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違法な造成で再び洪水や土砂流出の危険性 熱海市伊豆山の今  熱海市盛り土流出事故被害者の会・技術顧問の清水浩氏に聞く

 昨年7月3日、静岡県熱海市伊豆山で発生した土石流災害は、災害関連死を含めて27人が死亡、1人が行方不明、住居150戸が倒壊するという甚大な被害をもたらした。犠牲者の遺族や被災者らは「熱海市盛り土流出事故被害者の会」(瀬下雄史会長)を結成し、今回の災害は盛り土が原因の人災だとして、盛り土を造成した前土地所有者の不動産会社・新幹線ビルディング(以下S社。神奈川県小田原市)と今の土地所有者であるZENホールディングス(以下Z社。東京)を刑事告訴している。だが、災害から8カ月たった現在、土石流発生起点の直ぐ上に産廃を含む盛り土が大規模に残されたままで、ここから新たな崩落が起こる可能性があるとともに、起点西側にある太陽光発電施設も造成工事が完了しておらず、その下流流域でいつ新たな土砂流出や洪水が起こってもおかしくない状態になっている。地元住民の安全確保のために一刻も早い復旧工事が求められる。熱海市盛り土流出事故被害者の会技術顧問の清水浩氏に現地の実情を聞き、本紙がまとめた。

 

 

 今回の土石流発生起点となった源頭部付近の盛り土の周辺は、もともと大規模な宅地開発が計画されていた土地だった【地図参照】。

 

 

 最初の土地所有者は2000年2月、この周辺の30㌶以上の土地を購入し、静岡県の開発許可を受けて宅地造成をA工区からB工区へと進めた。その後、2006年4月1日に開発許可関係が県から熱海市に移譲された。

 

 同年9月、S社がこの一帯の土地120㌶を取得し、宅地造成をC・D・E工区へ拡大しようとした。この変更で宅地造成の対象となる土地が1㌶をこえた。森林において1㌶以上の土地の伐採などをおこなう場合、森林法にもとづく林地開発許可を県から受けることが必要になる。ところが市は林地開発許可がない申請に都市計画法にもとづく許可を出した。S社も指導がないことから林地開発許可の手続きをおこなっていない。

 

 続いてS社は、2006年から7年にかけて、盛り土の場所となる風致地区(風致地区とは都市計画に定められる地区の一つで、水や緑に富んだ自然的景観を維持するため、宅地造成などに一定の制限をもうけている)①~③について、風致地区条例にもとづく許可を求めた。県は①と②で1㌶をこえることから、林地開発許可が必要と指摘したが、市は「②は保留を検討している様子」として盛り土の許可を出した。三つ出した許可のうち2カ所以上同時に工事をおこなうと違法という、不可解な許可の出し方となっている。一方、風致地区①の申請までに、周辺で少なくとも2回の法面崩壊が起こっていた。

 

 こうして2006年から、今回の災害の原因となった盛り土が始まる。盛り土は静岡県の県土採取等規制条例によっておこなわれたが、同条例は許可制ではなく届け出制だった(今も同じ)。そのうえ、盛り土は届け出た計画の1・5倍(約5万4000立方㍍、高さ50㍍)にもなる違法な状態だったことが明らかになっている。そして昨年の土石流災害は、この風致地区①から発災している。

 

 静岡県が原因究明委員会を設置し、発災の原因になった水の流れについて、長雨によって地下水が分水嶺をこえて源頭部に到達したとして調査・検証を進めている。これについて被害者の会は、表面水が源頭部に流れ込んでいる可能性が高い。排水施設も考慮に入れるべきである。源頭部の最上部付近に道路排水施設が設置されているが、管理がおこなわれていなかった可能性が高く、漏水・溢水について検証すべきである。土石流の発生起点と同じ場所で過去にも法面崩壊が起こっており、当時どんな対策がとられたのか検証すべきである、などを指摘している。

 

崩壊起点上部に盛り土

 

 昨年のような土石流災害を二度と起こさないために、違法な盛り土をなくすことが求められている。現在問題になっているのは、昨年の土石流の発生起点の直ぐ上に大きな盛り土が残されていることだ【地図中の黒い部分】。それは再び土砂崩れが起こる危険性をはらんでいる。

 

 盛り土①、盛り土②は高さ2㍍をはるかにこえるもので、産廃が投棄されている可能性がある。技術基準的に審査を受けていない不安定な盛り土に植栽がされただけであり、現在も仮設の排水路が設置されているだけで、盛り土本体は手つかずとなっている。

 

 本来なら原状復旧が基本であり、この場合は土砂・産廃を除去したうえで植栽をおこなうことが必要だ。森林法としての復旧対策は、「土砂流出防止措置と植栽等により、森林に復元させること」とされる。

 

 また、風致地区③の場所にも盛り土③がある。これは面積は①、②と比べて少ないが、高低差が30㍍にものぼるという。

 

 これらの盛り土については、3月3日の県議会でも議員が追及した。防災工事としての堰堤(えんてい)の仮設工事が進められていることが確認され、盛り土撤去の方向性は示された。だが、具体的にどうするのか?

 

 盛り土についてS社は、「安全対策工事を完成させるのは買った方だ」といい、Z社は「そのことについて聞かされていなかった」といっており、主張は食い違っている。しかし、県土採取等規制条例の完了届けが出ていないこと、地位の継承がないことから、責任は前所有者であるS社にあることになると見られている。したがって熱海市がS社に是正命令を出してS社に復旧工事をやらせるか、それとも数十億円はかかるであろう工事が事業者負担でできないというのなら、市や県が費用を肩代わりしてでも復旧工事をやるのかだが、具体的にはまだなにも決まっていない。

 

太陽光発電を巡る問題

 

 もう一つは、崩落起点のすぐ西にある太陽光発電施設【写真①参照】をめぐる問題である。

 

 2011年になると、この土地がS社からZ社に転売された。Z社は2016年、盛り土の南西側に太陽光発電施設を設置した。

 

 問題はこの太陽光発電所の設置が、違法伐採から始まっていることだ。もしそうなら熱海市は原状復旧を求めるべきだが、そうせず、形式的な顛末書を受けた直後に、事業の申請に対し宅地造成等規制法にもとづく許可を出し、設置事業計画書を受け付けている。しかし、これまで見てきたように、太陽光発電の計画地に隣接する盛り土地点や、さらにそれ以前の宅地造成をめぐっても、施工不良や無許可造成などがくり返しおこなわれてきたのに、なぜこの申請が許可されたのか? と疑問が語られている。

 

 また、太陽光発電はその普及を促すために、50㌔㍗以下の場合は「一般用電気工作物」と見なされて届け出が不要とされている。そこから、この場合も市の宅地造成等規制法の許可のみで済むことになった。この法律上の規制緩和が、悪質業者にとっての抜け道となっている。

 

 しかも、その後も2018年に行政の担当部局とZ社との間で施工不良に関する協議がおこなわれているが、是正計画も出されていない状況だ。そして4回もの工期延長をおこなっているが、いまだに造成工事は完了していない。にもかかわらずZ社は、土石流災害直前の2021年6月に新たな太陽光発電計画について相談を持ちかけている。

 

 とくに、崩落起点西の太陽光発電施設の設置にともなう工事で、申請面積を大きく上回る1㌶以上の森林が伐採され、造成工事がおこなわれている。先にも見たように、森林法では1㌶以上の土地の伐採などをおこなう場合には県の林地開発許可が必要で、その場合、開発によって下流への洪水の危険性が高まることから、調整池の設置、または下流河川整備を事業者負担でおこなう必要がある。

 

 しかし今段階で、熱海市から是正措置は出ておらず、Z社からも是正計画が出ていないために、そうした整備がされないまま放置されている。その結果、下流流域の洪水の危険性が増加しており、土砂流出の危険性も高まっている。そして太陽光発電はこの不安定な盛り土の上に設置され、発電だけは続けているという。これ以上、放置できない状態だ。

 

太陽光発電所を支える土嚢

太陽光肩部分のクラック

 

熱海市の審査も不適切

 

 この太陽光発電施設については、宅地造成等規制法にもとづいて許可を出した熱海市も、申請時から適切な審査をおこなっていないのではないかと清水氏は指摘している。宅地造成等規制法は盛り土法面と排水施設の審査をおこなうものだが、公開されている資料ではその両方に許可基準を満たしていないことが確認されるからだ。

 

 被害者の会は、盛り土と排水施設の適切な審査がおこなわれていない例として、以下の点をあげている。

 

・排水流量計算に誤りがあり、審査も不適切
・流末排水の検討結果がない
・盛り土部小段、法尻に排水施設がない
・盛り土形状に問題があり、審査も不適切

 

 太陽光発電施設が乗っている盛り土は、その法面の保護に大型土嚢(のう)が使われている【写真参照】。大型土嚢は仮設目的で使用するものであり、数年で劣化する。この写真は2020年に撮影されたものだが、太陽光設置(2018年)から2年で土嚢の風化が進んでいることが確認できるという。土嚢は申請区域の外側に広がっている。熱海市は現在、Z社がどういう是正計画を出してくるか待っているところだそうだ。

 

 さらに太陽光発電施設の法肩部にクラック(岩盤の裂け目)が発見されている【写真参照】。太陽光の排水設置箇所に砕石を投入しており、それによって砕石投入箇所から雨水が浸入し、盛り土の施工不良とあいまってクラックが発生したと考えられる。すぐに大規模な崩落につながる可能性は低いが、実態として太陽光発電施設の敷地には雨水排水施設が皆無に近い状態になっていることを示しており、早急に是正措置が必要だと清水氏は指摘する。

 

下流で引越しする人も

 

 こうして今現在も、太陽光発電施設の大規模な工事範囲の拡大によって、下流流域への洪水と土砂流出の危険性が増す状態が続いている。

 

 昨年の土石流災害発災時には、太陽光付近の雨水は下流流域に流れて、逢初橋付近で逢初川に合流した。合流した水が避難行動や救助活動を阻害したことも否定できない。

 

 このまま梅雨時期や夏の台風シーズンを迎えたらいったいどうなるか、と関係者が心配している。こうした状態が八カ月も放置されていること自体が異常だといえる。住民には行政から正確な情報提供や説明がなく、不安ななかで毎日を過ごさねばならない状態で、立ち入り禁止区域以外の下流の住宅地に住む住民の中で引っ越しをする人も出ているそうだ。

 

 しかも逢初川以外の流域でも、洪水の危険性が増加している可能性がある区域がある。いずれにしろ、違法な造成によって下流流域への洪水の危険性、土砂流出の危険性の高まりは否定できない。

 

 これに対して経産省は発災後、現地確認と是正指導をおこなっているが、あくまでFIT法にもとづく是正指示にとどまり、造成工事の全体像には触れられていない。近隣に住む住民の安全を確保するためには、計画全体の見直しと一刻も早い復旧工事が必要であり、熱海市や静岡県が即座に行動を起こすことが求められている。

 

再エネの為の規制緩和

 

 以上のように見てくると、住民を土砂災害の危険にさらし続ける原因の一つとして、政府が風力や太陽光など再エネを普及したいために法的規制を大幅に緩和している問題があることが浮き彫りになってくる。

 

 今回の場合を見ても、太陽光発電は50㌔㍗以下の場合、建築物や特定工作物には該当せず、「一般用電気工作物」という扱いになって届け出も開発許可も不要とされている(経産省「太陽電池発電設備の設置に係る法制上の取り扱いについて」)。その根拠として、2012年に国土交通省から出された建築基準法の技術的助言がある。それによって太陽光発電施設は「用途変更がともなわない」「土地の改変による影響が少ない」ことを理由に、建築基準法上の工作物に該当しないとされ、都市計画法上の特定工作物にも該当しないとされた。

 

 そのもとで、もうけを第一にする悪質な事業者が、FIT法や森林法などの不備や行政の限界を巧みについて、土地や発電所を小分けにして森林法やFIT法を逃れようとする例が全国で後を絶たない。被害者の会はこうした法令の見直しと再エネ事業に対する規制の強化を強く求めている。

 

 なお、今回の場合は太陽光発電所建設をめぐる1㌶以上の造成が問題になっているが、全国的に見ればこれをはるかにこえる面積の森林を伐採し、切り土・盛り土をしてメガソーラーを設置する計画が目白押しとなっている。熱海市の西隣にある函南町では、小学校や多数の住宅がある直ぐ上の軽井沢の山間部約65㌶に10万枚以上のソーラーパネルを敷き詰める計画を東京の事業者が進めようとしているし、奈良県の平群町でも山間部約48㌶を造成する計画が持ち上がっている。これらがもし建設されてしまって、大規模な土砂災害を引き起こせばいったいどうなるか。熱海市伊豆山のその後に全国的な注目が集まっている。

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