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アメリカ 世界最大の感染爆発のなぜ? 「経済優先」防疫体制緩和が招いた惨状

 米国内では、昨年末から新型コロナウイルスの感染者が急増している。昨年12月27日に1日当りの新規感染者数が過去最多の58万人を記録。その1週間後となる今月3日には倍以上となる108万人へと増加している。現時点で米国内の新型コロナウイルスはほとんど新変異株であるオミクロン株へと置き換わっており、デルタ株の四倍ともいわれる感染力が猛威を振るっている。年末年始で感染が急拡大した米国の状況を見てみた。

 

 

 急速に新規感染者が増えている米国内の状況について、バイデン政権の首席医療顧問を務める国立アレルギー感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長は、「(感染者は)垂直に近い状態で増加」しており、感染のピークに到達するのはまだ数週間先のことかもしれないと警告している。

 

 オミクロン株については世界的に見ても明確な特徴などは明らかにされていないが、他の変異株に比べて症状は軽度であるとの見方が強い。しかし一方で感染力は強く、実効再生産数(1人の患者が全感染期間に感染させる人数の平均値)はデルタ株の2・8~4・2倍だ。

 

 米疾病対策センター(CDC)の試算によると、12月4日までの週時点で米国内におけるオミクロン株感染者の割合はわずか0・6%だった。しかしその後オミクロン株の拡大が続き、今月1日までの週時点では95・4%となっており、約1カ月間でほぼ置き換わりが進んだと見られている。

 

 米国では11月下旬の感謝祭、クリスマスや年末休暇を控えるこの時期から徐々に感染者の増加傾向が続いていた【グラフ①】。しかし米政府高官は11月22日の会見で「ワクチンの接種が進むことなどによって、経済を制限せずに感染拡大を抑えられる。状況はコントロールされている」とのべ、ロックダウンは避けられるとの見解を示していた。

 

 こうしたなか、米国内では年末のパーティーシーズンに突入。11月の第4木曜日に毎年「感謝祭」があり、家族や親族が集まりパーティーがおこなわれる。これを境に年末ムードが一気に高まり、「ブラックフライデー」などの大安売りをはじめとする昨年の年末商戦売上額は全米で98兆円と過去最高額をたたき出す活況ぶりとなった。

 

ワクチン接種を受ける女性(カリフォルニア州)

 

 さらにクリスマス行事などで人流が増えた。昨年末はデルタ株の大流行から落ち着きをとり戻しつつあったなかで、有観客のイベント等も多数おこなわれ、人々の接触機会が増えた。その結果、年末のクリスマス後に米国内の感染者は急激に増加し、12月27日には1日当りの感染者数が過去最多の58万人に増加。それでも毎年おこなわれる感謝祭のパレードや年始のカウントダウンは2年ぶりに有観客で実施され、ニューヨークのタイムズスクエアでおこなわれた年始のカウントダウンイベントには1万5000人の観客が詰めかけた。米国政府の「経済優先」の政策のもとで特段の感染拡大防止のための規制などはほとんどなかった。

 

 こうしたなか、年明けからさらに感染者が急増し、3日には過去最多を大きく上回る108万人もの新規感染者を記録。一方で、感染者数に対して死者はそれほど増えておらず、1日当りで最多の死者を記録した昨年1月20日の約4400人に比べ、100万人をこえる感染者を記録した3日の死者数は約1700人と半数以下だった。

 

 とはいえ、感染力の強いオミクロン株の流行によりこれ以上入院患者が増えれば、病床逼迫など医療機関への影響が懸念される。米国内ではすでに、すべての年齢層で新型コロナウイルスによる入院が過去最高の水準に達している。米保健福祉省の調べでは、今月4日時点での新型コロナウイルスの入院患者数は全米で11万2941人となり、デルタ株の流行がピークに達した昨年9月上旬の入院患者数10万4000人を大きく上回っている。

 

 米国内で入院しているのはおもにワクチン未接種者だ。

 

 CDCの直近データによると、11月の累積入院率は成人では未接種者の方が約8倍、12~17歳では約10倍だ。米国内のワクチン接種率は62・4%と韓国(82・5%)や日本(78・7%)、フランス(74・0%)、イギリス(71・0%)などと比べると低水準だが、接種者と未接種者とでは入院率に大きな違いがあり、一定の効果は見受けられる。

 

最前線の現場を圧迫 医療崩壊の懸念強まる

 

 入院患者の増加により、米国内では医療体制の逼迫度が日に日に深刻化している。米保健福祉省のデータによると、全国の集中治療室(ICU)の病床使用率は約78%で、そのうち22%を新型コロナ患者が占めているという。また、全米のICUがある病院のうち5分の1で先週、ICUの使用率が少なくとも95%をこえていた。

 

 ファウチ大統領首席医療顧問は2日、テレビ番組のインタビューで感染者の増加について「たとえオミクロン株の入院率がデルタ株より低いとしても、入院患者が急増して医療システムを圧迫する危険性があることには変わりがない」と指摘した。

 

 だが、警鐘を鳴らす一方で米政府によるロックダウン等の規制はほとんどおこなわれておらず、あくまで「経済優先」のスタンスに変わりはない。こうしたなかで米国内では感染者が増え、各地域で医療現場の逼迫が広がっている。

 

 ニューヨーク州のホークル知事は3日、新型コロナの入院患者数が1万411人になったと発表した。同州で入院患者が1万人をこえるのは2020年5月以来のことだ。同州の病床はすでに81%が埋まっており、集中治療室(ICU)の病床使用率も82%となっている。病床に空きがない病院もすでに4カ所あり、医療崩壊への懸念が強まっている。

 

 インディアナ州のインディアナ病院協会の会長は年末におこなわれた講演のなかで、12月末の時点では、インディアナ州に存在するICUのうち利用可能なのは全体のわずか8・9%であり、パンデミック中のどの時点よりも低いと警鐘を鳴らしている。

 

 また年末時点でニュージャージー州、ニューヨーク州、アーカンソー州、シカゴで症例数が過去最高を記録し、病床の逼迫が懸念されている。また感染が急拡大するアリゾナ州とニューメキシコ州には、連邦政府の医療関係者が支援に向かった。

 

 こうしたなか、子どもの感染・入院も大幅に増えている。米疾病対策センターによると、今月2日までの1週間でみると平均して1日当り672人の子どもが新型コロナウイルスで入院しており、コロナ禍でもっとも高い水準となっている。

 

 米国小児科学会(AAP)によれば、子どもの新型コロナウイルスの新規感染件数は過去最高の水準となっている。12月30日までの1週間で子どもの新規感染件数は32万5000件をこえており、前週比で64%も増加していた。

 

 医療現場だけでなく、公共交通機関や公共サービスの現場でも、職員の感染が広がっており、機能不全に陥っている。ニューヨーク市では、都市交通局が職員間での感染拡大に直面しており、地下鉄の三路線が運行停止となっている。

 

 オハイオ州シンシナティ市消防局では感染増加によって職員が不足したため、市長が緊急事態を宣言。職員の配置問題にとりくまなければ初動の対応水準が「相当損なわれる」と訴えた。

 

 また、休暇シーズン中に職員や乗員の病欠が続出している航空業界では、運航便の欠航や遅延を強いられている。こうした状況を受け連邦航空局は12月31日、従業員の感染が増加しており一部施設で交通量が制限され得ると指摘。結果的に繁忙期の遅延が各所で発生した。

 

 バイデン大統領は4日に会見をおこない、国内に3500万人いるとされるワクチン未接種に対して、「我々はすべての国民が接種するのに必要なワクチンを、ブースター接種を含め手にしている。だから言い訳はできない。ワクチンを接種していない人に弁解の余地はない」と厳しい態度を示した。バイデン大統領はワクチン接種による感染拡大防止を強く呼びかける一方で、ロックダウンにより経済活動や人の移動などを厳しく制限する手段をとる方針は示していない。

 

1日の感染者は最多 欧州でも感染が急拡大

 

 欧州でも感染の拡大が止まらない。年末年始の期間でフランス、イギリス、イタリア、スペイン、ギリシャなどで新型コロナウイルスの1日当りの感染者数が過去最多を更新している。また、10万人あたりの感染者数では、イギリスやフランスはアメリカよりも多い【グラフ②】。

 

 1月4日にフランスでは新規感染者数が27万人をこえた。イギリスも同日に21万人、イタリアも17万人と過去最多を更新した。いずれも新型コロナウイルスの変異株であるオミクロン株へと置き換わる勢いを見せており、クリスマスから年末年始の休暇にかけて感染が拡大している。

 

 イギリスのジョンソン首相は4日におこなった記者会見で「新型コロナとのたたかいが終わったと考える人は完全に間違っている。最大限の注意を払うべきときだ」と危機感を示した。しかし今回は死者や重症者が少ないため「ロックダウンをせずともオミクロン株を克服する可能性は十分にある」とし、現時点では規制を強化する考えはないと強調した。

 

 イギリス国内では、入院件数は過去の流行ピーク時の水準には達しておらず、人工呼吸器が必要な患者の数も現時点では横ばいだ。しかし国営医療機関の国民保健サービス(NHS)は、検査で陽性となり自宅待機を強いられる職員が急増したことで、対応に苦慮している。

 

 ジョンソン首相は記者会見で、「ナイチンゲール」と呼ばれる仮設病院を再導入することや、軍隊の支援を受けた医療ボランティア招集といった対策がとられたことで、国内の病院が再び「戦時体制」に移行したとの見解を示している。

 

 フランスでは4日に新規感染者が27万人となり過去最多を記録したが、5日にはさらに多い33万人の感染が判明した。フランスでは3日から仕事始めや新学期を迎えたものの、人流が増えるこのタイミングで教員や生徒の感染があいつぎ、各地の学校で学級閉鎖をよぎなくされた。また、感染による鉄道事業者の人手不足で電車も減便している。

 

 フランス政府は3日から隔離期間を短縮し、必要なワクチンを接種していれば感染者は最短5日間の隔離とし、濃厚接触者に対しては隔離そのものを不要とする措置をとった。

 

 政府はワクチン未接種者への規制を強化するため、飲食店などの利用を接種者に限定する法案について審議を開始している。また、マクロン大統領は未接種者に対して「彼らの生活をめいっぱい制限し、とことんうんざりさせてやりたい」と発言したことが問題になっている。

 

 イタリアでも6日に新規感染者数が過去最多の18万9000人を記録。これまで医療従事者や学校の教員ら特定の職業を対象に接種義務を課していたが、この日新たに50歳以上の一般人にワクチン接種を義務化することを決めた。

 

 ギリシャでも60歳以上にワクチン接種を義務化した。そして今月半ば以降まで未接種なら100ユーロ(約1万3000円)の罰金を科すことを決めた。

 

 各国とも共通しているのは、感染者が過去最多を大幅に更新している一方で、重症者や死亡者はそれほど急増しているわけではないということだ。しかし感染者という分母が大きすぎるがゆえに、重症化率は低くても入院患者は増え続けており、医療現場や公共サービスに従事する職員が不足しているのが現状だ。

 

 こうした事態の抑え込みが必要だが、各国政府は経済活動への影響を少なくするために隔離期間の短縮などに踏み切り、感染拡大防止のために規制を厳しくするよりも、規制緩和へと舵を切っている。また、欧米各国政府が一様に「ワクチン接種」一本槍で感染拡大を防ぐことを呼びかける一方で、現実にはその間にも市中でオミクロン株の感染者が増え続け、その結果医療や教育、公共サービスの最前線現場へのしわ寄せが生じている。

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