基地によるPFOS汚染 いま沖縄で起きていること
今日(8月27日)の沖縄二紙のトップニュースは、米軍によるPFOS汚染水の排出だ。米軍が基地内に抱えていた有機フッ素化合物(PFOS、PFOA、PFAS)の汚染水を、処理を面倒くさがって、薄めて一般の下水道に流した。
これらの物質は、非粘着性、撥油性、撥水性が高く、フッ化炭素の結合は有機化学のなかでは最も強く、自然環境では簡単に分離しないため「永遠の化合物」と呼ばれる。発がん性などの毒性が指摘され、本来なら産業廃棄物として焼却処理しなければならないものであり、下水道への排出は自然環境や県民の命に影響を与えかねない。
このPFOS、PFAS問題は、米軍だけでなく実は自衛隊でも起きている。沖縄では自衛隊が同じ成分を含む泡消火剤の泡を住宅街に飛ばす騒ぎを起こした。自衛隊もPFOSを使った泡消火剤を使用している。
沖縄では米軍のPFOS流出による水道水の汚染問題が起きている。米軍が基地内で使用する泡消火剤が浸透して地下水源を汚染し、地下水源から流出した水が河川水を汚染する。河川水の汚染によって、水道水、飲み水も汚染される。30万人が飲んでいる水が、実はPFOSで汚染されていたことが3年前に明らかになったが、その対応が不十分なまま放置されている。
宜野湾市では、普天間基地の返還が議論されているが、現在も基地内の建物は修繕中だ。日米合意によって2年前に閉鎖・返還されるはずだった普天間基地だが、長期利用に向けて着々と整備と施設の補修、新設がおこなわれている。普天間基地を毎日見ている限り、普天間基地は返還などされないことがわかる。しかし国会の議論やメディアを見ていると、いかにも普天間が返還されるかのような印象を持ってしまう。軍事問題ではそのようなフェイクがまかり通る現状にある。
佐賀空港が自衛隊基地として使われるということは、同じくPFOSを含んだ汚染水が有明海に流れ込む可能性が十分にあるということだ。泡消火剤は、航空機の事故や燃料が燃えた場合にすぐに消火することができるため、軍事訓練では消火訓練でずっと使われている。これが何十年も使用されてきたために、普天間基地周辺では、地下にある100本ほどの鍾乳洞の水源が汚染された。その豊かな湧き水を飲んでいた宜野湾市民の血液から、基準値の50倍ものPFOSが検出されるという、血液汚染の問題が起きている。それでも「汚染源の除去は困難」ということで汚染が継続している。
また、北谷浄水場が供給する那覇市の新都心公園の水道水から検出された有機フッ素化合物は、名護の100倍という濃度だった。沖縄市の大工廻(だくじゃく)川では国指針の30倍、沖縄県民の飲み水を得ている比謝川の取水ポンプ場で12倍、地下水が42倍。水釜の地下水も41倍だ。すべて上流をたどっていくと米軍嘉手納基地内につながる。
嘉手納基地内が汚染源であることが明らかであっても、日米地位協定の基地管理権によって調査を阻まれ、防衛省沖縄防衛局は「因果関係は不明」と記者会見でも釈明している。
しかし基地の汚染源を調査して流出を食い止めない限り、地下水汚染、沖縄の飲み水の汚染は食い止めることができない。これは軍事汚染による被害であり、今後の国民・県民の健康への影響は看過できない。これが佐賀におけるオスプレイ配備の裏側で忍び寄る危機だ。
基地で使用される泡消火剤は、地表から海に流れる。佐賀においては、有明海のノリ養殖にも大きな影響を与えかねない。流出した有機フッ素化合物は自然になくなることはない。これを一度流してしまえば、数千年にわたってこの汚染をとり除くことはできないといわれている汚染物質だ。そのため米本国ではPFOSを含まない泡消火剤への切り換えが始まっているが、日本では自衛隊も含めてこれを使っている。
河野太郎前防衛大臣は昨年、「アメリカ軍はPFOSの泡消火剤を撤去したといっている」として、沖縄のPFOS問題はクリアしたかのような発言をしたが、その直後に普天間基地で泡消火剤が漏れ、しかもPFOSが含まれていることが明らかになった。河野防衛大臣は「ごめんなさい。早とちりしました」と謝ったが、謝って済む問題ではない。全国的にはPFOS汚染は解決したというように発信された。このような問題を同じように佐賀空港も抱えてしまうことになりかねない。
また、米軍機には放射性物質を含む部品が使われているため、2004年の沖縄国際大学へのヘリ墜落事故や、2016年の名護市沿岸でのオスプレイ墜落事故でも、周囲にセシウムやストロンチウムが飛散し、米軍は日本には伝えず、自分たちは完全防護服を着て大破した機体や飛散した部品を回収した。事故による被曝の危険性についても、米軍からは何も伝えられないということも覚えておいてほしい。
オスプレイの佐賀配備 軍民混在がもたらす危険
オスプレイ配備の背景には何があるのか。端的にいえば対米支援だ。高額な開発費を日本に負担させるために、応分の負担としてオスプレイを高値で購入させられた――と私は見ている。だから本当に日本の防衛にオスプレイが必要なのかという議論もないままに、社会保障費削減分に匹敵する総額3600億円もの予算を費やして、17機のオスプレイの購入だけが先に決まった。1機200億円。ワシントンで取材したときには1機98億円と聞いていたが、倍になっている。
防衛省幹部に聞けば「国内に置き場がないのでしばらくは米国西海岸に配備する」という。国内での置き場も考えずに購入し、その配備先は後から議論するという真逆の論理が展開されている。
オスプレイを何に使うのかも判然としない。オスプレイは大型輸送機というが、既存のCH53の方がたくさん積める。24人の人員を輸送できる程度の輸送機が、あたかも抑止力になるかのようなアピールをされているが、軍事上これがどれだけ役目を果たせるのかについては不明だ。高速に移動できるというが、それだけの人員でどれだけのことができるのかも検証される必要がある。
オスプレイの構造的問題として、オートローテーション機能がついていない。通常ヘリコプターにはオートローテーション機能が開発段階で義務づけられており、不具合でエンジンが止まってもプロペラが逆回転して、竹とんぼのような形でゆっくりと地上に降りていくことができる。
またオスプレイは、エンジンを高速回転することによって浮力を得ているため、エンジンの摩耗が激しい。だからエンジンを定期的に交換するか、整備を強化しなければならない。これが高値で買わされた理由になっている。購入したオスプレイは17機だが、エンジンは40基買ったという話を防衛省幹部から聞かされた。つまり予備エンジンをたくさん買ったために高値で予算を組まざるを得なかったという話だ。
また、オスプレイは空中給油をするさいに危険がともなうため墜落の脅威が増す。現実に2016年12月13日に沖縄県名護市東海岸に墜落大破する事故が起きた。夜間の空中給油中に給油機から伸びた給油パイプにオスプレイのブレード(回転翼)が接触し、破損墜落した。オスプレイは追い風にも弱く、後ろから風に吹かれるとバランスを崩して墜落してしまうケースがある。
佐賀空港ではこのような危険な空中給油訓練や追い風を受ける形での離着陸訓練などが、民間機も使用する軍民共用空港でおこなわれる可能性も否定できない。沖縄県ではオスプレイは普天間基地(軍事専用飛行場)で運用されている。民間機と一緒に混在してしまうとどのような問題を起こすのか、初めてのケースとして警戒してほしい。
有事には標的化する基地 米軍との一体的運用
また、有事のさいに軍事基地は標的化する。基地は「マグネット(攻撃を引きつける)効果」を持っているからだ。沖縄戦の教訓がそうだ。同じ沖縄県内でも、軍隊がいなかった島では軍同士のたたかいがなかったため、民間の犠牲者が少なく済んでいる。
軍事基地や軍隊を抱えるということは、有事のさいに標的の街になるという覚悟が必要になる。
これは原発と基地に共通する脅威だ。中国の有事のさいのミサイル攻撃目標に原発がある。通常ミサイルでも原発を狙えば、原子力兵器と同じ効果を持つことができるからだ。
佐賀も玄海原発を抱えているため攻撃目標の一つに入れられてしまっているが、さらに軍事基地(佐賀空港)が加わることになる。
軍事拠点を抱える街は攻撃目標になる。6月に明らかになった米軍の文書では、50年代の台中危機においてアメリカは沖縄の基地から北京に向けて核攻撃を準備していたことが明らかになった。そのさいの議論を記した公開機密文書では、北京を核攻撃すると、その報復として沖縄は核攻撃を受けることまで想定されていた。「その場合には沖縄は消えるが、それもやむを得ない」という、消耗品としての沖縄の位置づけが明らかになって衝撃を受けた。
佐賀空港が軍事基地化すれば、普天間基地で運用している米軍のオスプレイ24機も「暫定利用」「一時使用」という形で、佐賀でも訓練のために離発着することになる。あるいは自衛隊がオスプレイの整備も佐賀空港でおこなうということになれば、米軍が日本に整備をお願いするさいに佐賀空港に米軍のオスプレイが常駐、駐留するという可能性も出てくる。これらは常に自衛隊機と米軍機は一体的に運用されるということを頭に入れておいてほしい。
普天間基地に配備されたオスプレイは、給油なしでは600㌔圏内までしか飛べない。韓国、北朝鮮で想定される朝鮮有事には給油をしないと飛んでいけない。給油をして初めて岩国基地(山口県)までたどり着ける。そのための給油訓練をしているが、鹿児島県の馬毛島、宮崎、あるいは大分など、九州に中継地点が必要になってくる。その意味では、佐賀空港はベストな位置にあると見ることもできる。
自衛隊基地は米軍基地の機能も補完するものになる。いずれ米軍との共同使用施設としてこの佐賀空港も位置づけられていくことになると私は見ている。朝鮮半島エリアまで給油なしで飛んでいける距離にあり、利用価値の高い基地として位置づけていることが米軍の資料からもわかる。
一度自衛隊を受け入れてしまえば軍事利用の既成事実になり、オスプレイMV22(海兵隊仕様)もCV22(空軍仕様)も佐賀空港を拠点として軍事訓練や演習、あるいは出撃基地として使う可能性も出てくる。訓練するだけではなく、オスプレイが常駐しているわけだから部品も含めて整備をする拠点に佐賀空港が位置づけられるということになる。
佐賀空港はオスプレイ問題ばかりが議論されているが、防衛省の資料では、普天間基地と同じく50機もの自衛隊機と17機のオスプレイを配備するとしている。それはちょうど普天間基地と同じ規模の機能を持つことになる。普天間もヘリ50機+オスプレイ24機が配備されているが、普天間と同じ状況が佐賀でも実現されようとしているということだ。佐賀の今後を考えるうえでも普天間の状況に注目してもらいたい。
基地周辺における私権制限 土地利用規制法の成立
6月15日、「土地利用規制法」が成立した。正式には「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律」だ。
これは基地・原発などの周辺の土地利用を規制する法律だ。しかも施設の周辺1㌔圏内としている。米軍基地でも制限水域は沖合50㍍だが、この法律では、米軍基地及び自衛隊基地周辺はその20倍の1㌔としている。普天間基地周辺では、その圏内に10万人が住んでいる。10万人が規制・監視対象になる。そして1㌔四方の土地は売買が規制される。なぜこうしたことが許されてしまうのか。
広範な住民が監視対象になり、そこに住んでいる人たち、あるいはそこで反対運動などをするとその思想調査、制圧の対象になってしまう。それも刑事罰をともなう措置になってくる。
沖縄では、沖縄本島北部(やんばる)の北部訓練場の半分が米軍から返還されたことが話題になり、この一帯が世界自然遺産に登録された。しかし、そこに不発弾や実弾などが放置されているため、チョウ類の研究者がこれらの廃棄物を回収して原状復帰させるべきだと日本政府に訴えた。それでも回収してくれないので、研究者自身が回収した米軍の廃棄物(銃弾など)を米軍の基地の前に返したら、基地の前に異物を置くことによって機能を阻害したということで、研究者は身柄を押さえられ、家宅捜索を受けた。
米軍が使っていたものを米軍に返しただけで、その人は反基地の闘争家ということで監視対象になる。そのうえで家宅捜索まで受けてしまうという。そのようなことが自衛隊基地でも周辺1㌔で日常的に起きる可能性がある。
防衛省が公開している重要土地調査法案の概要をみると、「重要施設(防衛関係施設等)及び国境離島等の機能を阻害する土地等の利用を防止」と書かれているが、英文版には米軍基地も対象になると書いてある。日本語では書いていない。
また「特別注視区域」を「特定重要施設の周辺」とし、「機能が特に重要なもの」「阻害することが容易であるもの」「他の重要施設による機能の代替が困難であるもの」については「個別指定」するとしている。佐賀空港が基地ということになれば周辺1㌔四方の土地の売買、利用禁止が可能となり、土地の利用者の住所、国籍含めて全部チェックされる。住民基本台帳等の公簿が収集され、不動産の登記簿も全部とられる。そしてその対象を、移転等を含めて勝手に売買すると刑事罰がある。届け出も義務化がある。
機能を阻害する利用の中止勧告、命令があり、従わない場合は刑事罰を加える。みなさんはこのような意志表示ができなくなる可能性もあるということだ。国による買いとりも促進され、みなさんの土地を国が買い上げるということも出てくる。
自衛隊の南西諸島展開 対中包囲網の前線基地に
現在進められている自衛隊の南西諸島展開は、中台海峡(中国の台湾)危機を見据えたものだ。中国の最高指導者・習近平が10年の任期をさらに延長し、無期限の体制確立が2年後の全人代(全国人民代表大会)でおこなわれるだろうと見られている。ロシアのプーチン体制と同じように長期独裁政権が誕生する懸念がある。日本でも安倍政権で総裁任期の延長によって長期政権を可能にした。戦後、このような独裁化につながる長期政権に歯止めを掛けるような憲法をどの国もつくったが、ロシア、中国、日本となし崩し的に覆されている。
習近平体制の長期化にともなって台湾をめぐる緊張が激化すると見なされ、南西諸島に自衛隊のミサイル部隊がどんどん配備されている。先週には、沖縄本島の勝連半島に自衛隊のミサイル部隊の新設が明らかになった。
米軍は対中国の防衛ラインとして、日本列島から沖縄、フィリピン西部、南沙諸島にかけて第一次列島線とし、日本からグアム・サイパン・テニアンにかけて第二次列島線を構想している【地図参照】。日本政府は「シーレーン防衛」という原油などの輸送ライフラインを維持するためといっているが、第三次列島線がハワイにあるということを見れば、何から何を守るための列島線なのかがわかる。
これはアメリカとNATOがつくった対共産主義の防衛ラインだ。日本は第一次列島ラインにあり、中曽根元総理の「不沈空母」発言は、この列島線構想に基づくものだ。これに基づいて、南西諸島で中国の外洋進出を止めるということがミサイル防衛の論理に使われている。中国が外洋に出て行くことが日本にとってどれだけのリスクなのか、ここで中国を封じ込めるメリットが日本にとってどこにあるのかという議論が必要だ。
アジアの防衛というとき、中国抜きでアジア経済も世界経済も成り立たない。中国との関係をどうやって改善していくのかが非常に大事だ。だが、今は九州、馬毛島、奄美大島、沖縄島、宮古島、石垣島、与那国島という包囲網をつくり、そこにミサイル基地を配備していっている。そしてそのなかに、佐世保、佐賀が入っている。そして福岡でも自衛隊築城基地を強化し、大分空港でも滑走路を延長する。宮崎の新田原基地も含めて共同使用の施設に変わりつつある。
この構想に基づけば、有事のさいには、南西諸島だけでなく、九州一帯も含めてその戦場になり、攻撃対象になっていく。オスプレイ配備によって、在日米軍全体の抑止力が強化されるといわれているが、その米軍の戦略的機能を補完するために自衛隊のオスプレイ配備があると見ていいと思う。
自衛隊の役割とは何か? これ以上の軍拡は必要なのか
以前、参議院の予算委員会で「先生、自衛隊は憲法九条違反ですか?」と質問を受けたことがある。そんなものは憲法に書いてある。「戦力の不保持」「交戦権の否定」だ。小学生が読めば「憲法違反」なのに、大人になると諸般の事情から「憲法違反ではない」と読まれるフシがある。文字通り読めば、憲法で禁止されている軍隊であることがわかる。
日米安保と自衛隊の関係でみると、専守防衛と米軍の関係は非常に密接だ。日本は防衛上、盾しか持てず、矛を持つことができない。だから、専守防衛で軍隊を持てない日本の限界を在日米軍の存在によって補完し、矛の役割を果たすのだというのが政府の見解だ。これによって米軍問題について日本がものをいえない状態になっている。この憲法との兼ね合いで矛と盾の文字通り「矛盾」した関係がある。
では、自衛隊の役割とはなにか? 世論調査などを見ると、自衛隊を好意的に見る人たちが多い。それは水害などの災害が起きたときに救助隊として動くからであり、そのことが自衛隊の存在価値を高めてきたからだ。軍隊として動くことには非常に抵抗があるし海外派遣も問題があると思っているが、災害時に救助してもらわないと困るという側面がある。
最近頼まれて米軍海兵隊や自衛隊に講演に行くこともある。なぜ自分たちが嫌われているのか理由を知りたい、あるいは市民権を得るための方法を知りたい、といわれるので、私は「自衛隊はなぜ災害救助に軍服で行くのか?」という。見つかりにくい迷彩服を着て救助に行っても、助けを求めている人から見えないではないか。救助隊として発色カラーの制服を新たにつくる必要があるのではないか、と。
すると旅団長は「そんな新しい制服をつくる予算なんて出してくれないだろう」というが、こういうことに反対する国民はいない。戦車一台をやめて、ユンボやブルドーザーを買うべきだ。災害救助のときに戦車は何の役にも立たない。災害列島になっている日本にとって今重要なのは、災害救助機能を強化した災害救助自衛隊の存在だろう。海外に行っている場合ではなく、災害救助のシフトをもっと増やさなければならない。そして海外に行くときも災害救助隊として出かけて行くことが必要だ。
軍事支援ではなく救援支援、復興支援隊として自衛隊の役割を限定する。軍用機ではなく民間機的なもので救助に行くことが重要だ。
普天間基地はヘリ基地だが、昨年末から民間機のような航空機の訓練が頻繁におこなわれていた。「なぜだろうか?」と思っていたら、今年のアフガン撤退でその理由がわかった。アメリカは撤退を決めた途端、避難民の救助あるいはアメリカ国民の避難に必要なのは軍用機ではなく民間機であると判断し、民間機の訓練を昨年からくり返していた。自衛隊にそのような準備はない。
自衛隊が災害救助機能を強化し、「非戦の国」のたたかわない軍隊ということであれば、海外に行っても他の国からの攻撃の対象にならない。災害救助をする、避難民を救助する救援隊としての機能を強化することによって新たな役割を得る。そして、テロやゲリラの攻撃対象にならないような組織的な変化をもたらしていく必要性がより高まっているのではないかと思う。
軍による地域支配の問題 政治・経済の両面で
軍隊による地域支配についても考える必要がある。先日、沖縄県では陸自監視部隊が配備された与那国町の町長選がおこなわれたが、人口1700人、うち有権者1300人のところに自衛隊200票、その家族も含めて数百票になれば、選挙のキャスティングボートを自衛隊票が握ることになる。
そうすると、福島の原発の立地自治体と同じように、今後は市町村長が自衛隊出身(あるいは電力会社出身)というような状況が生まれ、ものがいえない島になってしまう可能性がある。軍隊による地域支配が起こってしまう。福島原発事故の被災者に「最後は金目でしょ」といった政治家(石原伸晃元環境相)がいたが、佐賀空港のオスプレイ配備でも同じように「地域振興予算を落とす」といわれたら、「そっちの方がいいのではないか」となる。佐賀空港も飛行機も来ないし、コロナで海外路線も全部止まって空港の運用維持だけでもお金がかかる。そこを自衛隊に補ってもらえるのではないかという安易な基地依存に走ってしまいかねない問題が起きる。
基地依存経済について「国からお金をもらえるからいいじゃないか」という見方もある。一九七二年の日本復帰後、沖縄に自衛隊が初めて入ってきた。それまで自衛隊基地経済(自衛隊基地の賃借料)はゼロだったが、右肩上がりに増え、2019年段階で129億円の予算がついてきている。自衛隊の軍用地主数は8000人近くまで増えている。
沖縄では米軍基地に自衛隊基地を含めて毎年約1000億円の軍用地料が入ってくる。不労所得がそれだけ入ると、そのために基地に反対がしづらいという状況もある。
一方で「基地の不経済学」もある。基地が返還されると、那覇新都心では、返還後の経済効果は32倍となり、桑江・北前地区も3億円から336億円と108倍に膨らんだ【表参照】。米軍基地は返還されると跡利用で爆発的な経済効果を生んでいる。では自衛隊基地はどうなのか?
普天間基地を見ても、返還後は32倍の経済効果とされており、それ以外にも8倍とか36倍に増えるだろうというのが、自民党政権が支える保守県政のメンバーの試算だ。自民党が計算しても「基地は不経済」というのがわかる。
宜野湾市では、1㌶当りの基地収入(普天間基地等)が1864万円なのに対し、民間地域の純生産額は1㌶当り1億3759万円だ。民間地の方が、基地の7・4倍も経済効果をあげている。基地はまさにタコが自分の足を食べるように税金を使うだけで生産性はない。それに対して民間地域はこれだけの生産性があるということを沖縄は経験的に見せている。米軍辺野古新基地建設問題を抱える名護市など北部振興事業でも10年間で1000億円の税金が投入されたが、名護市が豊かになったという話は聞かない。
自衛隊基地がつくられることに対してどれくらいのお金が落ちるのか? 落ちたお金について地元歩留まり率(地元企業に落ちた割合)がどれくらいあるのかをチェックする必要がある。
国の沖縄振興開発金融公庫の『沖縄経済ハンドブック』にデータが載るが、防衛局発注の事業における地元沖縄への歩留まり率は、件数ベースでは79%くらい地元に落ちているように見えるが、金額ベースでは約半分(40~60%)が県外に流出している。本土のゼネコンを入れてJVを組んだ場合には70%が県外に流出している。沖縄振興予算といいながら、半分は本土に流出している。「沖縄振興」ではなく「本土ゼネコン振興」になっている。50%が本土に還流しているのに、あたかも沖縄に大金をあげているかのように印象操作をされている。
国が外に向けていうときには、件数ベースで「沖縄には83%発注している」という。ところが、金額ベースで見ると地元歩留まり率は60%にとどまる。そのうえ大型事業になってくると、地元歩留まり率は30%だ。400億円のうち250億円が外に逃げている。件数ベースではなく、金額ベースで数字を見て、本当に地元にお金が落ちているかどうかを検証する必要がある。
基地依存化を迫る政府予算というものがある。沖縄で「基地はいらない」といったりすると一般予算が削られて、防衛予算にすり替えられていったりする【グラフ参照】。故・翁長前知事が「もう基地はいらない、本土に持って行ってくれ」というと沖縄予算のなかから防衛予算が突出して25%を占めてくる。「基地をいらないというなら25%減らしますよ」という脅しに使われる。これが政府のやることなのかという、恫喝型の政治がおこなわれてしまう。基地に依存するとこのようなことが起きる。
防衛省のウソと責任放棄 守られぬ地元との約束
防衛省が説明会で「貯蔵庫」といっていたものがミサイル弾薬庫に変わったりする。現に宮古島で起きたことだ。防衛省の説明は基地設置されたあとにコロコロ変わっていく。
そのためにも、訓練の事前通告制度や住宅密集地上空の飛行禁止、低空飛行訓練の禁止、つり下げ訓練の禁止、空中給油訓練の禁止などの事故対策、また深夜早朝の飛行制限や爆音対策などのとり決めを事前にしておくことが必要だ。事故対応にしても、被害補償制度が確立されなければならないし、再発防止策も徹底させること。また爆音被害補償についての制度化、飛行制限地域の拡大を許さないこと。そして日米共同訓練についても禁止をすることも決めておく必要がある。有事のさいには出撃基地にしないということも必要だと思う。これらが沖縄の経験からいえることだ。
外務省も平気で嘘をつく。ホームページ内の「地位協定Q&A」で「受入国の法令は適用されません」=「一般国際法上、自国法は駐留軍には適用できない」としていたが、2019年1月に削除した。なぜなら沖縄県の調査によって、地位協定で国内法の適用を「原則不適用」としているのは日本だけであり、他国は地域協定で国内法を適用しているということがバレたからだ。
基地管理権も、ドイツ、イタリア、ベルギー、イギリスなどでは自国政府や自国軍司令部の基地への常駐や立ち入り権を認めているが、日本だけは立ち入り権もない。自衛隊基地については地元自治体が常に基地内に入って管理できる体制をとる必要がある。他国では地元自治体が基地内に入れる権利を持っている。日本でも住民目線で監視できる体制をとるべきだ。
宮古島では自衛隊基地をめぐる前市長と民間業者との贈収賄事件が起きた。防衛省にしてみれば、基地用地を確保してくれるならどこでもいい。そこで前市長は当初予定されたゴルフ場から別のゴルフ場跡地に変更する働きかけをして1000万円の謝礼を受けとっていた。こういうことが首長たちの間で起こらないかどうか。受け入れのさいの裏金の動きについてもチェックが必要だ。
そして、ぜひ自衛隊配備問題の根本論議(総合安保論議)をしてほしいと思う。自衛隊の違憲性を認めて憲法に合わせるのか、違憲状態の現状を追認して改憲をしてしまうのか――。
戦後76年間、「非戦の国」を守ってきた日本はテロやゲリラの攻撃の対象にならずにきた。そして自衛隊も災害救援部隊として動くし、海外の紛争地における救援活動をおこなってきた。そのような観点からすると、これからの自衛隊の運用の仕方と、その先にある改憲は「非戦の国」を崩壊させることになりはしないか。そして軍拡の是非や外交のあり方についても議論していく必要がある。佐賀空港の問題を入口にして、戦後76年間、平和の国であり続けてきた日本の自衛隊の今後のあり方について考える機会にしてほしい。
【質疑応答】 個別買収による分断と既成事実化に注意
Q 佐賀空港内の基地候補地は33㌶しかなく、とても50機のヘリと17機のオスプレイを受け入れる広さではない。格納庫も半分しかないため、1機150億円もするオスプレイやヘリを潮風のあたる屋外に係留することになり、故障の原因にもなるだろう。この六年近く防衛省は県議会でもほとんど答弁をせず、答えをはぐらかし、将来のことについては今はいえないというような答弁をくり返している。防衛省は本気で佐賀空港に駐屯地をつくろうと思っているのか?
前泊 防衛省は一応民意をはかるが、それに従うかはまた別の話だ。格納庫や駐機場がない基地はまずありえない。辺野古基地でも面積は普天間の半分しかなく、小さすぎて代替機能を持たないと見なされている。おそらくその意味では、佐賀空港配備地を拡張しなければオスプレイの常駐は難しいと思う。
ただ、今後国が周辺1㌔四方の土地利用規制などを出してくると、地主のみなさんの考え方も変化してくるかもしれない。そのさいに売買ではなく、賃貸で空港周辺の土地を抑えてくる可能性はある。「枯れることなく国からお金が入る仕組みがつくれるよ」というものだ。沖縄でも同じく、自衛隊基地と賃貸契約を結ぶことによって、地権者にお金を落とし、基地との共生・共存を受け入れさせていくという手法がとられることがある。基地経済に浸からせるためだ。今は民意に添うような態度をとっていても、防衛省が民意に添うことはまったくない。ミサイル基地を建設した宮古島や石垣、与那国のように地域の分断がおこなわれることにも十分に注意が必要だ。おそらく駐屯地建設に向けて土地の売買、賃貸契約について、地主さんたちに対する個別交渉が始まる可能性が十分にある。
Q 長崎県内でオスプレイ誘致の動きがある。佐世保の水陸機動団と一体化した作戦のなかでの佐賀空港配備ということであれば、機動団がある地元が誘致しているときに佐賀配備をやる意味があるだろうか?
前泊 佐世保も佐賀も一体的に運用するという防衛省の方針は変わっていないと思う。初めは全部置けなくても、とりあえずオスプレイを配置しておく。そして軍事使用を可能にし、まず既成事実化を図る。日本人は既成事実に弱いということがアメリカの報告書に出ている。一度受け入れてしまうと「しょうがない」という流れになり、新たな軍用機が入ってくる。既成事実をつくることで一体的な運用を可能にしていくという流れになっていくと思われる。