県一漁協合併に嫌気がさして辞めた元漁協組合員や、新たに脱退届けを出そうとしている下関市内の組合員から、「出資金が戻ってこない」と声が上がっている。県漁協関係者と組合員双方に事情を聞いてみた。
漁船まで処分したのに
下関市伊崎町の最高齢漁師だったSさん(80代)は、昨年10月に漁協支店に脱退届けを持って行った。そのときは「合併して事業年度末(もともと12月だった)が3月になったので、12月にやめることはできない」といわれ、3カ月間辛抱して賦課金を納め続けた。この春に届けは受理されて船も処分したが、今度は出資金が一銭も戻らない。納得いかぬまま、愛着ある伊崎での暮らしに別れを告げ、子どもたちの住む勝山地区に移り住んだ。
「Sさんは128万円も出資金を持っていた。1銭も戻らないということがあるか!」と、同情する年配漁師らのなかで話題はすぐに広がった。支店責任者に問いただすも、「九月に信漁連といっしょになって……」云々と煮え切らず、不信は広がるばかり。いずれ辞めていく自分たちの身にも重ねて漁師らは心配した。さんざん食い物にされてきたので、すんなり「説明」など信じるわけがなかった。
運営委員長会議の確認事項では、9月に漁連、信漁連と統合して支援を受けたのち、「60%を払い戻しする」ことになっており、Sさんの場合約77万円は戻ってくるはずだと、県下の運営委員長らは指摘する。それまでは待ったがかかっている。9月までが意味不明の空白だ。支店によっては、内部資金で立て替えて払い戻すなど、親身に対応しているところもある。本店の願望は「辞めさせるな」であり、運営委員長会議でも紛糾した事項だった。
自己資金が減る県漁協
県漁協からすると脱退者が多すぎて自己資金は目減りするばかり。いくら増資させたって、辞めていく人人の反乱でいたしかゆし。初めから狂っていた事業計画がさらに狂って、歯止めをかけなければ「オレの漁協の金が減る」状態。「支援」にたいするノルマなども関係して、極力辞めさせないように必死の対応が続いている。漁師を殴りつけた結果、経営がパンクする方向に向かったからである。
旧下関ひびき漁協に合併するさい、旧下関漁協(伊崎)の組合員らは約75万円もの出資を持っていた。当時のブロック合併の約束だった出資50万円基準は難なくクリアしていた。ところが漁協の解散にともなって、配当されるべき剰余金は1人当り約40万円が出資に振り替えられた。今回の県一漁協合併でふたたび剰余金が増資に回され、組合員の出資金は128万円にもなった経緯がある。Sさんのように辞めた組合員が77万円の払い戻しを受けたとしても、本来手元に返るはずの約50万円(剰余金分)は県漁協に奪われる。合併以前なら満額返ってきたものだ。
建網をしている年配組合員の1人は「漁協の都合のいいように、漁師は利用される。何も信用できない」といった。コルセットを巻いた腰をいたわるように船から下りると「300㍍くらい網を引いて、イカが3匹、メバルが2匹、カサゴが3匹。油代にもならん! 海が死んでいる。わしらもそろそろ辞めるぞ」と腹を立てた。
別の漁師は「手続きや法律の問題じゃない。剰余金はもともと組合員が働いて溜まったお金だし、出資金も漁協に協力してきた組合員が戻してもらうべきお金。信漁連といっしょになるから戻さないというのは強盗だ」といった。