【関西】 第55回京都大学11月祭が22~24日に開催され、その屋内企画の一つとして「原爆と戦争展」がおこなわれた。昨年の11月祭で開催された同展を見学に来た理学部の学生が「ここに学祭の存在意義を見出した」と感銘し、今回の展示をとりくんだ。下関原爆展事務局編集の「原爆と大戦の真実」パネルをメインに、福島原発事故、安倍政府の改憲・TPPなどの関連パネルや資料・遺品を展示するとともに、今回新たに「学徒動員70周年」「占領下の京大原爆展運動」のパネルを製作して展示した。期間中、大学生をはじめ、地域の小・中・高校生や20代の青年から、大学生の親世代、70~80代の祖父母世代あわせて600人以上が参観、そのうちの半数・約300人がアンケートを寄せた。安倍政府が特定秘密保護法を強行採決し戦争政治を暴走するなかで、「原爆と戦争展」がそれをうち破る力を結集するものとして支持・共感が集まった。
「他大学、他地域に広げて」 市民の声
とりくんだ理学部の学生は、「あの戦争でたくさんの学友が死んだ。私たちのテーマは原爆と戦争の真実です。第2次大戦・原爆から原発まで、悲惨を涙するためでなく、真実を伝え、皆で自立して考え、生きていくためのパネル展です」と呼びかけた。
会場で配布された同展のリーフレットには、「原爆と京都大学」として要旨以下の内容が紹介された。
「1950年6月朝鮮戦争が勃発し、占領軍の命令で警察予備隊がつくられ、アメリカは朝鮮半島で原爆を使用しようとするという緊迫したなか、51年5月、京大では“わだつみの声にこたえる全学文化祭”と名づけられた春季文化祭で、医学部と理学部の両学生自治会によって原爆展が催され、入場者は4000人と大きな反響があった」「そこで、もっと多くの人に知らせる必要があり、それが学生の義務ではないかという動きになっていき、京都駅前の丸物百貨店を会場に京大同学会(全学学生自治会)主催で綜合原爆展の開催となった。10日間で入場者は3万人に及んだ」「この原爆展パネルは関西を中心に全国各地に貸し出され大小の原爆展が開かれていったし、学生たちは翌年、帰郷運動をつうじて各地に普及していった」
また、新たに製作された「学徒動員70周年」「占領下の京大原爆展運動」のパネルは、次のように訴えている。
学徒出陣から70年。戦況の悪化に伴い、「学生もペンを捨てて入隊せよ」と学業途中の学生を徴兵、10万人といわれる学生を戦場に送り込み、特攻作戦などで無念の戦死を遂げた。戦後、その「わだつみの声に応える」と学生たちが運動を展開。占領下の1951年、京大生は原爆被害を明らかにしたパネルを作り、学内や市内百貨店で「原爆展」を開いた。この原爆展が、1959年以降毎年開かれるようになった11月祭の起源と位置づけられている。
学校教育で教えぬ真実 体験者の証言に衝撃
同展には、京大生はもとより、京都・大阪・兵庫・奈良、さらには広島、九州、東京の大学生や高校生、保護者とその家族、友人のほか、一般市民などあわせて、600人余りの見学があった。学生、社会人を問わず、展示パネルにある写真や体験者の証言などを見て、今の学校教育やマスメディアでは伝えられない原爆と戦争の真実に衝撃を受けたと多くがアンケートに記している。
「戦争の影響でたくさんの人人が苦しい思いで死んでいってしまったこと、残された人人の思いがとても印象的であった。小さなことで悩む自分が恥ずかしいと思う」(12歳・女子)
「写真が多数あり、今まで社会科の教科書を用いて習ってきた戦争とはまったく違う印象を受けた。被爆された方にとってはまだいえることがない心の傷を、はじめて間近で感じたと思いました」(14歳・女子)
「(日中戦争や太平洋の島島での戦い)写真や体験談を見ていると、かなり衝撃的だった。補給が絶えたなか、敵兵から逃げ、しかし助けもなく餓死するのを待つ、本当に悲惨だと思う。教科書や資料集にももっとくわしくのせるべきだと思う」(16歳・男子)
「アメリカ軍のむごさに驚いた」(16歳・男子)
「原爆も戦争も私たちは経験していないので、どうしても彼らの苦しみのすべてを知ることはできません。それがとても悔しい。私たちはのうのうと平和な社会で暮らしていることがとてもぜいたくなことだと思えます。だから、少なくとも彼らの屈辱や苦しみを知り、そこから得られた貴い教訓を理解して、近年の原発問題などに対しても多くの人の気持ちを考えて意見を持ちたいと思います」(17歳・男子)
「目をそらしたくなる記事もあったが、これが現実だ。小中高と戦争について学ぶ機会がどんどんなくなっていく。戦争の教育は最優先でおこなうべきだ。戦争のことを考えると、自分はもちろん家族、友人、そしていつか出会えるかもしれない自分の子どものことを思う。二度とあってはならない。今でも世界では戦争が起こっているが、世界中の人人が手を取りあって暮らしていきたいと思う」(京都造形大、19歳・女性)
「個人の証言や原爆投下後の写真など、普段メディアでは多く語られない深い話を知ることができて有意義でした。情報収集や広報活動をこれからも続けてほしいし、応援しています。自分に何ができるかもまた考えてみたいと思います」(京大、22歳・男子)
「悲惨な戦争は今もまだ世界のどこかで続いているので、自分自身が何をなすべきかを問われているような責任を感じました。教育がすべてのはじまりのような気がします」(47歳・男性)
「戦争体験者が年を追うごとに減少するなかで、このような資料を展示することは大変意義深いことと思う。悲惨さを風化させることのないよう最大の人権侵害である戦争の愚かさを、これからも日本の最高学府である京大から継続的に発信させてもらいたい」(53歳・男性、公務員)
また、「広島に住んでいて平和教育はどうのこうのという話をよく耳にするが、歌を歌って平和への願いを訴えるより、このような展示の方がよほど効果があると思う」(広島大、22歳・女性)など、既存の平和運動への疑問とあわせて展示パネルへの共感を語るものもあった。
日本は米国の奴隷状態 「自由」批判に共感
アンケートのなかではまた、最近の社会情勢を反映して、安倍政府の憲法改悪、集団的自衛権行使容認、特定秘密保護法などの戦争策動や、原発再稼働・輸出などの動きに対して、戦争をやらせないために声を上げ、行動を起こしていかねばならないという意見が多かった。子どもを持つ母親たちにそうした問題意識を持つ人が多く、「子どもたちに大人がしっかり伝えなくてはいけない」と話されていた。
「原爆(核兵器)の使用は多くの人間の一生を破壊する非人道的兵器だと、被害を受けた人たちの写真を見て改めて思いました。原爆の展示と照らしあわせて原発の再稼働について以前より疑念が強くなりました。なぜ地震力で人間がコントロールしえない自然災害の多いこの国でどうして“原発をコントロールできる”といったか気になりました」(16歳・男子)
「第二次世界大戦や原爆被害の様子など、さまざまな写真の悲惨さが目に焼きつきました。また、平和利用といって原発を再稼働したがっているのは“潜在核保有国”につながっているのだと確認しました」(16歳・男子)
「焼けこげた死体や破壊されつくした町の写真を見ると、いつも衝撃を受けます。今回の展示ではそれがより一層感じられ、戦争を二度と起こさないような社会をつくらなければならないと感じました。安倍政権の憲法改正、とりわけ集団的自衛権の容認への動きが気になります。日本が太平洋戦争へ向かっていくときと、この動きは同じ風潮のような気がします。国民一人一人がまず関心を持ってこの問題を考えるべきだと思います」(17歳・男子)
「福島原発をはじめ日本中の原発を廃止するどころか促進していこうとしている政府に対して、不信感と怒りしか出てこない。戦争によって原爆の苦しみを知っているはずの日本なのに、その歴史が忘れ去られたかのような態度だ。再び軍国主義の国に戻ってしまうような気がしてならない。最近の特定秘密保護法などを通じて。政治家が正しい歴史認識を持ち、世界で唯一の被爆国として世界をリードする平和国家であるべきだと思う。そのために国民も正しい歴史を知る必要があると思った」(同志社大、22歳・男子)
「現代の日本に大変な危機感を抱いた。かつての大戦時の日本と現代の日本の状況は酷似している。国民の置かれている状況、政府の方針、国際的な位置、いずれも大差がないように感じる。コリアや中国に対して明らかに好戦意欲が増しているし、反戦的な発言にはすぐに激怒した人間が飛んでくる。また、実質的なアメリカの経済奴隷状態だ。独立独歩しか生き残る道はありえない」(24歳・男性)
そしてとくに、「戦争は悲惨なものだが、問題はそこから先、戦争をいかに止めるか、いかに他者、他国との関係を良好にするかだと思う」(京大)という切実な問題意識とともに、戦争をなくす運動の方向性とかかわって「“自由・民主・人権の軍国主義”(アメリカの個人主義に対する批判)、とても興味深かったです。当たり前と思っている(思わされている)ことを常に疑うことが大切だと思う」(ロンドン大、21歳・女性)、「戦争をくり返してはならないとの思いは誰もが持っていると思う。しかし、未来永劫戦争にならないとは思えない。今の日本は米国の管理下におかれているようなもので、本当の意味で米国に“ノー”といえるようになるには、また“戦争”という道をもう一度通りそうな気がしてなりません」(56歳・男性)などの意見も寄せられた。
さらにアンケートには、中国人留学生・研究者も感想を記している。「戦争はいつも人人にとって災禍である。どこで起ころうと。日本に原爆が落とされたことは驚くべき酷いことです。二度と戦争を起こすべきでない。民間人に罪はない。中国と日本が永久に平和を保つことを願います」(中国人留学生、26歳・男子)、「戦争は残忍であり、原爆はあってはならない。農民、老人、子どもみな何の罪もない。歴史に正面から向きあう必要がある。二度と同じことをくり返してはならない」(中国人研究者、29歳・男子)。
そのほか参観者から、「学祭でこの展示をすることに、すばらしい意義を感じた」「騒々しい学祭という場所で、このような落ち着いた学業の糧となる展示会があってすごくよかった」「多くの人に知ってもらい、今後に生かす必要があると感じた」(高校生や学生)、また「京大学園祭でこのようなとりくみをされていることに感心、安心いたしました。ぜひ続けて、他大学、他地域にも広げてください」(67歳・女性)、「現代の若者には真実の歴史をできる限り学んで、将来に間違いを二度と起こさない覚悟と確信を身につけてもらいたい」(71歳・男性)と、今回のとりくみに対して年代をこえた支持と期待が寄せられた。