶は、佐賀県有明海漁協の南川副、早津江、広江、大詫間の4支所に属する漁業者らが所有する土地だ。土地の大半を所有している南川副支所は、これまで一貫して計画に反対する立場をとってきた。しかし、その南川副支所のなかでも運営委員など一部の幹部が賛成に回っていることが指摘されている。ある漁師は「共有地は漁協として不動産を登記しており、地権者は1人当り二反二畝ほどの権利を持っていた。しかし相続や権利の売買などで莫大な土地の権利を持っている漁師もいる。防衛省は1坪4350円以上といっているから土地代だけで1億円ほど手に入るともいわれている。だからその人たちが前の広瀬局長と繋がって勝手に南川副だけで説明会を開催して土地の買収価格を示してもらったり、オスプレイ配備のために裏でいろいろと動いていた。これまで地元住民も一緒に反対してきたのに、土地代を提示されて漁師が売却の方向に動けば“漁師は金で動く”といわれかねない」と話す。

 

 広江の漁業者は「漁期が始まってこんな忙しいときに無理矢理にでも計画を動かしてくるのが防衛省のやり方だ。今日も5時に家を出て海に行き、夕方になって帰ってきた。こんな忙しいときに漁師は動きがとれない。それを狙ってぶつけてきている」と憤る。

 

 「説明会のときは反対の声ばかりが上がっていたのに、防衛省も本所の役員も何を聞いていたのか。説明会のあとには運営委員長も“この1回で終わりではない”といっていたはずなのに、それ以降は組合員に何の話もなく、密室で自分たちだけで事を進めている。検討委員会の会議の内容も公表されていない。こんなものは組合として許されることではない。排水対策も防衛省が出してきた案は机上の空論で話にならないとみながいっているのに、代替案すら提案されていない。有明海がだめになるとわかっているのになぜ漁師が海を売るのか。西久保組合長は組合員全員に説明するべきだ。みんなが反対するのがわかっているから防衛省の説明会にも組合長は顔を出せなかった。それなのにこんな大裏切りをする。海がだめになれば着陸料の100億円なんてちっぽけなものだ。ノリがとれなくなれば漁師は終わりだ」と話した。そして「しかしこれほど強引に進めてくるということは防衛省もかなり切羽詰まっているのだろう。これから用地買収などの話が出てくるのだろうが、広江も漁協として不動産を登記しているし今後はそんな簡単な話ではない」と指摘した。

 

 先月26日からノリの種付けが解禁され漁期が始まっているが、今年はこれまでにないほど海の栄養塩が不足しているという。例年ならば満潮で5以上の数値がなければならないのに、今年は雨が少なく川から流れ込んでくる水量が少ないため0・1~0・2ほどの数値しかない。この数字は大不漁で水揚高が例年の1割以下に落ち込んだ昨季の西南部と同じ数字で、漁師たちはその栄養塩不足の対策として毎日海に肥料を撒いている。

 

 南川副の漁師は「これほど栄養がないというのは初めてだ。これまでこの時期に肥料を撒いたことなど一度もなかった。南川副など東部や中部は早津江川など大きな川の河口があり、西南部に比べると栄養塩の豊富な海域だった。それが昨季に大不漁だった西南部と同じような数字が出ており、今年はノリが育つのだろうかと漁師はみな不安を抱えている。そのような時期に本所が漁業者に目を向けず、防衛省や県の方ばかり見ている。とてもじゃないがまともな漁協ではない。昨季の西南部の不漁に対しても漁協が要請して有明海再生の特措法で救済すべき事態なのにそれすらしていない」と指摘した。

 

公害防止協定は「先人達の遺言書」

 

 別の漁師は「有明海の漁師はこれまでも筑後大堰や諫早干拓など国策とたたかってきた。しかし今の西久保組合長はそれをせずにただ目の前にあるノリ養殖だけをしてきた人だ。国からお金をもらうことで有明海が再生できると思っているのだろうか。県知事は“有明海の再生は県だけでは無理で国の助けがいる。だからオスプレイ配備にも協力してほしい”というが、有明海の再生とオスプレイはまったく別問題だ。国策に協力しないと今ある補助金も切られるかもしれないというが、有明海の再生は農水省で防衛省とは違う。何の関係もない。本来なら漁師は今全力でノリ養殖にとりくむ時期だ。漁期までに協定見直しが決められなかったのなら来年まで延期するのが筋だ。オスプレイなどこんな余計なことを考える時期ではない。漁師の立場に立ってはね除けるのが組合長のすることだと思う。国や県のいうことを聞くだけなら必要ない」といった。

 

 1998年に佐賀空港ができてから24年になる。空港のための工事にともない田んぼや畑がコンクリートで埋め立てられ、保水力が失われて何の栄養も含んでいない淡水がそのまま有明海に流れ込むようになった。それによってノリのバリカン症(低塩分海水や食害によってノリ葉体が消失する現象。バリカンで刈ったようにノリ網からノリ芽が消える)の被害は増大している。駐屯地建設でこれ以上田んぼや畑をコンクリートで固めれば有明海やノリ養殖にとって今まで以上の被害が出るのは明らかだ。

 

 漁師は「運営委員長たちも今出ている補助金などがなくなると漁師が困ると思って受け入れたのだろうが、本当に有明海と漁師のためになるのはどっちなのかということをよく考えなければいけない。オスプレイが配備され、自衛隊が来ることで佐賀の人口が増え経済効果があるという意見も聞くが、佐賀県のノリは昨季も販売額が205億円をこえて枚数も販売額も19季連続で日本一になっている。そのノリがとれなくなったらどれほどの経済的損失があるのかということをもっとよく考えてほしい」と訴えた。

 

 公害防止協定の作成にも携わったという男性は「公害防止協定は先人たちの遺言書だ。空港建設の話が持ち上がったときに、佐賀空港が赤字になったときは絶対に基地化される、そうなると川副は火の海になるという戦争体験者たちの危機感からつくられた協定書だ。当時の組合長や役員たちはみな戦争体験者で戦地に行っていた人も多かった。二度と戦争を繰り返してはいけないという思いから協定書にこの一文を加えている。先人たちが有明海や川副町を守るために命がけでつくった協定をあんな簡単にひっくり返すというのは許されることではない。戦争になったとき、基地や原発が真っ先に狙われる。それがウクライナ戦争でよくわかった。今台湾危機などがいわれているが、対中戦争になったとき真っ先に沖縄と佐賀が狙われるようになってしまう。佐賀をウクライナのようにしてはいけない」と話した。

 

漁師以外の住民も注視 佐賀・有明全体の問題

 

 漁師以外の地元住民のなかでも漁協の協定見直し容認に対して驚きと批判の声が上がっている。佐賀空港に隣接する川副町では、これまで地区の5自治会が県に対し住民説明会を開催するよう何度も要請している。しかし住民に対する説明会は2016年以降1度も開かれていない。

 

 川副町に住む男性は「漁師だけでなく住民に対しても説明会を開催してほしいと何度も自治会が要請しているのに、県は『公害防止協定の見直しが先だ』といって一度も説明しないままだ。事が決まってから説明されてももう遅い。白紙の状態で住民に計画を説明し、住民から反対、賛成の意見を聞くのが民主主義ではないのか。国や県は漁協さえまとまれば計画を進められると思っているのだろう。住民の意志は何にも考えられていない。計画が浮上したときは漁師も住民もみな反対していたのに、漁協が“土地価格の目安”などといい始めて、結局金なのかと落胆した。基地ができてしまえば漁師だけでなく、一般の住民も被害を被ることになる。欠陥機と呼ばれるオスプレイが佐賀の上空を飛び回ることに対する不安の声も大きい」と話した。

 

 別の住民も「オスプレイ配備の問題は漁師だけでなく、佐賀県全体に関係する重要な問題だ。それを一部の漁協幹部の意向だけで決めていいのか。暴挙以外の何物でもない。空港を自衛隊と共用しないという公害防止協定によって私たち住民も守られてきた。しかし協定に関しては私たち住民はかかわることができないから、漁師の人たちに頑張って欲しい。マスコミなどは配備計画が大きく前進したと報道している。たたかいの段階は変わるかもしれないが、まだこれから反対する方法はいくらでもあると思う」とのべた。

 

 現在千葉県の木更津駐屯地に暫定配備されているオスプレイの期限は2025年までと3年後に迫っている。そのため防衛省は無理矢理にでも公害防止協定見直しを強行し、用地買収へと進めようとしている。多くの漁業者や住民を蔑ろにした強行策が通用するはずもなく、真に有明海を守っていく漁師の結束が求められている。

 

「協定見直しには全組合員の同意が不可欠」――明治学院大学名誉教授・熊本一規氏

 

 漁業法に詳しい明治学院大学名誉教授の熊本一規氏は、佐賀有明漁協幹部による公害防止協定の見直し容認について以下のようにのべている。

 

 「佐賀空港へのオスプレイ配備計画をめぐり、空港建設時に自衛隊との空港共用を否定した協定を県と結んでいた佐賀県有明海漁協が協定の見直しに応じることを決めた、と伝えられている。


 しかし、自衛隊との空港共用やオスプレイ配備は漁業に損害を与えるからこそ協定が結ばれたのである。したがって、それらを認めるか否かを決められるのは、漁業を営んでおり、損害を被る漁民(組合員)である。漁業の免許を受けるだけで、漁業を営んでいない漁協が決められることではない。


 漁協が、協定の見直しをするには、漁協の役員等の一部に諮るのではなく、見直しにともない漁業損害を受ける組合員全員に諮り、その同意を得なければならない。」

 

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