負けなかった町民の力
今度の上関町長選挙は、推進派の崩壊が大きな流れとなるなかでおこなわれた。ところが結果は推進派59%、反対派41%と、以前と1ポイントだが開く結果となった。今度は推進から反対に投じた人人が多かった。かれらは口をそろえて、「おかしい、化け物が出た」と疑問を深めている。自分たちが反対に投じたのに反対派の得票数がへったのである。表面では推進のように装い、実際には反対派に投じてきたいわゆる隠れ反対派といわれる人たちのなかでは、疲れた表情で「この町を出たい」という人がおり、ここも「化け物が出た」ともいい、それにしてはよく得票が出たといっている。この化け物のシカケはどうなっているのか、今度の選挙の注目点であった。
反対町民摘発の謀略
中電は、町民が自分の意志で推進をやるような動員力はなく、これまでの弱みにつけこんで首に縄をかけて引きずるか、買収と脅迫しか手段はなくなった。意欲的に動いたのはわずかであり、柏原氏の町長権力に接近する親せき一族、町政利権にかかわる土建業者、漁業補償の残り半分に意欲を持つ上関漁協、そのほかにもなんらかの私的な利益にかかわる部分だけであった。
推進派裏選対の某氏は、今度の選挙は65%から70%をとると豪語していた。推進派の得票がふえるのは、反対派に投じてきた票を奪いとることしかない。250票ほどもぎとれば1000票差になり70%になるという計算である。
すでに祝島の反対をかかげた漁民層のかなりな部分が補償金をほしがって崩れていることは町内で常識になっている。上関地区の柏原氏の一族で反対派をかかげていた部分も公然と推進派で動いたことがひんしゅくを買っている。これらはしかし、柏原氏の親族と重なる4月の加納氏の選挙ですでに崩れていた。今回の特徴は、表面上は推進派と調和したようにしてきた隠れた反対町民を摘発し集中攻撃を加えたということである。いわばキリシタンに踏み絵を踏ませて弾圧した徳川幕府の時代遅れの流儀を、背広を着た中電が真似してやらせたのである。昔からそうしてきた人人、前回選挙で推進派から反対票に移った人人がとくにターゲットになった。
中電は、人を説得する力はないが、脅してつぶす力だけは持っている。そのためのぼう大な個人情報を持っている。今回も、柳井、周南地域はもちろん、東京、大阪などから、孫や甥、姪の亭主というような遠い親類からまで、反対をやめてくれの働きかけがあった。そして町内でも断れば住めなくなるような力が加わった。しかし、中電は爆弾は持っていても、標的を定めなければ、的にはあたらない。
今回かなり的確に、隠れ反対派町民が摘発され、ピンポイント攻撃を受けた。それはとくに河本広正氏が亡くなった室津で顕著であり、上関地区でもひどかった。どうして隠れ反対派が摘発されたのか。推進派勢力は摘発の力はない。だましようがないし、町民の方も、調子を合わせるのが上手だからである。スパイ・諜報活動は変装しなければ役に立たない。そのもっとも適任者は、反対派を装ってきた部分以外にない。
反対派を装うものからの電話があったのは今度がはじめてといわれる。「祝島のもの」「山戸選対のもの」「上関の反対派」「小中進と称するもの」が「反対か推進か」と聞いたり、祝島の推進派のボスからも「山戸に入れてくれ」の怪電話もあるなど、意味不明の電話がかかった。この反応の情報。また今回山戸氏は、町民から突き動かされる形ではじめて路地を歩いた。そこで思わず手を振ったり、握手したり、表情を崩したりした町民が、だれとだれかという情報。さらに河本氏が長年自分の足を運んで信頼を得てきた選挙名簿は今回山戸・岩木選対に渡った。柏原陣営で動いた岩木選対部分は上関や戸津の反対派名を知っている。
今回の隠れ反対派へのピンポイント攻撃の正確さは、これらの反対派を装ったものをつうじた情報が中電に渡ったと見る以外に説明はつかない。中電にとってこれらの名簿情報は、視察旅行を何十回やる経費より高く買う価値がある。それならば推進派裏選対某氏が70%をとるといっていたことの説明がつく。しかし脅されても大崩れはしなかった。
反対派のふりをして、親切ごかしに、相手を信用させ、推進派に見せない本音を探る。反対派のなかでは、「集票のために動いた」と装い、自分たちが崩しておきながら「動かなかったおまえたちはなんだ」とも開きなおり、裏ではこれらの町民名簿を中電に売り、町民を中電と推進派の脅迫構図にさらす。これが今回の化け物選挙のシカケであることは疑いない。
反対派組織の動き 解任された室津側
選挙まえの重要な動きとして、反対派組織のなかで、河本、外村氏ら室津側が、山戸、岩木氏らと関係が悪くなり解任された。河本氏の逝去はその直後であった。4月の選挙で、室津のまじめな住民は、山戸氏がまともに選挙をしないことに批判を強めた。補欠選挙で、だれも出るものがいないなかで若手漁民の北中氏が出ようという意志を伝えた。河本氏ははじめ大喜びであったが、小中、岩木氏が猛反対してつぶし、その後やる気のなかった村田、羽熊氏になった不思議ないきさつがあった。
また山戸氏は早早に不出馬を明らかにしていた。子どもの件で金がいるのに年収300万の議員職を捨てて、再度みずから負けるための町長選に出るためであった。山戸氏は金を捨て生活を捨てて大儀のために生きる男であるかは、町民が判断するところである。
その後山戸、岩木氏側は、補欠選挙では「室津が動かず崩れた」といい、柳井の推進派のところで働いた外村氏をスパイだと攻め、河本氏を追い落として長島、室津の反対派組織の実権を握った。ちなみに山戸選対は、長周新聞にはあからさまな敵意を持ち、「利敵行為をしている」「推進派団体とつながっている」と騒いだ。4月選挙のあとも、発行人署名なしの「長周新聞は推進派」というビラが、相手を選んでまかれた。このビラは選対事務所で山戸氏が書いていたことがわかっている。堂堂と名前を出す度胸はないのだ。
今度の選挙で、反対派の顔をした中電のスパイが動いたことが疑われることを意識し、犯人まで事前に用意しているのは相当にスパイ大作戦を意識している証明である。電話作戦も、表の選対本部ではやらず、どこからか、だれからかも本当にはわからないところでやったのも用心深すぎる。
ちなみに柏原一族のなかには岩木氏がおり、山戸氏も親類関係にあたる。今度の選挙で山戸、岩木氏が柏原一族と奪いあいをやったという町民の声はない。祝島では親兄弟の葬式でも行き来をさせないのにである。むしろ共同記者会見をやり、相談しあって選挙まえの町民へのあいさつもやらず、2人3脚で町民をバカにしているとひんしゅくを買った。明らかに山戸、岩木氏は室津の反対派や長周新聞に持つ敵意とは裏腹に、推進で動いた柏原一族に親近感を寄せていた。
謀略うち砕いた町民
今度の選挙は、表通りの選挙はセレモニーで、裏通りに連座制にならない本当の選対本部があり、人目に隠れた謀略選挙が仕組まれたのである。イラク戦争で米軍は前線司令部をカタールに置き、現地人に変装した特殊部隊・スパイを潜入させて標的を見つけさせる、そこへペルシャ湾にいる空母からミサイルを飛ばし、戦斗機を飛ばしてピンポイントの精密爆弾を落とす。アメリカかぶれの中電経営者はブッシュのまねを上関の選挙でやったのである。その後引くに引けない泥沼に入ったアメリカの真似もすることになるのは計算外であった。
今度の町長選は、中電が反対派の裏切者をスパイ・諜報員としてフルに使い、化け物が襲ったような状態に町民をおき、町民の反対の力、中電に逆らう力に壊滅的な打撃を与えることが目的であったとみなすことができる。中電はもはや原発をつくる力はないくせに、町民を脅しつけて黙らせることに必死となったのである。
また中電は切られてはぶてていた推進派には、ちょっといい思いで機嫌をなおさせて使った。捨てられても捨てられても媚びを売るというのでは自慢にはならない。中電は若者が動かないのに困って、これも推進派住民に名簿を書かせて、ピンポイント攻撃をした。中電は反対派町民をある程度崩したが、それでも20年反対でがんばってきた大多数の町民の意志をくじくことはできなかったし、推進派からの離脱・原発終結・中電撤退・町の再建を求める流れを押しとどめることはできなかった。
「長周新聞がスパイをやって、長島、室津の反対が崩れたから、祝島ががんばってもしようがない。原発はどうせできないのだから、裁判は取り下げて補償金をもらい、土地は売ろう」。そして町民はがっくりと落胆し、町にはインチキがのさばるというシナリオもないわけではなかった。だがこれは見事にうち負かした。41%の山戸票は、町民の反対の力は山戸氏の思いどおりにならないものである。「反対の切り札」といわれる「推進の切り札」は使いきってしまったことになる。長島側に乗りこんだ化け物退治をすることは、すべての町民が胸を痛めている祝島の化け物退治、正常化に大きな力となるであろう。
国策をかかげた中電が、近隣の企業だけではなく、全国的な企業を動員するなど、日本中を大騒ぎさせて小さい上関の町の選挙をかきまぜた。これほどの大がかりな謀略選挙を仕組んでも、中電は町民に勝てなかった。これは責任のがれでうろたえる中電経営者がどれほどバカげているかをさらしている。それ以上に、これは地方自治体の民主主義の根幹である選挙を丸ごと買収し、町民の自由な投票を妨害し、選挙そのものを破壊するものであり、ヤクザ会社による反社会行為・大選挙違反でなくてなんであろうか。
中電は上関の選挙で、日本中のどの町村の選挙にもないような大騒動をしたが、それをうち負かした上関町民の力は真に感動的なものであり、全国に誇れる偉大なものである。その力は中電とその使用人たちをすっかり落胆させた。
中電だけではなく、中電崇拝の推進派諸氏も、近くは神崎、加納氏を見るまでもなく、得することばかり考えて、損をすることを考えないというのが歴代の推進派諸氏がかずかずの失敗をしてきた教訓である。柏原新町長はスタートから死に体の町政である。国が合併をせよといって切り捨てたから片山町長は破たんしたのに、「中電の協力金はいらない」「国と県に人脈があるからもらう」というのでは、中電にはかわいがられても、町民のなかでもよその市町でも笑いものである。「4年で原発を実現する」と夢を語ったが、もうけることばかり考えて大借金を残すという、バクチ打ちの末路に町民がつきあうことはない。