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地震と噴火で騒がしい日本列島 武蔵野学院大学特任教授・島村英紀

 このところ、日本列島のまわりが騒がしい。地震と火山である。


 昨年12月の原稿執筆時には、1週間で震度5弱が2回、震度4以上が2回記録された。震度5弱は山梨・大月市と和歌山・御坊だ。この他に鹿児島・悪石島で地震が200回以上も続いている。


 首都圏でも2021年10月7日に震度5強を記録した。マグニチュード(M)は6・9だった。すわ、恐れていた首都圏直下型地震かと、ひやっとさせた。恐れられている首都圏直下型地震よりも規模Mは小さいが、首都圏に住む人間に首都圏直下型地震を思い出させるには十分の大きさだった。エレベーター6万4000台が止まるなど首都圏が大混乱した2005年の地震と震源や震度分布は似ている。


 和歌山の地震は、南海トラフ地震の想定震源域の中で起きた地震だけに、やはり「いつかは必ず起きる」南海トラフ地震がついに起きたかと思わせる地震だった。

 

◇        ◇

 

 火山活動も活発だ。本州南方の「福徳岡ノ場」の海底火山が噴火した。2021年8月に噴火した噴火は日本では戦後最大の噴火になった。この火山から放出された軽石や火山灰は1億~5億立方㍍と推定される。東京ドームの80~400個分に相当する。ちなみに戦後最大の被害を生じた2014年の御岳の噴火は東京ドームの3分の1から5分の1だったから、福徳岡ノ場のほうがずっと大きい。


 この噴火は本州から離れた海底噴火だったので犠牲者も怪我人も出さずにすんだ。8月13~15日が一番激しい噴火で、噴煙の高さは1万6000㍍に達した。ジェット気流に乗って世界中に火山灰をばらまく高さだ。げんに浅間山の1783年の噴火の火山灰はグリーンランドで見つかっている。

 

小笠原諸島の海底火山噴火で発生した大量の軽石が漂着した漁港(沖縄県)

 福徳岡ノ場では、そのあとは噴火は収まった。しかし、軽石は水に浮く。海流や風に乗って日本各地に流れ着いている。各地にある港を塞いでしまうのだ。1400㌔㍍も離れた沖縄に大量に流れ着いて漁業、フェリー、観光などに大損害を与えている。船のエンジンを冷やすために海水を海面から取り入れているからだ。沖縄のほか奄美諸島、鹿児島にすでに流れ着いているほか、伊豆諸島など日本各地に流れ着くのではないかと恐れられている。港に軽石が入ってこないようにオイルフェンスを張ると、船の出入りができなくなる。軽石の処理やオイルフェンスなどで地元の悩みは深い。


 ところで昨年12月の山梨・大月市の地震は富士山の下で起きる火山特有の「低周波地震」の一種で深さも似通っている。普通の火山性地震(高周波地震)とは違う深さと周波数だ。火山の下でマグマが流動することで起きる。「いつ噴火しても不思議ではない」富士山に活動が迫っていることを感じさせる地震だった。

 

 日本に地震を起こしたり、火山噴火を起こす「元凶」はフィリピン海プレートと太平洋プレートである。西日本はフィリピン海プレートが起こす地震と噴火、東日本は太平洋プレートが起こす地震と噴火のせいである。


 フィリピン海プレートは年間4・5㌢で日本を南から北へ押してきているし、太平洋プレートは年間8㌢で東から西へ押してきている。プレートの動きはおそるべく一定で、人間の力で止めることは出来ない。


 つまり、毎年、地震に近づいていることは確かなことで、今年起きなかったら来年、来年も起きなかったら再来年、さらに先かもしれないが、いずれ起きる。

 

◇        ◇


 日本に起きる地震には2種類ある。海溝型地震と内陸直下型地震だ。海溝型地震はプレートが押してくる、その直接のひずみで起きる。他方、内陸直下型地震は日本列島をのせたプレートがゆがんだりねじれたりして起きる。いずれにせよ、プレートが元凶なのである。海溝型地震の典型は2011年の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)や、恐れられている南海トラフ地震であり、内陸直下型地震の典型は1995年に起きた兵庫県南部地震(阪神大震災)だ。


 海溝型地震は起きる場所が限られていて、多くは日本の太平洋岸沖に起きる。他方、内陸直下型地震は日本のどこにでも起こりうる。内陸直下型地震のいやなところは人間が活動している直下で起きることで、地震の規模(M)のわりに被害が大きいことである。


 首都圏は、内陸直下型地震が日本の他のところと同じように起きるほか、日本では珍しく陸の下で海溝型地震が起きるところだ。首都圏の地下にはフィリピン海プレートが沈み込んでいる。首都圏直下で起きる地震はどちらが先になるか分からない。

 

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 火山噴火もプレートが起こしている。太平洋プレートやフィリピン海プレートが地球の中に潜り込むときに深さ90~130㌔㍍のところでマグマが生まれる。生まれたマグマはまわりの岩よりも軽いから、いくつかのマグマ溜まりを作りながら上がってくる。マグマが地表に達したとき噴火が起きる。つまり地震も噴火も、プレートが起こしているのである。


 ところが、噴火予知には、まだ結びつかない。低周波地震は火山の下でマグマが流動していることで起きると思われているが、富士山の下の低周波地震は、じつは2001年に急激に増加して火山学者や地元を心配させたが、富士山の噴火は起きなかった。


 また2000年に会津磐梯山も火山性地震が急増して1日400回を超えた。1960年に地震計が置かれて以来、最も多い地震だった。やがて山頂直下で起きる低周波地震や火山性微動もたびたび観測されるようになった。火山性微動とは地震計が捉える連続的に続く振動で、地下のマグマの動きと直接関連するものだと思われている。これも1960年以後初めてのことだった。だが、噴火は起きなかった。


 逆に、なんの前兆も捉えられないうちに噴火した例は多い。2018年に犠牲者を出した草津白根山の噴火など例は沢山ある。


 富士山も300年前から噴火していないが、あまりに前で、その前にどんな前兆があったのかは分からない。間違いなくまた噴火があることは確かだが、この次の噴火が「前兆なし」になる可能性は少なくはない。

 

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 地震学も同じだ。予知は出来ない。ゴムひもを引っ張っていって、いずれ切れることが分かっていても、どこで、いつ切れるかは分からないのと同じだ。物理学ではいまだに解けない問題である。

 

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 しまむら・ひでき 1941年東京に生まれる。東京大学理学部卒業。北海道大学地震火山研究観測センター長、国立極地研究所所長を経て武蔵野学院大学特任教授。世界に先駆け海底地震計の開発とそれを使った海底の地下構造や海底地震の解明につとめた。著書に『「地震予知」はウソだらけ』(講談社)、『人はなぜ御用学者になるのか―地震と原発』(花伝社)、『直下型地震 どう備えるか』(花伝社)、『「地球温暖化」ってなに? 科学と政治の舞台裏』(彰国社)、『多発する人造地震―人間が引き起こす地震』(花伝社)など多数。

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