県内漁協の合併問題は、信漁連・県漁連が山口県漁協に事業・財務などを譲渡し、9月以降解散することで、表面的には「幕引き」に向かおうとしている。しかし合併した県漁協の統括支店の事業利益は軒並み赤字を記録、二井県政が強引に推進した合併は、漁協の経営健全化どころか経営破たんをつくるものとなった。漁民の声は上には届かず、剰余財産まで巻き上げられて困窮した漁協経営につけこんで、漁業権売り飛ばし攻勢が襲いかかりはじめている。
もともとの問題は、自民党林派が信漁連の預金203億円も使いこんで、水産庁モデルのマリンピアなどに突っ込んだ結果であった。黒井漁協の職員上がりの桝田組合長・県議と信漁連の職員のトップの専務らが共謀して、協同組合を食いものにしたものであった。その解決としてやられた合併によって、漁業以外の力が組合を乗っ取り、漁民を奴隷のように絞るものであった。いわば黒井漁協が県漁協のモデルにされたのである。これは欺瞞じみた二井県政の残虐さをあらわしている。
昨年8月に発足した山口県漁協の各浜では、総会にむけて会合がもたれている。そのなかで「平成17年8月1日~平成18年3月31日」までの8カ月間の決算が明らかにされている。それによると、県内10ブロックに分けられた統括支店の事業利益は、のきなみ赤字だったことが明らかにされている。事業外収益などで補っても、5ブロックの当期利益がマイナス計上となり、未処理損失金を抱える地域は7ブロックにのぼる。
岩柳玖珂大島海域(旧東和町漁協、旧浮島漁協、旧日良居漁協、旧安下庄漁協、旧平郡漁協、旧柳井市漁協)はあわせて約1780万円のあらたな欠損をこしらえ、前期繰越欠損約920万円とあわせた欠損金の合計は約2700万円に膨らんだ。
光・熊毛海域(旧上関漁協、旧四代漁協、旧祝島漁協、旧室津漁協、旧平生町漁協、旧田布施漁協、旧牛島漁協、旧光漁協)は約770万円の利益を計上して、当期末剰余金が約1410万円に拡大。とりあえず黒字におさまっている。そのかわり、油代や賦課金は目が飛び出すほど高い地域だ。
周南海域(旧下松漁協、旧徳山市漁協、旧櫛ヶ浜漁協、旧戸田漁協、旧新南陽市漁協)は当期利益として約1970万円を計上し、前期繰越欠損を埋めたものの、未処理損失金は約3340万円。
吉佐海域(旧防府市漁協、旧秋穂漁協、旧山口漁協、旧嘉川漁協、旧阿知須漁協)は約920万円の当期利益を計上したが、当期末未処理損失金は約8610万円と破格。
宇部海域(旧東岐波漁協、旧床波漁協、旧藤曲浦漁協)は小規模ながら、141万円の利益を計上して、剰余金を158万円にした。黒字でやりくりしている。
黒字から赤字に転落したのが本山以西海域(旧小野田漁協、旧高泊漁協、旧厚狭漁協、旧埴生漁協、旧王喜漁協、旧王司漁協、旧才川漁協、旧長府漁協、旧壇ノ浦漁協)で、この8カ月間で約3800万円の赤字を計上。約130万円あった前期繰越剰余金と差し引きして、約3680万円の欠損を抱えた。長府支店以外はみな赤字だったとされている。
下関海域(旧彦島漁協、旧下関南風泊漁協、旧六連島漁協、旧下関ひびき漁協)は約1920万円の当期損失を出した。約1070万円あった繰越剰余金で埋めても足りず、約850万円の欠損を次年度に引き継いだ。
豊浦海域(旧室津漁協、旧豊浦町漁協、旧豊北町漁協)は、約3120万円の当期損失を出して累積欠損は約4120万円に膨らんだ。11カ所ある全ての支店で当期利益はマイナス計上。詳細を見てみると、
室津 約750万円
湯玉 約330万円
小串 約600万円
川棚 約300万円
二見 約350万円
矢玉 約140万円
和久 約710万円
特牛 約130万円
肥中 約150万円
阿川 約100万円
粟野 約 90万円
と、みな赤字だった。市場の利益が支えにはなっているものの、とても足りるものではない。
長門海域(旧山口ながと漁協)は合併に持ちこんだ繰越欠損金が約3億9600万円あったのに加えて、当期損失が約9810万円も出て、累積欠損は約4億9400万円。とんでもない額になっている。仙崎養殖事業の失敗がこたえて事業計画すら組めない状況に頭を抱えている。地元漁民から海をとりあげて、漁業権を他地域の定置網漁業者に貸し出すなどという、ムチャな補填計画まで飛び出す始末だ。「漁民が漁民を殺す」ようなあり得ない構想に、漁師は必死で抵抗している。統括支店は、これとは別に、5年間で2億4700万円の利益を県漁協にたいして負担する(信漁連欠損金の肩代わり分)ことが義務付けられており、山口県でも有数の漁業地帯は、危険な状況に陥っている。
萩海域(旧山口はぎ漁協)は光・熊毛、宇部海域と並んだ黒字で、当期利益を約4530万円計上。剰余金を約1億3340万円にした。「さすがは県漁協組合長や幹部職員の出身地」というよりも、高い賦課金や油代などで、単純に漁業者から絞り上げただけであって、生産者を泣かせた数値に値する。
漁業者の声は圧殺 奪われた協同組合
今年度から本格的な合併事業計画が進んでいくわけだが、必死に歯を食いしばっても、到底「利益」など生みだせる状況にはないことがわかる。どこも我が支店の経営で精一杯だ。ところが信漁連が県漁協にかぶせた残り25億円の欠損を五年間で返済するというわけで、結局、浜の漁師が身ぐるみ剥がされる以外に、「金のなる木」や「打ち出の小槌」などないのである。
元組合長の男性は、「旧漁協の剰余金を出資金に振り替えられたのがこたえている。羽をむしられた七面鳥のようなもので、丸裸にされて焼かれるような感じだ」と沈痛な表情で例えた。8カ月間がんばったが赤字が出た。旧漁協時代であれば剰余金を取り崩して解消できたのに、頼りになる金はなかった。県漁協に没収されて、「貯蓄ゼロ世帯」にされたからだ。今後のことを考えると、店舗統合や金融部門の廃止などで合理化するほかなく、それがイヤならば長門のように漁業権を売りに出してでも、ゼニをつくらなければならなくなった。「毎年、組合員が身銭きって補填するわけにもいかんでしょう。はっきりいって恐ろしいですよ。赤字が原因になって、海の叩き売りがはじまるんじゃないかと思うと」といった。
別の元組合長は「こうなることは県にはわかっていたはずだ。山口県漁協は“漁協”ではなくなった。漁業者が助け合う組織ではなくて、サラリーマンが天下をとった“奴隷船”だ。後悔先に立たずとはこのことですよ」と恨み節。「統括支店から話はまったく下りてこないし、秘密が多すぎてどうなっているのか状況がわからない。元参事なんかが本店に引き抜かれて大威張りしているが、経営者のような気になっている。漁業者の心がつうじる人間がいなくなった」「補償金にすがりつくような体質は、より強まっている。そのことが不安だ。漁業ができなくなるなら、元も子もない」といった。
現在、発足した山口県漁協で問題になっているのは、苦しい経営事情と同時に、一部幹部の独裁体制が強まっていることだ。威張って“退場”する信漁連・県漁連は県漁協本店のなかにもぐりこみ、幹部職員などはスライドして、あるいは退職金をもらって天下った支店・統括支店で采配を振るっており、性懲りもなく威張りはじめている。そこに旧漁協の参事や幹部職員(地元漁民に嫌悪されていた人が多い)が加わって、職員主導の本店が形成された。
漁民の声は圧殺され、漁協運営に届かない。漁業者の外側から、果てしもなく搾り立て、漁業をつぶしても構わぬという、容赦ない攻勢が強まるものとなった。協同組合は漁民からとり上げられたのである。
規制緩和策を強行 自民党林派の悪事使い
合併問題が取り沙汰されてきたこの1、2年、「経営基盤強化」などという薄ら寒いスローガンの裏側で、自民党林派の悪事と、その象徴たるデタラメ信漁連が雲隠れし、補填を押しつけられた各浜では、3000人を越える組合員が所属漁協を脱退するという事態がうみだされた。二井県政が唱える「水産山口チャレンジ計画(儲かる漁業)」とか「住みやすさ日本一の山口県」とは逆のことをやってきたわけで、経営基盤を大崩壊にさらした。強制的な増資(欠損金の穴埋め)を迫られて個々の漁業者は借金をつくり、恐喝され、山口県の水産業全体が寂れていくというのは、まさに異常事態である。
この問題は、漁業者の猛烈な抵抗によって、ことの本質が県民のまえに引き出され、社会の批判にさらされることになったが、発端となった信漁連の欠損金は、漁民がつくったものではない。林義郎代議士が自民党水産部会長だった時期に、水産庁が鳴り物入りでモデルとしてオープンさせたレジャー施設・マリンピアくろいを中心とする、桝田市太郎黒井漁協組合長・県議や信漁連幹部など、自民党林派関係者らの使いこみによってできた欠損金にほかならない。漁協や信漁連を一部の幹部が私的に牛耳り、漁業者の預金を使い込んだのである。
ところが水産庁や県は「協同組合の組合員責任」とし、幹部らの自己責任は無罪放免。協同組合経営はかれら投機主義者が責任を転嫁するのになんと便利なものであるかを暴露した。二井県政がこの信漁連再建でとってきたことは、結局のところ当時の黒井漁協のようなデタラメな組合にしないというのではなく、桝田・黒井漁協をモデルに県漁協をつくるというものであったということができる。二井県政から見ると、漁業破壊が目的であり、漁協を食いものにした桝田氏などは「英雄」だったということになる。
もう一つの問題は、この山口県の県一合併が全国の県一漁協合併の先頭を切っているという問題である。信漁連破たんなどない県でもやっている。それは県下の旧漁協が経営困難に追い込まれ、海のたたき売りに走らせようと追い込んでいることにあらわれている。上関の原発や岩国の米軍基地、各地の埋め立てなど、米軍、自衛隊や企業にとってはまことに便利な状況をつくっている。すなわち、共同漁業権などという水産国の歴史をもった、日本にしかないような漁業制度は、企業にとって経済障壁でありなくしてしまえという、規制緩和政策にもとづいていることをあらわしている。
山口県では、自民党林派の悪事を、安倍官房長が支える小泉政府が「よくやった」と見なして、規制改革の道具にしてきたことを示している。世の中は、まじめに働くものが報われるどころか、働くものをだまして巻き上げるようなものが天下を取るという、転倒したものになっていることをあらわした。ホリエモンの詐欺事件や耐震偽装などと似たようなことが二井県政の元でもやられたというほかはない。
民族の命運かかる問題
産業をつぶしても反省のない当事者と監督官庁の姿勢は改まるどころか、よりひどくなっている。山口県水産部は漁協合併とともに解散したが、水産行政が水産業を振興するというものではなく、水産業の外側からつぶしてしまうというものになっているのである。
県水産部の合併推進姿勢は、ヤクザも驚くような強権ぶりである。不参加漁協には常例検査をぶつけて脅しをしたり、信用事業を廃止に追いこんで近代化資金を貸さないなどとする、常識を逸脱した「指導」と圧力を平然とやってきた。もはや「水産行政」の姿ではない。
二井県政は明らかに、漁民を間引きし、山口県漁業をつぶしてしまおうとしている。それは小泉政府が日本漁業をつぶそうとしていることにしたがったものである。日本の漁業をつぶすという問題は、農業もつぶして、日本民族の食料は輸入すればよいというものである。それは農漁民の生活の問題だけにとどまるものではない。民族主権を放棄し、外国勢力・アメリカになにをいわれても従うという民族全体の命運にかかわる問題である。
小泉政府は米軍再編で3兆円もアメリカに出すといい、アメリカの盾になるために日本全土を原水爆戦争の戦場にもするという、とんでもないことをしている。教育もアメリカの指示で、貧乏人には勉学の機会もなくして、アメリカに文句も言えない人間づくりをしている。漁業破壊はこのような植民地にする一環としてあらわれている。
山口県の県一漁協合併問題は、一つの新しい局面となった。これはなにも問題は解決したわけではなく、問題の始まりである。なによりも二井県政のデタラメぶりを天下に暴露した。真に追いつめられているのは自民党二井県政の側である。