イギリス・グラスゴーで10月31日に開幕したCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)では、議長国のイギリスをはじめパリ協定に復帰したアメリカ、日本など各国首脳112人が演説し、先を争って「温室効果ガス削減」「カーボンニュートラル」を宣言した。最近は「地球や環境にやさしい」「持続可能な開発目標(SDGs)」「脱炭素」「地球温暖化防止」などといった言葉がいかにも社会進歩を代表したものであるかのように大手メディアを先頭に大流行させている。「地球」や「環境」を枕詞にした言葉の氾濫の裏で一体何が動いているのか見てみた。
COP26で各国首脳が大合唱する理由
COP26での演説で岸田首相は、2030年度の温室効果ガスの国別削減目標については「13年度比46%削減をめざし、さらに50%削減の高見に向け挑戦を続けていく」ことを約束すると表明した。さらに岸田首相は途上国の温暖化対策支援として新たに今後5年間で最大100億㌦の追加資金援助をおこなうことを表明し、「アジアは世界の経済成長のエンジン」であり、気候変動対策の負担を日本が財政・技術面で支援していくとした。
アメリカのバイデン大統領はトランプ前大統領のパリ協定脱退を謝罪し、2024年までに途上国への金融支援を4倍に増やすと表明するなど、脱炭素で世界のリーダーシップをとる意欲を示した。
イギリス政府は途上国支援で25年までに10億ポンド(約1500億円)の追加支出を表明するとともに、各国に「脱石炭」を呼びかけた結果190の国と企業が約束したことを発表した。そのなかにはポーランドやベトナム、チリなど主要な石炭使用国も含まれる。ただし、オーストラリアやインド、中国、アメリカなど世界最大の石炭依存国は署名しなかった。また、少なくとも20カ国が国外の化石燃料プロジェクトへの融資を停止することで合意したことを明らかにした。
EUは27年までに50億㌦(約5600億円)を途上国支援に拠出すると表明した。日本やアメリカ、イギリス、EUは2050年までの「カーボンニュートラル」を掲げている。
インドのモディ首相は2070年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする考えを示すとともに、先進国に日本円で110兆円規模の資金拠出を求めた。
なお中国とロシア、トルコはCOP26には出席しなかった。中国とロシアは2060年までの「カーボンニュートラル」を掲げている。
欧米や日本をはじめ中国やロシア、インドなど大風呂敷を広げて高い目標は掲げるものの、実際に実現できるかどうかはきわめて不透明だ。
COP26の開催は「二酸化炭素など温室効果ガスの増大によって地球温暖化が進んでおり、地球の気候は危機に瀕している」という「気候危機説」にもとづくものだが、明確な科学的根拠はない。御用学者が振りまき、御用メディアが別の意図をもって大宣伝するものだと主張する科学者が多数存在しており、科学の世界で客観的な真理として決着しているものでもない。それにもかかわらず、アメリカやヨーロッパ、日本などの先進国の政府や財界、とりわけ金融業界は「カーボンニュートラルにともなうグリーン成長戦略」を掲げて猪突猛進の様相を示している。
金融資本の市場創出策
日本での「グリーン成長戦略」を見てみると、「温暖化への対応を成長への機会と捉える時代に突入した。従来の発想を転換し、積極的に対策をおこなうことが産業構造や社会経済の変革をもたらし、次なる大きな成長につながっていく」「“経済と環境の好循環”をつくっていく産業政策が、グリーン成長戦略である」としている。
具体的には「エネルギー分野のとりくみがとくに重要」とし、成長が期待される産業(14分野)においてあらゆる政策を総動員するとしている。14分野は①洋上風力、②燃料アンモニア、③水素、④原子力、⑤自動車・蓄電池、⑥半導体・情報通信、⑦船舶、⑧物流・人流・土木インフラ、⑨食料・農林水産業、⑩航空機、⑪カーボンリサイクル産業、⑫住宅・建築物/次世代型太陽光、⑬資源循環、⑭ライフスタイル、となっている。
こうした分野でカーボンニュートラルに挑戦し、産業構造や経済社会の変革を通じ、成長につなげるとする。市場規模は国内では300兆円、世界中の環境関連の投資資金は3000兆円とし、これを日本に呼び込み、雇用と成長を生み出すとし、そのための政策ツールを総動員するとしている。政策ツールとは、優遇税制や規制緩和、金融市場のルールづくり等々を含む。
COP26の開催と平行して、日本を含む世界45カ国の民間金融機関のグループは「世界経済の脱炭素化のために100兆㌦(約1京1400兆円)の資金を用意できる」と発表した。これは「ネットゼロのためのグラスゴー金融同盟」=GFANZというグループで、世界45カ国、約450の民間金融機関が参加している。日本からは三菱UFJフィナンシャル・グループや野村ホールディングスなども参画している。3日時点での資産総額は世界全体の金融資産の約四割にあたる130兆㌦にのぼる。GFANZの共同議長はCOP26の会合で「世界が使いたければ資金は用意してある」とのべたと報道されている。
会合の議長を務めたスナク英財務相はこの発言を「歴史的だ」と歓迎し、「必要なのは、低炭素社会の未来に投資する行動だ」と強調した。投融資には、石炭火力発電からの脱却や、電気自動車(EV)の普及などが含まれる。
脱炭素など社会的な要請への投資は環境(E)、社会(S)、企業統治(G=企業経営の健全性)の頭文字をとってESG投資といわれているが、この旗振りをしているのは欧米の金融機関だ。
世界の金融業界の個別の動きを見ると、2019年12月にアメリカのゴールドマン・サックスが、世界中の石炭採掘・生産への資金提供をとりやめると発表した。さらに北極圏での石油探査・生産への投融資もおこなわないとし、脱炭素市場への投融資集中の方向を明確にした。
これに次いでイギリスの大手金融機関=スタンダードチャータード銀行も石炭火力発電への投融資を厳格化すると発表した。同社はすでに2018年に新規の石炭火力発電への直接的支援を中止しているが、加えて同社の顧客企業が石炭火力発電事業から収益割合を10%以下に抑えない限り、既存案件も含めて段階的に投融資を中止するとしている。
これに関連して、日本の三大メガバンク(三菱UFJ、三井住友、みずほ)などが融資を検討しているベトナムのブンアン火力発電についても融資方針を見直すとみられている。
このほか、ブラックストーン、シティグループ、UBS、JPモルガン、フランス保険大手のアクサやイギリスの資産運用大手リーガル・アンド・ゼネラル・インベストメント・マネジメントなどの名があがっている。
2020年には日本の国家予算の8倍、7・4兆㌦(約817兆円)の運用資金を有する世界最大の資産運用会社、アメリカのブラックロックが脱炭素市場に乗り出し、投資先企業にも積極的な行動を求めた。同社CEOの投資先企業への昨年の年頭書簡では「気候変動が企業の長期的繁栄を左右する決定的な要素になる」とのべ、「今金融の仕組みは根本的な見直しをよぎなくされている」とし、低炭素社会の実現に向けて政府と企業が協働する必要性を強調している。
ブラックロックは日本の洋上風力発電建設にも乗り出してきている。ブラックロックは2018年に創業したインフラックス(東京)と今年に入り資本提携し、洋上風力発電を手がけるホールディングスを設立した。石狩・厚田洋上風力、佐賀県唐津市沖洋上風力、唐津市馬渡島から長崎県平戸市的山大島までの海域に最大65基の洋上風力建設、鹿児島県吹上浜沖洋上風力発電計画など巨大計画にあいついで着手している。
このほか日本での再エネ事業には外資の投資が目立つ。鳥取市、新潟県柏崎市、兵庫県美方郡新温泉町など全国7カ所で大規模な陸上風力発電事業を進めているのは、シンガポールを拠点とする再エネ開発会社=ヴィーナ・エナジーの子会社「日本風力エネルギー株式会社」。しかもヴィーナ・エナジーの親会社は7兆円の資産を運用している世界最大のプライベートエクイティファンド=グローバル・インフラストラクチャー・パートナーズ(GIP)だ。
さらに奈良県生駒郡平群町のメガソーラー計画は6万枚のパネルを敷き詰めるという大規模(48㌶、甲子園球場12・5個分)なものだ。平群町と協定を結んだのは協栄ソーラーステーション合同会社(東京)だが、これは資本金10万円のペーパーカンパニーで、実際の事業者はエヴァーストリーム・キャピタルマネジメントというアメリカの投資会社だった。
現実は乱開発と環境破壊が横行
脱炭素と呼ばれる化石燃料から再エネへのエネルギー転換を画策する発端となったのはアメリカで、2007年に「勝利のためのデザイン―地球温暖化との戦いにおける慈善事業の役割」という研究レポートが火をつけることになった。依頼したのはヒューレット財団で、レポートでは温暖化対策をいかにして政治案件にし、社会問題として定着させることができるかなどを提示しており、脱炭素計画にスイッチが入り、世界のマスタープランとなった。
翌2008年ヨーロッパでこのプランを実行に移すため、オランダのデン・ハーグに欧州気候基金が設立された。出資者はアメリカのヒューレット・パッカード両財団、ブルームバーグ、ロックフェラー、イケア財団、ドイツのメルカルト財団など。支部はベルリン、ブリュッセル、ロンドン、パリ、ワルシャワへと拡大し、現在ヨーロッパで脱炭素やエネルギー転換を掲げるNGOのほとんどは欧州気候基金かもう一つの巨大財団であるメルカトル財団のどちらかか、その両方から援助を受けている。
2007年には「不都合な真実」の著者で知られるアメリカの元副大統領のアル・ゴアとIPCC(気候変動に関する政府間パネル)がノーベル平和賞を受賞している。
その後2008年9月のリーマン・ショックを経て、2009年にオバマ政権が誕生しグリーン・ニューディール政策をうち出す。オバマ政権が最優先課題としたのは景気対策と金融危機対策の経済問題、次いでエネルギーと環境だった。オバマのグリーン・ニューディール政策はリーマン・ショックからの経済再生を目的とし、「変化・変革」を掲げて、石油への依存からの決別を宣言し、代替エネルギー開発へのとりくみで、「われわれは太陽や風、大地を使って自動車を動かし、工場を稼働させる」と語った。
オバマは太陽光や風力発電などは国家プロジェクトとして大型予算を投入し、そのとりくみを起爆剤として産業構造の転換をはかり、長期的な景気浮揚策と雇用対策への波及を狙った。
さらに2011年の福島第一原発事故で、欧米の金融資本は脱炭素政策を世界的に広めるチャンスだと色めきたった。圧倒的な資金力をもって政界、産業界、財界への浸透をはかり、世論を煽っていった。そして2015年にパリ協定が採択される。ここに「産業革命以降の温度上昇を1・5~2℃以内に抑制するよう努め、21世紀後半のできるだけ早いタイミングで温室効果ガスの排出と森林などによる吸収のバランスを図る」とする世界的な目標が盛り込まれた。国連や各国政府、メディアは「温度上昇を1・5~2℃に抑える」という目標がすべてに優先するものとして声高に叫び始め、COP26に至っている。
脱炭素市場を世界の金融資本が狙う背景には、コロナ禍により世界経済は縮小し、投資先は先細りであるが、他方で金融緩和による金あまり状況にあることがある。既存の産業構造や社会経済構造を維持するのではなく、新たな産業構造・社会経済構造への「変化・変革」によって、新たなより魅力的な投資先の開拓を必要としている。リーマン・ショック後、オバマ政権がグリーン・ニューディールを掲げて既存の石油依存から代替エネルギーへの転換を軸に産業構造の転換をはかり、経済再生をはかった時期と現在はよく似ている。
「地球にやさしい」とか「持続可能な開発」とか「二酸化炭素の排出削減」「地球温暖化防止」などは、現実に反しているし科学的根拠はない。「地球や環境にやさしい」はずの太陽光や風力発電建設で、大規模な森林伐採がやられ土砂崩れを起こし多くの人命が奪われたことは記憶に新しい。
また、科学者のなかでも「地球温暖化はCO2が原因ではない」との見解も多い。「本来科学の学説の多くは不確かさを含んでいる。実験や観察の積み重ねによって真理が確定するまで、あらゆる可能性に対して門戸を開いておくことこそが科学が健全であることの必要条件であり、十分な検証を経ない段階で真理を確定させるとすればそれは政治であって科学ではない」との指摘もある。
「地球」や「環境」といった甘い言葉の裏で動いているのは、欧米の金融資本を先頭とする世界の金融資本家や投機家であり、ありあまった投機マネーの投入先として、「脱炭素」を掲げた大規模な産業構造の転換で、再エネや電気自動車、半導体など新たな市場開拓をおこなうことで利潤追求を図ろうとしている。ごく一部の金融資本家のもうけのために地球環境は大規模に破壊され、森林は伐採され、海や川は汚され、人間の健康被害も甚大なものになっている。