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食料品、空前の値上げラッシュ 食料争奪戦で日本が買い負け 国際相場高騰に円安が追い打ち

 昨年は「安さ」が売りだった牛丼の値上げがあいついだが、今年に入って食料品全般が空前の値上げラッシュとなっている。牛丼値上げの背景には「ミートショック」といわれる輸入牛肉の高騰があった。コロナ禍でアメリカなど食肉輸出国での生産減少や輸送の停滞などが響いた。同様に大豆、小麦、トウモロコシ、コーヒーなど食品の国際価格も軒並み高騰しており、世界の食料市場での争奪戦が激化している。深刻なのはこの食料争奪戦激化のなかで日本が「買い負け」ていることだ。日本の食料自給率は37%で戦後最低になっているが、食料の六割以上を輸入に頼る日本にとって、国際市場で食料を確保できないという重大な事態が起こっている。あいつぐ食料品高騰の背景になにが動いているのかを見てみた。

 

 昨年末から今年に入っての食料品の値上げ状況は以下の通り。

 

 小麦粉の売り渡し価格引き上げを受けて製パン会社が一斉に今年1月からの値上げを発表した。山崎製パンは食パンや菓子パンなど247品目を平均7・3%値上げした。食パンは平均9%、菓子パン類が平均6・8%の値上げ。山崎製パンの値上げは18年7月以来3年半ぶり。敷島製パンも242品目を平均6・7%値上げ、フジパンも254品目を平均8%値上げした。

 

 日清オイリオグループ、J―オイルミルズ、昭和産業の大手3社は昨年11月納入分から家庭用食用油を1㌔当り30円以上、業務用食用油は一斗缶当り500円以上引き上げた。3社は昨年4、6、8、11月と4回値上げしている。1年で4回の値上げは07年以来14年ぶりだ。

 

 キッコーマンは大豆の価格高騰を受けて2月16日納品分からしょうゆ、豆乳など216品目を値上げした。しょうゆで4~10%、豆乳で5~6%の値上げ幅。

 

 キューピーは昨年7月出荷分からマヨネーズやドレッシングなどの調味料を2~10%値上げした。味の素も1~10%値上げした。食用油の高騰を受けての値上げだ。

 

 同じく油脂価格の高騰を受けて、明治と雪印ミルクは昨年10月出荷分からマーガリンなどの価格を3~13%引き上げた。

 

 カルビーは今年1月出荷分からポテトチップスなど17品目を7~10%引き上げた。また15品目については内容量を減らした。

 

 小麦の自給率は約12%、なかでもパン用小麦はさらに低く、ほぼ輸入に頼っている。輸入小麦の価格は政府の売り渡し価格で決まる。売り渡し価格は4月と10月に決定する。農水省は昨年10月に昨年4月期より19%引き上げた。なお、昨年4月期は前年の10月期より5・5%引き上げており、輸入小麦価格は右肩上がりで高騰している。

 

 昨年10月の売り渡し価格は1㌧当り6万1820円で、値上げ幅は2008年4月期の30%値上げ以来の大幅なものだ。ちなみに2008年には世界的な穀物価格の高騰で各国で政変をともなう食料危機騒動が起こった。

 

 日清製粉グループ、ニップン、昭和産業の製粉大手3社は政府売り渡し価格の引き上げにともない、業務用小麦粉の価格を昨年6月納入分から引き上げ、家庭用小麦粉も今年1月から値上げした。値上げ幅は1~10%で、麺類やパスタなどの食品類も2月に値上げとなった。

 

 基礎食料である小麦粉の値上げはパンやうどん、即席麺、スパゲッティ等々関連食品の値上げ連鎖となっている。

 

コロナ禍で食料品急騰 食料需要も増大

 

 こうした食料品の高騰は、国内事情ではなく、輸入品の値上げによって起こっており、国際的な食料市場との関係によるもので短期的なものではない。

 

 IMFの統計によると、世界全体の食品価格は昨年12月、年率換算の平均で6・85%上昇し、2014年の統計開始以来で最大の上昇率となった。2020年4月から2021年12月の期間に大豆の価格は52%、トウモロコシと小麦の価格は80%上昇した。コーヒーも70%値上がりした。

 

 国連食糧農業機関(FAO)が毎月発表する世界食品価格指数(2014~16年平均を100とした指数)は、2021年12月は133・7ポイントで前月からわずかに低下したが、過去最高を記録した2011年2月の137・6に迫る高水準となった。穀物、食肉、乳製品、野菜・油糧、砂糖などあらゆる品目が高騰している。

 

 シカゴ穀物市場では、大豆、小麦、トウモロコシ価格が高騰している。小麦先物価格は2019年1月には1㌴=4㌦前半であったものが、今年1月には約8㌦まで上昇し、約2倍に跳ね上がっている。

 

 大豆は2021年5月に1㌴=16㌦を突破し、2014年以来の高騰を示した。その後13㌦前後まで値を下げたが、今年に入り14㌦台に値上がりしている。

 

 こうした世界の食品価格はコロナ禍以前から上昇傾向にあったが、2020年のコロナ禍拡大で世界の食品需要環境は激変した。食肉加工工場は休業に追い込まれ、燃料費や輸送費の高騰、トラック運転手やコンテナの不足などのサプライチェーン問題によって食品価格は上がり続けている。また、アルゼンチン、アメリカ、ロシア、ウクライナなど農業大国の干ばつや悪天候も拍車をかけている。

 

 さらに小麦やトウモロコシの一大産地であるウクライナをめぐる緊張激化も食品価格高騰に影響を及ぼしている。

 

 加えて世界的にコロナ禍からの経済の復興とともに食料需要が増大するなかで食料生産は思うように回復せず、世界市場で食料争奪戦が激化している。

 

 とりわけ14億人の人口を抱える中国の食料大量輸入が目立っている。とはいっても中国政府は1996年、穀物、油糧作物、芋など主要な食料の自給率を95%に維持する政策をうち出し、2019年時点で穀物などの自給率は90%をこえている。中国の食糧安全保障戦略は「国内に立脚し、生産能力を確保し、適度に輸入し、科学技術により支えられる」というものだ。

 

 そのうえで中国の輸入拡大は続いている。2020~21年の大豆輸入量は1億㌧、トウモロコシ2951万㌧、小麦1061万㌧に達している。大豆は養豚の配合飼料の原料として輸入量を増大させており、20年間で5倍に膨らみ、現在の世界の大豆貿易量の約6割を中国が占めている。

 

 中国はアメリカ産トウモロコシの輸入を増大させ、2020年後半から21年前半のトウモロコシ輸入量は2951万㌧で過去最高となった。中国国内のトウモロコシ生産が減少しているわけではない。トウモロコシ生産量は2億6000万㌧をこえ、アメリカの約3億5000万㌧に次ぐ世界第2位だが、3億㌧近い国内需要には不足している。なお、中国はトウモロコシについてはこれまで自給政策をとり、輸入はおもにウクライナから毎年約500万㌧にとどまっていた。だが、2020年から輸入が急増し、メキシコ、日本を抜いて世界最大のトウモロコシ輸入国になっている。

 

 豚肉では、2018年夏以降中国で蔓延したアフリカ豚熱の影響で豚肉生産が急減したことにともない、輸入が急増した。2019年の146万㌧から2020年には528万㌧に急増し、世界の豚肉貿易量の約半分を輸入するようになった。その後は420万㌧まで減少したが、日本の輸入量の105万㌧を抜いて、世界最大の豚肉輸入国となっている。

 

 牛肉の輸入量も2018年の136万㌧から2022年には325万㌧と2・3倍に拡大する見通しで、世界貿易の3割を占めている。鶏肉輸入も拡大している。

 

日本は調達コスト増大 輸入依存の脆弱性

 

 他方で日本は、2021年の農畜産物や食品の輸入量がコロナ禍前の水準から減少している。牛肉や豚肉をはじめ生鮮野菜、果実、小麦、乳製品など軒並み減少している。国際価格の高騰のなかで輸入価格は上昇しており、海外での調達が難しくなっている現状にある。国際市場での熾烈な食料争奪戦のなかで中国などに「買い負ける」現実が浮き彫りとなっている。

 

 輸入牛肉でいえば、もともと日本の輸入先は90%以上がアメリカとオーストラリアだった。中国はそれよりランクが落ちるブラジルやアルゼンチンなど南米が中心だったが、今や中国がアメリカの牛肉市場に乗り込んでいるのをはじめ世界中で牛肉を買い付けており、日本は中国に買い負けている状態だ。豚肉についても同様だ。

 

 日本ハムが2月から主力のソーセージ「シャウエッセン」など400品目を値上げした。七年ぶりの値上げだ。伊藤ハム、プリマハムの食肉加工大手も値上げを発表し、アメリカやEU、とりわけ中国との食料争奪戦争での「買い負け」を認めている。

 

 日本が国際市場で買い負ける要因には「円安」が大きく響いている。円安は輸出企業にとっては有利に働くが、輸入の側面から見ると調達コストが上昇することになる。日本はこれまで安い原材料を輸入し日本で加工して海外に輸出してきたため円安の効果があった。最近は国内での製造は減り、海外での製造や現地生産にシフトしており、円安のプラス効果はそれほどでもなくなっている。他方で以前より輸入が増え、原材料価格も上昇している。原油高で原油自体の価格高騰に加え、円安が追い打ちをかけて原油調達のコストが跳ね上がっている。

 

 食料関係でも同様のことがいえる。国際価格高騰に加えて円安のために調達コストが膨れ上がっており、中国などとの競争で「買い負ける」結果になっている。

 

 ちなみに税務省の「貿易統計」では、2000年度の輸出は約51兆円、輸入は約40兆円で11兆円の貿易黒字だった。だが2010年には輸出は約67兆円、輸入は約60兆円で7兆円の貿易黒字となり、2020年には輸出は約68兆円、輸入も約68兆円で貿易黒字がほとんどなくなっている。現状では円安による輸出効果以上に、輸入需要の増加と調達コスト増で、円安による悪影響が出てきている。

 

 戦後の自民党政府の政策は大企業が生産する工業製品の輸出拡大をはかるために、農漁業を犠牲にし「食料は海外から安いものを買えばいい」としてきた。その結果国内の農漁業生産は破壊されてきた。

 

たとえば日本の畜産農家の戸数は大幅に減り続けている。肉用牛の飼養戸数は2012年に6万5200戸だったものが、2021年には4万2100戸にまで減少し、約10年間で3分の1の農家が離農や廃業に追い込まれている。「農業収入では生活していけない」というのが最大の要因で、今後もさらに減少することは必至だ。

 

 また、全国の農業経営体数は2020年に107万6000だが、これは5年前の137万7000から30万2000も減少している。基幹的農業従事者数は5年前の175万7000人から2020年には136万3000人に減少しており、40万人近くが農業から離れている。さらに農地も1961年には600万㌶以上あったが、2020年には437万㌶まで減少した。

 

 その結果、食料自給率は1946年の88%から2020年の37%にまで激減している。穀物自給率はさらに低く28%だ。

 

 コロナ禍で世界的に食料の需給バランスが崩れ、食料高騰が過去に例を見ないほどに進行している。さらに農産物輸出国でも自国の食料確保のために食料の輸出規制をおこなったり、海外での食料争奪戦に乗り出している。日本もこれまで通りのやり方では海外での食料調達は非常に困難になり、しばしば「買い負け」を喫している。従来の政策を維持するのであれば、深刻な食料危機に直面することは必至のすう勢だ。

 

 食料自給率が37%というのは先進国のなかでも異常に低い。アメリカは132%、フランス125%、ドイツ86%、イギリス65%、イタリア60%(いずれも2018年)を見ても明らかだ。食料の安定供給を保障するためには、食料の輸入依存から脱却し、国内の農業基盤を強化し、食料自給率を向上させる以外にないことが一段と鮮明になっており、喫緊の課題といえる。

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