いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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労働委員会が不当労働行為と認定 下関市立大学巡り組合との誠実な団体交渉求める

 市長やその界隈による恣意的な運営が問題になってきた公立大学法人・下関市立大学の運営をめぐり、山口県労働委員会は、大学が設置した理事会の規程と、理事会の諮問機関としてもうけた教員懲戒委員会など三つの規程について、大学の教職員らでつくる組合との誠実な団体交渉を経ずにもうけられた「不当労働行為」と認定した。法人側に対し組合との団体交渉を誠実におこなうことを求めている。これに対して法人側は、いくつかの点を不服として中央労働委員会に再審査請求をおこなうことを明らかにした。この間、市立大学では大学運営の民主主義などあってないような状態が続くなかで、第三者の行政機関である労働委員会が、大学法人側を問題視し、「誠実な団体交渉をおこなう」よう求めたことは注目され、教員組合と法人との団体交渉の行方も含めて関心が高まっている。

 

 市立大学の教員組合(申し立て時の組合員数59人)は2019年12月から、定款変更にともない新たに制定される「大学理事会規程」「教員人事評価委員会規程」「教員懲戒委員会規程」「事務職員懲戒委員会規程」が、教員の勤務労働条件(人事の基準や手続き)にかかわる内容をふくむ「義務的団交事項」であると指摘し、組合と協議しながら進めていくことを求めていた。

 

 ところが法人側は組合の要求に応じることなく規程を制定した。組合側は、労働組合法第七条第二号に該当する「不当労働行為」として、2020年4月9日に県労働委員会に申し立てた。約2年間の審議を経て、県労働委員会は法人側の「不当労働行為」だと認定し、「本命令書受領後2週間以内に、組合側と誠実に団体交渉をおこなうこと」を求めている。法律に詳しい大学関係者によると「大学の理事会規程にまでふれて、きちんと組合と話し合えと命じていることは、大きな意味を持つのではないか」と指摘する。

 

 また労働問題に詳しい指宿昭一弁護士は、「珍しい判断だ。義務的団交事項についての労働委の判断を見ると、理事会規程について、“一般的には労働条件その他の待遇に関するものとはいえない”とつつ“しかしながら本件規程(理事会規程)には、それぞれの組織が人事に関する事項について決議、審議、検討等を行う旨規定されている”と指摘している。かなり踏み込んでいると感じた。労働者にとってはとてもいい命令書だと思う」と指摘した。

 

 「命令書」を見ると、2019年11月から2020年3月までの教員組合がおこなった団体交渉への法人側の対応がひとつの焦点になっている。2019年度といえば、大学運営が大きく変貌しはじめた年でもある。当時、大学内外でなにが起こっていたのか少し経過をふり返ると、とくに変質に拍車がかかったのは同年5月以降だ。

 

 前田晋太郎市長が当時、琉球大学に在籍していた韓昌完(ハン・チャンワン)教授とその研究チームを、恣意的に採用したうえに専攻科設置を決めた。大学の教員採用や専攻科設置が市長の一言で決まることはあり得ないことで、これに対して9割の教員が撤回を要求する事態となった。つづいて9月議会で定款変更議案を出し、審議もなく自民党の多数で採決し、その後、11月22日に定款変更がおこなわれた。

 

 この定款変更の大きな特徴は、新たに理事会を設置し、理事会が人事や教育内容などについてすべて決定できるようにしたことだ。そして理事会の諮問機関として「教員人事評価委員会」「教員懲戒委員会」「事務職員懲戒委員会」を置いた。これまで教育内容や教育、人事にかかわる事項は「教育研究審議会」、経営に関することは「経営審議会」の二つの組織(いずれも教員が過半数を占める組織)で審議して決めていた。ところが定款変更によって二つの組織の上に理事会を置き、「法人の意思決定にあたり、特に重要な事項について経営審議会及び教育研究審議会の審議事項から理事会の専属的議決事項とする」とした。

 

 これは要するに、教員をふくめ幅広いメンバーで構成していた二つの審議会の権限をなくし、骨抜きにしたということだ。これによって現場の教員の意見が反映されることはなくなり、民主的運営は否定され、たがが外れたように大学運営は暴走を始めた。

 

 それから現在にいたるまで大学内では、ハン教授が赴任半年で「副学長」「経営理事」「大学院担当副学長」「相談支援センター(ハラスメント相談含む)統括責任者」「教員人事評価委員会委員長」「教員懲戒委員会委員長」を兼任するようになった。理事会設置とともに、ハン教授が教員の人事も教員の懲戒もすべて握ることになり、異常な権限集中がおこなわれた。またその後、学長の判断でハン教授の関係者が六人も採用されていたり、教員が知らない間に次期学長にハン教授が決まっていたりと、常識では考えられないようなことが起こっている。およそ「学問の自由」「大学の自治」とは無縁の「日本で一番崩壊している大学」と評され、悪い意味で全国で名を馳せるまでになってしまった。

 

 その下でものいえぬ空気が強まり、教員らは「大学はこんなに一気に崩壊してしまうものなのか……」とさめざめと語りながら、鬱屈した思いを抱えながら吐き出せず、吐き出せば元学部長たちのように「名誉毀損」で裁判に訴えられたり、懲戒になるのではないかといった恐怖心にかられ、多くの教員が精神科に通いながら勤務している。

 

 この2年間ですでに教員の3分の1が嫌気がさして同大学を去り、今年度末にもさらに5人の教員が去るといわれている。さながら、消極的反抗の象徴である“逃散”のようなことが起きているのである。そのことによって、経済の単科大学として築いてきた体制にきしみが生じ、「新学部設置」どころか、これまでの大学としての蓄積が音を立てて崩壊していることが危惧されている。

 

大学は利権の舞台に 天下りや市長人事連発

 

 下関市立大学の私物化や変質は、前田市長のもとでの2019年以後に拍車がかかったとはいえ、そのはじまりは独法化にあったといっても過言ではない。

 

 大学運営に権限を持っている理事長と事務局長の二人が市役所退職者の天下りとなり、理事長には年収1600万円、事務局長には1200万円が支払われ、理事長になると1年ごとに100万円の退職金が加算されていく仕組みにもなった。そうした仕組みのなかで、江島市長の時代も中尾市長の時代も市長側近といわれた市退職者が定年後のポストを与えられ、必然的に市長による介入が目立ちはじめた。

 

 独法化以前は大学の管理運営と教育研究のあり方は、教授会が討議を通して合意形成にあたり、下から積み上げていく方式で最終決定され、それを学長がまとめていた。

 

 事務局の機能はその方針を円滑に進めるために補うことにあった。ところが独法化によってこの関係も崩れ、むしろ逆転したことに大学運営をめぐる変化の最大の特徴がある。市役所退職者が学長をしのぐ権力者となって采配を振るようになったことが、大学の空気を様変わりさせ、同時に教授会との鋭い対立の激化となって、処分や反駁、訴訟沙汰の応酬が始まった。

 

 独法化後、大学評議員や理事に市長の後援会長や選挙を熱心に手伝う企業経営者などが配置され、それでなにがやられたかというと、下関市立大学が大学キャンパスから離れた椋野町にある江島元市長所有のアパートを借り上げたり、江島元市長の選挙母体であるJR西日本の旧社員寮を借り上げたり、大学資金を使った利権も顕在化した。天下り先として市立大学の理事長及び事務局長ポストを与えたのは江島元市長であり、大学を経由して任命権者に利益供与するというようなことが平気でおこなわれていたこともあった。

 

 さらに、江島元市長の熱心な後援企業の社長が大学評議員になっていたが、倒産しかかっていた折りに大学が講義棟のトイレ改修工事をその会社にあてがい、案の定事業停止に追い込まれて大学が損失を被った事件もあった。契約書では前払い金は4割と記載されているのに、大学は6割(2260万円)を支払っており、そのさい、保証もとっていないという信じがたい発注方法だった。

 

 これは官製談合で刑事事件にも発展し、大学の総務グループ長と大学評議員だった社長が立件された。業者選定の段階から受注企業である大学評議員自身が入札参加企業を選び、自分で受注したというものだった。要するに資金繰りで四苦八苦していた元市長の後援企業が、海響館前の立体駐車場を市に無断で叩き売ったり、おかげで市から入札参加資格停止処分を受けて豊北町「道の駅」の建設工事(2億5000万円)からも排除され、困り果てていた折に、ピンチで資金を融通したのが同大学だったということが明るみになった。一私企業の穴埋め資金を大学を迂回する形で提供した――と見なした関係者も少なくない。

 

 当時、下関市議会の副議長をしていた公明党議員(大学後援会の顧問もしていた)が頻繁に大学に出入りしていたが、その議員は大学評議員をしていた人物、すなわちトイレ改修工事を請け負った関連企業の社員でもあった。

 

 さらに4500万円かけてグラウンド整備(約1万平方㍍)をしたこともあったが、当時事務局長だった人物の高校の同級生が受注し、実際の工事は北九州の下請業者が二人でやっていた。できあがったグラウンドからは釘や岩、石ころがゴロゴロと出てきてヘドロみたいなものが溜まったり、とんでもないものだった。学生たちがみんなして石ころ拾い、釘拾いをやり、それでも状態が悪いことから、改めて400万円使って「雑草除草工事」と称して再整備したほどだった。大手スポーツメーカーの担当者曰く「このグラウンドだったら、4000万円あれば芝生化できます」といわれたものが、その後も引き続き土を敷き直さなければ使い物にならないものとなった。

 

 その他にも、過去をたどればまだまださまざまな案件があるが、兎にも角にも市長界隈や市議会関係者が首を突っ込み始めて、利権の巣窟かと思うような出来事がこれでもかと続いた。

 

 安倍派だけではなく、林派の中尾元市長の修士論文騒ぎも私物化の一例だった。学長選(意向投票)で市長の論文指導に就いていた荻野元学長が敗北したさい、学内で学長失格の烙印を押された者が今度は市長の任命によって理事長に就任して驚かせたことがあった。ほかならぬ、荻野元学長が中尾元市長の学位取得の担当教官だったからだ。その後、500ページに及ぶ修士論文については、精査した教員たちの投票によって修士号は与えないことが決まり、憤慨した市長・理事長側と教員たちの紛争が全国に知れ渡って笑いものにもなった。

 

 独法化以後の一連の騒動を振り返ってわかることは、とどのつまり私物化に対する境界線がなく、いつも市長やその界隈が大学を私物化していくことである。2年前からはじまった専攻科設置やその後の定款変更を経てさらに拍車がかかった状態も、みなその延長線上にあるもので、下関の場合、大学のみならず市政そのものが私物化であるし、一事が万事この調子であることを反映しているといえる。

 

 大学で本来なら研究に没頭したり、腰を落ち着かせて学生指導にあたらなければならない教員が、煩わしい問題に精神的にも疲労困憊する状況が強いられていることは、憂慮しなければならない点といえる。もっとも大切なのは、学生たちがしっかりと勉学に励める教育環境を担保することであり、現行のように教員たちの大量逃散が続いた場合、経済の単科大学としての存続さえ危ぶむ声が上がっている。

 

 2019年11月の定款変更以後の2年余り、とりわけ大学内に閉塞感が漂っていたなかで、今回、「行政機関である労働委員会が、客観的に見て法人のやり方を問題にしたことは社会的意義がある」と受けとめられている。この2年余りの間におこなってきた教員に対する懲戒処分や給与削減は、問題になっている各種「規程」によっておこなわれてきたものだが、今回の命令書によって、その前提である規程について「法人は組合と一から話し合え」という命令が下ったことになる。大学の根本部分の是正を促すことを意味するもので、組合と法人側の団体交渉の行方も注目される。

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