いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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『外国人労働相談最前線』 著・今野晴貴、岩橋誠

 日本に約173万人いる外国人労働者は、製造業や農漁業、コンビニやスーパー、食品工場、レストランや居酒屋などで働き、現場では不可欠な労働力になっている。ところがコロナ感染拡大のもとで、労働相談をおこなっているNPO法人POSSEに彼らからの相談が急増しているという。そこで外国人労働サポートセンターをたちあげると、年間500件の相談が寄せられた。

 

 そのなかでわかったのは、賃金不払いや解雇、生活困窮はコロナ以前から蔓延していたこと、外国人であるがゆえに非正規のなかでも劣位に置かれ、真っ先に首切りやシフト削減の対象になっていることだ。緊急事態宣言下で雇用調整助成金を使わずに解雇したり、無給で休むよう命令した企業も少なくなかった。なかには、契約期間中の退職に罰金90万円をもうけている派遣会社や、逆にいらなくなったからとパスポートと在留カードをとりあげ、強制帰国させた企業もあった。やっているのはスターバックスにサンドイッチを納める大手食品会社など、大企業も少なくない。

 

借金奴隷にする仕組み 技能実習生の失踪や難民化

 

 本書は、「多文化共生」というかけ声とは裏腹に、外国人を積極的に使い捨てにすることによって利益を追求する企業とそれを容認する国のあり方を問題視し、現状と解決方向を提起している。

 

 日本の労働法は、最低賃金法にしろ解雇規制にしろ、国籍や在留資格で差別しておらず、すべての労働者に適用されることを建前にしている。だが決定的に異なるのは、外国籍の人が日本に滞在するには在留資格が必要だという点だ。

 

 日本の入国管理制度において、この在留資格によって在留期間、就労の可否、就労できる職種が厳しく制限されてきた。たとえば通訳やエンジニアに適用される「技術・人文知識・国際業務」という在留資格を持つ外国人が日本で生活するためには、就労先の確保が大前提で、解雇などで就労先を失えば、3カ月以内に転職先を見つけないと在留資格を失う恐れがある。よくあるのは、賃金未払いなどの労働法違反を犯している企業が、外国人がこれを訴えようとすると解雇し、在留資格を失わせるやり方だという。

 

 いまや35万人をこえる技能実習生の場合、もっと問題が深刻だ。技能実習生は就職先を選択できないし、与えられた実習先に違法行為があっても転職の自由はない。それを逆手にとって違法行為を訴える実習生を解雇する企業は後を絶たない。したがって失踪や難民化が起こる。

 

 しかも技能実習生は自国の送り出し機関に多額の渡航費用を支払って来日する「借金奴隷」であり、実習を辞めると損害賠償を請求されることさえある。悪質なブローカーの規制は不十分だ。

 

 また、実習生を受け入れて企業に送り込み、入管に状況を報告する日本側の監理団体は、非営利法人でありながら、毎月一人当り3万円を企業から受けとる派遣会社のような側面を持つ。監理団体が企業と癒着し、本人の意に反して強制帰国させたりするケースも珍しくない。

 

前時代的な植民地化 なぜ日本に働きに来るのか

 

 著者はこうした問題を生む背景を掘り下げている。読んでわかることは、いまや世界経済は国境をこえてグローバルに結びついているのに、そのシステムは依然として低賃金労働の搾取と植民地化というルールで支配されていることだ。

 

 ベトナムやミャンマーの人たちはなぜ日本にやってくるのか? 日本はアジア諸国でODA(政府開発援助)による開発をおし進め、その結果農村共同体は解体され、仕事先を求めて海外に移住せざるをえない労働者が大量に生み出されたからだ。最近でもJICA(国際協力機構)による円借款事業であるバングラデシュのマタバリ石炭火力発電事業では、エビ農家や塩田農家、漁民など約二万人が失業したという。こうしたインフラ開発は、日本企業が現地に進出して安い労働力を搾取し、大量生産・大量消費経済を支える拠点となっている。

 

 日本だけでなく、アメリカが締結を迫ったNAFTA(北米自由貿易協定)によって、100万人以上のメキシコの農民が移住を強いられ、1500万人が貧困状態に陥った。ドイツでは2020年、レーダウィーデンブリュックにある食肉加工工場テニエスでコロナ患者が急拡大したが、ここでは従業員7400人のうち3分の2がルーマニア、ポーランド、ブルガリアなど東欧からの移民で、換気が不十分な工場で長時間働き、夜は狭い一室に何人も詰め込まれて寝起きしていたことが暴露された。

 

 この国境をこえた労働力流動化政策は、外国人だけに影響を与えるわけではない。日本人も非正規化が進み、正社員であっても長時間労働で過労死すら強いられており、政府・財界は非正規の流動的な労働市場の最下層に外国人労働者を位置づけて、全体の地位をいっそう引き下げようとしているからだ。日本人労働者が正規・非正規の分断を乗りこえ、さらに外国人労働者と手を携えてお互いの地位向上のためにたたかい、それによってレイシズム(人種主義)に対抗する連帯を創造しよう、という著者の呼びかけには共感できる。

 

 本書の中では、2020年4月以降、Z世代といわれる今の大学生や高校生300人以上が、外国人労働者や難民支援のボランティアに新たに参加し、通訳もしながら労働相談や企業との交渉、入管法改定反対の署名活動などをやったり、実情を広く訴える活動に奔走していることが報告されている。300人のほとんどが女性だそうで、みずからも数百万円の奨学金の借金を抱える身であったりする。若い世代の意識も確実に変化していることを確信させる。

 

 (岩波ブックレット、88㌻、定価620円+税)

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