いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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『ルポ コロナ禍の移民たち』 著・室橋裕和

 建設現場で働くベトナム人の技能実習生に対し、同僚の日本人従業員がくり返し暴行を働いていたことがニュースになり、それを見て、技能実習生たちがどのような立場に置かれているかを想像し心を痛める人も多い。そんななかでこの本に目が止まった。新大久保在住のフリーライター(40代)が、われわれの隣人である外国人たちにコロナでどんな影響が出ているのか、いいことも悪いことも含めて取材してまとめたものだ。

 

 物流や小売という仕事は、緊急事態宣言下でも動き、人々の暮らしを支えているが、同時に感染リスクの高い仕事でもある。そこを外国人がかなりの部分で担っている。コロナに感染すれば隔離か入院だが、そうなると仕送りができないため、多少の熱は我慢して倉庫でひたすら仕分けする現場に向かう者も少なくない。

 

 東京都内の飲食店は、留学生を中心とした外国人の労働に頼ってきた。そこを緊急事態宣言が直撃し、仕事がなくなる人が増えた。留学生は毎月の生活費と仕送りで、貯金はゼロという者が多いから、あっという間に干上がってしまった。

 

 愛知県はトヨタを中心とした自動車産業をはじめ製造業が集中している。そこで2020年4月以降、外国人の失業者が急増した。今クルマでも家電でもパソコンでも、生産拠点を国境をこえて効率的に分散しているため、部品工場のある国でロックダウンがおこなわれればたちまち生産が滞る。その結果、各社が減産に踏み切ったためだ。

 

 飲食店を独立開業して10年、20年と日本で働き、納税し続けている外国人もいる。彼らに10万円の特別定額給付金や緊急事態宣言下の東京都の協力金は出るものの、多言語の告知が当初まったくされておらず、日本人でも戸惑う繁雑な手続きに直面した。「給付はいいが貸付は永住者に限る」といわれ、社会福祉協議会の緊急小口支援を断られた外国人も出た。

 

埼玉県本庄市 実習生の駆け込み寺・大恩寺

 

 著者は、埼玉県本庄市にある技能実習生の駆け込み寺に行く。ベトナム人尼僧が2018年に開いた大恩寺で、ここに逃亡実習生たちや、コロナで解雇されたり帰国できないベトナム人たちが集まっている。

 

 30代のベトナム人男性は、千葉県の建設会社で働いたが、日当は8500円。毎月の給料から寮費や光熱費、税金として9万円が引かれ、手元に残るのは10万円ほど。そこからベトナムの送り出し機関に払った100万円近くの借金を返し、生活費を捻出する。

 

 障害はお金のことよりも職場の暴力だった。ユンボを使えば済む土砂運びをベトナム人だけでネコ(手押し車)で運べといわれ、遅いとなぐられた。友だちは血が出るほどなぐられた。それで仲間と逃げ出し、モグリで雇ってくれる仕事を転々としたが、そこをコロナ禍が直撃したという。

 

 そこにいる40人ほどのベトナム人に聞くと、男性はほとんど建設現場で働き、逃亡理由は暴力。女性は農業や工場が多いが、理由はセクハラだった。「ゲンバ、コワイネ~」といってけらけら笑う。著者はいたたまれず、「みんな、日本人のことが大嫌いになったでしょ」と聞く。すると「そんなことない」「優しい日本人もたくさんいた」「良い人も悪い人もいる。それは日本もベトナムも同じ」「もし機会があれば、また日本で働きたい。今度は普通に就職したい」と答えた。

 

 名古屋市には日本人住職が開く駆け込み寺・徳林寺がある。駆け込み寺は解雇があいついだ2020年4月から始めたという。実習生たちは帰国を待つ間、畑で作物をつくったり、境内の草むしりをしたりする。「こういうの、マジメくさってね、助ける方と助けられる方をつくっちゃうと良くないんだよ。彼らだって支援を受けるばかりじゃなくてなにか貢献したいと思っている。彼らが来てからこっちも楽しくなった」と住職。ここに自治体からの協力があり、日本人もベトナム人も野菜などを持って支援に来るそうだ。

 

 バブル崩壊のときもリーマン・ショックのときもそうだったが、政府や大企業はいつでも使い捨てできる低賃金労働力を海外から呼び集め、不景気になったら放り出す。そして行く当てのなくなった彼らの一部が犯罪に手を染めると、メディアが総掛かりでバッシングする。問題はそれによって、そうした状況に追い込んだシステムそのものを覆い隠していることだ。

 

 しかしベトナムの技能実習生たちは、逆境にあっても生き抜くたくましさにあふれていた。そのことが本書から読みとれる。コロナ禍で首切りにあっても仲間同士で助け合い、やってられるかと思えば職場を逃げ出し、不法就労であろうと稼いで仕送りをして借金を返してしまう。コロナ禍を商機ととらえて起業する者もいる。なにしろ彼らは、ゲリラ戦で米軍を叩き出した誇り高きベトナム人の子孫なのだ。その行動によって技能実習制度の失敗を突きつけているともいえる。コロナをきっかけに、日本人と外国人が、また国の違う外国人同士が力をあわせるという場面が、本書のなかにはたくさん登場する。逆境のなかで縮まった距離、深くなった関係がそこにある。 

 

 (明石書店発行、四六判・294ページ、定価1600円+税

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